軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

Sense274

荒野エリアには、アイテムとして活用できる植物は殆ど見つからない。その代りに、地面から表出した大きな岩にはだいたい採掘ポイントが設定されており、俺とマギさん、エミリさんの三人が一心不乱にピッケルで掘っている。

「レティーア。敵は来てないか?」

「大丈夫ですよ、上空は、ナツとフユが。地上は、アキが見てますから」

岩場の上に立つレティーアは、四匹の使役MOBに指示を出して、周囲の警戒に当たっている。岩場ならハリワナモグラが襲ってこないのである程度対処は楽な点がある。

俺たちは、しばらく採掘を続けて、入手できたアイテムを集計する。

「ユンくんはどんな感じで取れた?」

マギさんが回収した鉱石を近くに種類毎に並べていくのを確認し、俺たちも同じ種類に分類していく。

「こっちは、鉱石系が少々と岩塩ですね。あとは、クエストに納品するラピスラズリの原石を見つけました」

「私たちの方でも見つけたからこれで一種類は達成ね」

「それじゃあ、クエストの納品アイテムだけは別で帰ったら、配分しちゃおうか」

それまでマギさんに一時的に預けることになり、俺たちは次の納品アイテムを探すことになる。

残る納品アイテムは、キョウセイチェリーと染め虫だが、こちらは簡単に見つかった。

薬草などの採取ポイントが少ない荒野で珍しく見つけた採取ポイント。その大きな石を持ち上げるとその下には、結晶化したような赤黒いダンゴムシが集まっている。

マギさんやエミリさんは、虫が苦手なようで俺とレティーアが集めることになる。

「ダンゴムシ~、ダンゴムシ~」

「結構、可愛いと思うんだけどな」

指先で突くと、くるんと丸くなる染め虫を集める。

十個でワンセットの染め虫。これは、クロードが使いそうだな、と思い、可能な限り回収していく。

そして、俺たちの視線の先には、この荒野でも目立つ一本の樹が生えていた。

赤いサクランボの実をつけた樹が薄い岩の樹に食い込むように生えている光景。

「やっぱり、正体知っていても怪しいよね。あれ」

「そうだよな。逆に、怪しさ満点なところが人を引き付けると思いますよ」

エミリさんの一言に、俺が同意すれば、マギさんも苦笑い。レティーアとしては、あのサクランボを食べてみたいといった感じの視線を放っているが、あれは不用意に手を出してはいけない。

「まぁ、様子を見ましょうか。ロック・スコルピオンを」

荒野の硬い地面に、不自然に一本生えている樹。だが、その樹が根を張る岩こそが荒野で最も厄介なロック・スコルピオン本体である。

一度手を出したら、執拗に追い掛けてくる特徴。尻尾からの毒液を高速で飛ばす遠距離攻撃とハサミによる近接攻撃。斬撃に耐性のある硬い甲殻。

完全に物理面に強いサソリだが、魔法防御にも優れており、持久戦に持ち込まれることもしばしば。

だから、クエストクリア目的なら極力、背中に映えるサクランボだけを回収したいのだが……

「今までも取ろうとして不意打ちで襲われるプレイヤーが多いからトレントと同じ初見殺しなんだよね」

「俺の【看破】でもまだ見破れないんだから相当なレベルの擬態だよな。でもどうしよう」

「ナツに取りに行かせますか?」

「それはやめた方がいいと思うわ。MOBにも近づいたら反応するから。戦っている間に別のMOBが来たら多分負ける。ロック・スコルピオンとは、逃げの一択よ」

俺たちの中で逃走用の騎乗MOBをパートナーにしているために逃走のための速度は出るだろう。だから、最悪は、サクランボを回収して、荒野入り口まで逃げる。ほとぼりが冷めた頃にまた突撃。も考えなくはないが、MOBを引き連れそうなので極力は避けたい。

「一つ試して良いかな?」

「何? ユンくん?」

「ちょっとした実験。駄目だったら別の方法を試すか、逃げられる準備してくれる?」

採取のために実験としてセンスを調節して、一つのスキルを発動させる。

「――《キネシス》!」

離れた位置のサクランボにターゲットを指定して、【念動】スキルを発動させる。

MPの消費量が増える境界を超えて、不可視の手がサクランボを動かす。

ぷちり、と軽い音を立てて樹から切り離されるサクランボを《キネシス》によってゆっくりと手繰り寄せる。

「やった。成功だ」

「切り離した段階で襲ってこないなら、もう安全ね」

そして、ふわふわと浮くキョウセイチェリーを《キネシス》で操り、一つ手に入れる。まだロック・スコルピオンの背中に生える樹には、沢山のサクランボを実らせているために、同じように回収は可能だ。ただ……

