軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

Sense98

「おおっ!? リリちゃん綺麗に撮れてるね! クロード。後で私にもスクショ送って」

「分かった。それにしても、今日は豊作だった」

マギさんとクロードは、とても満足そうに顔を合わせ、妙に緩んだ顔をしている。

その一方で――。

「しくしく、ユンっち。僕もうお婿にいけないよ」

「あー、まぁいつか笑える日が来るから。な、忘れような」

俺の腰辺りにがっしりと捕まって、文句を言っている。もう、定番のお婿にいけない。と言う台詞を聞けるとは思わなかったために新鮮だな。なんて思ってしまう。

そして、現在のリーリーの服装は、セーラー服。古典的なデザインで特に冴えるわけではないが、見知った存在だからこそ服の奇抜さよりも着用者の外見が目立つ。

髪の毛は徹底的に弄られ、ヘアピンでうなじが出るように後ろ髪を上げられている。

「ユンっちがいけないんだ。僕を見捨てるから。責任とって」

「いや、あのまま俺が庇えば、俺まで巻き込まれていたって」

最初は、見ている分には楽しかったのだが――

三着目の藍色の和装狐耳では、生気が抜け始め

四着目の猫又お化け衣装では、クツシタとのコラボで目のハイライトが消え、

五着目の巫女装束では、もはや涙目を浮かべ、口から乾いた笑みが漏れ出ていた。

自分の記憶と合わさり、痛ましさしか感じないが、止めることの出来ない俺を罪悪感が攻め立てる。

「さぁ、リリちゃん、次の八着目行こうか」

「助けてよ! ユンっち!」

涙目で上目遣いのリーリー。子どもにこんな顔で泣き付かれたら、誰だって断れないだろう。

普段、クロードのストッパー役のマギさんすら、良い具合に壊れており、もはや俺が止めなければ、致命的な何かをリーリーは失いそうだ。

「そろそろ、勘弁してやれ。いくら似合っていると言っても本人がここまで嫌がることを強要するのはどうかと思うぞ」

まぁ、リーリーを人柱にした俺が言うのもアレだが、そろそろ暴走を止めて欲しい。

「うっ……そうだね。リーリー、ごめんね」

「はぁ、やっとマギさんが止まってくれた」

「一人じゃ寂しいなら私も仮装すべきだったね。次は、もう一回ハロウィン仕様の服で行こうよ! 私も着るから」

「あっれ~? ちょっとマギさん。少し話の方向性違いませんか?」

そんな、赤信号みんなで渡れば怖くない。じゃないんだから……と、言うよりクロードはさり気無くテーブルの上に男性物の服まで積み上げていくし。

「……後一回だけなら」

そこでリーリーも折れた。しかも、譲歩限界を提示してダメージを減らす方法を取るとは。昔の無知な俺は、ただ喚いて、叫んで、逃れようとし、そして着せ替えられた時とは違う方法。

諦め、互いの落とし所を探り、自身への傷を最小限にする方法だ。

「ついでに、裏切ったユンっちも参加」

「はぃ!? 何でそこで俺?」

「裏切り者には制裁を! 一人だけ逃げようとしても無駄だよ」

結局、人柱にしても避けられなかったと言う訳か。しかし、あのまま着せ替え人形をされていたらリーリーの着替えた回数がそのまま俺に降り掛かった事だろう。

いや、女装を一回だろうが、十回だろろうが、俺にとってはマイナスでしかなく、マイナスに回数の差は殆ど感じない。だからと言って俺は、むざむざ大きくなる傷を広げようとは思わない。

