軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

Sense42

俺達がブレードリザードを倒した後も、戦闘は続いていた。

大量のネズミとトリ。厄介なビッグボア五頭を相手取るルカート達の助けに入る。

パーティーを二つに分けたので、下手に攻撃すれば、共闘ペナルティーが発生してしまう。それを回避するために、俺はエンチャントとカースドを、ミュウは回復魔法を施す。

辻ヒール、支援魔法などは、他のゲームでも頻繁に行われる行為。このゲームでもこれらの行動にまでは、共闘ペナルティーは発生しない。

「【呪加】――ディフェンス!」

「……【バックスタブ】!」

俺のカースドが最後のビックボアの防御力を引き下げ、トウトビの短剣の一撃が急所クリティカルで大ダメージを与えて撃破する。

「終わったぁぁぁっ! もう嫌や。トレインマン許すまじ!」

そう大声を上げるのは、コハクだ。コハクの怒りは皆同様に持っているようだが、他にも客観的な事実がある。

「もう、僕はこりごりだよ。こんなハイリスクハイリターンな戦い方。ユンさんからアイテム貰ってなかったら三回は死んでたよ。まあ、お陰で戦闘センスのレベルが軒並み上がったよ」

「そうですね。エンチャントストーンは、使ってみて驚きました。バフであれほど守りが堅く、攻撃の通りが良くなるんですもの」

そう言うのは、ヒノとルカートだ。彼女たちは、積極的にビッグボアの前に立ち注意を引きつけてくれた。その分、攻撃と防御のエンチャントストーンを実感できたんだろう。

「そりゃ、良かったよ。準備してきて。まさか、あれだけのポーションを使う事態になるとは思わなかったけど」

俺は、疲れからその場にしゃがみ込む。俺のエンチャントや同じ後衛のコハクとリレイのMPを回復するために、惜しみなくMPポーションを使ったんだ。もう使えるアイテムは殆ど残っていない。

「みんな良いなー。戦闘センスのレベルが上がって、私が上がったのは、回復と行動制限解除だけだよ。今度同じ方法でレベル上げしようよ」

「……リスクが大きすぎますよ。それに、今回は、ユンさんのご厚意で下さったアイテムがあったから出来たんです。もしも買うとなると」

ミュウの考えなしのレベル上げ至上主義的発言に、現実的な答えを返すトウトビ。まあ、一つの考えとしてありだが、みんなは勘弁と言った感じの苦笑を浮かべている。

今回の出費。ブルーポーションが百個。五種類のエンチャントストーンが二十個ずつ。その全部を使ったとは思えない。更に俺は、MPポーションまで放出している。

ブルポは一個500Gが百個の五万。

エンチャントストーンが7500Gくらいで売るつもりだから、百個で七十五万。

MPポーションは20個くらい使ったかな? 1500Gの二十で3万。

「……今回だけで1M前後の出費か」

その瞬間、場の空気が凍る。俺の場合、全部が自作アイテムだから、素材を集めたり、日数掛ければ揃えられるアイテムだな。と言った感じだ。ただ、周りの雰囲気はまるで違う。

