軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

Sense333

「――きゃぁぁぁっ!?」

崩れる足場によって、俺たちは空中に投げ出される。

崩壊で広がり続ける大穴は、第二階層まで吹き抜けになっており、迫る地面を見下ろしながら、俺は【念動】スキルを利用する。

「――《ゾーン・キネシス》!」

空間系による全員に念動スキルを使って一時的に落下速度を軽減しても人間をゆっくりと下ろすほど【念動】センスのレベルは高くない。

そのために落下する間に、念動スキルを短い間隔で連続使用することで落下の勢いを削ぐことが狙いだ。

「――《ゾーン・キネシス》《ゾーン・キネシス》!」

下級の【念動】スキルだが、空間系スキルとの併用により待機時間が僅かに伸びる。

自分一人なら無事に着地できるだろうが、完全な減速には至らずに地面が迫る中、落下の衝撃に備える。

「――《マッドプール》!」

落下地点の床面を泥沼にすることで衝撃を吸収させる悪あがきを準備して、第二階層の床面に全員が叩きつけられる。

「かはっ!?」

全身を駆け抜ける衝撃に泥沼に着地するが、縺れるように倒れ込み叩きつけられた体がバウンドして息を吐き出してしまう。

それでも全員が何とか生きている。

「痛たっ……HPが4割減ってる」

「こっちは、6割だ。危なかったな。【気絶】の状態異常に掛からなくて良かった」

「こっちは、5割。ユンっち、ポーションちょうだい~」

全員が何とか動ける中、ノロノロと起き上がり、ポーションを渡してHPを回復させる。

俺は直前まで連続でスキルを使い過ぎたためにMPも大幅に減っているためにMPポットも使用してから周囲を見回す。

「ここは……砦のエリアが元になった場所かしら?」

マギさんが辺りを見回すと天井の大穴以外に周囲の壁面の表面は崩れているがその内側のイシルティン金属の壁面が覗いて見える。

「ここからなら出口まで近いだろう」

クロードの言葉に俺たちは辺りを慎重に探索するように出口を探す。

幻想空間が消え、迷路状になった部屋の中で片手を壁伝いに進んでいけば、次第に部屋の出口に辿り着く。

竜の頭の噴水のある場所は、崩壊が進み罅割れが大きくなっている。

「やったわ。もうじき出口よ!」

既にここまで来れば、敵MOBは居らず、脱出するプレイヤーたちの流れに乗って外に早足で進んでいく。

「やったね。残り時間が25分で結構余裕があったね!」

「そうだな。これでレアアイテムの【幻想空間】が手に入る」

残り25分の現在、レアアイテムの入手を目指して今から上層を目指すプレイヤーや既にアイテムを入手して脱出した後、プレイヤーの誘導や護衛などの死に戻り前提の動きをするパーティーなどが見えた。

そして、第二階層から第一階層に降りてきて、ホールに辿り着く。

後は、このまま真っ直ぐに外に出れば――

『警告:【空の幻想空間】を所持しておりません。このまま脱出する場合、脱出時に入手した【幻想空間】が消失します。それでもこのまま脱出しますか?』

ホールの真ん中を過ぎたところで突然立ち上がるメニュー画面の警告文に足を止める。

何を? と俺はそっと魔女の部屋から取って来た【幻想空間】のガラス球を仕舞い込んだポケットに触れるとそこには何もなかった。

「……ない?」

大事なアイテムがなくなっている。

ガラス球の形をしているが、割れたり壊れたりする事のないユニークアイテム。この異次元の魔女城から脱出するまで正式に入手できないためにインベントリに入らず、ポケットに仕舞い込んでいたのに、どこかで落したのだろう。

