軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外編SS:幸せのエイプリルフール

「そうか、今日はエイプリルフールか」

OSOのログインで【アトリエール】に降り立った俺は、メニューの日付を確認して呟く。

エイプリルフール――4月1日、嘘を吐いてもいい日であるその日は、俺はどうするか考える。

「いやだなぁ。外に出たくないなぁ」

過去のエイプリルフールの記憶を思い出すと、大抵いい思い出がないのだ。

ミュウにぬか喜びさせられ、タクに揶揄われ、世間一般のテレビの面白エイプリルフール映像に騙される。

あと、エイプリルフールだからと言って、嘘を吐くと言うのもあまり好きではないのだ。

だが、過去のことを思い出し、沸々と小さな怒りが思い出した俺は、この気持ちを何かに向けたくなった。

「うん。今年は、エイプリルフールで嘘を吐いてみよう」

俺は、そう決心するも、いざ嘘を吐こうとするが、どんな嘘を口に出せばいいのか分からない。

「うーん。『生産職を辞める』とか『OSOを辞める』だとなんか誤解を受けそうだしなぁ」

特に、マギさんやリーリーあたりが盛大に誤解して騒がしくなりそうだ。

だから、これは駄目だ。そうなると――

「じゃあ、『俺、実は女なんだ』……って言うか、今の状況、常に嘘ついてるみたいじゃねぇか」

リアルでは男だが、OSOのキャラが何故か女性になってしまっているためにずっとそのままのために俺のリアルを知っている人以外、全員に嘘を吐いているような気がする。

そう思うと、なんだか、モヤモヤした気分になる。

「これも駄目だ。そうなると――」

「ユンさん、お客さんですよ」

エイプリルフールに吐く嘘を考えていると、NPCのキョウコさんが声を掛けてきた。

俺は、嘘を考えるのを中断して、【アトリエール】の店舗部に移動するとそこには、ミュウとセイ姉ぇが来ていた。

「ユンお姉ちゃん、来たよ!」

「ユンちゃん、こんにちは」

「ミュウ、セイ姉ぇ、いらっしゃい」

俺は二人を迎え入れると、お茶を淹れ始め、二人が待っている間、ポーションなどの消耗品を購入する。

そして、お茶請けのクッキーとお茶を出して、二人とカウンター越しに話す。

「二人して今日はどうしたんだ?」

「私は、ミュウちゃんの付き添いよ。ユンちゃんのお茶美味しいわ」

「セイ姉ぇ、ありがとう」

お茶に一口付けたセイ姉ぇが微笑みを浮かべ、ミュウもパクパクとお茶請けのお菓子を食べて、お茶を飲んでいる。

そして、一息ついたところでミュウが宣言する。

「ユンお姉ちゃん、実はね。私――生産系センスを鍛えようと思うの!」

「っ!? そうなのか! それはどの分野なんだ! 鍛冶? 木工? 裁縫? それとも調合とか!?

それだったら嬉しいな、調合仲間ができるから……

あ、でも、ルカートたちとはどうするんだ? 生産系センスのレベリングは大変だぞ」

「…………」

「……ミュウ?」

じっと、黙ってしまったミュウに俺は、小首を傾げてその顔を覗き込むが、真剣な表情で口を真横に引き結んでいる。

そして、隣にいるセイ姉ぇはニコニコしたままだが、数秒間沈黙していると、俺はあることに気が付く。

「あっ……エイプリルフール? まさか、嘘?」

「正解だよ! ユンお姉ちゃん、簡単に引っ掛かり過ぎ!」

「くそぅ! また騙されたぁ!」

去年も似たような感じで騙されたために頭を抱える。

そして、ニコニコと微笑みを浮かべているセイ姉ぇをちらりと見て、もしかしてセイ姉ぇも今までの会話の中で何か嘘でも……と思ったが、俺の考えを読んでいたようだ。

「残念だけど、私は、今日まだ嘘を吐いていないわ」

「あ、そうなんだ。よかった」

セイ姉ぇに嘘を吐かれたら、ちょっと人間不信になりそう。と思ったところですぐにセイ姉ぇから訂正が入る。

「ごめんね。今の嘘、実はここに来る前にミカヅチに小さな嘘を吐いてきた」

「分かり辛いよ。その嘘……」

俺は、そんな言わなきゃ分からない嘘を言うセイ姉ぇに苦笑いを浮かべる。

こうも二人に騙されて、ちょっと気分が落ち込む。

「ねぇ、ユンお姉ちゃんも外を歩かない? エイプリルフール楽しいよ」

「嫌だよ~。絶対に騙される、嘘吐かれる、笑われる」

「うーん。でも、みんな分かりやすい嘘をしているから見ていて面白いよ。偶に、路上でパーティー同士の痴話喧嘩を演じて他の人たちを騙して、野次馬が集まったところでネタ晴らししていたし」

