軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

Sense64

「トウトビ! 左!」

「分かってます。――【サイド・ステップ】!」

俺とトウトビは、高い移動速度やセンス由来の移動系スキルやプレイヤースキル由来の危機察知能力を駆使して、炎を掻い潜る。

ミュウは、ただじっと自分の役割が来るのを待ち、リゥイはその傍らで水の盾を生み出し、炎との相性で尽く受け切る。

「一人じゃ長く魔法壁が持たないよ!」

「大丈夫です。タイミングよく、解除してください!」

リレイとルカート、コハクとヒノの組み合わせは、移動しての回避で全てを捌けない。だが、威力の増した炎に晒されている中で、防ぐ手立てがないわけではない。

「行きますよ! ……3、2、1――」

ルカートのカウントとともに、表面に皹が入る魔法壁。カウントダウンの指示通りに消せば、眼前に炎弾が迫っている。

「――【ショック・インパクト】!」

ルカートは、迫る炎に合わせて、両手で持った剣を叩きつける。黄色い光と共に発現するアーツは、炎を受け止め、がきん、という鈍い金属音を奏でて、そのまま、空へと打ち返していく。

「僕も行くよ!――【マジック・ストライク】!」

ヒノも同様に、大槌を振い、炎を纏めて弾き飛ばす。

魔法での防御で耐え、魔法壁の耐久がなくなったところで、対魔法用近接アーツで打ち返す。そして、アーツの再使用時間まで再び魔法壁の裏に隠れる。

簡単に連携をこなしているが、魔法を打ち返すアーツは、タイミング自体がシビアで高いプレイヤースキルを要求される。

更に、極端に武器の耐久を減らすために、多用はできない。それが、この一週間のサバイバル環境では愚行と呼べる。耐久度の回復も武器の新調も困難だからだ。

それなのに、こんな俺の我儘のために手伝ってくれるんだ。俺は、彼女らの頑張りに返さねばならない。

「まだか、まだなのか」

じりじりと噴き上がる炎を避けつつ、俺は、その時を待った。

「【ショック・インパクト】――なっ!」

何度目かの剣と炎の激突の瞬間、ルカートの剣が砕け散る。この瞬間、ルカートは、身を守る術を失った。俺は、更に早く来い、と強く思い、反撃の機会が巡ってきた。

「ミュウ! 準備!」

「分かった!」

厚みの増した蒼炎を打ち破るためには、マジックジェムがどれだけ必要か分からない。だから数を増やして四個のマジックジェムを炎へと投擲。それと同時に俺は、炎の領域に駆け出す。

先ほどよりも激しい爆風に上体がぶれ、倒れそうになるが、腰を落として、爆風の空白地帯に駆け込む。

背後では、リゥイに守られるミュウが神々しいまでの白さで魔法を放つ。

「――【ディスペル】!」

俺が炎の領域に入り込んだ時、ミュウの解呪が腕輪にあたり、頭上の髑髏のカウントが『1』になる。それに伴い、青い炎は、一段と激しさを増し、赤黒い炎へと変貌を始める。

傷を塞ぐように、俺の空けた空白地帯に黒炎が殺到する。

遠くで、悲鳴や逃げるよう声が上がるが、もう逃げられない。

そもそも、逃げる必要があるなら最初から飛び込まない。

ルカートの剣が壊れた時点で、俺たちに長引かせる選択肢は無くなった。

解呪する度に強化される炎に短期で決着を付けるのは、提案者の俺自身が一番のリスクを負うのが筋ってものだと思う。

「――ボム」

俺は、取り出した最後のマジックジェム二個を自身を中心に爆発させる。

体を突き抜ける衝撃と爆風が、HPをごっそり削る。爆風で迫る黒炎を一瞬押し返し、幼獣へと道を切り開く。

度重なる炎と爆発の影響で俺自身、満身創痍に近い。ポーションで回復する間もなく、俺は、幼獣に解呪を敢行する。

「終わりやがれっ!」

最後に絞り出すような声を上げて、解呪ポーションを叩きつける。直後に膨れ上がる黒炎。この瞬間、俺は――あっ、死んだな。と半ば悟ったように状況を眺めていく。

膨れあがり、白色へと変化し爆発する炎。どうして体がそう動いたのか分からないが、未だに炎の衣を纏う幼獣を守るように抱えてその場で蹲る。

きつく目を閉じ、鼓膜を激しく揺する爆音の中、ただ終わりを待つ。目を開けた先はきっと、第一の町の広場だろう。

そう思いながらも、十秒、二十秒と経過するが、周囲には町の喧騒はおろか、物音一つしない。

恐る恐る目をあけると、俺はまだその場所に居た。

「……い、きてる。よかった~」

ぐたっと緊張が解れたのか、体から余計な力が抜けていく。広間の炎は、全て消え、あれほどの炎が幻であったかのような静けさだ。だが、確かに地面に残る焦げ目や燃えた何かは、惨状を物語っている。

