軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1-3【精霊の泉:根源体から深淵種子】

第一の町から北エリアは、森林とその奥に連なる山脈と険しい崖が聳えている。

リゥイに山脈の崖手前まで駆けて貰った俺は、そこで降りると、目的の場所を探して、崖際を歩く。

「確か、崖際にあったんだよなぁ。どこの辺だったかなぁ?」

俺は、崖上を見上げながら、少しずつ歩いて探す。

高原エリアに通じる洞窟の真下を通り過ぎ、エアロ・スネークやバンカービーなどの敵MOBは頭上を通り過ぎるのを待つ方法で何度もやり過ごし、遂にその場所を見つけた。

「おっ、あった! あそこが精霊の泉だ!」

岸壁の途中で横穴が空いており、その中からちょろちょろと細く水が流れて岸壁を伝って広がっている。

ここの岩肌は湿っており、更に苔などが生えているために真っ直ぐに登ると滑って危ない。

「たしか、ここに【根源体】が必要なMOBがいるんだったか?」

実際に、この場所に来たのは、2度目。そして、中に入った事は無い。

話に聞いたのは、登山家プレイヤーのイワンから面白い場所があると聞き、実際に来てみたが、濡れた岩肌に滑って登れずに諦めたことだ。

その時、イワンからどういう場所か聞き、その場所にいるMOBが【根源体】を要求していたという話だ。

「前は駄目だったけど、今回は行ける。ザクロ、手伝ってくれ!」

「きゅっ!」

一鳴きして飛び上がると、俺の体にすっと入り込み、ふわっとした三本の尻尾と尖った狐耳が頭から現れる。

「ふぅ、あんまり慣れないなぁ。これ」

成獣化したザクロの特性である【憑依】だ。

これでザクロと一体化することで伸縮自在な三尾の尻尾を自在に操ることができる。

「よし、これでザクロの尻尾も合わせれば、この岩肌を登れるぞ」

試しに、三本の尻尾のうち一本を岩肌に突き立てれば、がっしりと深く突き刺さって固定できたので、安全性を確かめてみる。

「それじゃあ、リゥイは……やっぱりついて来ないか」

憑依したザクロの尻尾の一本でリゥイを掴んで登れば、上に見える洞窟の泉に辿り着けると思ったが、リゥイは、俺から距離を取り、ふるふると首を振って拒否する。

「仕方がない。俺とザクロでちょっと見てくるから後で呼んだら来てくれ」

俺がそう言うと、コクリと頷き、北の森の中に入っていく。

この森には、果物の樹などが生えているので、それらを摘み食いしに行くのかな、と想像してクスッと笑う。

「さて、俺たちも登るか」

『きゅっ!』

頭の中に響くザクロの返事に小さく頷き、登山用の道具を取り出し、濡れた崖に手を掛ける。

そして、滑らないように三本の尻尾が伸びて岸壁に突き刺さり、俺の体を持ち上げていく。

「なんか、前より登るの楽だなぁ。ザクロの尻尾ってかなり力強いし」

登る時のアシストにもなるし、濡れた岩壁にハンマーと杭、ロープを打ち付けながら登っていく。

「おっ、あそこの岩に【千寿苔】が生えてる。ザクロ、ちょっと採ってくれるか?」

『きゅっ!』

「ありがとう。助かった」

尻尾を伸ばし、岩壁に生えている苔をごっそり引き剥がして俺に手渡し、それをインベントリの中に納める。

ちょっと登りづらい場所だが、水が流れているために壁に湿気を好む植物や苔などが生えており、それを取りながら順調に登り、水の流れ出す横穴に辿り着く。

「ここが泉の入り口か。洞窟の中は、斜めになってるのか」

うっかり足を滑らせるとそのまま外に放り出されかねないと思い、慎重に壁伝いに進む。

途中、疲れたのか【憑依】が解除されて俺のフードの中に入り込んだザクロは脱力している。

「ザクロ、ご苦労様。さて、奥に進むか」

濡れた壁伝いに慎重に進み、徐々に入り口からの光から遠ざかる。

暗視性能のある【空の目】のセンスを持っているために進むのは平気であるが、ザクロはその暗さに耐えられなくなったようだ。

「きゅぅ~、はふっ」

ぽふっと軽い音と共に小さな狐火が洞窟内に灯り、俺の周りを漂っている。

「ザクロ。ありがとう。これで見渡しやすいよ」

俺はそう言って、辺りを見回しながら少しずつ進む。

ついでに、この横穴には、採掘ポイントが多いのか試しに掘ってみたら、水属性の魔法金属である【ブルライト鉱石】が沢山採掘できたので、そういう場所なのか、と思った。

再び洞窟を進むと洞窟の傾斜が終わり、今度は、水の溜まった場所に出る。

進む度に少しずつ水深が深くなり、この先に目的の場所に繋がることを予感させる。

「ううっ、冷たっ! けど、この先なんだよな」

足元に注意しながらザブザブと冷たい水を掻き分けて進む。

ザクロは、冷たい水から少しでも離れるようにフードから俺の頭の上に避難してしがみ付いてくる。

そして、ついに――

「ここが、精霊の泉か」

開けた鍾乳洞に辿り着き、その泉の底で青みがかった薄ぼんやりとした輝きが存在した。

俺は、何とか近くの岩場によじ登り、腰まで浸かっていた冷たい泉の水から抜け出す。

「えっと……どうすればいいんだ?」

たぶん、泉の底で輝いている存在が俺の探していた相手だと思う。

「すみませーん、起きてますか? 反応してくれますか?」

俺が声を掛けるが、鍾乳洞に音が反響するだけで薄ぼんやりとした輝きからは何の反応も示されない。

「しかたがない。直接見に行くか」

淡く光っており、水の透明度も高いために、容易に潜水することができそうだ。

「ザクロは、ちょっとここで待っててくれ」

「きゅぅ~」

俺の頭にしがみ付いていたザクロを抱えて、岩の上にそっと下ろす。

そして、メニューのセンスステータスで【泳ぎ】センスを装備し、この泉の中に静かに潜っていく。

(ううっ、冷たっ! はやく終えよう)

