軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1-6【祠の蛇王:タロスヒルからタロスの目薬、そして終着点へ】

そのまま頭を伏せて眠りに着く祠の蛇王。

体の一部を上げて帰り道を用意しており、渡されたクエストアイテムの【タロスヒル】の有効時間が刻一刻と迫っている。

既に【蛇の目】で見られていない俺たちだが、その場から動き出さない。

(これは……絶対に対策なしだと失敗するな)

祠の蛇王から受け取った【タロスヒル】という赤い果実だけで目薬を作れるはずがない。

だから、この【タロスヒル】を持って、第一の町もしくは【迷宮街】で加工できるNPCを探すのが普通だろう。

そして、そこで他に必要な素材が足りずに、探しに行けば一回目は失敗するだろう。

二回目の挑戦に際しては、事前に必要な素材を集めてから【タロスヒル】を受け取り、NPCに加工を頼み、戻って来る。

プレイヤーの全力疾走でこの墓地ダンジョンから町まで片道で約20分前後掛かる。そうなると、加工後の目薬の方には、制限時間は新たに設定されるか、ないか。のどちらか……

そうやって、約5分ほど考えた俺は――

「よし、この場で作るか」

野外調合用の簡易調合キットをその場に取り出して、腰を下ろし、【タロスヒル】を手頃な大きさにカットしてから調合していく。

その様子を感じ取ったのか、眠っていた祠の蛇王が鎌首を持ち上げる。

『おめぇ、何をしている。さっさと行かねぇのか』

「どうせ、間に合わないかもしれないし、この場で用意するよ」

『目の前で【タロスの目薬】を用意するなんて奴は初めてだ!』

思念だけの声でおかしそうに笑う祠の蛇王だが、俺は【タロスヒル】を擦ろ下ろした後に加える他の素材を推測する。

(これまでのプレイヤーの動きは、根源体を求めて墓地ダンジョン、そして交換のために精霊の泉の往復経路。その中で手に入る可能性のある素材は――)

俺は、千寿苔とマンドラゴラの根を取り出し、丁寧に処理をして擦り下ろしたタロスヒルと混ぜて、弱火で加熱する。

コトコトと小さな鍋で煮込まれ始めた混合液は、ダンジョン内で異臭を放ち始める。

『おいおい、嬢ちゃん。大丈夫なのか、目に痛くなるような刺激臭を放つもんを目薬として差し出したらぶっ飛ばすぞ!』

「駄目だったら、捨てる」

そう言って、上澄みに噴き出す灰汁を少しずつ捨てて、リゥイの水魔法で生み出した水を少しずつ加えることを繰り返す。

その間、俺に興味を持ったのか、祠の蛇王が話しかけてくる。

『おめぇ、俺様が怖くねぇのか? こんな墓場にいる災害の神と呼ばれてるんだぞ』

「その目で睨まれると動けなくなるし、体がデカいから怖いぞ。戦いになったら絶対に負ける。そして、逃げる」

『おめぇ、そんな弱腰なのになんでこんな物騒な存在のいるところに来るんだよ』

若干、呆れを含む思念を聞きながらも、灰汁を捨て続け話をする。

「一応、話ができて、逃げ道があって、即座に戦闘にならないんなら別に普通に対応するし」

『怖がりなのか、好奇心旺盛なのかどっちだよ。これでも災害と疫病の神と呼ばれている。大雨を降らし、その後に疫病で農作物を腐らせ人を苦しめ、畏れられていたんだぞ』

「うーん。本物の神だとは、思えないんだよなぁ」

『……おめぇ、何が言いたい』

声のトーンが数段低くなる祠の蛇王。

だが、【蛇の目】で動きが止められていないことから敵対した訳じゃないと思う。

調合の手を止めずに、ただ思ったままのことを口にする。

「災害や疫病を操る神なら、わざわざ貢物をやめる願いは聞き届けずに、定期的に災害を起こして貢物を自主的に捧げさせるように仕向けるだろう」

神、悪神などと名乗るが、自分から神とは名乗らずに蛇王と名乗る。

つまりは、状況が偶然に一致して土着の神として崇められた、という設定の可能性の方が高い。

「つまり、神ってのは他称で正体は、ただの邪眼持ちの大蛇かな」

『くはははっ、そんなこと言われるの初めてだな、おい!』

愉快そうに笑う祠の蛇王。そして、その笑いが治まるのとほぼ同時に、小さな鍋の中の灰汁と刺激臭が治まり、やや飴色の液体になったものを綺麗な布で濾して、ポーション瓶に詰める。

