軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

Sense205

辿り着いた上層の更に上、頂上では、時折極彩色の光がチラつき、見ることが出来た。

「既に戦闘が始まってるぞ。準備は出来てるか、ユン」

「さっきまで引き上げる最中、コカトリスに蹴り喰らってた奴が言う台詞か。HPは回復しておけ」

俺が投げて渡すポーションを受け取り、即座に回復するタク。

俺もここから先が本番だと思い、装備を整える。

双剣を使うタクは、落下の時に壊した剣の代わりに、予備の剣を取り出した。

不揃いなデザインの剣に一瞬顔を顰めるが、すぐに頭を振って二人で一気に駆け上がる。頂上に近づくにつれて聞こえる怒声と上には行かずに、その手前のスペースで待機するプレイヤーたち。

「皆、今復帰したが、何か情報は無いか!」

一気に駆け上がる一方で周囲に声を上げるタク。待機しているプレイヤーは、皆快く手を振り、遠くまで良く響く声で応えてくれる。

「上は、平らな天空コロシアムだ。下手に立ち回るとそのまま下に落ちるぞ!」

「上の奴らも苦戦しているみたいだよ。戦闘は、ちょっと前に差し掛かってるぞ!」

「丁度、お前ん所のパーティーメンバーが相手してる所だ! 早く行ってやれ!」

「私たちは、ボス狩りに来たわけじゃないから! 早く安定したサイクル見つけて教えてくれよ! そしたら狩りに行くから」

色々な声が聞こえる中で、知り合いを見つけ、駆け寄る。

「マギさん。それにエミリさんもやっぱり来てたんだ」

仲間内の生産職でリーリーとクロードは居ないが、ここで採掘出来るのは、鉱石系がメインだ。木工師と裁縫師の二人にはメリットが無いだろう。それに夜も大分遅い時間だ。リーリーなんかが居たら、寝る時間だと注意している所だ。まぁ、人に言えた立場じゃないが。

