軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

Sense251

勝手知ったるなんとやら……。俺は、破魔矢と甘酒のコーナーを担当することになった。ミュウとセイ姉ぇは、入り口でお客さんの案内と離れての作業になるが、心配はない。

「すみません。甘酒を二つ欲しいんですけど……。それと、破魔矢って?」

「はい、ただいま。甘酒は、無料サービスで提供しています。破魔矢の鏃は、銀を使用したアンデット特攻のアイテムです。使用するには【弓】系のセンスが必要なので、主に観賞用です」

丁寧に商品の説明をして、甘酒を木製のコップに注いで配る。

喫茶店としての店を開けていないために人の回転率が速い反面、売れる商品と売れない商品がある。結晶のお守りアクセサリーと正月限定のお菓子が一番に売れて、そのついでにタダの甘酒を一杯貰いに来る。

破魔矢と言う名の、実用性のない装飾過多の銀の矢は、殆ど売れないが、俺がここに着いた時から少しずつ売れ始めたのは何故だろう。まぁ、売れるのは良い事だ。

そして――

「すみません。あまり、そこに居座られると後の人の邪魔になります」

「ええっ……もうちょっと」

「駄目です。次の方に場所を譲ってください」

俺が注意して、移動を促すのは、ご神体として祭られているリゥイたちの正面だ。

視線に晒されながらも座布団の上でお座りを続けるリクール、丸まったり、体を解す動作をするクツシタ。緊張で石像のように固まるザクロ。そして、不届きな輩がいないか目を光らせるリゥイたち。皆、その目の前で二礼二拍一礼する。ご利益があるか分からないが、まぁ、気分の問題だろう。

「甘酒頂けますか」

「少し待ってください。いま、補充します」

リゥイたちの方に意識を向けていて、鍋の中に甘酒が残っていないのに遅れて気がつく。慌ててテーブルの下に設置されたアイテムボックスの中から、甘酒入りの大鍋を取り出し、次の人に注ぐ。並んでいる人はまだまだ尽きる様子はなく、俺は一人一人に笑顔で対応していく。

「ありがとう。今年ももう終わるね」「来年も楽しい一年になるといいな」「今年最後にいいもの見れたよ。ありがとう」「来年の活躍を期待してるよ、【保母さん】」

「あはははっ、ありがとうございます」

色々な知らない人から暖かい声を掛けて貰えるのは嬉しいが、やっぱり【保母さん】って呼ばれ方は納得いかない。

と、言うか。俺は、男だ! とここで声を大にして言いたいが、接客中のために理性を押し込める。

「はぁ、なんでこうなったんだろうな」

客足が減り始め、やっと溜息が吐けるタイミングで、店の外に設置された鐘が鳴り始める。煩悩の数だけ鳴る除夜の鐘――百八の煩悩の数というが、節度を守れば、誰でも打てるので、回数はもはや関係ない。

店の前で呼びかけているミュウたちが、並んでいるプレイヤーに呼びかけて一人一人に一回ずつお願いしているようだ。

鐘の深く、腹に響く音が妙に心地良く、年越しの足音を感じる。

「よう、嬢ちゃん。酒を貰えるかい?」

「……ミカヅチ。甘酒は酒じゃないぞ」

作り方によって、アルコールのある甘酒もあるが、これは普通の甘酒だ。

ジト目で目の前のプレイヤーを見返す。ギルド【ヤオヨロズ】のギルマスであるミカヅチがセイ姉ぇとミュウを引き連れて戻って来た。

「客足が減ったからユンたちは、一時休憩していいぞ。ただ、服はそのままで」

「休憩っ~。疲れたよ」

「お疲れさん。慣れないことをしたからな」

クロードからの休憩の合図を聞き、フラフラと戻って来るミュウ。そのままの足取りで俺の腰に抱き付いてくるミュウを受け止め、セイ姉ぇとミカヅチが微笑ましいと言った表情で見てくる。

「にしても、三人揃って同じ巫女服とは、時間出来てログインしたかいがあったな」

「でしょでしょ! 似合ってるよね! 黒髪だから、ユンお姉ちゃんに良く似合ってるよね!」

「似合ってねぇし! 何言ってんだよ」

「そんなことないよ。ユンちゃん、可愛いよ」

「全然嬉しくない!」

自然な動作で俺の後ろに回り、両方の肩に手を乗せるセイ姉ぇ。俺は男なのに、可愛いとか言われても嬉しくない。それに、ミュウが腰を、セイ姉ぇが肩を掴んでいるので地味に逃げられない。

「おっ、いい光景だな。残しておくか」

「こら! そこ! こっそりスクショ撮るな!」

さり気なく、撮ろうとするクロードに釘を刺すが、いいじゃん、いいじゃん。と腰元でいうミュウ。引き剥がすために頭を押さえるが、逆に余計纏わりつかれて鬱陶しい。

「ほら、休憩でお菓子食べるんだろ」

「はっ!? そうだった!」

「あとは、幼獣たちも裏方に撤収して休憩させてくれ」

「了解」

座布団の上にちょこんと座っている三匹とリゥイと連れて、店の奥へと移動する。

正月限定のお菓子とはどんなものかワクワクしながら、裏方の休憩スペースへとやって来た。

「あれ? マギさん」

「ユンくん、こんばんは。リクール連れて来てくれたありがとう」

まぁ、マギさんのパートナーのリクールが居る時点で近くに居るとは思っていたが、壁一枚隔てたところに居たとは、気がつかなかった。裏方では、内職のように細々と追加のクリスタルのお守りを作っていたようだ。