ぎらぎら。と目を光らせている。正直、怖い。

「な、何? その、今回使ったアイテム……全部俺の店で売るとしたら……って話だけど」

「正気ですか? 今の言葉」

目が据わっているルカート。みんな同様の目をしている。あんなに熱っぽい目をしていたリレイまでもだ。

「その、1Mって高すぎた? その、なんかごめん。これ以上の値下げは……」

「違いますよ! 逆です! 良心過ぎます!」

そうか? 俺は金欠だからな。1Mなんて大金だぞ。

「パーティーのみんなで出し合って、あれだけのアイテムを揃えて、困難な戦闘で軒並みレベルが上がれば、効率が良いんですよ! 私なら迷うことなくお金出します」

そう、語気を強めるルカート。

そうか。一人、十六、七万Gほど出し合えば買える額だ。まあ、俺の武器や防具の修理費と大体同額でレベル爆上げ出来れば良心価格? と言えるのか。

「……あと、私が気になったのはあの爆破です。ブレードリザードに使った攻撃ってなんですか? 魔法のような、アイテムのような。地雷ですか?」

トウトビに言及された。

あれだけ派手なエフェクトを発したのだマジックジェムを見られていないわけがない。うーん。あれはアイテムだけど、売るつもりないんだよね。売るとしたら一個五万。今回は、実験の余りで九個のボム攻撃だ。

「企業秘密で」

なんとか、そうやって絞り出した言葉に、トウトビは素直に引き下がった。

「ふふふっ、ちなみに、その地雷チートするのに、いくら掛かるんですか?」

「あー。四十五万Gだけど」

「よ、四十五万やて! ありえへん! 無理や。それとリレイ、地雷チートは、色々と別の意味もあるよ」

リレイの質問に対してとそれに対するコハクのツッコミ。どうやらこっちは無理なようだ。

まあそうだよな、ブレードリザードのHPを二割から三割削るのに、四十万以上も使うのなんて馬鹿らしいよな。俺だって思うもん。

それ以前に、俺の手持ちの宝石が現在無い状態だ。これでは宝石付きのアクセサリーも作れない。どこからか調達しないといけないので、値段的にも俺的にも美味しくない。

「まぁ、色々と聞きたい事はあるだろうけど、勘弁。あと、地雷チートって何?」

「……地雷チートって、ネット小説上で存在する、『これを取ったら外れ』みたいな物で敵を圧倒することですかね?」

トウトビさん、ご丁寧に説明ありがとうございます。まさに俺みたいな不遇を取ったアホの事ですね。よくわかりました。

「チートかどうかは知らんが、ミュウの最後の動きの方がよっぽどチート臭いだろ」

だって、三角飛びだぜ。その内、壁キックとかの立体動作なんか出来そうなんだけど。あと、忍者みたいに水面走るとか、垂直走りとか。

「普通だよ。行動制限解除のレベルが上がれば、二メートルをジャンプで飛び越したり出来るって話だよ」

「ミュウは、真正のチートだよ。この前、クマのMOBの頭上をジャンプで通って、脳天唐竹割りしていたもの」

言っている事が分かり辛いが、簡単に言うと。

一、ジャンプする。

二、クマの真上で、縦回転する。

三、そのまま、無防備な頭に渾身の剣撃を叩きこむ。

四、クマの背後に着地。

という人間離れした動作だ。妹よ、人間止めたんだな。

「ボスMOBに単騎突撃とか、アクロバット攻撃ってどこ目指しているんだよ」

「うーん。パラディン!」

「俺の想像が正しければ、聖騎士はそんなダイナミックじゃないはずなんだが」

周りにも同意された。ほんと、苦労掛けます。

「……はぁ、また来ましたよ。どうします」

周囲を警戒していたトウトビがいち早くそれを発見した。

視線を向ければ、そいつの姿を捉えていた。

真っ赤な服を着た軽装の男。再びモンスターを引き連れたトレインマンの姿を。

あまりに忙しなくモンスターを倒していたので、頭の隅に追いやっていたが、思い出したらまた怒りが湧いてきた。

「お姉ちゃん、どうするの? 逃げるの?」

「ああ、ビッグボアが三頭とその他大勢だ。町まで逃げた方が得策だろ」

不愉快だし、直接文句も言いたいが、相手にするのも面倒だ。モンスターと乱戦状態になったらまた逃げそうだし。

俺は、ふと、一つの方法を思いつく。

そうだ。トレインマンの手法は、自身の速度を利用してモンスターを集め、他人に押し付けて、自分は自慢の逃げ足で離れる事だ。

つまり、この作戦の長所と弱点は同じスピード。俺は、可能な限り小声で呟く。

(上手くいってくれよ。【呪加】――スピード)