「やっぽー、ユンくん。」

「おお、ユンくんにタクくんも。上にタクくんのパーティーメンバーが今挑んでいる所だけど、どうしたの?」

「ああ、ちょっとミスして落ちちまった。そっちは、ボスに挑戦しないのか?」

タクの軽い言葉にマギさんとエミリさんの珍しい組み合わせの二人は、冗談を、と笑う。

「私たちがここで会ったのは偶然ね。同じボスに挑まない生産職同士として……【素材屋】の私とトップ生産職のマギさんとは多少の縁があるし」

「私をここまで運んでくれたヒヤマくん達も上に向かったよ」

二人とは、和やかに話している一方、見上げる頂上まで大分距離があり早く駆け上がりたい、と思う。

「それじゃあ、俺たちは先を進むから」

「待って。上に行くなら早い方法があるわ」

俺たちを止めるエミリさんは、何らかのアイテムを取出し、崖下へと放り投げる。

それは、下へと落ちて行き、直後、風をまき散らしながら下から上へと飛翔してきた。

幅広のムカデの胴体に五対の昆虫の 翅(はね) を動かして、うねりながら空を飛んでいる。

硬い甲殻に覆われた背中に飛び移るエミリさんが、こちらに手を差し伸べる。

「さぁ、昆虫をベースにした飛行型キメラの特急便よ。上までの片道だけど乗せて行ってあげる」

「サンキュー。助かるぜ」

何の躊躇いも無くエミリさんの後ろに乗るタクに、リアルの名前は呼ぶな、と怒られる。

その場で滞空している飛行ムカデに飛び移るのを一瞬躊躇うが、意を決して飛び移る。

不安定にうねる胴体にしゃがみ込む様に座り、それを確認したエミリさんが上へと目指す。

【登山】センスを所持していないエミリさんが、どうしてここに居るのかを考えたら、新たに取得したんじゃなくて、こうして飛行性能を持つキメラを作ってたからなのか。

ジェットコースターの登りの様にかなりの急角度のまま登って行き、頂上がどんどんと近づく。

「遠藤、何時の間にこんなの作ったの!」

「最初は、コカトリスをベースに作ってたんだけど、上手くいかなくて最終的に、昆虫系を混ぜて作ったの! それから遠藤って言わないで」

「ありがとう、エミリさん」

それを登る風切り音で俺の呟きが聞こえたかどうか分からないが、頂上は目前だ。

「さぁ、送り届けるだけはしたから! あと、タクくんからは、後で運賃貰うから。そうね、指定素材の納品をお願いするわ!」

「その程度、任せろ!」

「それじゃあ、一気に突き抜けるわよ!」

一方的にそれを告げて、頂上を飛び越して、飛翔するムカデが垂直になる。

頂上にいるプレイヤーが突然現れた飛行MOBを見上げるなら、俺たちも上から状況を見下ろす。

そしてタクは、場を一瞬で確認し、皆が囲む巨大な鶏に向けて飛び出す。ムカデの硬い甲殻を足場に跳躍し、そのまま戦場のど真ん中に跳びこむ。

「全く、何を無茶なことしているんだよ。【 空間付加(ゾーン・エンチャント) 】――ディフェンス」

下を見下ろす場所で盾を構え、コカトリス・キングの攻撃を一番に受け止める 壁役(タンカー) に優先的に防御のエンチャントを施す。

「さぁ、俺の復帰だ! とっととボスMOBを倒すぞ!」

「タク、ユン! 来るのが遅いぞ!」

「悪いな。どんな状況だ」

タクは、不意打ちをコカトリス・キングに放ち、バランスを崩させる。一撃離脱で離れ、前線で身体を張って耐えていたケイに話しかける。

「エミリさん、ありがとう」

「いいのよ。私も巻き込まれない内に退避するわ」

巨大な鶏。まさに、大鶏と呼ぶに相応しい姿でこの場に存在していた。

俺もタクの後を追うように、後衛の側へと飛び降りる。

コカトリス・キングのHPは、残り六割。陣形を作り、安定してダメージを与えていたようだ。

「もしかして、俺って必要なかったか?」

「ユンちゃん、お帰り! そんなことないよ! 戻ってきてくれて嬉しい」

俺を出迎えてくれるミニッツは、 回復役(ヒーラー) として後方へと退避したプレイヤーを回復させ、再び前衛に送り出す。また、マミさんは他の魔法使いとタイミングを合わせて、即席の連携を取っている。

「良くあの短時間で戻ってこれましたね。それに今のは……」

「あはははっ……あれは。まぁ、追々説明するよ」

マミさんの視線は、再び下へと戻っていくエミリさんと飛行型の昆虫キメラの事を見詰める。それに対しては、苦笑いで誤魔化す。特に、タクの登場がインパクトが大きいと同時に知人からは冗談交じりの罵声を浴びている。

その半分は、事実に対する文句で残りは個人的な恨み辛み、とタクとは全くの無関係にあったりもする。

「さて、まぁ、前衛は前衛でやるだろうし。俺は何をすれば良い?」

正直、強行のためにアイテムを消費し過ぎた。また、レイド級よりやや参加人数が少ないが、それでも全員に使う消費アイテムを保持していないために回復役としては不適格だ。

ただ、参加人数が多いだけで、ボスとしての強さやプレイヤーのレベルは、レイドボスのガルム・ファントムには及ばないようだ。問題は、険しい道中と慣れない飛翔する敵。

となると――

「俺の役割は、いつも通り後方から支援のエンチャントと牽制の弓矢だな」

「そうね。それでお願い」

タクの方へと目を向けると縦横に相手の脇に入り込み、剣戟を叩きこんでいる所だ。数度攻撃を加えたら、即座にその場を飛び退くと直後に王鶏の翼からカマイタチが放たれ、足場を削り小石が舞う。

「全員! 散れっ! 飛び上がるぞ!」

さっきまで指揮していたケイが声を上げる。そして、カマイタチを放ちながら、その巨体を浮き上がらせる王鶏。そして、空中で巨体を晒すコカトリス・キングを地上の魔法部隊が狙う。

「撃てぇぇっ!」

普段と想像もつかない程に良く通る大きな声を上げるマミさん。直後に様々な色の魔法がコカトリス・キング殺到する。襲い来る魔法を羽ばたき一つで威力を軽減し、直撃の極彩色の爆発の中から悠然と飛び立った。