「ユンくん、どうしたの? 顔が青いよ」

「マ、マギさん……どうしよう」

自然と声が震える中、俺はマギさんの目を見てしっかりと告げる。

「どっかで【幻想空間】のガラス球、落としたかも……」

「はぃ?」

マギさんは、意味が分からずに首を傾げる中、クロードが一歩前に進む。

「ユンがここで立ち止まったのと何か意味があるのか?」

「【幻想空間】を持ってないって言われて、仕舞い込んだポケットを調べたらなかった」

クロードがマギさんとリーリーに目を向けるが、首を振って自分の幻想空間のガラス球を掲げて見せる。

「落とした場所に思い当たる所と言えば……第二階層の落ちてきた場所か」

あの時の叩きつけられる拍子に【幻想空間】のガラス球を取り落とした可能性がある。

「俺、探して来る! マギさんたちはそのまま脱出してくれ!」

もう出口が目の前であるために俺一人だけ降り返って再びダンジョンの奥に向かって駆け出す。

「ちょっと、ユンくん!?」

マギさんが俺を止めようと手を伸ばすが、既に俺は、脱出するプレイヤーの流れに逆らって進んでいるためにマギさんも容易に追いつけない。

そして、そのまま追い付いて来ないことを見ると、クロードに止められて脱出の方を優先したと考える。

そうすれば、魔女の呪いもなくなり、正式に【幻想空間】のガラス球を入手できて死に戻りしても紛失することは無くなった。

そして、崩壊が早まる城の中で俺は、砦エリアの落下してきた吹き抜けのところに辿り着けば、沢山の瓦礫が散乱しており、その中から俺が落とした【幻想空間】のガラス球を探さなければならない。

