軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1-1【大きく、綺麗になりたくて】

その日、【アトリエール】でのんびりと過ごしている俺の元に、一人のプレイヤーがやってきた。

「……ユンさん」

「ん? いらっしゃい……って、ヒノ。どうしたんだ?」

お店の扉を開けて立ち尽くしているのは、ミュウと普段パーティーを組んでいるヒノだ。

小柄な体格からは見合わない大槌や長槍などを豪快に振り回すパワー系のプレイヤーである彼女は、いつもの朗らかな雰囲気ではなく、唇を尖らせ、眉間に皺を寄せて機嫌が悪そうにしている。

「…………」

「まぁ、なにが合ったのか分からないけど、とりあえず、こっちに来い。今、お茶とお菓子を入れてやるから」

「……ん、ありがとう」

小さく頷き、【アトリエール】のカウンターの前の椅子に座るヒノ。

若干俯き気味のヒノを横目に、お茶を用意する。

少し気分が解れるように、クロードの【コムネスティー喫茶洋服店】で教えてもらったミルクティーを作り、ヒノと自分の分を用意する。

「はい。とりあえず、これでも飲んでみてくれ」

「ユンさん、ありがとう」

俺がお茶請けのクッキーとミルクティーを差し出すといつもより力なく微笑むヒノ。

そして、ちびちびとお茶を飲みながら、クッキーを食べるヒノとの間に、無言が響く。

『きゅぅ~?』

「あははっ、ボクのこと心配してくれてるの?」

【アトリエール】で召喚していた使役MOBのリゥイとザクロがヒノに近づく。

普段人見知りのリゥイや人が苦手なザクロだが、見知った人の元気のない姿が気になるようだ。

「珍しいね、こんな触れる距離までくるなんて、うりうり、わぁ、さらさら」

ザクロの黒い毛並みを掻くように撫で、リゥイの鬣に手を通し、感嘆の声を上げる。

しばらく使役MOBのモフモフを楽しんだヒノは、少しだけ表情が明るくなる。

だが、まだ何も話さない。

何か話したいことがあれば、話せば良いし、話したくないなら別に話さなくても構わない、というスタンスで居続けると、ヒノは少しだけ表情を和らげて、俺を見てくる。

「ユンさんは、何があったのか訊かないんですか?」

「訊いて欲しいなら訊くぞ。まぁ、無理に聞き出すのは、俺の趣味じゃないからな」

そう言って、微苦笑を浮かべるとヒノも釣られて小さな笑みを浮かべる。

「愚痴、聞いてくれますか?」

「ああ、いいぞ。もし、困ったことがあったら全力で解決してやる」

「あははっ、ユンさん。ミュウちゃんたちと同じこと言う!」

やっと大きな声で笑ったヒノは、それから何があったのか語り始めた。

「今日ね。ちょっと、嫌なことがあっただよね。見知らぬパーティーの人にちょっと身長とか体型のことをバカにされて――」

俺は、無言で相槌を打ち、話を聞く。

どうやら、自称、OSOガチ勢、という人に絡まれたようだ。

対人戦やボス戦では、センスのレベルや装備が左右する。更に突き詰めると、プレイヤーの体格によるリーチ差などでも優位差は変わる、という考えを持っているプレイヤーたちだ。

俺は、そんなの気にしなくていいんじゃないか、と思っていた。

「ボク自身、この小さい体でパワーキャラっていう意外性とかギャップを考えているから別に良いんです。ただ――」

「ただ――」

「ルカちゃんやトビちゃん、リレイみたいになれないだろうな! とか、チンチクリンって言われたのが、凄い悔しかったぁ!」

そう言って、今まで押さえ込んでいた思いをぶちまけるヒノ。

「ミュウちゃんたちは、代わりに怒ってくれて嬉しいけど、逆にボク自身が怒るタイミングがなくて、悔しくて、悲しくて! あーもう!」

そう言って、【アトリエール】に来る前に蓋をしてしまった思いをこの場で発散させていく。

「たしかに、小さいことや子ども体型でロリっていう側面があるのは認めているけど、だからって本人がネタにしていることは、他人が攻撃していい内容じゃないんだ! それにボクはまだまだ成長期だぁ!」

しばらく、俺に愚痴を吐き出し続けたヒノは、少し疲れたのか、キューッとミルクティーを飲み干す。

「お替わりいるか?」

「はい、いただきます」

俺が新しくミルクティーを淹れ直す際に、大分愚痴を吐き出したのか、ポロリと本音だろう部分が漏れる。

「ボクだって、リアルだと他の人より成育は遅いけどでも四、五年後には、それなりに大きくなっていると思うんだ」

多分、ヒノの不安は、これから先に順調に成長できるかどうかなのだろう。

いまのまま成長が止まってしまう不安があるのかもしれない。

俺は、そんなヒノに一つの提案をする。

「実際に、四年後には、大きくなるか分からないけど、四年後の未来の姿ってのは、確かめることができるぞ」

「えっ……」

最初は、何を言われたのか分からないようにポカン、と口を開けているヒノ。

「前に失敗して作った【年齢偽証薬】ってネタ系ポーションがようやく安定した効果とレシピを作り出せるようになったんだ」

「そ、それって!」

「青い加齢の【年齢偽証薬】を使えば、多分18、19くらいの姿にはなれるんじゃないかな?」

「お願いします。ユンさん、是非、お願いします!」

ヒノの真剣な表情に俺は、微苦笑を浮かべる。

「悪いな。一応、作れるとは言っても今すぐじゃできないんだ。実際に、素材を集めて作り始めないといけないし」

「それなら、ボクが全部集めます! 大きくなった姿を見せて下さい!」

「あと、実際に【年齢偽証薬】を使っても髪の毛は伸びないから【増毛薬】も必要かな」

今のヒノの髪型は、肩当たりショートボブだ。

【年齢偽証薬】を使えば、身長や体格は変わるが、髪の毛だけは伸びないので実際に未来の姿を体験したいなら、髪の毛を伸ばす【増毛薬】も必要になる。

「え、あ……ユ、ユンさん」

俺の独り言に、【年齢偽証薬】に関して喰い気味に話していたヒノも少しだけ及び腰になっている。

「大丈夫。ただ、大人になるのを体験するだけだから」

「えっ、あ、はい。あははっ……(なんだろう、普通に愚痴を聞いてもらおうと思ったのに、なんか、大変なことになりそう?)」

ヒノは、俺の雰囲気に気圧されながら頷いてくれる。

そして、俺は表面上はにこやかに笑っているが、その内心は、ちょっとワクワクしている。

(今なら、クロードが他人をモデルに着飾りたいって気持ち、分かるかも知れない)