軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

8話 帰還の団欒

バルトシークの屋敷へと戻ってきて、私たちの帰りを待っていたゴルドークにも妊娠の報告をしたところ、尻尾を振りながら「おめでとうございます」と祝ってくれて、その後のおやつに飾り切りで豪華に盛り付けられた果物の盛り合わせが出てきた。

元々長旅からの帰還を労ってくれるつもりだったのだろうけれど、その豪華な飾り切りには私の知らない犬の形の果物まであって、彼の技術の進歩が伝わってくる。

「ルドーは研究熱心だし、鍛錬も積むから上達が早いのね。とっても可愛いわ」

「ルドーは二人がいない間もずっと練習してたからねー。私は味見係をしてたんだけど、やっぱり綺麗にできてると美味しく感じるよね!」

なるほど、ミランナがゴルドークを愛称で呼んでいるのは、そうして交流を深めて仲良くなっていたからだろう。

そんなミランナは私の右隣にぴったりと椅子をくっつけて座っていて、反対側には同じようにアルノシュトが座っている。……二人ともよほど寂しかったに違いない。全く離れる様子がない。

テーブルの向かい側に座っているのはジルイルなのだが、彼女は飾り切りに興味津々で大皿に盛られたフルーツを様々な角度から観察するために席を立っている。先ほどまでは机にへばりつくようにして下から眺めていたが、忙しない。表情はキリリとしているのに興奮しているのがよくわかる。

「王都でも噂は聞いておりましたが、これがマグノの文化としてバルトシークで流行っているという飾り切りですか。ほう、なるほど……芸術的ですね。王都の料理人に見せたら目の色を変えて修練に励みそうですが」

「ああ、そうだな。……しかし料理人のほとんどは猿族だ。彼らは保守的だから意固地になる可能性はなくもないが、絶対に興味は持つだろうな」

「っていうかあいつらは頭固いんだよなぁ……魔法使いってこんなに面白いのに、もったいない」

「もったいないよねー。そして果物は見るものじゃなくて食べるものだよ」

シンシャはいつもの通り少し離れた位置のソファに寝転んでいるが、会話は聞いているらしい。そんな兄の言葉に応えつつ、ミランナは果物の山にフォークを突き刺した。しかもジルイルの目の前にあった白鳥のリンゴを、である。

「カカカ。フェリシア、果物は貴女の体にも必要です。食べられそうならどうぞ」

「ええ、ありがとうございます」

「今後の食事は私の方でも料理人と話し合って食材を吟味しますのでご安心を。いやぁ、楽しみですね。獣人と魔法使いの子供は、どちらに似るのでしょうかね」

「……どちらに……?」

少し変わった言い回しだったので尋ね返したところ、獣人が生まれる時には法則があるらしい。つまり、両親がそれぞれ種族が違う獣人であった場合は、どちらか一方の種族として生まれる。

両親が猫と虎のような近い種でも、リスと犬のような遠い種でも、かならず親のどちらかに寄った種族として生まれ、その性質を受け継ぐらしい。

「へぇ……不思議ですね。では、さらにその子が他の種と結ばれた場合はどうなるのでしょう? 魔法使いだと、両親よりも祖父や祖母に似ることもあるのですけれど、先代の種族の子が生まれたりはしないのでしょうか?」

「その場合もやはり両親のどちらかに似ますよ、魔法使いは不思議ですねぇ」

「私からすると獣人も不思議ですよ」

「カカカ、それはそうでしょうとも」

獣人たちと魔法使いは同じ人間というくくりであっても随分違う。だからこそ違う文化が生まれ、そして衝突が起きてしまったのだろう。

「リシィの子は狼族になるのかな、それとも魔法使いかな。……もう狼族は、アルノシュトしかいないから、狼族だったらいいね。あ、でもヴァダッド初の魔法使いが生まれるっていうのも、いいよね!」

ミランナは私の肩に頬ずりしながら嬉しそうに話している。……そう言われて、アルノシュトが最後の狼族であることを思い出した。

狼族は生涯のうち一人しか愛せない。唯一の番だけを持つ種族。だからこそ絶滅の危機にあり、アルノシュトが最後の一人なのである。

ちらりと彼を見上げると、目を細めながら尻尾がぶんぶんと揺れる。きっと彼は、お腹の子がどちらの種族かは気にしていないのだろう。ただ無事に生まれてくることを祈っている。

最後の一人だったはずの狼族の子か、ヴァダッド初の魔法使いとして生まれる子か。どちらにせよ、この和平の象徴となるには違いない。

「しかし前例がありませんからね。もしかするとどちらの性質も受け継いだ新しい種族となる可能性も……!?」

びたんと尻尾が床を叩く音が響き、ミランナがびくりとして毛を逆立てた。ジルイルは咳払いをしながら「失敬、興奮いたしました」と謝っていたが、そんな彼女をミランナがじとっと見つめている。

「ねぇアルノシュト、ほんとにあの医者にリシィを任せて大丈夫?」

「……腕は王都で一番いい。ただ、少々変わり者なだけだ」

「……私ちょっと心配だから、毎日いっぱい会いに来るね、リシィ」

そんなジルイルがバルトシークの屋敷へと住み込むことを聞いて、ミランナまで「私も泊まる! リシィと一緒に寝る!」と言い出したが、彼女はシンシャに連れられて帰ることになった。首根っこを掴まれるというか、首元の襟を引っ張られてミランナも渋々帰宅するようだ。

「じゃ、久々に二人でゆっくり過ごせよな」

「……あ、そういうこと?」

「……シン、わざわざ言わなくていい」

「はは。じゃあな、また明日遊びに来るわ。ほら帰るぞ」

「うん。……また明日ね!」

どうやら気遣いの上手いシンシャなりの親友への気遣いであったようだ。ミランナもすぐに察して笑顔で帰って行った。

その夜。久々に私を独占することができたアルノシュトは、ひと時も私を放さず抱きしめ続けて、ようやく寂しさが埋まったようだった。