軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

Sense252

「お正月なんだから――正月らしい遊びをしよう!」

「正月らしい遊びって、例えば、カルタとか百人一首、花札とかか?」

「それよりももっと、こう! 羽子板とかの強烈ラリーで盛り上げようよ!」

「羽子板かぁ、そうなると負けたら顔に墨塗られるのかしら」

セイ姉ぇがおっとりとした感じで、それは少し恥ずかしいな。と呟くが、そうじゃなくて、羽子板って強烈なラリーってするっけ? そもそも道具がないだろ。

「ふふん。道具は、この剣一本で十分! ファンタジーの羽子板は、剣と魔法なんだよ!」

「なんか、非常にイラッとしたが、それで?」

ミュウの発言に少しばかり苛立つが、論より証拠と。セイ姉ぇにだけ耳打ちするミュウに疎外感を覚えるが、すぐに二人は行動に移す。

「それじゃあ、セイお姉ちゃん。行くよ!」

防具は、巫女服のまま、愛用の片手剣を構えるミュウ。対して、セイ姉ぇも杖を軽く持ち、左右に振れるように軽く握りを確かめて頷く。

「それじゃあ――【ソル・レイ】!」

「ちょっ! いきなり攻撃って」

俺が声を上げるが、ミュウの放った光魔法のレーザーの攻撃は止まらない。それを構えているセイ姉ぇは、迎え撃つ。

「うん。私も――【グラム・ソード】」

セイ姉ぇが唱えたのは、武器に水の刃を纏わず魔法。それが杖の先に刃を作り、槍のような長さと形状になる。先日のオークションで見た武器に炎の魔法を纏わせる【フレイムタン】と同系列の魔法。杖のような長物の先端に水の刃やついたためにランス。いや、巫女服のために薙刀を彷彿とさせる。その状態の武器で光線を捉え、打ち返す。

「まだまだっ!【マジックソード】――ライト! ついでに、【ショックインパクト】!」

こちらは、僅かに剣を引き、武器に魔法を込め、光属性を纏った剣でアーツを使い、光線を弾き返す。

光の残光が軌道を作り、二人の間で光線が飛び交う。

セイ姉ぇが水の槍を左右に振り、手元の長さを調節して、微妙な角度を着けて迎え撃ち、ミュウは、足の速さと力技で打ち返していく。

二人の間を飛び交う光魔法のラリーが苛烈さを増し、もはや別の競技になっている。それを珍しさに店の前に人が集まり、盛り上がりを見せる。この時点で目的は達成できているが……

「もはや羽子板じゃねぇよ」

俺がそう小さく呟くと俺の隣に誰かが並び立ち、そっとそちらに目を向ける。

「くくくっ、店の前で面白い物をやっていると思ったら、剣と魔法のラリーか」

「いい余興だな。酒が進みそうだ。ガンバレよ! セイ。サブマスの実力見せてやれ!!」

「あーあー。ミュウちゃん、武器で魔法を打ち返すと結構武器に負担を掛けるのに……こりゃ、近い内に耐久度の回復が必要かもね」

巫女服姿の二人が踊り、舞う様に武器を振るう姿に満足げなクロードと酒をちびちびと飲みつつ観戦するミカヅチ。そして、リクールを抱えて、武器の心配をするマギさんもお店から出て来た。

「チョイスがいいな。光の流れで弾道が分かりやすい」

「なぁ、嬢ちゃんもあの中に参加しないのか?」

「する訳ないだろ。てか、無理。絶対、無理」

クロードが左右に行き来する光のラリーを眺めながら呟き、ミカヅチが面白そうに俺に尋ねてくるが、拒否する。マギさんは、武器が壊れないかハラハラしていた。

「そんなに強く否定しなくてもいいだろ。でも、なんで無理だと思うんだ?」

「そりゃ……俺は、まだ【フレイムタン】や【グラム・ソード】のような武器への強化魔法は覚えていないし」

「いや、 属性付加(エレメント・エンチャント) があるだろ。武器をエンチャントしたらダメか?」

「いや、どうだろうな? 魔法打ち返したことないんだけど……」

ミカヅチの提案を聞いて首を傾げる。そもそも、やったことが無い。確かに、武器への属性や強化という面では同じだが、ミュウのアーツのような魔法への干渉能力があるかは知らない。

メインの武器が弓であるために、打ち返す、切り捨てるという選択肢よりも、到達前の迎撃や誘爆、回避を選択している。それを打ち返すなど、考えたことは無いが……

「調べる価値はありそうだな」

「おっ、嬢ちゃん。やる気になったな。目付きが変わったな」

ミカヅチにそう茶化されたが、別段気にせずに、打ち返す方法を考える。

武器は、解体包丁【蒼武】で良いだろう。そして、打ち返すのは水属性の魔法。武器には、更に水属性のエンチャントで属性を強化すれば、打ち返せる可能性はある。

「まぁ、実験で一回くらいは良いよな」

「やっぱり、やる気になってるじゃないか」

なんだかんだ、でやる気になった俺に、苦笑いを浮かべつつ、一升瓶から小さなカップに酒を注いで飲むミカヅチ。俺は、ミュウとセイ姉ぇから何かを打ち返す時の参考になる何かを得る為に観察する。が……早すぎて見えねぇ。

