軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

Sense234

「――起きて、お…ちゃん、起きて」

「眠い。寝かせろ」

「――起きて。って言ってるでしょ!」

「うわっ!?」

いきなり頭から被っていた布団を剥ぎ取られ、端を掴んでいたために引っ張られる力に引き摺られて、ベッドから転げ落ちる。

「えへへっ……ユンお姉ちゃん、おはよう」

「……ミュウ。だから、兄って言えよ」

「もう、自分が朝一って言ったのに寝ぼけて遅れないでよね」

それ以前に、何故ミュウが入り込めたのか。確か、個室の宿のはずなのに……セキュリティーは。いや、考えるのは止めよう。朝から頭を痛くしたくない。

「それより、お前……昨日セイ姉ぇたちと大型ボスに挑んだんじゃないのか?」

「うん。けど、あんなのガルムファントムに比べたらまだ楽だよ。大きいだけで厄介な攻撃も取り巻きもない。単調な攻撃と高めのステータスだけ。安全マージン取りつつ戦えば、そんなに難しくは無かったよ。戦う時間よりミカヅチさんたちの宴会の方が長いくらいだから」

「相変わらずだな」

俺は、苦笑いを浮かべながら、ミュウに押されるように宿を出る。ミュウに案内されるように町の郊外へと進む間にミュウは、その時の戦いの様子を面白おかしく語る。

「と、私が攻撃を華麗に避けた隙にルカちゃんとトビちゃんが飛び出して連撃を叩きこんだわけよ。そこでターゲットが切り替わった隙に私が、夜を切り裂くレーザーを飛ばしてね」

「はいはい、ってもう動き滅茶苦茶だろ。敵の身体を足場に駆け抜けるとか、な」

「そんなの普通だよ。敵が大きくなればなるほど、敵を足場にするのは常識だよ」

だからって、三次元的な立体動作を敵の一部を足場にして使うのは、真似できそうにない。

「あとはねー。そうそう、タクさんも高難易度の城への潜入のクエストクリアしたって。中々、夜の城には亡霊とかリビングアーマーが徘徊して大変だったって」

「うわっ……。それ完全にホラーハウスじゃん」

「それと……何だっけ? ちゃんと城主の偽物のボスを倒して、本物の城主を助け出したらしいよ」

「城主を助けたねぇ。あのデカい建造物から人を探し出すって」

見上げる一際大きな城で行われた壮大なクエスト。俺の受けた小さなクエストに比べれば非常に大きい。クエスト自体の大きさと難易度を象徴するようだ。

「……ミュウ。それって――「おーい、お姉ちゃん連れて来たよ!」……」

何時の間にか、町の郊外まで来ていた。ミュウが手を振る先には、タクやセイ姉ぇ、クロードにマギさん、リーリー、ミカヅチたちやそのパーティーと知り合いが勢揃いだ。

「ユンくん、調子はどう?」

「まぁ、良いですよ。ミュウに叩き起こされなきゃ。と言うより逆に宴会やってた連中の方が心配なんですけど……」

逆に、心配したくなるが……まぁ、未成年組のミュウやタクは、良いとしてもクロードやミカヅチの顔色は悪い。セイ姉ぇは上手く回避した様子で調子は良さそうだ。

「さて……嬢ちゃんの新たな力、見せて貰おうか」

「ミカヅチ……そんな、無理に格好つけなくて良いから座って見てろよ。徹夜明けって感じがバリバリだぞ。それと、何度も言うが嬢ちゃん言うな」

弱弱しく座り込むミカヅチを心配しながらも周りの雰囲気を受けて、俺は白の召喚石を取り出す。

「――来い、リゥイ。【召喚】」

ただそう呟き、召喚に必要なコストを消費してリゥイを呼び出す。

こうして、改めて対面するとその成長と変化に心が躍る物があり、自然と口元が緩む。

「ユン。早速、リゥイの装備だ」

「ありがとう。クロード」

受け取った装備をリゥイに装備すれば、格好が様になる。

「それじゃあ、能力をみんなに見せてくれ」

「って言われてもな」

俺は、何をすればいいか分からない。そう悩んでいる内に、リゥイが膝を折り、俺の前に座り込む。これは乗れ、と言う事だろうか。

自分でも流されるままにリゥイに騎乗する。前は、直接背中に乗る感じだったが、今回は、鞍と 鐙(あぶみ) そして手綱があるために安定感と安心感が段違いである。

前は、急いでいたから練習も無しにぶっつけ本番だったが、こうして乗ると期待に緊張する。

そのまま、皆の前でゆっくりとした速度で歩き始める。

最初は、そよ風程度の風の切り方だったのが速度を徐々に上げて、今では、自分自身が風のような速さで移動している。徐々に慣らした騎乗と左右に激しい動きのない直線的な動きや緩やかな曲がり。

人が馬に魅了される理由の一つを体感しているのかもしれない。

「なんか、すっごい特殊能力を見れるかも。って期待したけど、ユンの奴ホントに楽しそうにして、何も言えねぇよ」

「これはしばらく、ユンちゃんの好き勝手に走らせた方が良いかもね。ここは大人しく見守るとしようか」

遠くでタクとセイ姉ぇが何かを話しているが、耳元を抜ける風に阻まれてその内容は伺えない。ただ、ミュウがとても羨ましそうな眼でこっちを見ているのに気付きつつも無視して更に速度を上げる。

