軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

Sense85

どうして、あんなにあっさり見つかったのか。話によれば、俺を途中で見失ったらしい。そこですぐに、パーティーでそれぞれの移動経路を封鎖とここまでは予想通りだった。

だが、ミュウ単体の性能を甘く見ていた。この建物立ち並ぶ町を地上から虱潰し(しらみつぶし)に探すのは面倒だ。なら、上から探そう。という斜め上の発言を【行動制限解除】の上位センス【立体制限解除】を使いこなし、前回以上に複雑な三次元的な行動で細い路地の壁の間を蹴り上がり、屋根から屋根へと飛び移り、上から俺を探していた。

俺が下を向いて考えている間、音も無く上から落ちてきたのだと言う。

説明を受けた俺が最初に呟いた一言は。

「もう、お前。パラディンじゃないだろ。それ」

「えへへへっ……それ程でも」

「いや、褒めてないから」

ジト目で見つめ返すが、もう見つかってしまった以上は逃亡を諦めるしかない。

腕を組み、レンガ造りの壁に背中を預けて、散ったミュウのパーティーが来るまで適当におしゃべり。

「それにしても、お兄ちゃん。ナンパされちゃったんですか」

「人聞きの悪い。相手がNPCと勘違いしただけだ。と、言うよりお前見てたんじゃないのか?」

「うーん。見てたは見てたけど……私のお兄ちゃんに手を出したらそのまま、逝って貰おうかと思ったから」

行くって、どこへ行って貰うんで。そして、その顔、表情がすとんと抜け落ちて怖い。

俺は慌てて話題を変える。

「で、ミュウ。俺の呼び方は、兄でいいのか? ゲーム中は、姉って呼んでただろ」

「うーん。二人っきりの時は、お兄ちゃん。誰かの目がある時は、お姉ちゃん。で分けるって決めたから」

「面倒な信条。まぁ、口出ししないけど」

俺へのちょっとした配慮なんだろうけど、方向性いつも間違えているんだよな。

それに、今日の構いっぷりは今までの例以上に、激しい。まぁ、ミュウ自体の自制心が弱いのも理由だが、他にも要因はある。多分――

「ミュウ。俺だからある程度許容されるが、他人ならアウトだぞ。今回はやり過ぎ」

「ごめんね。冗談が過ぎたよ」

「それと静姉ぇと最近時間が合わないんだろ」

「……やっぱりお兄ちゃんに隠し事は無理か」

どこか気の抜けた返事をしていたミュウだが、少し罰の悪そうな顔をする。

「お前が家族の中で一番甘えん坊だろ。姉ぇが大学行って一番寂しがってたしな」

「頭では分かってるけどね。中学より大学の方が忙しいし、一人暮らしで大変なのは分かる。でも――」

「でも――」

「静お姉ちゃんの生の柔らかさが欲しい! 私やお母さん以上だよ! アレは!」

鼻息荒く力説するミュウ。女性としての羨望だろうが、ここまで堂々と言われると呆れて物が言えない。

つまり、柔らかさを求めて、今の俺にベクトルが向いたのか……。いつもながらに予想外な方向を見せる。セイ姉ぇ、たまにミュウの相手してやってくれ。俺の身が持たん。

「よし、ミュウ。後で罰は確定な。罪状は、晩御飯をエリンギ尽くしにするの刑」

「うっ……」

エリンギが苦手なミュウ。まぁ、苦手と言っても食わず嫌い。食べられないわけじゃないし、食べ物は全て食べるように躾けられたから全部食べるが、それでも苦手意識は消えない。

メニューは、エリンギの炊き込みご飯、お吸い物、エリンギのバターソテー、鮭とエリンギのホイル焼き当たりで良いだろう。

ミュウは、エリンギ地獄を想像してか、少し苦い表情。

「おーい、捕まえたようやね。にしても、何、ミュウの顔色悪いけど」

「気にするな。話し合いの結果だ」

俺の確保の一報を受けて駆けつけたコハクの一言に俺が返事をする。

「お姉ちゃん。せめて、せめて一品地獄に変えて……エリンギは」

「……なぜか、知りませんけど。ミュウの見たことも無い狼狽っぷり。どうしてこうなったんですか?」

「俺に対する扱いが酷いからな、後でその身で受けてもらう。一種の意趣返しだ」

「ああ、確かにうちらも逃げ出した後、やり過ぎたと思っとったところや。せやから今度は逃げないで」

「流石に、虚を突く方法ではもう逃げ切れないって」

今の状態ではいくら策を弄しても基本的なスペックやレベルの差で策ごと粉砕されてしまいそうだ。

そして、次々とメンバーが集まり、それぞれからやり過ぎたの言葉を貰ったが。

「すみませんでした。女子同士の感覚は、ユンさんが苦手とは思いませんでした」

「女子更衣室特有の触れ合いって奴かな?」

なんとも言い訳染みて聞こえるが、俺も疲れたし、もう怒る気力も沸かなくなり始めた。

「じゃあ、俺は帰るから」

「「「えっ?」」」

「何だ、その反応は」

嫌な予感で見上げるが、ミュウとリレイ。そして、ヒノは俺がこのままクロードの所に行くのを疑っていない様子。何故か、そう、決め付けられた事に、一度落ち着いたと思った怒りが一気に沸点を越して、逆に笑顔しか出なくなった。