「相手は、俺じゃなくて、クロードが居るだろ!」

「えっ、ユンっち。クロっちの見たいの? 濃いネタ衣装」

「あっ、うん。それはいいや。なんか、別に見たいって気はしないし」

そう言われてしまうと怖くて否定の言葉しか出ない。クロードの濃い衣装とは何だろう。怖いもの見たさも有るが、今は触れないでおこう。

「と、言うことでユンっちも」

「俺は、了承していないんだが……」

「ついでにユンっちも髪の毛を徹底的に」

「もう決定事項なのか、リーリー。それと軽く言うけど、あのネタポーションは、手間が掛かってるんだぞ」

正直、ステータスに影響されないアバターアイテムではあるが、だからと言ってホイホイと使うものじゃない。主に、成功すれば経験値的に美味しいが、失敗すれば時間の損失。という現状では、ハイリスク・ハイリターンのアイテムだ。

そして、増毛薬とセットの縮毛薬もまた個別精製だ。単純に使って遊ぶための準備と考えると割りに会わない。

でも、使わないし。一度に何個か作れるから、いいか。とも思ってしまう。

「はぁ~。流されっぱなしか。やるなら一思いにやってくれ」

俺は、テーブルに増毛薬を置き、目を閉じ来る運命をそのまま受け入れる。

ひんやりとした液体が髪の毛に撫で付けられるのを感じる。優しい手つきは、マギさんだろうか。徐々に重みを増しながらも、引っ張られること無く伸びていく髪の毛を感じながら、ただ待つ。

「お待たせ。目を開けていいよ、ユンくん」

立ち上がり、身体を見回すと髪の毛が重く揺れる。腰より更に長い、尻の半分も覆い隠すほどの長さに前以上の長さや引っかからないようにと気をつけている。

「お、重い。重心が後ろに」

そう、重さで重心が後ろに倒れそうになる。しかし、俺を見る三人の目は、妙に生暖かい。

「ユンっち、後ろ後ろ」

後ろと振り返っても何も居ない。ただし、にゃん。とか、はははっ。という声が聞こえる。

まさか……と思い髪の毛を手繰り寄せた先には。

「何で絡み付いてるんだ?」

「猫じゃらしみたいに目の前を揺れていたからじゃない?」

マギさんのリクール、クロードのクツシタ、リーリーのネシアス。そして俺のザクロが髪の毛に抱きつき、絡みつき団子状態。

「そのまま、一枚。面白いスクリーンショットだ」

「止めんか!」

「はいはい。僕らも服装チェンジだよ」

リーリーの声で皆が服装を変える。

マギさんは、犬耳衣装なのだが、なぜかアラビアン風。まぁ、マギさんの肌の色と良くマッチしております。

リーリーの衣装は、鴉天狗の衣装。手には葉っぱの扇、黒い翼に高い下駄。和装をベースにしており、今まで少女らしさを押し出す衣装だったために、髪の長い少年。もしくは少女という曖昧さが生まれた。

そして、渡された俺の服は――

「これまた良い趣味しておりますね。まぁ、着替えなきゃならんか。はぁ」

溜息を吐きながら着替えるのは、肩の露出した和服。イメージとしては、風呂上りの浴衣か、着崩した和服といっ感じのものなので、浴衣なら男女とあるし、と細かいところは無視して現実逃避。

