軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

Sense257

目的地へと向かう時、ミュウやタクのように持久力や速度、フィールドワークに向いているセンス構成なら、早いペースで到達できる。だが、それはソロでの話であり、パーティーではどうしても足の遅いプレイヤーに速さを合わせる。

何が言いたいかというと――

「お姉ちゃんたちだけズルい! 私も!」

「ごめんね、ミュウちゃん。こういうのは後衛の特権だから。――【アイス・ランス】」

「はぁ、セイ姉ぇ、しっかり掴まってくれよ」

俺とセイ姉ぇは、やや高い位置から弓と魔法で向かってくる一体のブル・ビートルを攻撃する。以前にも増して、威力の増した弓矢が甲殻を貫き、セイ姉ぇの氷槍が突き刺さる。

ミュウもタクも駆け出そうと身構えるが、止めにもう一本矢を放ち、HPを全て削り切る。

「ユンちゃん、ナイス射撃」

「セイ姉ぇの魔法の方が威力高いだろう。俺は単なる索敵と先制要員だよ」

セイ姉ぇは、俺の後ろで横座りをして、そう声を掛けてくれるが、俺は、射撃のために手を離した綱を握り直し、高い位置から警戒をする。

他に敵がいないことを確認して小さく息を吐き出し、リゥイの足を進める。とは言っても俺の意志を汲み取り、勝手に動いてくれるので負担は少ない。また、俺の服のフード部分にザクロが入り込み、首に尻尾を巻きつけてくるので苦しい。

「なぁ、なんで戦力にならない。子狐の幼獣まで召喚してるんだ?」

タクの視線に、一瞬体を硬直させてフードの中に頭を隠すザクロを横目に、何でもないように告げる。

「そりゃ……一緒に呼ばないと可哀想だろ」

「いや、他にもあるだろ。幼獣を早く成長させるとか」

「じゃあ、それで」

「適当だな。ユン。けど、二匹同時に召喚してMPは大丈夫なのか?」

「MPは、六割前後かな? けど、普段はそんなに使わないから」

残り六割を使い切りなど、【ゾーン・ボム】くらいだ。三重のエンチャントや全員を対象に取る【ゾーン・エンチャント】はまだ消費は少ない。

そう言って、視線を前に向ける。リゥイのペースに合わせて、ミュウもタクもサクサク進んでいくが、俺としては幾つも通り過ぎる採取ポイントで素材を集めたい。

「ユンちゃん、さっきから何見ているの?」

「素材の採取ポイントが……」

「この辺の素材なんて、簡単に買えるでしょ?」

「けど、見落とすのは……」

俺が未練がましく見送ると、ミュウが呆れたように溜息を吐き出す。最初期の金欠の頃からの癖で目に入る素材は可能な限り収集する癖があるために、どうしても無視すると気持ち悪く感じる。

そうは言っても効率が悪くなるのは理解しているために、ある程度は目を瞑らないといけないのは分かるが、貧乏性は中々直りそうにない。

「ほら、そろそろ気を引き締めろ。ダイアス樹林の入り口に入るぞ」

この森のボスMOBであるキラー・マンティスを横目に密林の方へと進んでいく。

ボスMOBの特性上、新しいエリアへ行くために一度は倒さないといけないが、全員一度は倒したことがあるために、ノンアクティブでこちらに無機質な三角形の顔と複眼を向けてくる。その横を悠々と通り過ぎる俺たちの姿が複眼に反射して、ややシュールに見える。

「また来てしまった」

当時は、ダイアス樹林などという名前を知らず、ただ密林と呼んでいた薄暗く光の差し込まない森。

俺たちは、そこを進もうとするのだが、リゥイの足が森の境界で止まる。

「リゥイ?」

俺が不思議そうに首を傾げると、密林との境界の向こう側に棘の生えた蔓型MOBが地面からするすると伸び始める。

「……トーン・プラント」

足を取られ、逆さ吊りされた記憶に顔を顰める。また、森をよくよく観察すれば、今のリゥイの姿で戦闘するには、少しばかり木の密度が高い。

ここは、リゥイとザクロを一度、送り返し、トーンプラントの蔓を観察する。

「いやいや、あれはまだトーン・プラントの本体じゃないのですよ。お姉ちゃん」

「なぁ、ミュウ。いい加減そのお姉ちゃんって止めないか? 身内だけなのに」

「トーン・プラントは、小型のMOBじゃないんだよ。本体は別にあるの」

「無視か……」

やや遠くを見るような目でミュウの指差す先を見る。トーン・プラントの蔓の根元だ。

「――【ソル・レイ】!」

「……っ!?」

指先から放たれる光線が地面に突き刺さり、トーン・プラントの蔓が力なく萎んでいく。

「っと、ウィークポイントは、地面の中にあるからそこを狙えば、簡単に倒せるんだよ。逆に、蔓に攻撃してもあんまりダメージは入らないから。有効なのは、炎で燃やし尽くすとか、今みたいな直接かな?」

「まぁ、対処法を知ってれば、ユンなら楽じゃないか?」

「対処法って、地面に影響を与える攻撃なんて……」

下級魔法の【ボム】や【クレイシールド】。地面に影響を与えるが攻撃性のない【マッドプール】や石柱を隆起させて攻撃する【アース・クエイク】。範囲攻撃の【ロックバースト】やボムの上位互換である【エクスプロージョン】の他に使える魔法は一つある。

【地属性才能】の上位センスである【大地属性才能】のレベル1で覚える範囲魔法――【アース・シェイク】。

小さな振動を地面に発生させる魔法で低い攻撃性と行動阻害が可能な魔法だ。

ただ、同じ行動阻害が可能な【マッドプール】に劣り、攻撃力では、ボムよりやや高い。ただ、広めの発動範囲からパーティーで使えば、ダメージは受けないまでも味方に多少なりとも行動阻害の影響を受けてしまう。