「裏からこっそり見てたけど、結構売れたね。破魔矢は売れないと思ったんだけど……ユンくん効果?」

「なんですか、それ。ただ、記念品やアイテムが良いからですよ。クリスタルのアクセサリーの他にも破魔矢を用意したのは、マギさんですか?」

「そうよ、と言っても鏃の部分だけだけどね。【合成】センスでも出来るけど、破魔矢の飾り付けが必要だから、鏃は私、矢の本体はリーリー。デザインと飾りはクロードって分担ね。みんなも座って、休もう」

そう言って、休憩スペースに座るように促すマギさん。俺は、ミュウとセイ姉ぇに挟まれる形で座る。あと、ちゃっかり、ミカヅチまでこんな所に入り込んで一升瓶をナチュラルに取り出す姿に誰かツッコミを入れろ。

「ねぇねぇ、限定お菓子はなに?」

「えっと――『もっふる』と『最中アイス』の二種類だよ」

ミュウが期待の篭った声で尋ねると、マギさんがお茶と一緒にテーブルの上に出してくれる。

最中アイスは分かるが、もっふるとは一体……

「もっふるって、見た目はワッフルですよね。これ」

四角いボコボコがあるお菓子。表面がカリカリになっているそれは、紛れもないワッフルだ。

「コムネスティーは、洋菓子主体のお店だけど、正月の食材と組み合わせた結果、最中とアイス。それとお餅でワッフルって事になったらしいよ」

へぇ、と思いながら、それぞれが好きな物を手に取る。

ミュウは、最中アイスともっふるを一つずつ確保する。誰も取ったりしないんだから、少しずつでいいのに。セイ姉ぇの方は、最中アイスを二つに割って、熱めのお茶と一緒に少しずつ食べる。

マギさんは、食べないのかニコニコして食べてる様子を眺めつつ、パートナーのリクールに最中アイスを。またクツシタには千切ったもっふるを与えている。

千切った断面が餅らしくみょーん、と細く伸びたがすぐに切れた。手足にくっつく鳥もちのようなもっふるに苦戦するクツシタを見て、けらけらと笑いながら酒を煽るミカヅチ。

「リゥイとザクロはどっちがいい?」

もっふると最中アイスの二択だと最中アイスを選んだ。体積的に大きいから食べ応えがあるように感じたのだろうか。そして、二匹の口に最中アイスを入れると一気に食べ進める。

「あ、ああ、そんなに勢いよく食べると――」

頭がキーンとなるぞ。と言おうとしたが、間に合わなかった。一瞬の硬直の後、悶えるように前足で頭を抱えるザクロと膝を折り、頭を下にするリゥイ。

「リクールを真似して食べたんだろうけど……」

マギさんのリクールは、 氷魔狼(フェンリル) という種類だ。氷の魔法を使う種族のために寒さや冷たさにも強いと思うが、一角獣のリゥイと空天狐のザクロには耐性はないだろう。

「俺も頂くか」

そんな悶える様子に少しかわいそうだと思ったが、珍しい光景だとも思い、落ち着くまで眺めてから、もっふるを手に取る。

角餅をワッフルの焼くプレートに挟んで焼いたもっふるは、表面はカリカリとしており、中は、餅の食感だ。正直、ワッフルのようなふわふわ感はない。味付けは、黒蜜が掛かっており、餅の食感と黒蜜のほろ苦い甘さが餡蜜を食べている気分になる。形状は洋菓子だが、中身は完全に和菓子だ。

「これって、きな粉とか、あんこでも良さそうだよな。バリエーションは豊富だよな。あとは、アイスとかと組み合わせたり、小さくしてパフェにしたり……」

「洋菓子が専門のフィオルさんの作ったものだからね。そういう発展の仕方もあるよね」

俺は、しばらくお茶ともっふるを交互に食べ、休憩を続ける。

「そろそろ年越しカウントダウンだ。出てきてくれ」

「ああ、分かった」

店の方からクロードの声が掛かった。俺たちは、休憩スペースの椅子から立ち上がり、表へと出る。

皆、メニュー画面の時計を見て、年越しのカウントダウンを始めていた。

「「「10、9、8……」」」

俺もミュウとセイ姉ぇと並び、東西の大通りへと出る。見上げる夜空に向って、始まるカウントダウンに加わる。

「3、2、1……」

真後ろで除夜の鐘が大きく打ち鳴らされ、上空に色取り取りの魔法が打ち上げられる。

それに参加するミュウとセイ姉ぇ、そして俺にも加わるようにアイコンタクトを受ける。

「全く、仕方がないな。――【エクスプロージョン】!」

俺は、レベル25で習得できる地属性最大の攻撃魔法を頭上で発動させる。【鷹の目】の上位センスである【空の目】が闇夜の空を対象にターゲットを取り、その地点を起点に魔法を発動させる。

かなりの上空で放った魔法は、打ち上げた跡を作らずに、大きな黄色の爆発を生み出す。

遮る物のない黄色の爆発は、拡散し、重さにひかれて花火のように見れる。別に珍しくない、今も町の各所で打ち上げられている光景だ。

「えへへへっ、今年もよろしくね。セイお姉ちゃん、ユンお姉ちゃん」

「はいはい。全く……」

「ふふふっ、さぁ、またお客が増えそうだから、もう一頑張りしましょう。今度は、別の人が休憩して貰って、私たちが受けましょう」

「って言っても商品は殆ど無いけどね」

既に休憩前……いや去年の段階で売り切れてしまっている。残っているのは、鍋に残る甘酒くらいだろうか。それだけだと盛り上がりに欠けそうだが……

「うーん。盛り上がりが足りないなら私たちで盛り上げれば良い!」

「なんか、ミュウの突拍子もない提案は、凄く嫌な予感がするんだけど……」

「お正月なんだから――」

俺は、ミュウの提案に一抹の不安を覚えるのだった。