軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

Sense216

ざわめく広場。集まるプレイヤーたちが近場の人や仲間と軽い会話で時間を潰している中に俺も居た。

公式イベント当日。弓センスと生産センスのレベリングは追いついていないが、可能な限りの準備を整え、ソロで参加する。

近くにミュウやタクたちが居たが、知り合いらしい人と代わる代わる話をしているために、近づけずに、目を瞑り、腕を組んで時間が来るのを待つ。

「……ユ……ユ……」

今回は、一人での参加。如何なる状況にも対応できるように頭の中でシュミレーションする。戦闘重視のイベントの場合、素早く後方に付き、補給と支援のポジションに、軍隊的な行動になる場合、決まったリーダーに従えば良い。

「……ユ………ン…」

他にも、戦闘系じゃない場合は、競争するタイプか? それなら半分はサバイバルみたいなものだ。身軽さを安全圏まで一気に進むとか。

「……ユン!」

「っ!? な、なんだよ。タクか」

「さっきから呼んでいるのに、目を瞑ったままで無視するからだ」

間近から大きな声で呼ばれて、余りの煩さに背を伸ばし、耳を抑える。少し不機嫌そうな表情のタク。考え事に夢中で無視してしまったようだ。

「悪い。考え事してた」

「良いけどさ。緊張してるのか? 一人で大丈夫か? 俺たちのパーティーは、一枠空いてるぞ」

何時ものタクのパーティーが後ろで手を振っているので、軽く振り返し、応える。

「まぁ、前回はどんな感じか分からなかったから緊張も無い感じだけど、前回知ってソロだとやっぱり不安だな」

自分の左手で右腕を掴み、視線を下に下げる。やっぱり、一人でやって行けるのか?

「そんなの気にするな、って! ゲームは全員が楽しまなきゃ! ソロプレイヤーや少人数が楽しめないなんて不平等だろ? なら、心配する必要なんてねぇよ!」

「そうか。まぁ、そう言うならそうかもな。それより、タクこそ。パーティー五人で大丈夫か。俺より別の人も誘えるだろ?」

「今回は、この時間帯に集める奴らで組んでるから変に余りとか居ないんだよ。それに、五人でも役割もって戦えるから不足は無い!」

まぁ、そう言う事なら心配しない。何時もの自信満々なタクを見て、小さく溜息を吐く。

『これより公式イベントを始めます。参加するパーティーは、この場に残ってください。参加されない方は、ただちにこの場所から離れて下さい』

前回と同じ機械的な声のアナウンスが響き渡り、プレイヤーたちの間で騒めきが止む。

『それでは、この場にいる皆さまには、これより特別サーバーへと転移していただきます。詳しい説明は、転移後に行います。僅かな衝撃を受けるでしょうが、影響はありません。10、9、……』

カウントが響き、前回体験した者、初めて参加する者、様々な表情でカウントダウンを待つ。

『――2、1、0』

前回を体験した俺でも辟易する歪む視界と眩暈のような平衡感覚の麻痺を一瞬感じ、それでも耐えて転移が完了する。

耐える事で強く目を瞑っていた俺は、恐る恐る目を開け、周囲を見回す。

「これは……」

誰かの呟きだった。周囲は、石造りの町並みが広がり、前回のような森の中のセーフティーエリアと違い、第一の町でも見ることが出来るNPCの営みだ。だが、第一の町、いや、今まで訪れたどの町とも違う物が目の前に広がっていた。

「おおっ、テーマパークの城みたい……」

町の中央には、中規模の城があり、それを囲う様に城壁が作られた町。

隣には、タクが同じように見上げており、感心した様に顎に手を当てている。

そして、城の上に巨大な3D映像が映し出される。

『参加してくれたプレイヤー諸君、久しぶりだ。そして初めての人も居るだろう。私は【OSO】開発部部長の吉野和人だ』

安定の開発部部長が直々に登場。目立ちたがり屋なんじゃないかと思ってしまう。

そして、前回と同じように今回のイベントの主旨を彼は説明し始める。

『このイベントは、前回のイベント体験者や新規プレイヤーも楽しめる様に仕様を調整していたらこの時期になった』

いきなり、イベントの予定が大幅に遅れたことはカミングアウトしなくても良いと思う。

『まぁ、そんな開発部の死屍累々たる状況は、忘れて、今回のイベントは、ズバリ――【クエスト】だ! ゲームとクエストは古くから切り離せない物だ。君たちには、その町の問題をクエストと言う形で解決して貰う!』

