軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

呪文

「あれ? 今のって、もしかして……」

家の裏にいかにもド素人がレンガを積んで建てましたと言わんばかりの物置ができてから、更に時間が経過したときのことだった。

ある日、突然、なんの前触れもなく、俺の魔法に進歩が見られた。

俺は子供のころから(今も子供ではあるが)、独自に魔法を身に着けて使ってきていた。

系統的にはどうやら土魔法ばかりしか使えていないのだが、いろいろとバリエーションが増えてきている。

家の裏で家庭菜園的な畑いじりをしているだけだったときと違い、最近では税として徴収されてしまう麦などを作る畑の世話も手伝ったりしている。

これまで我がご先祖さまがたが必死に大地を掘り起こして、何世代もかけて畑を大きくしてきたのだろう。

だが、その努力によって畑の形は大きく歪んでいた。

前世であればトラクターなどの機械が入りづらいことこの上ない、グネグネと曲がった形の畑がモザイク状に存在していたりするのだ。

ぶっちゃけ美しさが足りない。

あまり細かいことを気にしたりはしない性格だとは思うのだが、どうもこの畑の形は許せなかった。

そこで俺は、魔法を使って畑を整地したりし始めたのだ。

ボコボコした地面をなるべく平らになるように、変なところにできた道やわだちもならしていく。

それまであったでこぼこした畑を、じゃまになっている石や木の切り株などとまとめて更地へと変えてしまうという魔法を開発したのだ。

村の中でもうちの畑だけ特別見栄えが良くなっているのが俺の密かな自慢だった。

そんな魔法の他にもこれまでもよく使っていた畑を耕す魔法に肉体の全部、あるいは特定箇所だけを強化する魔法。

そして、更に最近になってレンガを作る魔法なんかもできるようになった。

が、ここでちょっとしたこだわりがまた出てきてしまった。

畑を作る魔法とかレンガを作る魔法、というのはどう考えても呼びづらいだろうと。

たとえ、現状使っているのが俺だけだとしても気になってしまう。

といって、親が使うような生活魔法のように魔法名を唱えるだけで魔法が発動するわけでもないのだ。

名前をつけたって意味がないだろう。

無詠唱で魔法が使えるのだから別にいいだろうとも考えた。

だが、呪文を唱えて魔法が発動するというのがどうしても俺の心の中に残り続ける憧れだったのだ。

そのため、若干恥ずかしいとは思いつつも、つい呪文を唱えてしまっていたのだ。

必要もないのに畑を耕すたびに【土壌改良】と。

ほとんど意味のない、つい癖で唱えてしまっているという状態になっていた。

だが、この日なんとなく唱えていたこの魔法名を口にした瞬間、魔法が発動したのだ。

それまでは慣れてきていたとはいえ体内の魔力を操作してそれを体外へと送り出し、頭の中でしっかりとしたイメージを作ってから魔法を発動させていた。

だというのに、今回はつぶやいた瞬間に魔法が発動できたのだ。

「土壌改良」「土壌改良」「土壌改良」

何度も魔法名を発動させるだけで、勝手に畑の土が変化していく。

これまで俺がやってきたように栄養たっぷりの土へと変化しているのだ。

「つ、ついに、オリジナル呪文を開発したぞ……」

俺はあまりの喜びにしばらくぐっと握りこぶしを作ってその手を上げるガッツポーズをとった状態のままで、目の前に広がる畑を見続けていたのだった。

※ ※ ※

呪文の創造。

これは思った以上に効果が大きいことがわかった。

今までのように精神を集中させて魔力の操作を行い、魔法による効果を頭の中でイメージしてから発動するという手間が省けたのだ。

今までのやり方を無詠唱魔法といえば聞こえはいいが、毎回脳を酷使するというのは単純に疲れるのだ。

その点、呪文を唱えた瞬間に魔法が発動してくれるというのは非常にありがたい。

欠点としては、効果が定量的になってしまったことだろうか。

無詠唱であれば頭のイメージをそのまま魔法として発動できるため、【土壌改良】で耕すことのできる範囲は自由自在に変更できる。

その際、使用する魔力は耕す範囲によって変動する。

しかし、呪文を唱えることによって魔法を発動した場合、その効果範囲は毎回一緒になるのだ。

多分これは、俺が家の裏でハツカを育てるために使っていたからだろう。

だいたい10×10m位になるんじゃないかと思う。

呪文を唱えた瞬間に消費される魔力量も体感的には毎回ほぼ一緒くらいだと感じた。

なぜこんなことができるようになったのだろうか。

きっかけ自体は毎回魔法を発動させるときにつぶやいていたからだとは思う。

そう思って再び実験を開始した。

すでに建物は建てたので必要ないのだが、レンガを量産してみることにしたのだ。

結果的にこの実験は成功した。

毎回、同じ大きさと質量のレンガを呪文を唱えるだけで生み出すことに成功した。

そして、その実験によってわかったことがある。

おそらくこれは、パブロフの犬と呼ばれるものなのではないかということだ。

犬に餌をやるときに毎回笛の音を鳴らすようにしていると、その後、その犬は笛の音を聞くだけで口から唾液を出すことになるという話だ。

生物は食べ物を口にした際には唾液が出る。

これが笛の音を聞いてから食べ物を口にするということを繰り返すことで、笛の音を聞くだけで唾液が出るように条件付けされてしまうという。

梅干しを見た瞬間に口の中にじゅわっと唾液がでるのも同じようなものらしい。

ようするに、呪文というのは魔法を発動させる際の条件付けのキーということになる。

どおりで最初魔法を使おうとしたとき、適当な言葉を呪文のようにつぶやいていても魔法が一切発動しなかったわけだ。

順番が違ったということなのだろう。

こうして俺は新たに呪文詠唱という技術を手に入れた。

身体強化や整地の魔法も呪文化しておかなければ。

その後、俺は一人で同じ言葉をブツブツ呟く変な子供だと村人に思われてしまうことになるのだった。