俺はそう内心呟きながら、泉の底に向かって潜っていく。

中央に近づくほど急に深くなり、中央の底は意外と深かった。

だが、難なく辿り着き、その輝きの場所に辿り着くと、そこには巨大な水晶とその中で膝を抱えて眠る少女型のMOBがいた。

手足の一部が青み掛かっており、人では無い存在であることを示している。

(さて、反応するかな)

俺は、その巨大な水晶をコツン、コツンと指先で叩くと、水晶の中の少女は、目を開き、虚ろな瞳でこちらを見る。

そして、巨大な水晶が泉の湖面に静かに浮上していき、それに合わせて、俺も水面を目指す。

水晶より先に水から顔を出し、すぐにザクロの待つ岩場に攀じ登れば、続いて浮上する水晶が水面を押し上げて大きな波が鍾乳洞の壁にぶつかり、泉の水面が複雑に揺れて、溢れた水が唯一の出口の方に一気に集まり流れていく。

『あなたが私を起こしたのですね』

「ああ、そうだ」

頭に直接語り掛けてくる少女型MOBの声に頷く。

『私は、泉の精霊。霊峰の雪解け水が地下水となり、そしてここで湧き出した泉の精霊。だけれども、今は力を弱めてしまいました』

「それは消えそうなことと関係ある?」

俺が尋ねると、水晶の中で静かに頷く。

キラキラと輝く美しい少女だが、その手足の先が半透明に透けており、今にも消えてしまいそうである。

『精霊は、自然界に存在する様々ものを根源として生まれます。ただ、私はその根源の力が少ないのです』

「それはなんでなんだ?」

『精霊は、時に様々なものから力を分けて貰います。人々の信仰心や恐れ、動植物の生気、太陽や月、地脈からの霊力などです』

「人も訪れず、動植物もない、太陽や月も浴びることができないとなると……」

『はい。地脈からの霊力が必要ですが、地脈の流れも変わってしまい、徐々に存在を維持する根源の力を失っているのです』

「そういう理由なのか。もし消えたらどうなるんだ?」

『精霊が消えたら、また長い年月を掛けて新たな精霊が生まれるだけです』

水晶の中で力なく笑う泉の精霊。

『ですけど、精霊が消える影響は小さくないので消えたくはないのです。ですから根源の力を補給できる【根源体】を頂けたらと思います』

【お遣いクエスト】

泉の精霊に【根源体】を渡せ

『【根源体】は、霊的な存在が生き続けるために必要なものなんです。ですからゴーストやスピリット、アストラル体の方々からたまに得ることができます。』

クエストが発生と共に、【根源体】の入手のヒントを教えてくれる泉の精霊。

確かに、アンデッド系の中でも霊体系MOBから極低確率でドロップするらしいが、アンデッド系MOBと戦いたくないので、やっぱり錬金術師NPCに頼っていたと思う。

「じゃあ、これでいいのかな」

俺は、泉の精霊の話を聞き、【根源体】の入ったガラスの小瓶を二本差し出す。

すると、ふわりと差し出した小瓶が浮き上がり、精霊のいる巨大水晶に引き込まれ、ズブズブと飲み込まれて水晶の中に入り込む。

そして、周囲の小瓶が溶け、中の光輝く【根源体】が泉の精霊の周りを渦巻、少しずつその体に吸収されていく。

「うわぁ、綺麗……」

「きゅぅ~」

消えそうなほど薄かった手足が少しずつ濃くなり、輪郭もはっきりしてきた。

たった二本の【根源体】を吸収して大分、落ち着いたのか、虚ろだった瞳に力が戻る。

『ありがとう。あなたのお陰で少しばかり力を取り戻せたわ』

「それは良かった」

『次からも【根源体】を持って来たら私の所に持って来てくれる? その都度お礼をするわ。ああ、あと、これをどうぞ』

そう言って、巨大な水晶の中に何か黒い塊が二つ浮かび上がり、それが水晶から飛び出して、俺の目の前に来たものを受け取る。

『それは【 深淵種子(アビス・シード) 】よ。この暗い洞窟の水の奥底で私の力を与えた特別な種なのよ』

「ええっ……大丈夫なの?」

深淵とかアビスって聞くと大体ヤバイもののような感じがする。

実際に俺の掌に黒い塊を確かめると禍々しさはない。逆に、引き込まれるような闇色で角度を変えてみると青や緑に一瞬だけ光ったように見えて神秘的な種子である。

『今回は、初回のオマケよ。次からは【根源体】10個につき【深淵種子】と一つと交換しましょう。それじゃあ、また完全な復活じゃないから眠るわ』

そう言って、巨大水晶の中で膝を抱え、再び洞窟の泉の底に戻っていく泉の精霊。

「……まぁ、目的の【深淵種子】は手に入れた。今日は、これで帰るとするか」

俺がそう呟くとザクロは、俺の体を駆け上がり、フードの中に入り込む。

そして、ザクロと共に、この崖の横穴にある洞窟を抜け出し、リゥイと合流した後、【アトリエール】に帰ってログアウトした。