軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

Sense66

震える四肢でしっかりと立ち、こちらを睨みつけ、くすんだ毛並みの尻尾を高く立てて威嚇する黒い子狐。

どう考えても、虚栄にしか見えない姿に可哀そうに、と思ってしまう人が多いだろう。

「ねえ、お姉ちゃん。あの子なんか、警戒心マックスだよ」

「分かってるよ。みんな、あんまり刺激するなよ。怯えちまう」

とは言ったものの、明らかに交渉の余地はない。この子を拉致した奴らからの扱いが酷くて人間不信に陥ってるのかもな……って最近のAI凄すぎるだろ。自己学習機能で人間という種族を警戒するんだから。このゲーム、リアルを追求しすぎだって。

「まぁ、無難に餌付けだよな」

そう言って、いくつかのお皿に、焼肉や野菜、火を通した魚介類、切り分けた果物を乗せて子狐に近づく。

近づく度に、ありありと恐怖しているのが分かる。最初の距離の中間地点まで移動して、これ以上近づいたら逃げられると思い、その場にお皿を置き、また下がる。

元の位置まで戻った俺を油断なく睨んでいる子狐に対して、その警戒に苦笑が漏れる。また、俺を心配するように、腰元にすり寄るリゥイの頭を撫でて、言い聞かせる。

「今は見守ろう。見てるだけでいいから」

リクール達とは、全く違う経路での出会いのために少々手間だろうが、こうして少しずつ様子を見ていくことにする。流石に、リゥイに無理やり抱きつこうとしたミュウでさえも威嚇と怯えを混ぜた子狐に無理やり触ろうとはしない。むしろ、一番その姿に困惑しているようにも見える。

警戒を強めているが、空腹なのだろう。視線がこちらと目の前の料理とを行き来する。俺たちは、見ていると食べてくれないと思ったので、全員でわざと視線を外すようにする。

そうすることで、初めて子狐の方から動き出した。小さな足取りでお皿に近づき、そこにある食べ物を少しずつ食べていく。

警戒心を忘れ、ただ夢中でガツガツと食べる子狐は、俺が見ていることに気が付いていない。お皿の料理を食べ終わったところで、思い出したかのように距離を取り、警戒を強める。

「ちゃんと食べてくれるなら、心配はないね。ユンくん」

「そうですね。まあ、まだ食べ足りなさそうではありますが」

マギさんの言葉に同意しながら、俺は、中間地点に置かれた空のお皿を回収し、再び料理を盛り付けて置く。

子狐もさっきと同じように警戒心を強めつつも料理を食べる。

俺が回収、子狐が食べる。という行動を繰り返す。俺も自分の分を食べながら、その様子を見守る。

何度か繰り返し、満腹になったのか、寝床に戻ってそのまま、尻尾を抱えるように眠る。この時には、尻尾の毛並みもだいぶ良くなっていた。って、毛並み良くなるの早いな。目に見えて変化するとなんか変な気分だ。

「うーん。ユンっち、寝ちゃったね。シアっちや他の幼獣も寝ちゃいそうだし、寝かしつける?」

「そうだな。食事の片づけしたら、話し合いの続きとかしようか」

そう言って、俺たちのログハウスにすでに寝ている幼獣含めた幼獣四匹を連れて、寝かしつける。リゥイは、幼獣とはいえ、俺の腰元以上の高さやそれなりの大きさがある。今日は、外に藁を敷いた簡易の寝床を作成したら、そこで眠り始めた。

「ふぅ、やっと一息つける。帰ってきてからも料理とかで働きっぱなしな気がする」

そう言いながら、インベントリ内のハーブティーを取り出し、食後のお茶として飲んで落ち着いている。湖での死闘や命がけの炎への特攻、ボロボロで帰ってきたらバーベキュー。いや、疲れた。

「さて、と。まずは何から決めていこうか。ユンを助けてくれたパーティーへの報酬から決めるか?」

クロードがそう切り出したので、疲れて動きの遅くなった頭を再び動かし始めた。

「あー、それだと。多分必要な物は、武器や防具の耐久回復、ルカートの壊れた武器の代用、後はポーション類だけど、それでいい?」

俺が、焚火のまわりで寛いでいるルカートに声をかける。

「はい。それで構いません。というよりも、貰い過ぎな気もしますが。夕飯までごちそうになって」

「そんなの、気にしないでいいよ。僕らは好きでやってるんだし」

「ですが……」

ここで食い下がるルカート。俺的には適正だと思うのだ。あのまま、炎に焼かれてリタイアの可能性もあったのだ、むしろ安くさえ感じる。だが、雰囲気的にルカートたちはどうしても納得していない様子だ。

「うーん。それじゃあ、こうしよう。ルカちゃんの武器を代用とは言わずに、オーダー・メイドで作ってあげる。今後のケアもばっちりつけて。現状作れるのは、鋼製の剣だけど良い?」