そういう俺自身だって、例外ではない。幾度となく炎に炙られ、自分の爆発に巻き込まれ、HPは回復できても、俺を守った布製の防具は、完全にボロボロだ。

インナーは、背中に大穴が開き、ベルトは煤け、ズボンは、端が破けてスリットのようになってしまっている。

MPを吸収して自動で修復する外装以外は、修理して貰わなければならないだろう。

「はぁ~、せめてもの救いは、破損が際どくないことだな」

そうため息が漏れてしまう。あっ……修理してもらうためには、着替えなきゃ。予備の服がないぞ。

「お姉ちゃん! 大丈夫!」

「うん?」

慌てて駆け寄ってくるミュウ達。あー、一人炎にダイブして心配かけたな。

「平気だ。とは言えないな、もうぼろぼろ。おもに防具が」

「え、ええっ……目のやり場に困ります」

ルカートが物凄く視線を逸らす。いや、逸らさないでくれよ。俺の方が恥ずかしくなってくる。

「みんな無茶させたな。悪い。それと隠れていた人は?」

「一足先に、他の方と合流するそうです」

「そうか……さて、どうするかな? こいつ」

今は誰もいない状況だ。問題の中心にあったものを見る。

黒い柔らかそうな毛に、縦に走る赤い毛。特徴的な鼻からは規則的な寝息を立てる子狐だな

「今回の元凶の幼獣どうするか」

「どう……とは?」

「いや、放置するわけにもいかん。というより、ぶっちゃけ、連れて帰ろうと思うんだけど……リゥイの他に三匹いるんだよね、幼獣たち」

「さ、三匹!? ユンさん、どれだけ幼獣に好かれているの!?」

他のメンバーがだいたい似たようなことを言っている。まあ、三匹居るが俺の手を離れたんだけど……。

「まあ、連絡してみますか」

俺は、マギさんにチャットを繋げる。

「今、時間あります?」

『うん、あるー。どうしたの?』

「ちょっと出先でトラブルに遭いまして、防具が壊れたり、連れ帰る幼獣が増えたんです」

『良いよ、連れて帰っても。あと、クロードには、予備の服頼んでおくね』

「あ、あと、妹たちを連れて行っていいですか? 夕飯を一緒に。って話で」

『了解したよ。じゃあ、早めに帰ってきてね。こっちもたくさんの成果があるから』

「はい。俺の方も結構面白いもの手に入れましたから」

『じゃあ、待ってるね』

と、まあ、以上がマギさんとの短い会話だ。意外と問題なかったな。

「帰還許可出たから、帰りながら話そうか」

皆も同意見で、俺は、幼獣を丁寧に抱えて、隣にリゥイが並んでくる。

ルカートたちに言わなければいけないことがあった。

「その、すまなかった。俺の無茶に付き合わせて。それに、ルカートの剣を壊しちまったのは、俺が原因みたいなもんだし」

「そうですね。武器はあれ一本ですし、困りました。弁償してください」

「ルカ、普通は、気にしてません。っていうのがテンプレちゃうん?」

ジトっとした目のコハクだが、俺も出来れば弁償したい。善意だけじゃあ、ご飯は食べられない。同情するなら金をくれ。だ。

「コハクやリレイは、直接殴る武器じゃないから良いけど、僕やルカは、あの炎打ち返したんだよ。耐久が半端なく減ってるって。僕は、あと、槍があるから良いけど……」

「最悪、ダンジョンで見つけたナマクラ刀でも装備すれば良いかもしれませんけど……呪いの可能性もありますね」

ヒノ、トウトビと続く言葉。本当に申し訳ない。今日の夕飯は、豪勢にしてせめてもの詫びをしよう。あと、鉱石でも見つかったら全員にアクセサリーを送ろう。

「そうですね。まあ、やってしまったことは仕方がありませんし。そういえば、暴走の原因のアクセサリーはどうなってますか?」

「あー、これね」

呪いを解除した瞬間だろうか、俺のインベントリに収められているアクセサリーを実体化させて、手に転がす。

「えげつないぞ。デメリット効果がなければ、完全な壊れ装備だ」

取り出されたのは、黒い金属の腕輪で、その表面には、精巧な死神と苦悶の表情を浮かべる男性の彫り込み(レリーフ)が刻まれている。正直、こんな悪趣味なデザインをよく装備しようという気になれる。

「うわぁ、綺麗な装備。お姉ちゃん、凄いねこれ」

「そうですね。素敵な芸術品ですね」

ほぅ、と嘆息が女子一同から漏れる。こんな装備に?