「それに……ノンアクティブなMOBも全部引っかかるからな。ソロでの敵の乱戦になるんだけど」

下手に使えば、範囲内に引っかかるMOB全てを引き寄せてしまうために、無駄にMOBを引き寄せない対象を視認して発動出来る【ゾーン・ボム】の方が優先される。また、地面と接していないと効果がないという点も挙げられる。

「そこが良いんじゃなの! 今回は、MOBの全種類討伐だよ! 敵を集めないでどうするの!」

俺の呟きに、やや興奮気味に俺へと詰め寄るミュウに上体を仰け反らせる。

「分かったよ。ちょっと待ってくれ。【付加】――インテリジェンス」

俺は、セイ姉ぇのように魔法の発動までを短くするようなセンスを持っていない。大地属性のレベル1魔法だ。エンチャントで魔法攻撃力を底上げし、下準備をする。

更にインベントリからINTを上昇させる強化丸薬を口に含み、魔法を発動させる起点を探す。

ミュウたちを巻き込まない場所を見極め、そのポイントを【空の目】のターゲット能力で対象に取る。そして、その対象を取った位置で準備した魔法を発動させる。

「――【アース・シェイク】!」

地面が鳴動し、土の表面が数センチ跳ね上がる。それと共に、地鳴りの範囲にいたホッパーラビットやコボルトソルジャーがこちらに向かって一斉に近づき、地面からは、子どもの胴体ほどもある棘の蔦を生やした球根が慌てて飛び出して来る。

「やっぱり、底上げしても完全には倒し切れないか」

地中のウィークポイントにダイレクトに攻撃できると言っても、ボムと同等の弱い魔法を底上げした【アース・シェイク】。インベントリに追加されるドロップもあることから倒した個体もいるが、倒し切れなかった個体もいる。

それでも弱点を曝け出し、HPも大半を失っている。

「迎撃! タクさん、いくよ!」

「撃破数でも競うか?」

「ユンちゃんも弓を準備」

「ああ、分かった。セイ姉ぇ。【 空間付加(ゾーン・エンチャント) 】――スピード!」

範囲内にいるミュウたち全員に速度エンチャントを施し、戦闘行動に移る。

俺とセイ姉ぇは、弓と魔法で奥の敵を流れ作業で貫いていく。そして、粗方のHPを削り切ったMOBは、ミュウとタクによって一撃。もしくは、二撃の内に光の粒子となって消えて行く。

ミュウが長剣を振りぬき、空いた隙に流れ込むように迫るMOBに光魔法を爆散させ、タクは、ダマスカス製の長剣とクリスタルソードを縦横に振り抜き、手数で敵を倒していく。

「クエスト条件に必要なMOBも倒したし、このまま奥まで走り抜けるか!」

「そうね! 入り口部分は浅いから中間のセーフティーエリアまで一気に行きましょう!」

タクの提案にセイ姉ぇが答え、駆け抜けるタイミングを計る。

「今よ!」

抜けるタイミングに合わせて、再び全員に速度エンチャントを掛け直し、進路にいるMOBへと矢を射続ける。

邪魔をしないように、痺れ薬を合成した弓矢を使い、敵の動きを鈍らせて、ミュウとタクが敵を切り払う。後方より追い掛けてくる敵には、俺がマッドプールを仕掛け、足の止まった集団をセイ姉ぇが範囲系の水魔法で綺麗に仕留める。

追ってくる敵MOBを全て処理し、何時までもここに居る訳にはいかない。

特殊クエストの分母が3/8となり、クエストが進んでいる中で必要以上に戦わずに走り抜ける。

前にリーリーと共に入り込んだ場所を超えて、更に奥へと進む。

途中、最初の【アース・シェイク】に引っかからなかったトーン・プラントと遭遇するが、トーン・プラントはミュウとセイ姉ぇが。遠距離にいるMOBの索敵と先制攻撃は、俺。前路を切り開くのは、タクという役割で一気に森を押し進んでいく。

「見えた!」

走り抜ける速度を上げて、鬱蒼とした森の切れ目を目指す。

後ろを追う敵MOBも既に追い付けない位置におり、そのまま光の強い切れ目を抜け出し――

「うわぁっ……」

初めて見る光景に小さな声を漏らす。

鬱蒼とした森がダイアス樹林だと思っていたが、目の前の切れ目を境に広がる湖。そしてその向こうに同じ密度のだけど、それ以上に光に溢れた森を見ることが出来た。

木々の高さは、背後の鬱蒼とした森の倍近く高く、全体に緩やかな斜面を形成しているのか、斜面から伸びる何本もの小川が湖へと水を供給し続けている。

「ダイアス樹林の本番。まずは、このベースキャンプから作戦を練ろうか」

「その前に、ユンお姉ちゃんは、ポータルの登録だね」

「それと、未知の広がる領域へようこそ。ダイアス樹林――素材と敵の宝庫だよ」

そう言ってセイ姉ぇがポータルへと案内してくれる。

湖の近くにある石柱とその上に設置されているポータルへと歩みより、登録を済ませる。

ダイアス樹林。背後には鬱蒼とした森。前には光り輝く湖。二つの面を持つ森と湖を眺めて、セイ姉ぇの言葉に心を躍らせる。

「素材の宝庫かぁ、未知ってことは、見落とした素材もあるのかな?」

根っからの生産職発言に苦笑いを浮かべられているのに気がつかずに、しばらく森の境界線付近をふらふらと歩くのだった。