ミュウに説得されるが、俺は全く店の外に出たいとは思わない。むしろ人と関わるより絶対に嘘吐かないリゥイやザクロなどの使役MOBとのんびり過ごした方がいいとすら思っている。

「楽しくないのは、ユンちゃんが嘘を吐かれる側だからよ。だから、ユンちゃんも嘘を吐く側に回ったら楽しいと思うよ」

セイ姉ぇの説得に俺は渋々頷く。

「嘘を吐いて相手を思い通りにするのは、快感だよ。それに、ユンお姉ちゃんは嘘を吐きそうにないから逆にみんな簡単に嘘に引っかかってくれるよ!」

「そうかな?」

「そうだよ! 試しに、何か嘘吐いてみてよ!」

「えっと、それじゃあ――このクッキー、実は塩が入っているんだ」

その言葉を聞いて、ミュウがお茶請けのクッキーを手に取り、一口齧ってみてよく味わう。

先程も、嘘を言うと分かっているが、一応調べているで、クッキーの塩気を感じ取ろうとしている。

だが、普通のクッキーであり、塩クッキーではない。あと、

「うん。凄い分かり辛い嘘だね! もっと、インパクトにあるやる!」

「それじゃあ――俺、タクと付き合ってるんだ、とか?」

「うん、タクさんを殺しに行こう!」

「そうね。タクくんには、制裁を加えないとね」

「ちょっと待って! 嘘だから! 嘘だからね!」

咄嗟に思いついた分かりやすい嘘だが、黒い笑みを浮かべ、武器を手に取るミュウとセイ姉ぇを慌てて引き止める。

なんとか、二人に納得してもらい、落ち着いたところで俺は溜息を吐く。

「やっぱり、俺には嘘は難しい」

「うーん。それじゃあ、ユンちゃんは、どんな嘘を吐きたいの?」

「うーん。誰にも迷惑にならないし、傷付かない。そんな嘘?」

昔見たエイプリルフールの嘘CGの映像に、ペンギンが空を飛ぶ映像があった。あんな、ちょっとファンタジーな感じの見ていて楽しい嘘なら良いかもしれない。

俺がそのことを口にすると、ミュウとセイ姉ぇが顔を見合わせて、頷き合う。

「なら、ユンちゃんにちょうどいい嘘があるわね」

「そうだね。誰もが夢のような時間が見れる」

そんな嘘があるのだろうか?

だが、あるのなら全部、ミュウとセイ姉ぇに任せようと思う。

そして――

「なんだ! これは!」

「なに? って女の子の服?」

「だって、俺は、男で。こんなヒラヒラした服って……」

長い黒髪を編み込みのハーフアップに結い上げられ、ふわりとした白と青のチェック柄のワンピースとクリーム色のカーディガン。

肩には、小さなポーチと俺の趣味や好きな色合いとは完全に真逆な女の子の可愛い服装だ。

「これで練り歩けば、不特定多数に嘘ついたことになる!」

「まぁ、嘘を吐くのは、ユンちゃん自身の心にかしら? でも、こんな日だからはっちゃけなきゃね」

「ううっ! 恥ずかしい……」

だが、今日は嘘を吐いていい日。ならちょっとだけ、周りの反応を見るためにやってもいいのではないだろうか。

そんな気持ちでミュウとセイ姉ぇを見れば、二人も可愛らしく私服コーデの服装に着替えている。

「さぁ、三姉妹でエイプリルフールの町を練り歩こう!」

「そうね。さぁ、行きましょう」

「ううっ、分かった」

そして、ミュウとセイ姉ぇと一緒に女の子の格好で第一の町を見て回った。

ちょっとだけ周りからの視線を集め、また立ち寄った露店や屋台で『可愛いからオマケだよ』とちょっとだけサービスして貰った時は、自分の嘘がバレなかったことに感じ、ちょっと嬉しい気分になり、楽しく一日を過ごせた。

そして――

「よくよく考えたら、別にエイプリルフール関係なくない? これ」

「ち、最後にユンお姉ちゃん気付いちゃったか」

「ミュウ。まさかの確信犯だった! そして、俺また騙された!」

やっぱり、ミュウに騙されたのだった。