「それじゃあ、リゥイ。そろそろお前の力を見せてくれるか?」

速度の乗ったリゥイの首筋を撫でて呟くと俺のMPを急激に消費しながら、あの現象が始まる。あの時は、確認できなかったが、リゥイや俺の手足の先が僅かに透けて見える。そして、俺たちを見ていたタクたちは、見失ったかのように辺りを見回している。俺は、悪戯心からリゥイを静かに全員の背後に回らせて、その状態を解除した。

「よう、どこ見てるんだ?」

「っ!? ユン! 何処に消えてたんだよ」

「消えたってずっと走ってたぞ。まぁ、ミュウなら分かるかな?」

「いやはや、あの失敗は忘れもしないよ。リゥイの【幻術】の効果だよね」

多分、俺もそうだと思っている。

ミュウたちが認識できないレベルでの隠蔽能力。幼獣状態でも虚実交えた動きをしており、ミュウもそれで一度抱き付くのに失敗しているのでよく覚えているはずだ。

俺が確認できたリゥイの能力は、馬としての体格での騎乗、水と浄化の魔法、そして、今見せた騎乗者も合わせた隠蔽技能だ。

「分かってるのは、これくらいかな? 単純に幼獣状態のリゥイの強化って感じ」

「ふむふむ。じゃあ、ユン。幾つか質問するぞ」

俺が降りた後のリゥイに近づくが距離を取られ、ミュウは懲りずにまた追い掛ける。それを尻目にタクやミカヅチたちは、俺に質問をして、真剣な表情で詰め寄って来る

「騎乗状態で弓での攻撃は出来るのか? 後は、隠蔽状態だとどれくらい継続できる?」

「わからん。弓は慣れれば出来るかもしれないけど、練習しないと……隠蔽だとそんなに持たないぞ。MPを適時回復するならそれなりになるけど……」

MPの上限を一時的に上げる【マナ・タブレット】というアイテムもある。それを含めても継続時間は精々、五分が限度だろう。

「じゃあ、リゥイ個人の戦闘力は?」

「後ろ蹴りが凄まじい。防御力の高い敵MOBを吹き飛ばしてた」

「もう一つ。隠蔽状態から攻撃した場合って隠蔽が消えるのか?」

「それは分からないな。そこは要検証だな。リゥイ!」

ミュウに追われていたリゥイがミュウを振り切るために体を透明化させて、ミュウが見逃した所で抜けて戻って来た。

「リゥイ。もう一度、付き合ってくれよ。それで攻撃の 的(まと) はどうする?」

「それじゃあ、私たちが用意するわ。ミュウちゃん。デコイの用意はできる?」

「合点承知! ――【サモン・ライトサーバント】!」

「私も――【サモン・アクアサーペント】!」

ミュウとセイ姉ぇがそれぞれ唱えた魔法は、目の前に魔法陣を生み出し、そこから光と水のMOBを生み出す。

ミュウが呼び出したのは、光の正八面体の結晶体のようなMOBで、セイ姉ぇが呼び出したのは、水で構築されたウミヘビのMOBだ。どちらの小型のMOB程度の大きさだ。

「なんだよ。それ!」

「ふふん! これは、光と水系統の魔法の支援MOB召喚スキルだよ。凄いでしょ!」

「って言っても召喚数の制限やステータスは一般プレイヤーの半分以下だからね。文字通り 囮(デコイ) や的には丁度良いのよ」

「折角格好良く決めたのに、そんなに早くネタバレしないでよ。まぁいいか。さぁ、適当に逃げて、ユンお姉ちゃんとリゥイの実力を暴きなさい!」

自慢げなミュウと補足説明するセイ姉ぇは、呼び出したデコイを走らせ、俺とリゥイはその後を追う。

ステータスに依存するからと言っても小さな体であるために、揺れ動く馬上から攻撃するのは難しい。

弓矢を構え、しっかりと下半身を安定させる。その状態から水のウミヘビへと狙いを定め、撃つ。

「ああ、惜しい!」

誰の言葉だっただろうか。僅かに狙いが逸れて仕留めることは出来なかった。そして、逃げるデコイは、より安全に逃げるために魔法を弾幕の様に張り巡らす。

「リゥイ!」

俺の声に応じて、隠蔽状態へと移行し、敵の弾幕を通過させる。攻撃の無力化に有効なのが確認された。また、こちらを見失った事でデコイは、攻撃の手を緩めた瞬間を狙って、再び弓を引く。

今度は、光の結晶体の中心に吸い込まれるように射抜かれ、一体を撃破した。しかし、攻撃の瞬間、隠蔽状態が解除され、反撃に転じた水のウミヘビの攻撃を横に走る事で避けた。

再び隠蔽状態に転じるまでに時間があった。プレイヤーと同じく 待機時間(ディレイ・タイム) が設定されているようだ。

そして、最後は、馬上から放たれた弓系アーツ【連射弓・二式】を放ち、頭と尻尾の両方を縫い付けて消滅へと追い込む。

「っと、こんな物かな? リゥイ。お疲れ様」

片手で手綱を操作し、もう片方の手で弓を持った状態で観戦者たちの前まで戻って来る。

一つの芸を見終わったような楽しげな歓迎をしてくるので、少し照れくさくなり、そっとリゥイを撫でてこいつの力だと言う事をアピールする。

一通りの能力検査という名目のお披露目がこれで終わった。