「えっ!? だから、それは貰い過ぎですって!」

「その代わり……何かのアイテムと交換。ってのはどう? ギブ・アンド・テイク」

「そうですね。みんなはそれでいいですか?」

ルカートがミュウを含める他のメンバーに尋ねると、皆が心地良い返事をくれる。

「じゃあ、それでお願いします」

「よーし、早速作る?」

「待て、マギ。まだ話は終わっていないだろ。ユンの見つけたレア武器の鑑定が残っている」

「そうだったね。忘れちゃ駄目だったね」

俺は、インベントリから戦斧、対の短剣、魔法杖、そして長弓を取り出す。その取り出された武器には、ミュウたちも興味があるのか、近くに来て覗き込むが、対応するセンスがないのか、鑑定はされていない。

「ほほぅ、なかなか禍々しい外見だね。赤く明滅する斧って私好み」

「うーん。この短剣は僕のかな? マギっち、鑑定よろしく。杖と長弓は僕が鑑定するから」

そう言って、さっそく鑑定する二人の顔は、気楽な様子から一転して、強張った。それは、緊張というよりも強い歓喜の色が強い。

「ねぇ……マギっち、そっちのはどんな感じ?」

「うーん。全部性能は同じだよ。全く、運営も良い趣味しているね」

そう言って、それぞれの対応する武器を渡された。

ヴォルフ司令官の長弓【武器】

弓の名手にして獣人の司令官・ヴォルフの使っていた長弓。

ATK+25

ただ、これだけ? と思った。なぜなら、マギさんの包丁とほぼ同性能、リーリーの作った武器に完全に劣っている武器なのだ。

だが次の瞬間に流れるメッセージに驚かされる。

【武器の追加効果容量は、通常最大10個まで付与することができますが、この武器は、最大15個まで付与することができます。またユニーク装備のため、奪われず、壊れません。追加効果は、自由に削除が可能ですが、付与する場合、再度同じ工程をしなければいけません】

「くくくっ……生産職にカスタマイズ武器の素体を渡すなんてな。良いセンスしている。運営は」

クロードは、楽しそうに、それでいて不気味な笑い声を上げる。いや、言いたいこと分かるけど、雰囲気怖い。

続いて、マギさんも、流石OSOだね。オンリーな武器を作る機会を与えてくれるなんて、と嬉しそうに自身の斧を撫でている。

リーリーに至っては、ここでチート武器なんて渡されたら、生産職の存在が否定されるね。と言い出す始末。

確かに、自分で武器を作れる人達にそれ以上の性能の武器や中途半端に良性能な武器を渡されるのは、興醒めとしか言いようがない。そう言った意味では、最良の選択と言えよう。

でも……

「……今のところ、明確なカスタマイズのビジョンがないからどうするかな? これ」

俺は、弓を持って改めて眺める。

ちらっ、と周囲に目を向けると、ミュウが物凄く目をキラキラ光らせていた。まあ、なんとなく凄いものだと分かってはいたけど、ミュウが物凄く物欲しそうな目で見ていると、別の意味で不安になる。

「いーなー。激レアだよ、それ! 夢の魔改造武器ができちゃうよ。出来ることなら襲ってでも欲しいものだよ」

「物騒だな、おい。PKされたくないって」

「あー、PKの可能性があるか。まあ、奪われなくても、妬みぐらいはありそうだよね」

「マギさん、何のんきなこと言ってるんですか」

ジト目で見返すと、あははっ、冗談だって、と手をひらひらさせる。だけど、冗談に聞こえないんだよな。

「ユンっち、最高の武器ありがとう」

「ああ、ゲームの目的に自分好みの装備の充実を考えている俺としては、嬉しい限りだ」

リーリーとクロードにそう言われるとなんだか嬉しくもあり、背中がむず痒い。

「別に、気にするな。それより話は、これで終わりだな。後で、クロードの方には、メールで湖底のスクショ送っておくな。それと、ルカートたちは、ポーションだったな。必要な種類と数を言ってくれ。明日用意するから。あっ、マギさん、宝石余ってたらくれます? ちょっと今日つかいすぎちゃって」

俺は、早口でこの話を終えると、それぞれが自分のやるべきことに動き始める。

マギさんは、今日採取した宝石や鉱石を俺に渡してから、ルカート用の剣の製作に取り掛かる。

クロードは、俺の破損した防具の修理や他の人の防具の状況などを話しながら、視線は僅かに彷徨っている。あれは、掲示板でも見ながら作業をしているのだろう。器用なことだ。