「反省、まだしたり無いようだし、一本キツイ薬使うか?」

俺が取り出したのは、赤黒い液体。そしてヒスイの宝石。

それを見て、皆が回避行動を取るより先に、マジックジェムが炸裂し、液体が周囲に四散。全員が煙と色つきの靄に包まれる。

「な、なにこれ!?」

「成功だな。いや、失敗作を使ったから臨床実験か?」

晴れる煙の中から出てきたのは、ミュウたち六人だ。しかしその姿は、俺と同じように縮み、短い髪は長く、長い髪は数センチの違いで伸びている。

「……これは、恥ずかしいですね。やられて分かりましたが」

「そうだろう。そうだろう」

トウトビは、自分の体を見回している。リレイとコハクは互いが互いに姿を確認して驚き、ルカートとヒノは、ああっ、やられたな。と外見に似合わない苦笑を浮かべている。

そして、俺は、ミュウに対して頭を撫で撫でしてやり返す。

「やられた! まさか、幼女化の薬がもう一つあるなんて!」

「さぁ、お前らもクロードの所に行くんだろ? さぁ、行くか」

もう、こうなれば怖いものなど何も無い。むしろ、六人が自分と同じ境遇なために、無謀なことも出来そうだ。

ミュウの手を取り、表通りへと出て行く。他のみんなもこの時点で諦めを迎えたのか、開き直っている節がある。

表へと出て歩くと、予想通り視線が集まる。俺達七人がそれぞれ大分幼い外見をしているために集める視線。

(……やっぱり、視線が多いな)

人がそれなりに通る表通り。すれ違う度に、人からの視線を感じ気まずくなる。

なるべく潜めた声で手を繋ぐミュウに話しかけるが、逆にミュウは愉快そうにしている。なぜ、幼女化したのに、こんな良い笑みを浮かべるのか。そして周囲に目を向けるが、苦笑三人、無表情一人、恍惚とした顔一人。という並び。子供らしからぬ表情のリレイ。

俺は、それとなく周囲へと耳を傾けてみる。

(幼女たちだ)(幼女が複数だな)(白ワンピの黒髪幼女だ)(白髪鎧幼女だと)(マジもんの幼女か?)(NPCか? それとも新規参入の幼女プレイヤー?)(でも、このゲームの子供NPCってあそこまで可愛いか?)(新クエスト発見?)(いや、歩き方がNPCっぽくない。NPCの歩き方って規則的)(じゃあ、プレイヤーか。これで魔法使いだったら魔法幼女か。胸アツだ)(いや、幼女が剣を振り回す。ごくりっ……)(そこは、大鎌じゃね?)(お前ら、あんまり不躾な視線送るなよ。気づかれるだろ)(と、言うより俺らの視線で一人怯えてないか?)(あっ、黒髪の子がちょっときょろきょろしている)(ガンガン視線送って、涙目幼女見ようぜ)(おまわりさん。こいつです)(うわっ、何をする……俺にはまだ野望が(……貴様の汚れた野望など砕いてくれる!!)(((あの子の笑顔は俺が守る!)))

……うん。今一人、悪が滅びた。じゃなくて、あの視線は俺に向かってるのかよ!

そう考えると、挙動不審にしていると逆に目立つな。じゃあ、堂々としていればいいか、というと別に周囲の視線は止むわけじゃないし。

後ろはどうなっているのかな? ちらっ、と首を僅かに動かし後ろを確認すると、バッ、と一糸乱れぬその動きはまさに、熟練の兵の動き、ただし、首を背ける方向がバラバラで、目を逸らした対象が俺を見ている者達。ミュウたちをそれぞれ見ている人たちは、数秒遅れて気がつく。

どうしても隠れて見ていることを隠せていない。中には女性プレイヤーまで俺を見ていたようだ。一人、顔を背けるのを止めて、ちらりと見てきてはまた顔を背けた。

「いや~、面白いね。露骨にああいった反応をされると」

「ミュウ。俺は、面白くない」

「まぁ、周りが目を引くのは、分かるかもね。珍しいと可愛いのコンボは目を引く!」

いや、力説しなくてもいいから。珍しいが幼い外見の子が沢山で、可愛いのか? まぁ、小さい頃は、セイ姉ぇとミュウの三人寄れば、出会った人に可愛い可愛いと言われ続けていたが……