「なぁ、逃げたのか?」

「違うわ。空からの魔法による絨毯爆撃。その後、再び地上よ」

「成程。上空からの広範囲ブレスか。そりゃ、被害が増加するよな」

だが、俺の目はコカトリス・キングを捉えたままだ。見上げる先では、口の中に小規模の竜巻を生み出し、ブレス攻撃の予備動作に入っていた。

「指揮は、ケイが続けろ。俺は、遅れて来たんだ。一兵卒で働くわ」

「……分かった。全員円陣を組んで、上空に対して防御! 魔法使いとヒーラーは準備だ!」

指揮権は、ケイのままに全体が行動を始める。即席の集団戦闘ながら、ケイは上手く信頼を得ているのか拙いながらも連携を作り防御態勢を作る。

ここでタクに指揮が移れば、混乱して総崩れの可能性がある。それを見越しての事だろう。

そして、即席だから、全体の能力は把握できず、個々人が随所にスキルを行使してやり過ごす。

「「「――【ワイド・ガード】!」」」

上空に盾を構えるタンカーが、範囲系の防御系アーツを発動し、密集陣形を覆う様に防御を張る。

「ユン、頼む!」

「全く、MPと待機時間が長いから他の行動取れないぞ。【 空間属性付加(ゾーン・エレメントエンチャント) 】――アーマー!」

タクに声を掛けられて、俺は、今防御スキルを発動したプレイヤーを対象にエンチャントを施す。

レイドボス・ガルムファントム戦では出来なかった組み合わせ。マナ・タブレットで強引にMP上限を引き上げ、可能にした行動だ。引き上げたMPをほぼ使い切り、上空に盾を構える 壁役(タンカー) に風属性の耐性エンチャントを付与する。そして、付与されたプレイヤーは、防御範囲増加のスキルを発動し、襲い来る暴風に備える。

直後、打ち下ろされる暴風に頂上の空間が荒れ狂う。重複して作られた魔法の障壁を威力を弱めながら、撃ち抜き、タンカーの盾に到達する。守られる俺たちが晒されるはずの突風は、そよ風程度に弱められる。だが、盾越しでの衝撃で徐々にHPを削られるタンカーたちにヒーラーは、断続的に回復魔法を施し、防御を維持する。

暴風が始まって二十秒。ブレス攻撃が終わった瞬間、盾の下より飛び出した前衛がそれぞれ武器を構える。

「おらっ! 引き摺り下ろすぞ!」

「「「オッス!」」」

その中で鎖分銅を振り回し、もう片方の手に打撃武器を持った見知った山男たちが居た。

イワンやヒヤマ、またその仲間の登山プレイヤーたちが、滑る様に投げた鎖分銅が足や翼、首に巻き突く。

野太い男たちの声が響く中、鎖に巻き付けられ、地面へと引き摺り落とされるコカトリス・キングに前衛プレイヤーが武器を持って殺到する。

鎖の束縛を逃れようと暴れた拍子に跳ね飛ばされるプレイヤーも居るが、着実にダメージを与える。

レイドボスに対しての統制に取れた計画的な攻め方とは違い、少し泥臭い攻撃方法だ。

「けど、何かそれが良いんだよな」

先程の複数の属性付加の影響で行動が制限され、通常の武器攻撃しか選択できない俺は、プレイヤーの隙間を縫う様に矢を放っていく。

何度目かの飛翔。コカトリス・キングのHPは、かなり削れている時だ。

「また上昇するぞ! 円陣!」

鎖の束縛を振り払い、再び上空へと飛翔する。まだ、俺の待機時間が解除されていないが、タンカーのエンチャントは継続している。この行動パターンもやり過ごせる。

そう思っていたが……

「今度は、上からの突撃が来るぞ!」

今度は、ブレス攻撃では無く、生身の突進だ。重力による加速を加えた強烈な体当たり。密集陣形で対応したために、下手に避けると一番守るべきヒーラーに被害が出る。タンカーの誰もが歯を食い縛り、耐える。