「すみません。MPが心許ないので、ちょっと休ませてください」

俺の泣き言にマギさんたちは、仕方ないか、コスパ悪いもんね。と苦笑いを浮かべる。

「でもよかった。これで成功して。駄目なら、別の方法で取りに行かないといけないから」

「別の方法? あー、リゥイの透明になる奴だ」

成獣に成長したリゥイの幻術スキルの中には、姿を消す隠蔽効果の奴と一時的に無敵状態になれるものの二種類がある。

【念動】センスで駄目なら、隠蔽の透明化と防具に付いている【認識阻害】の相乗効果に期待するのだが。と説明しながら、二、三つと回収していき、現在、四個目のサクランボを手元に引き寄せている。

「ふぅ、あと一つ」

「ユンさん。上空でソニック・コンドルが狙って来ています」

「不味いわね。乱戦になると勝てないから、サクランボを回収したら即行離脱。ユンくん、それでお願い」

「分かりました」

俺は、急いでMPポットを飲み干して、最後のサクランボの回収に着手する。慎重に。そして素早く回収しなければならないが、僅かに《キネシス》のコントロールを誤り、枝が引っ張られる。

「……あっ、ヤバいかも」

内心、冷や汗を流しながら、枝先から上手く千切れなかったサクランボのヘタに引かれて、枝が大きくしなる。

「ちょ、ユンくん! ソニック・コンドルが迫ってるんだけど!」

エミリさんが慌てた声を上げるが、俺もどうすればいいか分からない。このまま無理に切り離すと枝の揺れた振動でロック・スコルピオンが動き出すかもしれない。だが、このまま維持していると俺のMPが切れて、枝が元に戻ろうと揺れるだろう。

ソニック・コンドルが迫るリミットの中、力強く千切ることを選び、更にキネシスで引き寄せるが……

「……ごめん。力足りなくて、千切れない」

その情けない声と共に、維持できなくなり消滅する《キネシス》の念動力。そして、大きなしなりと共に戻る樹の揺れが宿主であるサソリに伝わり、地面を揺るがし始める。

『――KYUUUURRRRRAAAAAAA!』

ガラスを擦り合わせたような叫びを上げて、地中に隠した両手のハサミと毒を持つ尻尾を持ち上げて、猛烈な速度で俺たちの方向に迫って来る。

『――KUUURRRRRAAAAAAAA!』

「ああ、最悪のパターン。コンドルまでこっちに!」

ザクザクと硬い荒野に足を突き立てて、逃げる俺たちに迫るMOB。普通の人間では逃げきれない移動速度を持つ二匹に対して、俺たちは、エリアの入り口まで逃げることになる。

エミリさんは既にレティーアと一緒に使役MOBでフェアリーパンサーのフユの背中に乗って先行している。

「お願い、リクール。――《召喚》!」

「――《召喚》。リゥイ、全力逃走!」

俺とマギさんは、それぞれ自身の召喚石からパートナーの使役MOBを召喚する。

マギさんのパートナーの 魔氷狼(フェンリル) のリクール。成獣化により、体は、大きくなり、人二人は余裕で乗せられるようになった。マギさんは、毛を握りしめ、しがみ付くようして乗れば、リクールが走り出す。

そして、俺のパートナーの 一角獣(ユニコーン) のリゥイは、俺を乗せてみんなの後を追い始める。

「リクール早っ! 私、騎乗での戦闘には慣れてないけど、これどうすれば!?」

「とにかく落ちないようにしてください! 攻撃は俺が受け持ちますので!」

リゥイに乗ったまま矢を番えて、背後に上空より迫るソニック・コンドルを射る。だが、加速による風の防壁を纏った状態では、いくら強化された一撃とはいえ、仕留めるまでにはならない。

「リゥイ!」

俺の言葉に従い、狙いをつけさせないようにわざと弧を描くように走るリゥイ。走り抜けた後ろでは、状態異常の針が飛び出したりもするが、それよりも早く走り抜け、回避を続ける。

「ユンさん、攻撃はどうします?」

「マギさんとエミリさんは、騎乗での戦闘は想定してないからレティーアは、他の使役MOBに指示を出しながら、二人を守ってくれ。俺は適当にあしらって逃げるから」

「わかりました。ナツ、アキ! ユンさんのフォローで上空のソニック・コンドルに牽制」

小型の鳥型MOBのミルバードのナツと人魂のウィル・オ・ウィスプのアキは、真空波と炎で牽制しながら空中戦を行っている。

体格と素早さで圧倒するソニック・コンドルを小回りと錬度の高さでカバーして戦う二匹。

任せておけば、もしかしたら倒すかも。と思いつつも背後を振り向けば、頬を掠めるように何かが通り抜ける。それが地面に当たり、紫色の煙を噴き出しているのを見て、俺は、頬を引き攣らせる。