「そこまで視線を集めるものじゃないだろ」

盛大に溜息を吐かれた。それも六人が完全にシンクロして。

「ユンさん。試しに、目の合った人に何らかのアクションを返しては如何ですか?」

「アクション?」

「一方的な視線が不愉快でしたら、こちらから行動してその反応を見るのです、例えば、私でしたらあの方に笑顔を」

そう、ルカートの指差している先には、ちょっと癖が強く撥ねている緑髪が特徴的な女性。ルカートと目が合って、気まずそうにすっと視線を逸らし、頬を軽く掻いている。

それをルカートは、満面の笑みを浮かべる。相手はそれを見て、笑みを返して、小さく手を振る。ルカートもそれに返す。

「と、言う具合に言葉なしのコミュニケーションなど。まぁ、目のあった方に笑顔でも向ければ良いかと」

いきなり笑顔とか言われても……うーん。子供らしい無邪気な笑みの演技。こう、頬を自然に上げて、小首を傾げると子供っぽくなるのかな? ちょうど向かい側の人と目があった。こう、にこっ……バタバタッ?

「……なぁ、倒れたぞ」

「なんて破壊力ですか。笑顔だけであの周囲の人間が全員卒倒するなんて」

トウトビはなぜか、驚愕し、戦慄している。いや、俺自身も分かんないんですけど。

「ふふふっ、私も事前に笑うことを分かって居なかったら、あの仲間入りでした。ごふっ……」

「あかん、リレイこれ以上しゃべったら! あんた、今も重症なんや!」

「最後に、一言。流石です。がくっ」

「――リレェェィ!」

「はいはい。リレイさんとコハクさん。それくらいで」

「「はーい」」

何だ、今の三文芝居は。何事も無かったように俺たちは和気藹々と進んでいるけど、通り過ぎた倒れた人たち起さないでいいの? と言うよりシステム的なダメージとか無いよね。ただの個人的な興奮しちゃっただよね。結局どっちも駄目駄目だけど。

ミュウも負けじと笑顔を振り撒くと俺同様にパーティー単位で倒れた。

そしてそれに続けとばかりに、コハクとヒノも参戦。リレイとトビ、ルカートはただ見ているだけだが、それだけでも存在感を放つ。

「幼いユンさんとミュウが一番凄いですね。格が違いますね」

「ルカちゃん、当然だよ。私の家族であるユンお姉ちゃんの笑顔は、国宝級。卒倒レベルは当然!」

「恥ずかしいから、ミュウ。大きな声出すな。俺達にまた視線が集まる」

「もう遅いんやけどね。トビも笑顔になればいいのに」

「ボクはトビちゃんはそのままでいいと思うな。笑顔担当二人。無表情一人、ボケと突っ込み一人、まとめ役一人、そして、ボクは一歩引いて見ているだけ」

「……私は、笑顔慣れしていないので」

トウトビの発言に女性陣は、とても不満げに、そして可愛らしく抗議の声を上げる。

「トビちゃんもお姉ちゃんも笑顔をもっと振り撒かなきゃ。対人関係は笑顔が大事」

「いや、この場合少し違う気がするが」

ツッコミを入れるのが面倒になってきた。俺って流されやすいな、そして甘いな。そして、流されかけた俺に悪魔が囁く。

「ふふふっ……ユンさん、ユンさん」

「何だ? リレイ」

「クロード氏に一矢報いたくはありませんか?」

その言葉に耳を傾け、俺も悪い笑みを浮かべる。

この状況を利用した悪乗り。盛大に乗ろうではないか。

とある盛り上がりを見せていたスレッドでは。

『なんか、報告にあったロリと思しき人物が、他の新しいロリと一緒に歩いているのを見た』『マジかよ! 今すぐ見に行かなきゃ』『やめとけ、奴らの笑顔にやられて。死屍累々が築き上げられているぞ』『ああ、見える。俺達の天国があの子は俺の天使だ』『スライムのドロップアイテムって、確かゲル状のアイテムだよな。ヌルヌルの』『……ひらめいた』『通報しますた』『おいぃぃぃぃっ!』『一人無表情の子に、屑を見るような目で見つめられ続けたら、知らない扉を開きそうになった』『お前、マジ病院行け』『お前らの好みは? 俺は歩きながら漫才してた子たち』『俺は、あの黒髪と白髪の仲の良さそうな子だな。もしかしたら姉妹かな?』『よーし、お前らの好みが良く分かった。つまり、ロリコンなんだな』『違う! ロリコンでもあるんだ!』『もっと駄目だろ!』