「良し、耐え――」

上から打ち下ろすような攻撃は耐えた。だが、上に意識を集中し過ぎたために、横からの攻撃に対応できずにドミノ倒しに倒れる。

コカトリス・キングは、体当たりの直後に横に避ける様に低空飛行で離脱。去り際に、タンカーの密集地にカマイタチを放ったのだ。そして、もう一度、上空へと上がった大鶏が、崩れた防御へと再び体当たりを行う。

「全員、逃げろ!」

俺も含めて、密集地から転がる様に逃げ出し、襲撃地点に着地したコカトリス・キングが暴れ出す。

「ユン、ヒーラーが……」

「ちっ、任せろ!」

俺は、取り残されたヒーラーとコカトリス・キングの間に割り込む。

割り込むと同時に、横薙ぎの一撃を受け、ぴしっ、とガラスにひびが入るような音が聞こえる。

「――ユンちゃん!」

「ユンは、大丈夫だ! それより逃げて体勢を整えろ!」

ミニッツが悲鳴に近い声を上げるが、今の一撃は、衝撃でよろけただけで一歩も引いていない。

「――こっちは、ただ後衛でサポートだけやってねぇんだよ! 万が一に肉壁になる準備くらい出来るわ!」

俺は、声を上げて弓を背中に背負い、インベントリから抜き身の解体包丁・蒼舞を取り出す。

自分より見上げる程に大きな頭を下から上へと一気に貫き、俺の反撃に便乗するように他のプレイヤーも一気に責め立てる。

俺は、突き刺した解体包丁・蒼舞を綺麗に引き抜き、次へと繋げる技量は無い。両手に握った柄を手放し、インベントリから直接、肉断ち包丁・重黒を構える

「まだだっ! とっとと、首切り落として、血抜きしてやる!」

狙いは、首。クロスチョップの要領で振り抜く分厚い包丁は、半ばまで進み、後は力任せに押し込む。だが、元々のステータスが足りずに、最後まで振り切れずに止まってしまう。

蒼舞と同じように手放そうとするが、敵の真正面が一番攻撃を受けやすい。

三本の包丁が突き刺さった頭で頭突きをして来るコカトリス・キング。その一撃を腹部に受けて、大きく後ろへと撥ね飛ばされて、地面を転がる。

再び、暴れようとするコカトリス・キングの背中から二本の剣で斬り付け、動きを封じるタクが見えた。他にも、頭突きを受けた瞬間、腰のホルダーに止められた包丁も置き土産に頭部にちゃんと突き立てたのを確認してノロノロと体を起こす。

「……全く、直撃って心臓に悪い。二回までは耐えられるからってやるもんじゃない」

二度の攻撃を受けても俺には、一切のダメージがない。何度も助けられた身代わり宝玉の指輪の効果だ。たった一度だけの盛大な囮で敵を引き受け、稼いだ短い時間で周囲は体勢を建て直し、残りのHPを削りに掛かる。

皆が興奮で声を上げて、コカトリスに襲い掛かる。四本の包丁を頭部と首に刺さったまま逃げ出そうとするが、前衛が死ぬ気でその体に取り付き、自身の剣で滅多刺しにしたり、タクは至近距離でアーツを放ち、ダメージを蓄積していく。また再び飛び立たせない様に翼を重点的に攻撃しているプレイヤーもいる。

「俺も最後くらい、一撃入れないとな」

ヒーラーを庇う時、背中に背負った弓を手に取る。

「包丁で十分斬り付けたんだ。最後は、串焼きにでもなりやがれ」

特別に選んだ矢は、相手の動きを鈍らせる麻痺薬を合成した矢だ。

充分に狙いを定め、頭部に矢が刺さる。邪魔なプレイヤーを振り払うためにカマイタチを放とうとする巨体がガクンと傾き、もがくように暴れる。

巨大な鶏がもがくだけでも、脅威だが、号令と共に前衛が引き、被害が出ない距離まで退避すると共に、魔法で本当に蒸し焼きにされていく。

『クキュァァァァァ――』

断末魔の悲鳴は、魔法の中に響き、次第にその中で掻き消えていく。

ボスとしては、正直弱い部類だと思うが、色々とあり過ぎて疲れた。

コカトリス・キングに突き刺したままの武器を回収して、俺はやっと休憩することが出来る、という思いで一杯だった。