リーリーに関しても同様で、杖の耐久度回復を行うが、杖はコハクとリレイ二人の二本だったために、未鑑定品の鑑定などを一番引き受けていた。

そして、俺は……

「ユンさん、今日の報酬としてのアイテムの一つです」

「これは……スイーツ・ファクトリーか!?」

「はい。報酬のアイテムは、これと、あとヒマツブ・シザースのドロップの本です。私たち読めないので」

「それで……その本はどこに?」

「えっと、クロードさんが今持っています。後で読むのだそうです」

その言葉を聞いていたのか、こちらに軽く手を上げるクロード。

「後で見せてくれるか」

「後でな。だが、これは俺の物だぞ」

「分かってるよ!」

本は欲しいが、別に一度読んでしまえばいい。あっ、でもコレクションで全巻並んだ本とか見るのは、圧巻かもしれん。

そう、妄想に浸っていたところをルカートに引き戻された。

「……で、ユンさん?」

「はい?」

「期待してますよ。お・か・し」

「……はい」

嬉しそうに、楽しそうに、可憐な少女たちは、俺に微笑むのだった。そう、お菓子のために、おやつのために。

いや、良いけどさ。俺だってお菓子作りたいと思っていたんだし。

そう思いながら、俺の夜間の生産活動は、お菓子作りに決めた。

内容は、材料と道具を見ながら考える。

道具が、魔道式泡だて器、ボウル、ケーキの型やクッキーの型、それから無限増殖耐熱容器などなど。お菓子作りに必要なベーキングパウダーなんかが相変わらず無限をデフォルト状態で存在する。

必要な道具や基本的な物が殆ど揃っている。

また、材料も小麦粉から始まり、野菜や果物、卵がある。あいにく牛乳がないために、難しいものは出来ない。だが作る料理は決まっていた。俺の目に止まったアイテムはとても馴染みのあるアイテムだ。

そう――ブルーゼリー。ブルーポーションの原料であり、更に一歩進むと食材アイテムのブルーゼラチンになるアイテム。

早速、スキルを駆使し、ブルーゼラチンを量産した俺。ブルーゼラチンは、薄い青色の粉末ゼラチンだ。

そこからの料理作業は簡単だ。

リゥイの生み出した水を温め、そこに、溶けやすいようにゼラチンを投入するだけ。

完全に溶ける間、フルーツなどを取り出し、細かく刻む。リンゴ、イチゴ、ミカンなど採取したフルーツを揃える。時折、摘み食いにやってくるミュウとリレイ、そしてヒノを迎え撃ちつつ、ゼラチンの溶けた液を確認する。

完全に、ゼラチンが溶け、薄い青み掛かった液を舐めてみると、甘味が全く足りない。なのでここで砂糖も投入して甘さを整える。

砂糖も完全に溶けたのを確認して、無限増殖耐熱容器に、フルーツを入れて、液を注ぐ。

とろっとした液が満たされ、鮮やかなゼリーが出来上がる。

「うーん。やっと甘いものだよ! お姉ちゃん、最高!」

「まだ冷えていないから食べるなよ。これは明日の分だ」

とはいっても、十人と幼獣五匹に対して、30個は多かったかな? なんせ、ストーブの火力の強さや付属の鍋の大きさが意外とあって多めに作ってしまった。

それに、冷蔵庫なんてないキャンプ地だ。冷却の頼みは、幼獣のリクールで、その幼獣も今は夢の中、俺たちの都合で起こすわけにもいかない。

だからと言って、クッキーとかの一般的なものを作るためには、必要なバターなんかが足りないわけだ。

「大人しく我慢してろ。お菓子作るのに牛乳だけが足りないんだ」

そう言って、作ったゼリーをインベントリに片づける。

ゼリーのステータスは、ブルーハワイ・ゼリーとなっていた。スライムって、ブルーハワイ味なんだ。とか素朴に思ったり。更に、保存したゼリーの名前の後ろに(常温)とか書いてあるし。

あんまり嬉しくない情報だが、細かいステータスには嬉しい情報が記載されている。

評価5

空腹度回復10% 一時間のMIND+5

まあ、元はモンスターの食材だからな。モンスターの食材はステータス強化されるとは聞いていたが初めて見た。そして、それが自分の手で作ったものだからちょっと嬉しい。

「うん? どうしたの、お姉ちゃん?」

「いや、別に? 俺は今日疲れたからもう寝るな」

「あ、うん。お休み」

「お休み」

俺は、その場にいるみんなに声をかけて、ログハウスへと一番に向かう。

昨日はリーリーが一番に眠ったが、今の俺は、寝ると決めた瞬間から一気に眠気が襲ってきた。

なれないワンピースの裾が捲れないように注意しつつ、ベッドに体を横たえる。

横目で、すでに寝ている子狐やリクール、クツシタ、ネシアスを眺める。

疲れて目を閉じれば、意識が一気に闇の中に落ちる。

最後に思ったのは、ああ、俺結構疲れていたんだな、という感想。無事、二日目を終えることができた。