軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アイのお願い

「アルフォンス様にお願いがあります」

「お願い? アイから俺にってのは珍しいね。俺は何をすればいいんだ?」

「エルメラルダに向かってください」

「エルメラルダ? なにそれ? 地名?」

年が明けた。

ガロード暦12年の正月が終わり、新バルカ街のバルカ御殿で休んでいた俺にアイが急にお願いがあるなんて言ってきた。

かなり珍しいことじゃないだろうか。

アイにお願いなんてされたことがないけど、かえってそれがものすごく興味を引いた。

エルメラルダとはいったいなんだろうか?

「エルメラルダとは霊峰、あるいは大雪山にある山の一つです」

「大雪山か。つーか、急にとんでもないことを言うな、アイは。この真冬に大雪山に行けってのか」

「はい、そのとおりです」

「うーん。まあ、いいけどさ。そのエルメラルダってところになにがあるの?」

「なにもありません。強いて言えば、雪と氷があるくらいでしょうか」

「……まさか、大雪山から雪でも取ってこいとは言わないよね?」

「もちろんです。エルメラルダに向かう理由は魔物がいるからです。先日、四枚羽による映像でエルメラルダにとある魔物を観測しました。その魔物を生きたまま捕獲したいのです」

「はあ? 魔物を捕獲? しかも、生きたまま?」

アイの発言内容に思わず驚いて大きな声を出してしまった。

でも、しょうがないだろう。

本当に急にとんでもないことを言い出したな、アイは。

しかし、魔物か。

魔物は普通の動物とは違う。

といっても、特にきちんとした定義が定まっているわけではないみたいだけど、基本的には魔力が多かったり、魔術を使ったりする生き物を言う。

この東方では人が魔物を狩ったようで、ほとんど姿がない。

が、それは大雪山に行けば話は違ってくる。

人間が迷い込めばそれは死と同じことを意味する場所である大雪山には、今も魔物がいるからだ。

だけど、その魔物を生け捕りにしてきてほしいとは驚いた。

魔物の素材とかがほしいってわけじゃないんだろうし、なにが狙いなんだろうか。

「国力を上げるためです」

「国力を? それって、今やってる川の付け替え工事やこの後予定している道路工事とは違うのか?」

「意味合い的には同じでしょう。河川工事も道路工事も農地改革も全て重要です。そして、それらをさらに有意義にするために、アルフォンス様に魔物を生け捕ってきてほしいと考えています」

「ふーん。分かった、行ってくるよ。アイがそこまで言うんならやる価値があるだろうしね。っていうか、アイも一緒に来るでしょ? 四枚羽で魔物の位置がわかったんなら、その場所に案内してくれないと、大雪山で絶対迷子になるだろうしね」

「もちろんです。現在、上空から追跡を行っているため捕捉できています。ただ、環境面を考えて、ワルキューレやヴァルキリーに騎乗して行くことをお勧めします」

「ま、そりゃそうだろうね。ワルキューレたちだったら暑さも寒さも関係なく動けるからね。あとはそうだな。持ち運びできる吸氷石を持っていけば、その周囲は寒さを軽減できるはずだし、イアンも含めて何人か人を連れていこうか」

新バルカ街に設置してある吸氷石の像。

これはアルス兄さんの姿を模した人物がヴァルキリーに騎乗している形をしている。

その像の効果で、新バルカ街は冬でも寒さで凍死するなんてことにはならない。

が、もちろんのこと、その大きさの像をそう簡単には持ち運びできない。

ここに来るまでは魔法鞄に入れていたが、鞄に入れた状態だと寒さを吸収してくれないからだ。

その代わりと言ってはなんだけれど、手で持って運べるくらいの大きさの吸氷石というのも俺は何個か所持していた。

これがあれば、冬でも多少は動くことができる。

もちろん、その大きさだと寒さを吸収できる範囲距離が小さめなので大人数で一緒に出向くことはできないだろう。

それに、ワルキューレは使役獣の卵を孵化させる役目があるし、ヴァルキリーの数はまだ限られている。

エルメラルダにまで行ける人数は限られていることになるな。

そう考えると、騎兵部隊だけを連れていこうか。

どんな魔物かに関係なく、大雪山は過酷な環境だろうし、普段から騎乗訓練している者を使ったほうがいいだろう。

こうして、俺はエルメラルダへと向かうことになった。

ちなみに、大雪山であり、東方の人間からは霊峰と呼ばれる山々の一つにそんな名前を付けているのは、とある町から特徴的な形で見えやすいからだそうだ。

霊峰がよく見える場所であり、しかし、バリアントほど辺境中の辺境とまではいかない場所。

そこは俺も立ち寄ったことがある。

バリアントからオリエント国へと向かって南に進んだ位置にある、バイデンと呼ばれた男が治める町。

そのバイデンの町からエルメラルダが近いということで、ひとまずはその町に向かって俺はアイとイアン、そして騎兵部隊を連れて移動することにしたのだった。