狙いをトレインマンに施す。上手く発動したようで、暗色系の黄色を体から発し、ガクンと速度を落とす。

「よし、行くか」

そのまま、俺は満足した笑顔で第二の町へと進む。背後で男の悲鳴のような声が聞こえた気がしたが、自業自得だ。

「ね、ねえ。お姉ちゃん。何したの、なんか、あいつ、モンスターに撥ねられたよ!」

「あー、足でも挫いたか、疲れて足でも鈍ったんじゃないか? ほら、自業自得って」

「そーだ、そーだ。あんな奴、自分の引き連れたモンスターにタコ殴りにされれば良いんだよ!」

俺の白々しい言い訳に上手く便乗するヒノ。全部分かっているのにノリ良いな。

「ふふふっ、ユンさんは中々素敵ですね。あいつを見る冷め切った目は実にゾクゾ「あんたはまたそういうネタに行く。やめんかい!」……ふふふ」

コハクとリレイは、仲がいいな。

「惜しいですね。ユンさん、私たちがギルドを作ったら入ってくれませんか?」

「そうだよ! お姉ちゃん! 私たちの所に来てよ」

俺の腕に抱きついてくるミュウ。うーん、普通に男子が羨むシチュエーションなのだろうが、白銀の鎧が腕にごりごりと押しつけられて痛い。

「俺は、一人まったりとこの世界を楽しみたいから断らせて貰うよ」

「そうですか。残念ですね」

ルカートが言葉では残念と言うが、全く残念そうには見えない。俺の発言を予想していたみたいだ。

「……と、言う事は、私たちとはその内戦うかもしれないと言う事ですね」

「えっ? そうなのか?」

「はい、まだ実装されてませんが、ギルド同士の戦いやパーティー同士が特定空間で戦うPvP戦などをするかもしれません。イベントでプレイヤー同士が戦う事もあるかもしれません。戦術の幅の広そうなユンさんと戦うのを楽しみにしてますよ」

少し背筋に寒気の感じる笑みをトウトビが浮かべた。

紹介の時から表情が乏しく言葉数が少ない彼女の武器や動きからから言って、タクたちが言ってた隠密型のプレイヤーだ。

主にPvPを想定している彼女は、俺に対して一瞬獲物を狙う目をしていた。

「まぁ、冗談はそれくらいにして、着きましたよ」

トウトビを諫めるルカート。相変わらず、淡白な反応のトウトビに苦笑する。

「これにて護衛の依頼は終了です。護衛と言っておきながら、戦闘をさせてしまいました。すみません」

「別に良いって、俺もレベル上げできたし、それに楽しかったしな」

「そう言って頂けると、心が楽になります。ではようこそ、第二の町へ」

森を抜けた所には、広い放牧地と綺麗な小川。

町は、木造の平屋建物が乱立する田舎の町。

所々に、老人たちが集まって、日向でお茶を飲んだり、子どもたちが駆けまわっている。

「おおっ、のどかな場所だな」

「第三の町が鉱石などを扱うなら、こっちは、布や革、木材を主に扱っているんです。私達は、よくこの近くの森のMOBでレベル上げしているんです」

「でも、ボスが強すぎて倒せないんだよね。だから、第一の町の南北攻略も始めようか。って話していたの」

ルカートの説明に、ミュウが補足する。なるほど、ボス以外のMOBは適正だが、ボスだけ強くしておけば、別の場所を探索させるように運営側が仕向けているのか。上手いな。

「それじゃあ、私達は、これで。これから一狩り行ってきます」

「せやな。たくさん倒したからアイテムたっぷり。これ売って回復補充しようか」

「お姉ちゃん! 夕飯までには帰るからね!」

そう言ってルカートたちと別れる。

そして、俺は、クエストNPC・棟梁に会うべく、町の中を散策した。