軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

五話

朝食を終えたルビーは、離宮の周りを散策してみることにした。

母国で暮らしていた塔は外出が禁じられていたが、ここでは特にそういったことはないという。

「自由にお外に出ていいなんて、セオドア陛下はすごく親切ね!」

エマも誘おうと思ったものの、仕事が忙しそうなので控えた。代わりにポイズンラットを一匹連れて建物を出る。

「昨日はそれどころじゃなくて気がつかなかったけど、昼間なのに夜みたいな天気をしているのね」

朝は少しだけ日が射していたけど、今はもう夕方のような薄暗い空模様だ。くすんだ青色の空には灰色の雲が渦巻き、不気味な雰囲気を醸し出している。

「そういえばアクアマリンの手紙に、瘴気のせいで空は濁っていると書いてあったわね。まあでも、ずっと薄暗い塔にいたからこれくらいが目に優しくていいかも。道中は眩しくて仕方がなかったもの」

ラングレー入りするまでの旅行中は、とにかく外の日差しが眩しく感じられて戸惑った。慣れるまではこれくらい薄暗い方が身体に負担がかからなさそうだとルビーは喜ぶ。

離宮の周辺には特にこれと言ったものはなかったので、建物の裏手にある森まで足を伸ばすことにした。

花や草を眺めながらのんびりと進んでいく。するとしだいに生えている植物の様子が変わってきた。

何の変哲もない草木から、真っ黒なツタや見たこともない毒々しそうな花が咲く風景に移り変わる。ひらひらと舞っていた蝶は姿を消し、黒く大きな蜘蛛が枝から垂れ下がっている。

「うわぁ、なんだか別世界に来たような感じね。どれもこれも毒を持っているわ」

「チチィッ」

「ふふっ。マイケル、あなたにもわかるの?」

『毒使い』の 天星(ギフト) を持っているルビーは、対象物が有毒かそうでないかを感覚的に判断できた。この能力を存分に試したことはなかったから、彼女自身未知なところも多いのだけれど。

有毒植物・動物の森は、なんだか懐かしい感じがした。歩いていると落ち着くというか、森全体が自分のことを歓迎してくれているような雰囲気を感じていた。

「いい場所ねえ。あら、奥にあるのは池? 湖かもしれないわね」

池や湖を見るのは初めてだ。ウキウキしながら駆け寄ろうとすると、空から激しい鳥の鳴き声がした。

「ギャギャギャギャッ!!」

「キュイーン!!」

バサバサバサッという激しい羽音。もつれあう二羽のまわりには抜け落ちた羽が舞っている。

「まあ……。喧嘩かしら」

唖然として見上げるルビー。戦いの様子を眺めていると、勝負に負けたらしい一羽が力なく地面に落下し始めた。

「あっ! 危ない!!」

ボチャーンとしぶきを立てて池に落下する。ルビーは慌てて駆け寄るが、水面には何も浮いてこない。

それどころか水の色は真っ黒で、毒に汚染されているようだった。

「早く助けないと毒にやられちゃう。でもどうやって見つけたら……っ」

「チチィッ! チィ~ッ!!」

「え? どうしたのマイケル」

ポイズンラットのマイケルが何かを訴えていた。前足でガジガジと池の淵を掘ったりクルクル回ったりしている。

マイケルは幽閉されたルビーと一番最初に打ち解けた親友でもある。ルビーは彼の言いたいことにピンときた。

「この池を綺麗にすればいいってこと? 毒を浄化すれば鳥さんの沈んでいる場所がわかるって?」

確かにこの濁りが透明になれば、黒い鳥は目立つからすぐわかるだろう。

でも、聖女でもない自分に毒を浄化なんてできない。毒使いの自分にできることは毒の使役だけのはず。それすらも方法が分からないというのに……。

「ええい! 考えても分からないわ! でもこの池が毒だというのなら、どうにか鳥さんを助けてっ!」

するとルビーの脳裏に不思議な呪文が浮かび上がる。

彼女は本能的に池に両手をかざし、その呪文を口にする。

「ルビー・ローズ・デルファイアの名に於いて命ず。哀れな泉よ、我が猛毒をもってその濁りを晴らせ」

流れるように紡がれる呪文に合わせて、ルビーの両手から黒いものが飛び出していく。それはぐんぐんと目の前の池に吸収されていき、そして再び竜巻をつくりながら空に向かって高く延びていく。

「ひゃあっ! なにこれ!? どうなっているの……」

驚くルビーの目の前で、真っ黒だった池はどんどん透明度を取り戻していく。まるで天に昇る竜巻が毒を吸い込み浄化しているような光景だった。

ものの十秒ほどで竜巻は消え去り、あとには澄み切った池が残っていた。

「すごい! 透明になったわ! ねえマイケル見てた? 自分じゃないみたいだったけど、もしかしてこれが毒使いの能力なのかしら!?」

「チチッ! チュウッ!」

「ああ、そうだったわね。急いで鳥さんを助けないと!」

幸い池はあまり深くなく、手前のほうに鳥が沈んでいるのが見えた。ルビーはじゃぶじゃぶと池に入り、傷ついた黒い鳥を拾い上げる。

体幹から青い血がにじんでいたが、池から引き上げるとぴくりと動いた。

「まだ生きてるわ! 帰って手当てしましょう」

ルビーとマイケルは急いで離宮に戻り手当てを施す。

毛布を敷き詰めて作った簡易的なねぐらの中に寝かせると、鳥はすぐ毛布の隙間に潜り込んだ。

「助けられたみたいでよかった。まだ子どもだもの」

烏ほどの身体の大きさではあるが、ふわふわした特徴的な体毛はまだヒナであることを表していた。

上空でのいざこざは喧嘩ではなく、捕食されかかっていたのかもしれない。

「ここでゆっくり休んでね。お昼になったらご飯を分けてあげる」

そっとヒナの柔らかい体毛を撫でる。ほわほわして温かくて……すごく可愛い。

新しい家族が増えた気がして、ルビーはとても嬉しかった。

数日もすればヒナは元気を取り戻し、床を歩いてマイケルと遊べるようになっていた。

外に出るのが不安なようで、決して離宮から出ようとはしなかった。寝るときは毛布のねぐらではなく、ルビーの布団に入り込んでくることもあった。

「わたしを母親だと思っているのかしら? それとも……」

感覚を研ぎ澄ませてみると、ヒナからは『ルビーの眷属になりたい』という意志が感じられた。どうやらこの鳥も有毒動物らしい。

すっかりヒナに夢中になっていたルビーに断る理由はなかった。彼女はヒナに『ブラッキー』という名前を付けて、自分の友人として迎え入れることにしたのだった。