軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

五十二話

ログハウスが半壊したため、ルビーとエマは皇城に泊まることになった。

嫁入り後最初に住んでいた離宮を使わせてもらおうと思ったのだが、「城に来るといい」とセオドアが気まずそうながら声をかけてくれたため、甘えることにしたのだった。

ルビーが小さな声で「では、お城にお邪魔します」と答えたときのセオドアは、その様子を見ていたアーノルドが恥ずかしくなるくらい嬉しそうな表情をしていた。

皇城での夜。湯浴みの手伝いを終えてエマは退室し、広い部屋にはルビー一人になった。

お姫様が寝るような天蓋付きのベットに、ふわふわの絨毯。いくつもある居室や寝室全体に癒やされるような香のかおりが漂っている。豪華絢爛という雰囲気ではないが、ごてごてしすぎていない設えは居心地がよかった。

クローゼットに詰められた衣装は好きに使っていいと言われ、食事もわざわざ部屋まで運んでくれた。まさに至れり尽くせりの待遇にルビーは恐縮していた。

「こんなにしていただいて申し訳ないわね……」

ログハウスは修理をしないと住めない。けれども、このままログハウスに住み続けることが正解でないことは分かっていた。

カーテンを開けてぼんやりと森の方向を眺めていたところ、ノックの音で我に返る。

「どっ、どうぞ!」

「失礼する」

入ってきたのはセオドアだった。この時間まで仕事をしていたのか昼間と同じ服を着たままだ。

ルビーは一気に緊張が走り身を固くする。

「どっ、どうぞおかけください」

声をうわずらせながら椅子を促すが、彼は「いや、大丈夫だ」と答えた。

「……」

「……」

昼間の騒ぎのときと違って室内に二人きり。まともに顔を合わせるのは約二週間ぶりのことだった。

一瞬沈黙が流れるが、ルビーが口火を切る。

「素晴らしいお部屋を貸していただきありがとうございます。快適に過ごさせていただいてます」

「それはよかった。ここは君だけのために用意していた部屋だから、好きに使ってくれると俺も嬉しい」

「えっ? わたしのために?」

「ここは皇妃の部屋だから使うのは君だけだ。……そこの扉の先は夫婦の寝室につながっている」

「ふっ……!」

一気に頬が染まり上がる。

そんなルビーの顔を見てセオドアは何かを堪えるような表情になる。小さく「今しかない」とつぶやき、おもむろに彼女の前にひざまずいた。

「俺は君のことが好きだ、ルビー」

「へっ」

唐突な告白にルビーは息を呑む。自分を見上げる金色の瞳には、滾るような熱が宿っていた。

「だから君が砦で俺にしてくれたことは、あの瞬間に死んでしまってもいいくらい嬉しかった。あのときに伝えられなくて、気にさせてしまってすまない……」

彼はルビーの手を取り、そっと触れるようなキスを落とした。

「俺は君と本当の夫婦になりたい。ラングレーにいる以上苦労をかけることもあるかもしれないが、全力で君を守る。俺のすべてを賭して幸せにすると誓う」

「……」

「……返事はいつでもいい。君が望むなら白い結婚のままだって構わないんだ。無理にこの部屋に住む必要もないから安心してくれ」

「……」

真っ赤な顔で固まっているルビーを慮ってセオドアはわずかに微笑み、気持ちを切り替えるように勢いをつけて立ちあがる。

「急に押しかけてすまなかった。いずれにしろ、君の嫌がることはしないということだけ覚えておいてほしい。明日も早いからよく休んでくれ」

一瞬寂しそうな顔を浮かべたものの、すぐに身を翻してドアに向かって歩き出す。

すると、その背にぎゅっと細い腕が回された。

「……わたしも陛下をお慕いしております」

「……ルビー王女……?」

「砦で……陛下とこうして過ごせることは当たり前じゃないんだって気がついたとき、すごく寂しくなったんです」

背中越しに、ルビーの早い鼓動と体温が伝わってくる。

「思いが溢れてあんなことをしてしまって……。陛下に嫌な思いをさせたかもと思ったら、顔を合わせることができなくなってしまって。嫌われるのが怖かったんです。避けたりしてすみませんでした」

「嫌なものか」

セオドアは正面を向き直ってルビーを抱きしめた。すり、と彼女のうなじに高い鼻筋を寄せる。

「さっきも言った通り、死んでもいいと思うくらい幸せだったんだ。――しかしルビーが俺の妻になってくれるなら、今は一日でも長生きして君の側にいたいと思う」

「はい。この国で一緒に長生きして、いっぱいいっぱい幸せになりましょう!」

顔いっぱいに幸福を咲かせ、ルビーも大きな体躯をぎゅっと腕に抱いた。

「……ありがとう。俺を選んでくれて」

「陛下こそ、いつもわたしを信じてくれてありがとうございます」

二人は互いに見つめ合って相好を崩す。どちらからともなく唇を寄せ、互いの体温を感じ合う。固く結ばれた絆のように、またしっかりと抱き合うのだった。