「リゥイ! 全力回避っ!」

体を倒すように右に避けるリゥイの背後から、毒液を飛ばすロック・スコルピオン。

身体を倒して右に僅かに傾くために、一瞬だけ、弓の狙える範囲に入る込む。

体を捩じり、下半身でリゥイに付けた馬具にしがみ付き、弓を射る。

「ちっ、駄目か!」

前に掲げるハサミでガードされてしまい、弓矢が体に当たらない。また、進行先にある障害物全てを破壊して、最短コースで迫って来る。

なら、とリゥイの手綱を僅かに動かし、マギさんたちの後を追う。そして、ロック・スコルピオンの到達位置を計算して、宝石をばら撒く。

「――【ボム】【クレイシールド】」

足止めの土壁と爆発がサソリの目の前や腹の下で巻き起こる。流石に、身体の裏側が弱点らしくダメージを受けた様子だが、それでも止まらず大きく両手のハサミを振り上げてくる。

「このままだと俺だけが追い付かれるな」

まだまだエリアの境界線まであと少しだ。エンチャントでリゥイを強化した場合、その速さに俺がしがみ付くだけになることを考えるとメリット・デメリットがあって選ぶ決心が着かない。その時――

「リクール! ユンくんの援護をお願い」

「レティーア。ちょっと暴れるわよ」

先行するマギさんとレティーアの背に捕まるエミリさんが行動する。

リクールが俺を避けるように生み出す氷柱が進路を塞ぎ、その隙間を縫うようにエミリさんの連接剣が地面すれすれで振るわれる。

二人の攻撃により、ロック・スコルピオンに僅かな隙が生まれた。俺は、そこにその隙えを狙うべく二本の矢を選ぶ。

「――《連射弓・二式》!」

一息に二本の矢を放ち、エミリさんの連接剣を弾くために振るわれた右のハサミの関節部を狙う。

だが、一本は、左のハサミに弾かれ、もう一本は、背中に生える樹の枝を引き千切る形で後ろに通り抜ける。

「ちっ、【麻痺】と【眠り】の矢を外した」

状態異常の矢も外して、安全に逃げおおせようと考えたが、そんなに甘くはなかった。だが、氷柱を砕き、ぶつかって速度を落としたために、決心が着いた。

「リゥイ、頼むぞ。《付加》――スピード!」

体に風圧で体が引き倒されないように、リゥイの手綱を強く握りしめて、空気抵抗を少なくするために体を小さくする。どんどんと離れるロック・スコルピオンを尻目に、マギさんたちのリクールと並び、四人とその騎獣に乗って、荒野の境界線まで逃げることができた。

「どう? ちゃんと逃げ切れた?」

成獣化したリクールに乗るのに精一杯だったマギさんは、肩で息をしながら、逃げてきた方向を見る。俺は、【空の目】の遠視能力でロック・スコルピオンを捉えたが、こちらが境界線を越えたところで諦めたように背を向ける。

「ちゃんと帰りましたよ」

「そう。あー、慣れてないリクールの騎乗に慣れるためにこうちょっとこのままでいよう」

そう言って、リクールの背中に寄りかかるマギさん。もふっとした毛並みに顔を埋めて、気持ち良さそうに目を閉じる。

「それにしても、最後のキョウセイ・チェリーが回収できなかったわね」

「それはごめん。俺の所為だ」

「いや、そういう訳じゃないんだけど……」

エミリさんが言った事実に俺が謝ると、否定する。だが、事実クエストアイテムのキョウセイ・チェリーが残り一個足りないためにもう一度取りに行かなければならない。

俺とエミリさんで互いに、重い溜息を吐き出せば、レティーアは、どこか遠くを見るようにして、上空を見上げている。

「終わりです」

「レティーア? どうした」

「いえ、ナツとアキが戻ってきます」

そう言って、腕を上げれば、上空から滑空して、レティーアの腕に泊まるミルバードのナツと寄って来るウィスプのアキ。そして、ミルバードのナツの口には、一本の枝とそれに実るサクランボが……

「それ、どうしたんだ?」

「ユンさんが放った矢で折れた枝とそれに着いていたキョウセイ・チェリーですよ。ナツが回収しました。これでクエストは終わりです」

全く、抜け目ない。と苦笑いを浮かべる俺とエミリさんにクエストクリアに喜ぶマギさん。俺も正直、嬉しいのだが、マギさんがレティーアに抱き付かんばかりに喜んでいるために声を掛け辛い。

代わりに抱き潰されないように逃げて来たナツとアキ、フェアリーパンサーのフユに労いの言葉と共に食べ物を与えるのだった。