軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

Sense233

「――ってユンくん。一角獣のリゥイが成獣になったの!?」

マギさんと情報交換をしている時に確認のために呟いたマギさんの声が静かにこの場所に響き渡る。

「えっと、そうですけど……」

と言うが、周囲からの視線に動きが止まる。丁度クリスマス仕様のショートケーキの砂糖菓子を食べようとしていた時で危うく落としそうになる。

「ふむ。リーリーからユンの幼獣の進捗度合は聞いていたが、このタイミングか。ユン、イベントはますます激化する中で慎重さと準備は必要なんだ」

「あ、ああ、そうだな」

「そのためには、敵の能力分析もそうだが味方の能力の把握も必要だ。と言う事でリゥイの能力の把握に付き合って貰うぞ」

「はぁ? 能力把握って言っても幼獣をそのまま大きくしただけじゃ……」

成獣のリゥイは、騎乗できる点が追加された点を除けば、変わりはないが……。

「ユンとのコンビネーション、能力の把握、運用方法、召喚コスト上昇によるユンの能力の変化など、調べ出したら限りがないぞ」

「マジで……」

「現状、ユンくんを長時間拘束する気は無いから。簡単に召喚コストと能力把握程度の事を調べたいなだけよ。私やクロードの場合の参考にサンプルは欲しいからね」

「幼獣のタイプ自体が違うんですからサンプルにはならないと思うんですけど……」

マギさんの言葉に思った事を言うと、苦笑いを浮かべるマギさん。そして、クロードは――

「本音を言えば、面白い、興味がある話だからな。こんな面白いタイミングの話を逃す訳がない」

その言葉に同意するように話を聞いていたプレイヤーたちが大きく頷く。コンスタントに戦闘に向かう【ヤオヨロズ】の面々やミュウやタクのような廃人組も能力把握に意識を向けている。

「情報公開で何もないんじゃ、ユンのやる気も起きないだろ。簡単なリゥイ用の装備でもこちらで用意しておく」

「それ聞いて、ちょっとやる気出た。今すぐか?」

「いや、この場に集まった面々は、この後にレイドクエストに出たり、高難易度クエストの準備や情報収集で集まったんだ」

クエスト消化率と特殊MOB出現の告知があるならその前に可能な限りのクエストをしよう。と言う事らしい。

「それなら、明日の朝一に町の郊外ってのが良いんじゃないか? 来れる人は来ればいいし」

「ユンがその時間で良いならな」

「実は、ちょっと立て込んだクエストで早めに休みたい」

クエストで金稼ぎをしたい。という気持ちはあるが、それほど急いでやる必要もない。

「そうか。それじゃあ、私も用があるし先に上がるね」

「さて俺は、騎乗用の装備を一つ作らないとな」

「ああ、お疲れさま」

ぐぅっと背伸びして席を立つマギさんとそう言い残し去るクロード。俺は、手を振り送り出す。

こうして、人込みの中にぽつんと残ると寂しい気持ちになる。

「さて、俺も出るか」

特に向かう先も無いので適当な宿に入って早めに休んだ。

ベッドに倒れ込み、天井を見上げて長い溜息を吐く。

「みんな、色々とやってたな。まぁそれもそうか」

それぞれが動いているイベントだ。タクたちは、中央に聳える城への潜入と偽の領主討伐なんて王道クエスト。ミュウたちとセイ姉ぇ含む【ヤオヨロズ】の面々は、豪華大型MOB討伐クエスト五連続の旅と題したクエスト消化マラソンを計画。

どれも聞いてるだけで面白く、みんなが帰って来てのその話を聞くのが楽しみだ。

そして、眠りに着き、深夜を回った時――

「――ここ、何処だよ」

見知らぬ空間に立っていた。背景は、人を不安にさせる黒と紫のマーブル柄が絶えず変化を続け、暗い背景だが不思議と明るい。足元の石畳が道を形成しているが、石畳の道が無い場所を覗きこめば、暗く深い闇の底しか見えなかった。

「フレンド通信の使用は不能。消費アイテムの使用も禁止。使えるのは、メイン武器の弓とベルトの包丁だけか」

消費アイテムである弓矢は、矢筒に入っている分には、問題ないがインベントリから何時も取り出している状態異常の矢や予備の矢の補充が出来ない。また、召喚石で呼び出すリゥイやザクロも呼び出せない。

