軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

Sense285

「うわぁぁっ! 負けたぁ!」

「いや、ライナは負けてもいないし、勝ってもいないから引き分けで賭けはなしだからな」

「随分ボロボロにされましたね。完敗ですか?」

若干煤けて見えるライナたち四人とほぼ無傷で終えた俺を見て、バーベキュー中のレティーアがそう言葉を口にする。

PVPによる戦闘訓練は、俺が走り、逃げ、避け……時々、手を変え、品を変えて攻撃するので、そんな逃げる俺をライナたちが全力で追って来た。

「はい。完敗です。HPの消耗率で考えるとユンさん2%で僕たちが21%で負けですよ」

「いや、最後にライナが一撃当てたんだからそれでいいじゃん」

「さぁ、賭けに負けたのは私たちですわ! 煮るなり、焼くなり好きになさい!」

「ああ、面倒臭いなぁ! 全く」

完全に、自分たちが吹っ掛けた賭けを受け入れて、潔く首でも差し出そうという勢いのライナとフラン。この猪突猛進コンビは、少し落ち着け。

「それにしても、終始ユンさんにあしらわれた気がします」

「まぁ、奇襲と逃走が俺の基本だからな」

「ううっ、一部はユンさんよりも上回っているつもりなのに……負けた。これが経験の差」

どよーん、と暗い雰囲気を背負うアルとユカリ。いやいや、そんなもんじゃないって、ただ攻撃が真っ直ぐ過ぎて、ミュウたちに向けられた剣に比べれば、避けやすかっただけのことだ。

ああ、今になって思い出せば、よくミュウたちの剣を回避し続けられたな。と少し遠い目をしてしまう。

「まぁまぁ、ユンさん。この子たちは、一度言ったことは曲げませんよ」

「そんなの分かってるよ。だから、困ってるんだ」

頭痛を堪えるようにしてこめかみに指を押し当てる一方でレティーアは、鉄串に豪快に刺さった焼いたエビを頬袋でもあるように口の中に詰め込み、もきゅもきゅと食べている。

「一つ提案なんですが……四人をどこかに連れて行ったらどうですか?」

「どこかって、どこ?」

「それは、ユンさんの勝利者権限でどこでもいいんじゃないですか?」

「連れて行くところって言っても……」

ライナたちは、煤けた状態のまま俺の持ち込んだ食材での料理を口に運び、互いに反省している後ろ姿を見る。

連れて行ける場所なんて、と一つだけありそうな場所を思い出す。

「町の詰所のクエストとかどうかな? 敵対NPC関連のクエストが多く集まっているっていうからそれ関係で防衛拠点制圧系のクエストとか受けてみたいんだ」

「いいですね。攻城戦イベントですので、センス以外の部分を鍛えられますね」

少し押せ押せな所があるパーティーに少し慎重さを持たせるために受けさせるのは良いことだろう。ミュウ? ミュウは、勢いをカバーするだけのプレイヤースキルがあるし、何より勘がいいんだよ。だから、ホントに危ない時は踏み込まないから何も言えないんだよ。

「ふへへへっ! 待って、子狐ちゃん! 待って」

「ベル! ちょっ、ザクロと一緒に飛び込んでくるなぁ!」

周りをちょこまかと走り回って逃げるザクロとそれを追い掛けるケモミミ好きなベル。そして、俺の胸へと飛び込むザクロは、そのまま俺の体の中に逃げ込むように憑依してしまう。

ぴょこんと飛び出した三角の狐耳、ふわっとした三尾がオーカー・クリエイターの外着を押し上げて、溢れ出す。

それを見て更に目を輝かせるベルは、突撃の速度を早める。

「リアルケモミミ娘キター!」

「ひっ!?」

最近でも似たようなことがあった気がする。クロードはマギさんたちに叩き落とされていたが、ベルを叩き落とす者たちは居らず、俺の目の前に跳びかかって来た。

いくら回避技能を高めようとも心が着いてかなければ、逃げられない。このまま捕まると思った瞬間に、ベルを横殴りにするように、何かが振るわれる。

「ふぇ?」

ゆらゆらと揺れる尻尾と尻尾の先に纏う黒炎。そうだ、ザクロのオートガードとカウンターだ。憑依状態だとこんな感じなんだーと思いながらもぺちっと地面に落ちたベルは、体を捩りながら、立ち上がる。

「ああっ!? お狐様の尻尾ビンタ、いいね、いいね! セルフなんてって、あっ! 痛っ、イタタタッ!」

不穏なことを口にして再び身の危険を感じたが、ベルは尻尾でカウンターを受けた脇腹を抑えるようにして、悶える。脇腹でも攣ったか?

「ちょっと、何時の間に呪い!? というか、呪い耐性あるのに!?」

「あー、そう言えば、ザクロって【祟り】使ってなかったっけ」

あまりに遠い記憶だが、そんなものを使っていたような気がする。オートガードとカウンター。更に、カウンターには状態異常の付与攻撃だ。ミルバードのナツとの戦闘では、攻撃が命中していないために分からなかったが、そんな能力もあったのか、これは狐火の一部なのだろうか。

「ベル。あなたの犠牲のお蔭でユンさんの能力の一つが判明しました。安らかに眠って下さい」

「ああ、レティーア! そんな見捨てないで」

「あー、えっと、騒がれるのは好きじゃないから、この姿は一応秘密な」

色々と遅い気もするが、ギルド【新緑の風】の面々にお願いすると、にこやかに頷かれた。彼らは、町中ですれ違う変態たちとは違う一般人らしくてよかった。

「さて、俺も何か頂いて……って、リゥイ?」

今の今までベルから逃げていたリゥイだが、俺の傍に姿を表すと何時ものように角に気を付けながら頭を軽く押し付けてくる。あっ、いつものだ。と思えば、自然と押されるままに足を崩した格好で座る。

俺の膝枕に頭を乗せて眠るリゥイ。何時ものことだが、人が大勢いるところでは非常に恥ずかしい。

「って、ええっ!? なんかもっと来た!?」

座ることで地面に広がる狐の尻尾が丁度良い枕代わりになって居るのだろう。何故か、レティーアの使役MOBたちが俺の尻尾に頭を乗せてごろごろしている。

「助けて」

「じゃあ、私もお邪魔します」

フェアリーパンサーのフユの空いた場所に頭を乗っけるレティーア。芝生のような柔らかな草の上で非常に心地がいいのか、そのまま目を閉じてしまう。

俺としては、微妙に尻尾と感覚が繋がっているために、むず痒く感じてしまう。その反面、脳内に響くザクロの声は機嫌がよさげだ。

「私も、混ぜて。のわっ、何をする! 桃源郷が目の前に――」

ギルドの人たちがベルを手慣れた手つきで簀巻きにしていくのを眺めながら、俺を中心に広がるお昼寝タイムはどうなんだろう? と疑問に思う。

女の子のレティーアが近くに来て、寝ているので緊張でドキドキしそうなのだが、その食べ物オンリーの寝言っぽい呟きに、驚くほど心が静かだった。