「悪趣味だろ、絶対」

「「「「「「えっ?」」」」」」

「えっ?」

まさか、妹たちにこんな悪趣味な美的感覚が……って絶対違うよな。

「なぁ、どんな風に見えるんだ?」

「えっと……白い腕輪で、天使と女性が祈りを捧げている……そんな腕輪じゃないの?」

「……はぁ~、えげつねぇ」

未鑑定だと、見た目すら偽っているのか。これは、神々しいデザインに騙され、実は――というパターンを予想したのだろう。

だが、これを使った馬鹿どもも多少は頭が回ったのか、幼獣で実験した。まあ、この幼獣の潜在能力が高いのか、アクセサリーとの相性が良かったのか、あんな惨事になってしまったが。

「このアクセサリーは、鑑定した結果、実は悪趣味なデザインです。皆さま、回収した未鑑定アイテムなどは、必ず鑑定した方がいいと思います」

「えっと……忠告ありがとうございます?」

ちょっと投げやり気味に言って見たら、ルカート達が若干困惑気味だ。まあ、疲れたテンションってことで、多めに見てほしい。

それから俺達は、マギさんたちの待つベースキャンプへと進むのだが、道中、薬草類や食べられる草などをレクチャーと収穫をしたために必要以上に時間がかかった。

そして、予想以上に静かなリレイだが、俺の背中に熱い視線を送ってくる。

はぁはぁ、白く綺麗な背中、美しいうなじ、裂けたズボンから見える白い太もも、など危ない発言が聞こえる度に、コハクにツッコミを受けている。俺が突っ込んでは負けと思い極力無視する。

ベースキャンプに到着したのは、あたりが暗くなり始めた頃。帰ってきたときは、やっとだ。と力が抜ける。そして、狐の幼獣は、俺の腕の中で未だにすやすやと眠っている。

「たたいま、マギさん」

「おかえりー、いやー、盛大に襤褸雑巾になってるね」

「ユンっち、御苦労さま。お弁当美味しかったよ」

「全く、一日で新しい防具も破損させるとは……どういう風に使えば、こうなるんだ、ほら予備の服だ」

俺たちを出迎えてくれた三人。いやー、ホームって気が楽になるよ。

俺は、それを受け取り、ログハウスへと着替えに入る。その間、ミュウ達は、なぜか口を半開きにしてぽかーんとしているのが見えたが、気にせずログハウスへ。

「……よし、着替えたぞ。ってなんだこりゃっ!」

そこには、白のワンピースと背中の半分程度しか覆っていないチョッキ。最後に、心なしか、スカートを嫌がる俺への配慮とばかりにショートパンツ。だが、ワンピースの裾が長いために、ショートパンツは完全に隠れている。

「おい、クロード! これはどういうことだ!」

「うむ、似合っているぞ」

「うわぁっ! ユンくん化けたね」

「綺麗だよ、ユンっち」

そうじゃねぇぇっ! 服は、トレードで渡されたからよく見なかったのがいけないし、着替える瞬間は、ヒーローの変身みたいに一瞬だし。でもな!

「俺は、こんなヒラヒラの服着たくないんだよ!」

「何を言う! 貴様のそのスレンダー体型。肩にかかる程度の黒髪、黒目。磨けば輝く原石を放置するなど俺には出来ん!」

なんか、クロードに力説で返された!

「白のワンピースは、この夏の平原を駆け抜ける純朴な乙女を彷彿とさせる美しさがある。貴様の髪は黒。黒と白は対比されがちだが、どちらも純潔を想起させるもの。これほど相性の良いものは存在しない。

更に貴様は、スカートなどの服装を嫌う傾向にあるのは知っている故に、ショートパンツだ。これによりパンチラなどという下品極まりないものは存在しない。想像してみろ、風に靡き捲れ上がるワンピースは、純潔を守りながらも、捲れた色気を見せ、過度なエロスを感じさせない! 美の追求はエロスだけではない!」

この人、女の子たちの前で何力説しちゃってるんだよ!? うちの妹も居るんだぞ。

更に、なぜか、仕事をやり遂げた男の顔をしているし、この凍った空気をどうすんだよ。

俺の心の叫びは、一つの小さな音の連続という結果を生み出す。

それは拍手、リレイが一人、クロードに向かって謎の尊敬の眼差しを向けている。

「それです。美しい女性は、そうあるべきです。目の前の純潔を守りたい。それと同時に、汚したくもある。素晴らしい考え、エロスだけの追求でないその心構えこそ、私の同士と呼ぶに相応しいでしょう」

「うむ。理解ある者が居て、俺も嬉しく思う。では、互いに心行くまで語り合おうではないか?」

「はい、是非に。今度は、ゴスロリ風をテーマにしては?」

「興味深いな」

いや、この二人、何盛り上がってるの? コハクさーん、ツッコミ役不在は駄目ですちゃんと機能してください。

「おっと、忘れていた」

「なんだよ」

俺は辟易しながら、ジト目でクロードに睨む。

「防具を渡せ、修理ついでにグレードを上げる。それとこれだ」

トレードで防具を送りつけて、逆に送られたアイテムを物質化する。

「料理するときは是非、装備してくれ」

それは、純粋に、白のエプロン。端にはフェルト生地で作られた可愛らしいヒヨコ。

「お前、いい加減にしろ!」

俺の叫びとともに、クロードの腹に拳が突き刺さる。