軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

好奇の目

「炎雷矢」

「……なにそれ?」

「なにと言われても、アルフォンス殿に言われたように魔術を呪文化しているんですよ。言葉をつぶやきながら魔術を使うというのを何度も何度も繰り返すというものであっているのですよね?」

「いや、まあ、そうなんだけど、炎の矢じゃないんだね? 炎雷矢って名前にすることにしたんだ?」

「ええ。そのほうが強そうかなと思いまして。ただの火ではなく、雷のように速い速度で飛んでくる炎の矢であるという意味を込めてみました。そのほうが押し出しが効くかと思いましたので」

オリバがひたすら矢を射ている。

魔力を込めながら、次々と炎を纏った矢を放ち続けていた。

手に入れた魔術を呪文化するためだ。

ただ、その時に呟いている言葉がちょっと変わっていた。

どうやら、自分なりに言葉を選んだようだ。

まあ、それもありだろう。

炎の矢というのは俺が戦場で見かけてとりあえずつけただけの仮の名前だったしな。

確かに、魔法というのは格好いいほうが受けるのは間違いない。

ちなみに、一番格好よくない名前の魔法は、俺が作った【いただきます】だったりする。

あれは呪文にするつもりなく、普通に毎日の生活のなかで言っていた言葉がいつの間にか呪文になっていただけだからな。

格好よさを求めてやったわけではなかった。

ただ、【いただきます】という魔法がかっこいい名称ではないからといって使えない魔法であるということにはならない。

が、やはりどうしても人気はないみたいだ。

食事前に使うと、その食品に含まれている魔力をより効率的に自身の肉体に取り入れることが可能であるとはいえ、ほかの魔法に比べたら変化が見えにくいというのもあるのかもしれない。

【土壌改良】や【壁建築】は見た目でもはっきりと変化がわかるし、その効果も大きいから魔法を手に入れた人はすぐに使いたがるのだが、【いただきます】は毎日継続して使っていないと効果は微妙だしな。

そのかわり、毎日使い続けるとその変化は確実に大きくなってくる。

ゆえに、俺は身近な者やオリエント兵に対しては必ず食事のたびに使うようには言っていた。

おかげで、今は【いただきます】を使う者は増えた。

が、それでも最初のほうは苦労した。

ついつい、食事前に使うのを忘れるという人も多かったからだ。

オリエント軍を指導しているエルビスなどが、それを徹底させるためにかなりガミガミ言っていたのをオリバも見ていたのかもしれない。

だからかどうかは知らないが、自分で呪文を作るなら炎の矢というよりは炎雷矢というほうがいいと判断したのだろう。

「……けれど、これで本当に魔法を作ることができるのですか?」

「もちろん。これはほぼ確定された手法で、実際に俺も自分で魔法を創り上げたからね。間違いないと思うよ。時間はかかるけどね」

「すみません。疑っているわけではけっしてないのですが、どうしても技の発動前に決め台詞みたいに言葉をつぶやくという行為に気恥ずかしさが出てしまって。よくこんな恥ずかしい方法を発見して確立しましたね。なかなか気が付かないでしょうし、気づいてもやらないのではないかと思うのですが」

「呪文化の手法は、アルス兄さんが独自に作り上げたって言っていたよ。言われてみれば、やり方を知っていて、この方法だと成功と分かっているからこそ同じ言葉を言い続けられるけど、知らなかったらなにしてるかわからないただの変人みたいでやめるかもね」

「絶対やらないでしょう。今もほかの兵からは好奇の目で見られていますよ」

「いいじゃん、別に。オリバが呪文を作って、それを部下に【命名】して使えるようにしてやれば、もう変な目で見られることはなくなるからさ。ほかの奴も呪文を作ろうと真似するかもよ」

どうやら、オリバは恥ずかしがっているみたいだ。

それも気持ちがわからないわけではないかな。

俺は【いただきます】や【見稽古】といった魔法を作った経験があるけれど、あの時は人前での目立つ状況でやっていたわけではないからな。

けれど、【炎雷矢】の場合はどうしても家の中では呪文化はできない。

外の広々とした空間で弓を射る必要があり、ほかの兵の目に留まるのだ。

そして、その弓を射るたびに言葉をつぶやくというのは、どうしても気恥ずかしさが消えないという。

だからだろうな。

東方では自分なりの魔術を持つ者はそれなりにいるんじゃないかと思う。

歴史ある家の血が流れていれば、一般人よりも魔力量が多い状態で生まれてくるのだから。

そういう奴らが魔力を利用した特殊な現象を発揮できたとしてもおかしくはない。

ただ、そこから呪文化という手法が生まれてこなかったのはしょうがないだろう。

いちいち呪文化して魔法にしたところで、自分以外がその魔法を使えるようになるわけではなかったからだ。

それはあくまでも【命名】という他者に魔法を使えるようにできる術があるから意味のある行為なのだ。

とはいっても、別に名付けできるから呪文化の手法が出来上がったというわけでもないらしいけど。

アルス兄さんはそんなこと関係なく魔法を作ったと言っていたから全く関係ないんだろうな。

ただ、大昔のそれこそドーレン王家の初代王がいたくらいまでさかのぼれば多くの魔法使いがいたらしいし、呪文化の方法も知られていたのかもしれないけれど。

なんにせよ、魔術を呪文化して魔法に変えることは間違いなくできる。

オリバには恥ずかしがらずに続けてもらうしかないだろう。

責任感があるし、きっと途中でやめたりはしないはずだと思うけど、大丈夫だよな?

周囲から好奇の目で見られ続けているオリバの姿を見ながら、心の中で応援だけして見守ることにしたのだった。