軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

捕虜

「お、俺は……、生きているのか……?」

グルーガリア軍との戦いが終わった。

オリエント軍の勝利だ。

最後に倒した相手がやはりグルーガリア軍の総指揮を執っていた者で間違いなかったようで、そこをつぶしたことでグルーガリア軍は完全に動きを止めた。

まあ、毒による攻撃で多くのグルーガリア兵が戦闘不能になっていたのもあるので、実際はその前にほぼこちらの勝利だったようだ。

そんな完全勝利を得た俺たちは、その後、残存しているグルーガリア兵を追いかけて攻撃し、捕虜を得た。

本当は相手を殲滅する気だったのだが、さすがに人数差があるところで、ひとり残らず倒すことは現実的ではなかったし、相手が白旗をあげてきたというのもある。

東方では国際法というものがあり、白旗を上げた相手に攻撃することは禁ずるとされているからだ。

俺やバリアント出身の連中はともかく、もともとオリエント国出身の人間はそんな国際法にのっとった常識を当たり前のものとして身に着けているため、相手の白旗を見て攻撃を中止した。

そのついでというわけではないが、俺も捕虜を手に入れていた。

例のおっさんだ。

「気が付いたか?」

「お前は……アルフォンス・バルカか」

「正解。あんたの名は?」

「俺を知らないのか? 不勉強だな。グルーガリア一の弓兵と言えば、この俺ヘイル・ミディアムをおいてほかにはいないだろう」

「ヘイルさんね。前に俺は流星と呼ばれていた奴と戦って勝ったことがあるけど、あいつとはどういう関係?」

「……貴様、それすら知らずにいたのか。流星とは我が一族が伝える秘奥義だ。貴様が倒したのは我が息子に他ならない」

「え? 【流星】って子孫に伝えることができる技なの? 魔法を授けるみたいな方法があるとか?」

「……グルーガリアではそれぞれの家が代々磨き上げた弓の技を持つ。それを我が子が幼い時から習得できるように厳しく鍛えるのだ。本当になにも知らんようだな」

流星の親父だというヘイルというおっさん。

どうやら、やはり前に戦った若い弓兵とは身内だったようで、実の親らしい。

そして、グルーガリアでの伝統についても話が聞けた。

どうやら、名付けや継承の儀が存在しないので、一族が作り上げた魔術を代々秘奥義として伝えていっているらしい。

ということは、曲射や炎の矢なんかもそうなんだろうか。

個々人で頑張って創意工夫しているのかと思っていたけど、先祖からの口伝などで身に着けた技術のようだ。

「それよりも、貴様に聞きたい。なぜ、俺は生きている。俺は確かに貴様に斬られたはずだが……」

「ああ、そのことね。簡単だよ。俺の攻撃であんたは死ななかったってだけだね。俺の使う剣は特殊だから。致命傷を与えた相手でも一瞬で血を固めて傷を塞ぐくらいならできるんだよ」

「……つまり、俺は貴様に生かされたというわけか。捕虜として使うつもりか?」

「大正解。ヘイルの身柄と生き残ったグルーガリア兵を使って取引しようってことだね。それだけの価値はあると判断したけど、間違っていないよね?」

「ああ。わが身であれば国も取引には応じるだろう。だが、いいのか? 貴様は捕虜などとらずに徹底的にこちらをつぶそうと動いているように見えたが。ほかにも取引できる者がいたが、そやつらの姿は見えない。ということは、他の者はすでに戦場で散ったのだろう?」

俺の言葉を聞いて、ヘイルが当然の疑問を口にする。

最初から捕虜をとってグルーガリア国と交渉するつもりなら、交渉材料となる者の数は多ければ多いほどいい。

なのになぜ、今生きて俺と話しているのは自分だけなのかと疑問に思うのも無理はない。

まあ、それは完全に俺の都合だった。

ヘイルを殺さなかったのは、しなくともよかったからだというだけだしな。

【流星】という魔術はすでに手に入れている。

ということは、別にヘイルを倒しても新たな力を手に入れることには繋がらない。

ならば、もっと有効利用しておこうと思っただけだ。

だけど、ほかの奴は違う。

曲射も炎の矢も、そのほかの弓の技を持つ者たちの血は俺にとって有意義なものだったから血を吸い取った。

それだけだ。

まあ、そんな事情をヘイルには言う必要もないけれど。

「こっちの力を見せつける意味もあったからね。で、どうする? おとなしく交渉材料になってくれるなら、命だけは助かるけど?」

「よかろう。息子の敵ではあるが、負けたのはこちらが弱かったからだ。だが、気を付けることだな。俺が国へ帰った暁には、ふたたび力を蓄えて貴様に挑むだろう。首を洗って待っていることだ」

今まさに生殺与奪の権を握っている俺に向かって、ヘイルはそんなことを言ってきた。

本気なんだと思う。

というか、多分こういうことはよくあるのか。

戦って得た捕虜を、そいつがいた国に返す。

その際に、捕虜返還の代金を要求する権利が国際法にはあった。

代々の婚姻関係で作り上げられた魔力の多い血筋は貴重だ。

国も高額の返還代金を求められた場合、たいていは支払うことになる。

それだけの価値があるからだ。

なので、ヘイルは自分の身を国が買い戻してくれることを当然のことだと考えているようだ。

そして、多分そうなるのだろう。

で、そんな高額商品であるヘイルは当然ながら大切な身柄であるから、捕虜として扱うこちらも相応の対応をしなければならない。

つまり、捕虜である以上、身の安全は保障されているようなものなのだろう。

なので、ここで大言を放っても命を取られる心配はないと考えてすごく威勢のいいことを言ってくる。

とりあえず、ヘイルのことはバナージにでも任せようか。

他国との交渉事ならバナージのほうが慣れているからな。

それと、捕虜返還の話のついでに停戦交渉でもしてきてもらおう。

どのみち、五千もの兵を失ったグルーガリアに何ができるとも思えないけれど、形だけでもしっかりしておこう。

で、そのあとは北東に向かおう。

次はぺリア国から来るであろう軍勢に対処するために、戦闘を終えたオリエント軍はあわただしく動き出したのだった。