ミュウは、剣を振り切る瞬間が早くて、良く分からない。セイ姉ぇは、手元で杖を調節するために、小さな動きだけで打ち返しているために、判断が出来ない。そうしている間にも二人の間を飛び交う光は、徐々に先細りになり、最終的には消えて行く。

「あれ? もう時間切れかぁ」

「ふぅ、これは引き分けで良いかな?」

「次、誰やる?」

ミュウの言葉にミカヅチが背中を押すように俺が前に出る。

インベントリから抜き身の解体包丁を右手に取り出し、左手に水属性の属性石を握る。

「俺がやってみるよ。【 属性付加(エレメントエンチャント) 】――ウェポン」

ブルライト製の武器に更に水属性をエンチャントする。

相手は、セイ姉ぇが受け持ってくれるようだ。

俺は解体包丁を両手で握り直し、肩に担ぐ様に引く。

「それじゃあ、行くよ。――【アクア・バレット】」

単純な水属性の初級魔法。セイ姉ぇの手では、十数個を同時に生み出すことが出来る魔法だが、練習用としては丁度良い。早さもミュウの【ソル・レイ】よりも遅い。

「はっ!」

迫る水球へと刃を合わせるように解体包丁で斬り付け――水球が弾ける。

「…………」

「ユンちゃん、大丈夫!?」

俺が弾き返すことを疑わなかったのだろうか。セイ姉ぇの水球は、俺が斬り付けると同時に、形状を維持する力を失い、水が俺に降り注いできた。

全身を水で濡らし、濡れた白い巫女服が肌に張り付き、気持ち悪い。しかも、衆人環視の中での出来事に顔に熱を帯び始める。その前に、慌てたマギさんとセイ姉ぇにコムネスティーの奥へと連れ去られる。逃げるように去る直前、「惜しい」とか「あと少し」、「これはこれで……」という言葉が耳に入ったが気のせいだと思いたい。

「あーあー、ユンちゃん、濡れちゃって。装備早く変えよう」

「ああ、分かった」

「それとタオルで髪を乾かそう。ユンくん、ちょっと待って」

「マギさん。タオルはいいよ。時間が経てば戻るんだから」

「それでも頭を濡らしたままは駄目よ」

そう言って、適当に物色していくマギさんにいいのだろうか。という疑問を抱きながら、水を吸った髪の毛から一纏めにした革紐を外して、絞る様に水気を切る。額や肩に張り付く髪の毛を鬱陶しく感じ、指で退ければ、どこかでごくり、と唾を呑む音が聞こえた。

「あのまま、人前に出すのは色々と危なかった」

ぽつりと呟いたマギさんの言葉を意味を考えないようにして、装備を元のオーカー・クリエイターに戻し、髪を乾かす。

そして、やっと落ち着いた所で自分の失敗の原因を考える。

「どうして弾き返せなかったんだ?」

「ユンちゃん、切っちゃったからだよ」

「えっ、駄目なの?」

「こう、切るのは悪くないけど、弾き返すなら、側面で受け流したり、逸らす。ってプレイヤースキルが必要になるから。ほら、面で打ち返す。って」

そう言って右手で拳を固めた左手を合わせるセイ姉ぇの言葉に意味を理解した。

つまりは、ラケットだ。魔法を捉えて弾き返すのは、面で打ち返さなきゃダメなのだ。解体包丁で斬ったり、矢で射るのは、線や点での攻撃だ。セイ姉ぇも水の刃の側面で捉えて打ち返すし、ミュウだって、剣系センスのアーツ【マジックソード】で光魔法を込めて、片手剣の側面を広くし、【ショックインパクト】の衝撃を打ち返す魔法全体に広げて、面攻撃としていた。

「はぁ、結局、俺じゃ無理か」

「ユンちゃんなら、逸らすくらいは出来るんじゃないかな? まぁ、もっと上手になれば、あのままでも打ち返せるかもしれないよ。現に、斬り付けた魔法は無効化出来たから」

確かに、【アクア・バレット】の水を受けてもダメージを受けなかった点を見るに魔法の無効化は出来た。ただ、地属性の魔法と同じく、物質的な要素。オブジェクト的な魔法の側面があるために水が残り、被ってしまった。これが石や氷だったら、魔法ではなく物理ダメージを受けていたかもしれない。風だと目視が難しい。光や闇は、非実体系の魔法だ。火はどうだろう。余熱とかがあるのだろう。

「ユンくん、考え込んじゃった」

「ほら、ユンちゃん。戻るよ!」

「あっ、ちょ、待って!」

マギさんに手を引かれ、セイ姉ぇに背中を押されて、店の前に戻って来る。

ミュウに挑戦するプレイヤーや自分たちで勝手に始めるプレイヤーなどがパフォーマンスとして大通りで始めていた。

だが、殆どのプレイヤーは、上手く魔法を捉えることが出来ず、打ち返すことなく明後日の方向へと飛ばす。それが、完全に無差別であるために性質が悪い。そして、ふと、既視感という物を覚え、すぐにその答えに辿り着く。

「ああ、新年にロケット花火打ち合う光景に近いな」

逃げ惑い、笑いながら次の魔法を撃ち出し、打ち返し、失敗し、また魔法を撃ち出す。

完全にカオスな状況に、俺が原因の一旦を担っているのだが、やや現実逃避する。

「まぁ、その内落ち着くよな」

俺は疲れた様な溜息を漏らし、少し店の奥に下がらせてもらう。クロードに許可を取り、表通りが落ち着くまで厨房を借りることにした。