最悪、矢が尽きたら、包丁での格闘戦になる。

「にしても、これは何だ?」

メニューの現在位置は、【???】と示している。ただし、インフォメーションに新たな情報が加わっていた。

――夢魔と接触しました。これより突発クエスト【夢魔を探せ】が発生しました。

「はぁ、ホント色々なクエストがあるな。発生条件ってなんだろう」

四日目の夜にベッドで眠りに着いていたプレイヤー全員なのだろうか。そうだとしたら、今夜狩り、クエスト消化で夜通し戦い続けるプレイヤーは、不参加と言う事になる。

「まぁ、救済措置くらいはあるだろ」

兎に角、ここは夢で、夢魔とやらを見つけ出さなきゃいけない。

道は、目の前の謎空間に浮かぶ石畳しかない。

俺は、その道を真っ直ぐ進んでいく。少しずつ、踏み外して落ちない様に進んでいく。

延々と続く道を進む中で時間の流れも分からない。ただ、空腹度や時間と言った情報が全て消失した空間。時折流れるマーブル柄の背景は、良く目を凝らせば、人の姿の様やその風景のように見える。

昼間に待ち人を待つように佇む女性や不機嫌そうな店主、眠りから覚めない病人とそれを看護する青年。豪奢な内装で不遜に座る男と幽閉される似た男。巨大なMOBの姿や頭を抱える人々など様々な光景を目にする。

目を凝らして見ようとしてもすぐに形が崩れ、別の光景に変わる。

延々と歩き続けるには、飽きない風景だが、もう少し精査して見てみたい。という気持ちになる。

そして、辿り着いた終点は、石畳が広がり一つの広場を形成している。

ここまで敵と言う敵とは接触してこなかったが、初めて自分以外の動くモノを見た。

「なかなかに溜まりが悪いが、十分に負のエネルギーが集まった。もう良いかな『魔導』の」

「ああ、これで負の回路は形成できた。あとは、『 壊力(かいりき) 』と『 妨勢(ぼうせい) 』の二人が役割を果たせばいい。『結界』もよくやった」

「残る『 悪道(あくどう) 』も聖人の対策は終わったようだ」

むむむむっ、と念じる様に黒く濁る水晶が周囲の背景から黒い何かを吸い続けていた。

そして、夢魔らしき捩じれた角に黒光りする外殻を纏う人型がいた。外殻は、角とのっぺりとした顔に亀裂のように歪な口。フードを被り、広い肩幅の大きな体躯の反面、魔術師のような格好の『魔導』と呼ばれる異形。

もう一人は、頭がなく、首の所が僅かに盛り上がり、眼らしきものがある首なし人間風だ。ただし、背中に蝙蝠の片翼を生やし、体に数珠繋ぎの親指大の石像を持っている。

「むぅ、この空間に人が入り込んだか」

「だが、もう遅い。準備は整った」

――突発クエスト【夢魔を探せ】をクリアした。

二人の異形な形をした夢魔が振り返り、こちらを見た瞬間に薄暗く不気味な世界が崩れ始める。

沼の様に沈む足場と離れる二人の異なった夢魔に手を伸ばすが、手は届かず、そのまま闇の中に落ちていき――

「ちょ、なんだよ。このクエスト――」

声を上げた時、既に宿屋の一室で手を伸ばして、ベッドの上に寝た姿勢のままだった。

ただ、接触しただけでクリア。発生条件もクリア条件も不明。意味深な台詞を吐く二体の夢魔。

クリア報酬は、クエストチップ五枚と大きいが、意味の分からなさに逆に混乱する。

「くそぅ……なんか他に情報はあるか?」

久々にメニューから掲示板を選択し情報を探したら、同じように突発クエストを受けたプレイヤーが複数いた。ただ、その内容は、俺の見た物と同じで情報が集まり切れば、後は予測や憶測だけが飛び交う。

「ああ、もう考えても仕方がない。もう一眠りする!」

もう一度、ベッドに入り込み、強く目を瞑る。短い時間だが、眠ることが出来て、朝起きた時には、突発クエストなど頭の隅に追いやられていた。