軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

33.混乱

ラナとともに用事を済ませフローラの部屋に戻ると、彼女はいなかった。

近くにいた騎士に聞くと、メイドを連れて庭園に散歩に出たという。

もうだいぶ歩けるようになったんだな、と安堵する。

だが無理をしていないだろうか? フローラは無茶をするところがあるから、途中で痛みのあまり動けなくなっていたらと心配になってきた。

ラナとはそこで別れ、俺は手に持っていた箱を自室に置いて庭園に向かうことにした。

そこで見た光景。

ベンチに座るフローラと、その傍に立つカイン。二人は向かい合っている。

なぜ二人きりでいる、メイドはどうした。

そう思って探すと、少し離れた場所で花を摘んでいた。のんきに何をやっているんだ。ラナなら離れはしないのに。

二人とも真剣な顔をしている。

特にカインがフローラに向ける顔はひどく切なげで、男の俺ですら色気を感じるほどだった。

二人の声がかすかに聞こえてくるが、何を言っているかまではわからない。

特にカインは声を抑えているのか、ひどく聞き取りづらい。

カインがフローラに何かを問いかけた、気がする。風の音でさらに聞こえない。

……いや、聞こえなくていいんだ。この状況を見て心穏やかではいられないが、やはり盗み聞きは良くない。

踵を返そうとしたそのとき、フローラが顔を上げてカインを見た。そのまま二人は見つめ合い――フローラがふわりと笑った。

俺が心惹かれてやまない、目じりが優しく下がるあの笑顔。

そしてフローラが言った言葉が、はっきりと聞こえた。

「愛しています」

と。

雷にでも打たれたような気持ちで、ふらふらとその場を離れる。

頭がガンガンと痛い。

どこをどう歩いてきたのかもわからず、気づけば自室のソファに身を投げ出すように横になっていた。

ちらりとテーブルの上の箱が目に入る。それを握りつぶしたくなる衝動をかろうじて抑えた。

――愛していますと、フローラは言った。

カインが告白したのか。あいつが彼女に気があるのではないかと疑ってはいたが、まさか人妻に告白するとは。

モテはするが不誠実な男ではなかったはずだ。

……噂と、以前言っていたな。あの時、カインはフローラに困ったことがあったら自分を頼れと言っていた。

もしかして、俺たちが本当の夫婦ではないという噂が流れているのか?

だからカインがフローラを手に入れようと動いた?

そして……フローラは受け入れたというのか。

あの愛らしく美しい笑みをカインに向け、愛していると……。

違う、もしかしたら聞き間違いかもしれない。勘違いかもしれない。ただの早とちりなのかもしれない。

思い込みで行動せず、確認すべきだ。

それに、たとえフローラの気持ちがカインに向いたのだとしても、俺に責める資格などない。

もともと一年で終わる契約結婚としてここに来てもらったのだから。

先日ずっとここにいてほしいと伝えたとはいえ、自分の気持ちすら伝えていなかったのだから。

そもそも気持ちを伝えたところで断られることだって想定していた。だから体の痛みが引くのを待った。負担をかけたくなかったから。

俺は彼女にすべてを捧げると心に誓った。それはフローラの気持ちが俺になかったとしても変わりはないことだ。

そう思うのに。

頭ではそうわかっているのに。

フローラがカインに向けたあの表情が、あの言葉が、頭の中を何度も駆け巡る。

黒い気持ちに支配され、自分の中に潜む凶暴な感情が暴れだしそうになる。

フローラは俺の妻だ、俺のものだと心の中で何度も叫ぶ。

違う、妻は夫のものなんかじゃない。それにまだ何も確かめてすらいないのに、感情に支配されるなんて馬鹿げている。

ああ、だが。

渡したくない。

今俺のことを好きじゃなくてもいい。フローラの気持ちを何年でも待つ。だが他の男に奪われたくない。

あの瞳も、髪も頬も唇も華奢な体も。すべては……!

そこで顔を覆う。

己の醜さに愕然とした。

初恋というのはこうも人を乱すものなのか。それとも俺が異常なのか。

冷静になれ。

どんな結果でも、俺は受け止めなければならない。

他の要因があったのだとしても、今この状態を作ったのは俺自身なのだから。

フローラにはなんの罪もない。俺がずっと中途半端だっただけだ。

俺は彼女を幸せにすると決めたんだ。たとえその幸せの中に俺がいなくても。

……大丈夫だ。

少しだけ時間をかければ、心からそう思えるようになる。

そうして理性を取り戻しつつあったそのとき。

フローラが、隣の部屋に帰ってきたようだった。少ししてメイドも出て行ったらしい。

再び心がざわめく。

落ち着きかけていた感情が再び暴れだす。

だめだ、冷静になれ。

今フローラに会いに行ってはいけない。

もう少し頭を冷やしてからだ。冷静さを欠いた状態で会ってもろくなことにはならない。

そう、思ったのに。

扉から響くノックの音。

俺は、扉を開けてしまった。

そこに立つフローラを見て、黒いものが胸の奥でぞわりとうごめく。

「アルフレッド様が戻られたと聞いて。すみません、たいした用事もないのに。ただ、この通り普通に歩けるようになったのだとお伝えしたくて」

「ああ……」

あいまいに返事をして、彼女の手をとる。

そのままそっと手を引くと、彼女は素直に俺の部屋に入ってきた。

「アルフレッド様……?」

戸惑う彼女の顔。

そんな表情も愛おしい。

理由をつけてそのまま離れればよかったのに、なぜ俺は部屋に引き入れてしまったのだろう。

俺はどうしたらいい?

カインに告白されたのか、カインを本当に愛しているのかを確認する?

確認して、カインを愛しているのだと目の前で言われたら、俺は冷静さを保つことなどできるだろうか。

冷静でいられないのなら、彼女を部屋に帰すべきだ。

もしくは自分が執務室にでも行くべきだ。

そう思っても、言葉が出てこない。

俺を見上げるフローラ。

初めて愛した人。

彼女が望む形で幸せにしたいという思いと、誰にも渡したくないという欲が交差する。

だめだ、先走りすぎている。

まだ何もはっきりしていないというのに。

「フローラ」

「はい」

俺は――。