「そして最後に――【魔力付与】――と」

魔法薬作りに使うEXスキル【魔力付与】を行い、【タロスヒル】を含む複数の素材の混合液は、キラキラとして輝き、魔法薬が完成する。

クエストアイテム【タロスの目薬】

邪眼を保護する目薬

※【タロスの目薬】の残り時間――【30:00】

作った直後確認したステータスだと、新たに有効時間のカウントがリセットされている。

『おいおい、マジでこんなところで作りやがったのかよ。頭おかしいんじゃねぇのか』

「酷い物言いだな。けど、完成しただろ?」

一応、【調合師】を自負しているのだ。多少は、今までの経験やメタ読みでなんとかなる。

あと、何度も墓地ダンジョンを往復する可能性を考えて、往復しない方法を選んだが結果、楽にクリアできたようだ。

「ほら、渡すぞ」

俺が【タロスの目薬】の入った小瓶を差し出すと長い舌で受け取り、その舌を使って、左右の邪眼に目薬の液体を垂らす。

また、更に舌を伸ばし額のところまで掲げると今まで閉じていた第三の目が開き、小瓶から垂れる目薬を受け止める。

『ふぅ、このジトジトする穴倉で暮らすのはいいが、たまに目をケアしてやらねぇと【蛇の目】も衰える』

そう言って、空になったポーション瓶をそのまま口の中に仕舞い込み改めてこちらを見下ろして来る。

『さて、【深淵種子】を持ち込み、俺様の欲する【タロスの目薬】を用意したんだ。それなりの礼はしないとな』

チロチロと蛇の舌を出して、薄暗い穴倉に対して陽気で軽薄そうな声を掛けてくる。

『だが、前は、貢物の中止って奴を礼代わりにしたが、その貢物の風習自体ねぇし、これでもやるよ』

一度、蛇の舌を口の中に戻すと、【タロスヒル】を取り出した時のように何かを掴んでいる。

祠の蛇王の口の中は、プレイヤーと同じインベントリでもあるのだろうか、と思いながら、受け取る物は、黒光りする金属で作られた蛇の頭が意匠されたブレスレットだ。

『そいつは、使い方によれば便利だぜ。じゃあな』

そう言って、光の粒子となって消え、壁にある祠の中に吸い込まれて消えていくのだった。

その後、わらしべイベントの工程が終わって【アトリエール】に帰って来る。

俺は、【アトリエール】の工房部のランタンの下で祠の蛇王の意匠で作られたと思しきブレスレットを確認する。

レリーフの模様が川や水辺が彫り込まれているのか美しく、また、そのレリーフで作られた水辺の表面を一匹の蛇の模様が自由に体をくねらせて泳いでいく姿を見ると、観賞する分には楽しい代物である。

そして、問題のアイテムステータスだが――

【水蛇の腕輪】(アクセサリー:重量1)

追加効果:水属性ボーナス、水中遊泳1

水魔法強化の追加効果と水中での活動時間延長の追加効果。

使い勝手を考えると、攻撃面では弱いが、【泳ぎ】センスを持っているので、地味に使えそうなアイテムである。

売るか、水属性が得意なセイ姉ぇにプレゼントするかと……考えて、自分の手元に残しておくことに決めた。

わらしべイベントがこれで終わりじゃないかもしれない。

もしかしたら、このアイテムから更に続いている可能性を考えて残しておくことにした。

そして、【アトリエール】の工房の棚にあるアクセサリースタンドを取り出し、そこに【水蛇の腕輪】を掛ける。

「まぁ、使う機会は少ないけど、よろしくな」

俺は、スタンドに立て掛けた腕輪の中で悠々と泳ぐ蛇に指先で撫でると少しくすぐったそうに身を捩るが、指の周りをくるくると泳ぎ回り、可愛らしい姿を見せ、頬を緩めるのだった。