また、定番。つまり、NPCに頼まれた事を解決する。そんな内容か。

『前回同様イベント期間は、一週間。フィールドは、特別サーバーによって時間の流れが通常のサーバーの約八十倍に引き延ばされている。リアル換算で約二時間程度だ。今回は、その期間を使って、町に散りばめられた 問題(クエスト) を消化し、町の平和を取り戻してほしい!』

ここまでは同じだ。

『そして、前回同様、死亡してもデスペナルティー無しで通常サーバーに戻される。ただし、ここからは違う。前回はサバイバルと言う事で生き残る事前提であるが、今回は、負けることも多くある。そのために、クエストチップを用意した!』

クエストチップ。これは、今回の重要アイテムか?

『クエストチップは、クエストをクリアすると得られる報酬の一つで最終日まで保持していると様々な特典と交換できる! 一度の死亡で街中の 復帰(リスポーン) 地点から生き返る場合、チップ五枚を消費する。また、チップはプレイヤー間の譲渡が出来ない物だ! 今回のイベント報酬は、クエストチップを収集して、それに応じた報酬を自己選択する物とクエストの全体消化率によっても生存した全プレイヤーへの特別報酬が用意されている』

一度言葉を切り、最後の言葉を発する開発部部長。

『レイド級の大型クエストを多人数で攻略するも良し! 町に潜む巨悪を倒して正義の味方となるも良し! 城下町の小さな願いを積み重ねて町の雰囲気を良くするも良し! 今回は、入賞は無いが、集めたチップに応じた報酬の中に前回の記念品と同じものもある。ハイリスクで大量チップを入手するか、ローリスクを積み重ねて数で補うか! 楽しみ方は様々だ!』

そして今回、所持金制限したのは、金銭で解決できるクエストがあるためだ。また、所持金上限に達していないプレイヤーは、救済措置として上限から現在所持金を引いた数字を三万で割った数に端数を切り捨てた数がクエストチップになる』

広場の何処彼処でワンチャン、キタァァー! と言う声が聞こえる。

これは、ライナが言っていた救済ワンチャンか。つまり、所持金ゼロなら最大十枚からのスタート。リスポーンに直すと二回まで復帰できると言う事か。また、いきなりレベルの高いクエストを受けて、脱落するリスクを負うよりも小さなクエストでチップを稼いだ方が良いかもな。それにしてもチップ五枚で蘇生薬と考えると、チップ一枚当たり、三万G前後の価値だろうな。

『それでは、プレイヤー諸君。健闘を祈る!』

その声と同時に、消える3D映像。周囲は、すぐに動き出す。予想していたイベントの苛烈さよりも大分、ソロでもやっていけそうな印象を覚えながら、クエストを探そうと視線を彷徨わせている。

どこかに手頃なクエストはあるだろうか。そんな俺の視界には、広場の端に蹲る男の子NPCが映る。

「じゃあ、討伐系メインで行くか? ユンはどうする?」

「俺は……」

人の流れが出来る中で邪魔にならない場所に居る男の子が気になる。どのプレイヤーも効率の良いクエストや得意なクエストを探しに行ったのだろう。多くのプレイヤーは、パーティーを組み、安全マージンが取れるから敢えて無視するお遣い系クエスト。

「俺は、お遣い系クエストメインにやるわ」

「……? 何でそんな誰でもできるようなクエストをやるんだ?」

「俺がやりたいから。じゃあ、な」

「そっか。分かった! 俺たちは行くな。頑張れよ!」

「こっちは程々にやるさ。お前も頑張れよ」

タクと拳を軽くぶつけ合い、人ごみの中に紛れていく。何処か行く宛でもあるのか? と首を傾げながらも、蹲る男の子に近づき話しかける。

「どうしたんだ? そんな所に居て」

「……迷子。お母さんとはぐれちゃった」

ちょっと泣きそうになりながらも力なく笑う男の子と話をする。

「お母さんは、何処にいるの?」

「分かんない。一緒にお買い物に来て、はぐれちゃった」

「じゃあ、一緒に探そうか。探すの手伝うから」

「ほんと? お姉ちゃん、ありがとう」

だから俺、男なんですけど。と苦笑いを浮かべつつ内心思う。そして、インフォメーションにメッセージが走る。

――クエスト【迷子の親探し】を受注しました。

やっぱり、このNPCもクエストキャラか。この調子なら、町のNPC全員が何らかのクエストに関わっていそう。と思いながら、男の子の手を引いて、母親探しを始める。