「どこだ! どこにある!」

【看破】のセンスを駆使して上層から崩れてきた瓦礫の山の中からアイテムを探す。

だが、途中から瓦礫も石材扱いのアイテムであることに気付き手に触れた端からインベントリに片っ端から入れていき邪魔な物を消していく。

その中には、崩落に巻き込まれてここに隠れたユニークアイテムや素材なども混じっていたがそんなことを気にしている余裕はない。

そして、しばらくして――

「あった! ガラス球!」

瓦礫の間に転がり込んでいた【幻想空間】のガラス球を見つける。

俺のインベントリに収納できない大きさの城の建材の隙間に転がり込んだのか僅かに見えるだけだ。

しゃがみ込み、手を伸ばしても届かないほど奥にある。

「手が届かないけど、行ける! ――《キネシス》!」

手は届かなくても対象を視認することさえできれば、【念動】スキルで手繰り寄せることができる。

ゆっくりと浮かび上がり、こちらの手に向かってくる【幻想空間】のガラス球が両手の中に戻って来る。

「やった! 良し今度こそ、脱出だ!」

立ち上がり、出口へと振り返る直後に再びアナウンスが流れる。

『――残り時間、20分。異次元の魔女城の崩壊が最終フェイズに移行します』

砦エリアの迷路となっている部屋から脱出しようと立ち上がった時、吹き抜けの頭上に影が差す。

反射的に見上げた先にあったのは、崩壊のフェイスが進み今まで以上に大きな瓦礫が降って来た。

当たれば即死するレベルの大きな瓦礫に反射的に腰が引けて腕で頭を庇う。

「――っ!?」

小さな悲鳴を上げて強く目を瞑るが何時までも瓦礫が降ってこずに恐る恐る目を開けると俺の頭上を覆う半透明な氷柱ができ上がっていた。

「ふぅ、ユンちゃん。見つかってよかったわ」

「……セイ姉ぇ?」

見上げた先には、杖を掲げて氷柱を生み出し、下から支えるようにして瓦礫を受け止めていた。

だが、大きな瓦礫は、押し留めることができたが、その隙間を縫うように次々と振って来る小さな瓦礫が俺とセイ姉ぇたちの頭上で爆ぜるように砕ける。

「ユンが見つかったんなら早く撤収しよう。下手したら巻き込まれてこっちが死に戻りする」

「タクも……どうして?」

二本の長剣を振るい、飛ぶ斬撃で次々と振って来る瓦礫を砕いているタクは、首だけ軽くこちらに向けて俺の疑問に答えてくれる。

「そんなのマギさんたちにお願いされたからに決まってるだろ! まぁ、俺たちは【幻想空間】を入手後した後で死に戻りしても平気だけどな」

「何と言うか……本当にごめん」

「確かにユンちゃんは心配かけたけど、謝るのは私やタクくんじゃなくてマギちゃんたちに言おうね」

そう言って、俺の手を取って立ち上がらせてくれるセイ姉ぇ。

「さぁ、この瓦礫も何時までも押し留めていられないから行きましょう!」

「そうだな。ぐずぐずして押し潰されたくないからな。それと、ユン。今度こそ落とすなよ」

「お、落とさないし!」

しっかりと両手で両手で【幻想空間】のガラス球を握り締めて、タクとセイ姉ぇと共にこの場から立ち去る。

その直後、セイ姉ぇの氷柱で支え切れなくなったのか、氷がバラバラに砕け、押し留めていた大きな瓦礫が落ち、第一階層にまで貫通させる。

砦エリアだった迷路は、タクとセイ姉ぇが当てもなく抜けようとするが、行き帰りに通った記憶があるために俺は最短経路で進んでいく。

その途中、瓦礫で塞がれていた通路もあるが、辛うじて崩壊で降ってくる瓦礫で通路が封鎖されることはなかった。

まぁ、封鎖されていてもセイ姉ぇとタクなら力技で瓦礫を吹き飛ばしそうだと思った。

そして、再び第一階層に戻り、異次元の魔女城の出入り口が見えた。

俺たちの他にも出口へと駆け出すプレイヤーがちらほらと残っており、崩壊の最終フェイズで城の中に突入せず、ギリギリまでユニークアイテムや最上階の【幻想空間】を探しにはいかないようだ。

もう既に【幻想空間】を手に入れ魔女の呪いに掛かったプレイヤー以外は、配布されたポータルアクセサリーで脱出しているかもしれない。

「今度こそ、出られる」

再び第一階層のホールの真ん中に差し掛かったが、今度は警告のメッセージが立ち上らず、無事に抜けることができた。

そして、出口付近では、まだ脱出していないプレイヤーを待つ人たちの中にマギさんたちの姿が見え、安堵を覚える。

離れていた時間はほんの僅かなのに、少しだけ感傷的になっていると出口付近で待つプレイヤーたちが俺たちの上方を見上げ、俺も釣られてそちらを見上げる。

「嘘だろ……」

第一階層の崩壊で外が見えるようになった天井から見上げた光景は、城で最も高い尖塔の外壁の一部が崩れていく光景だった。

潰れるように崩壊し、周囲に飛び散る瓦礫が粉塵の尾を引いて、第一階層に向かって落ちてくるのが見える。

絶望的な光景に多くのプレイヤーたちが足を止めて見上げ、防御する準備を整える中、よく響く声が聞こえる。

「ミュウちゃん、このロマン装備で行ける!」

「マギさん、私今物凄くワクワクしていますよ!」

その声に振り返り、出口の方を見れば、ミュウには珍しい幅広な両手剣を担いで声を上げている。

「《マジックソード》――コンセンサス・レイ!」

激しい光が幅広な両手剣に宿り、ミュウが更にアーツを重ねる。

「いっけぇ! ――《ソニック・エッジ》!」

タクが常用する剣による遠距離攻撃アーツだ。

肩に担いだ幅広な両手剣を一度腰に溜めて降ってくる瓦礫群に向けて切り上げる。

両手剣から放たれた斬撃は、三日月型の強い光の形で飛んでいき、降ってくる瓦礫群を飲み込み塵にしていく。

そうした斬撃を飛ばしていくが、その斬撃の範囲が一振りでホールの三分の一を覆うほどに巨大なのだ。

それを次々と放ち落下していく瓦礫を消し――

「これでラスト――【リリース】!」

幅広な両手剣に込めた収束光線の魔法を解放させると共に、斜めに切り上げ、落下してくる瓦礫群や粉塵を切り裂き、空白を生み出す。

ミュウの作り出す光景は、巨大な剣を振り回しているように見えた。

そして、頭上の障害が排除され次々と脱出するプレイヤーに混じり俺たちも駆け出し、そしてマギさんたちに迎え入れられた。