柄は、白地に水色の雪の結晶模様が幾つも描かれている。

「まぁ、言いたいことは分かる。雪女か?」

「そうだ。雪女だ! 誰にも踏み込まれていない雪の純粋な白さとユニコーンの純白のコラボ! さぁ、幼獣コラボハロウィンだ!」

「やっぱり、そうなんだな。だが――」

足元に擦り寄っている黒狐のザクロを抱き上げる。

コイツ一匹だけ余る。

「ふふふっ、俺がそんな事を考えていない思ったか? 否! 万事解決済みだ!」

「おおっ!? クロっちが自信満々だよ!」

「無駄にテンション高いね」

右手を額に当て、左手を突き出し演説するクロード。もう、この時点で俺には、いや、この服には通常以外のギミックが施されていると考えられる。

「さぁ――」

指を擦り合わせ、小気味の良い音が左手で鳴る。その瞬間に、俺の身体からむくむくと何かが生える。

黒髪を掻き分けて生える二本の赤毛の混じる黒い尻尾。って――

「ちょ、これ止めろ! 尻尾!?」

「犬耳、天狗と着たら、狐耳と二尾の狐。そう、ユンの仮装は、 雪女狐(ゆきおんなきつね) だ!」

「そんなの聞いたことないぞ!」

「無論、俺が作った! 我がインスピレーションのなせる業」

俺が声を張り上げるが、更に大きな声で威張られる。

「うわぁっ! 触り心地良さそう。ねぇ、ユンくん。耳を触っても良い?」

「僕は尻尾触る。抱き枕に丁度良さそう!」

「ちょっと、まっ! ……ぁっ」

いきなり触られて、ぞわぞわとした感覚に逃げようと頭を動かし、腰が引ける。しかし、それでも触り続けるマギさんと俺の肩に乗り耳を甘噛みするリクール。尻尾は、腰辺りを擽られる感じでどんどんと逃げるように腰を下ろし、最終的に地面にへたり込んでしまう。

「マジっ……やめっ、っぁくっ!」

絶え絶えの息で抗議の声を上げようとするが、駄目でただ耐えるしかない状態になる。

リーリーの撫でている尻尾は右の一本だけで、もう一方はザクロが抱きついて、もふもふと激しく抱きついている。俺に見つかって、何? と言った感じで首を傾げているのを見てながら、嵐のような責め苦に耐えた。

「はぁはぁはぁ……や、一度に四箇所は、駄目だ。くすぐった過ぎる。お前ら、」

切らした息で必死に言葉を絞り出そうとする。一箇所ごとは、ただ単に触られているといった感じだが、心構えも何も出来ない状態でやられては、辛い。

「はぁっ……狐の耳に堪能しました。ユンくん、ご馳走様」

「尻尾を堪能しました。ご馳走様です」

上機嫌なのか、二人の尻尾と翼が良く動く。俺は反抗心からそのままリーリーの背中の鴉の艶やかな羽を撫でる。

「ちょ、ユンっち!?」

「やられたらやり返す! マギさん、左!」

「おお! ユンくん乗り気!」

「ちょっ、駄目だって、あっ……」

徹底的に撫でました。リーリーの次は、マギさんの狼耳と尻尾を満足するまで触りました。リーリーも先ほどまでの着せ替え人形の恨みを晴らすべくマギさんの耳を丁寧に撫で回し、満足したところでマギさんが俺たち二人を同時に相手取り、撫で回されました。

最終的には、三人揃って、疲れて地べたに座り込み、寄り添うように息を整えている。

「ごめんなさい。ユンくん、リーリー。もうしないから、これ以上は」

「いや、俺も動けない。と、言うより今日一日で大事な物を幾つも無くした気分……」

「あはははっ、疲れた。楽しかったけど……もう懲り懲り」

そう言って三人は力無く、息を吐き出す。

「……はははははっ、中々良い映像が取れた! 素晴らしい獣人パラダイスだったぁっ――」

あまりの狂乱振りにクロードがずっと見ているのを忘れていた。まぁ、俺とリーリーはこの中であるために、一瞬何のことを言っているのか理解できなかったが、唯一理解しただろうマギさんの動きは速かった。

立ち上がりで縮まった身体を一気に開放し、伸び上がると共に、右の拳を天高く突き上げ、クロードの頭を空中へと運ぶ。

見上げる俺たちの視界には、顎に美しいアッパーを受け、スロー再生されて強制的に閉じられる口。そのままの衝撃で身体が空へと突き進み、綺麗な放物線を描き、頭から落ちる。おいおい、ゲームじゃなきゃ重症だぞ。

距離にして十メートルほどの空の旅をたった一発のパンチで生み出したマギさんには、尊敬を。

命を無駄にしているとしか思えない無謀さな言動のクロードには、この一言を送ろう。

――無茶しやがって。