軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

Sense203

「もう少し進むとコカトリスの飛行上限の場所になるぞ」

「そこからが上層か。じゃあ、そこまで一気に進むぞ!」

中層から上層へと境目には、特に何かがあるわけじゃない。ただ、他のプレイヤーに襲撃するコカトリスの一団は、決してそのラインを超えることは無く、引き返している。

その引き返す一団が俺たちへと向かうので、ケイがヘイト値を稼ぎ、マミさんが魔法の障壁、ミニッツが魔法で迎撃。それをすり抜けてケイへと取り付いたコカトリスは、盾で殴られて、全て下へと自由落下で離脱していく。

「次、左下方に数二! 右後方より数一!」

最初よりも襲撃の頻度が上がっており、索敵を任されている俺は、かなり神経を使っている。だが、それも上層に入れば、散発的な襲撃も終わる。

グランド・ロックの上層への期待は大きい。

下層と中層を区別するのが、コカトリスの襲撃の有無なら、上層と中層を区別するのも同じ。そして、上層からは未知の領域だ。

上層には、新たなMOBが待ち構えているのか、新しい鉱石が採掘出来るのか分からないが、不安半分、期待半分と言った心持ちだ。

中層での鉱石も悪い物じゃない。目新しさには欠けるが、陸皇亀の甲羅片は、パーティー人数分は採取出来た。中層から採掘率は低く感じる程度だが出るようになった。

ボスMOBのレアドロップを狙うよりも確率は高いが、ソロだと厳しい場所と言った印象だ。

自分でそう考察し、敵からの攻撃に耐え、少しづつ、タクの選んだルートを進む。そして――

「やった。コカトリスの奴、追ってこない。悔しかったらここまで来いよ!」

「止めなさいよ、ガンツ。そんな子どもみたいな挑発して」

遂にグランド・ロックの上層部へと辿り着いた俺たちは、すぐに休憩できるスペースを探し、そこから下のコカトリスを見下ろす。

その時、ガンツが先の言葉を下へと向けて投げかけ、ミニッツに呆れた注意を受ける。それでも子ども染みた挑発は止めてもテンションは高い。

敵の攻撃の矢面に立ったケイや索敵で神経をすり減らした俺は、疲れた表情で黙って休んでいる。

それを心配してか、マミさんが甲斐甲斐しく勧めてくれる、色々な物を受け取る。料理人の生産職が作ったクッキーやドリンクらしく、少し女性好みの甘ったるい味付けだが、疲れた精神をじんわりと癒してくれる。

「他の奴らは、ちゃんと登れてるのかな?」

「大丈夫だろ。俺たちより後に居る奴らも慣れない場所での戦闘で遅いだけでレベルは充分だ。逆に、山のベテランが上と下で挟む様にして参加しているからリタイアするプレイヤーの数は思ったより少ない様だぞ」

タクは、俯いて虚空に目を走らせている事から自分のメニュー欄で何らかのメッセージを受け取って読んでいる所だろう。

それにしても、この場所は既に上層の様だが、コカトリスのボスMOBは未だその姿を現していない。

「やっぱりコカトリスのボスって頂上に居るのか?」

「そうだとしても同じ様に休憩と鉱石アイテムの採掘を繰り返して進むまでだ。上まで行けば、他のプレイヤーとも出会うだろう。その時に、情報の共有をしよう。俺たちが遭遇しないだけ、って可能性もある」

それに共闘できる敵だ。上で人数が揃うのを待っているのかもしれないしな。と楽しそうに笑うタク。楽しそうで何よりで……さて、タクは、未知のボスとの戦いに夢を膨らませている一方、俺は近くの採掘ポイントに向かって歩く。

上層に入って初めての鉱石採取。緊張をするわけでもないが、期待が無い訳でもない。

黒いピッケルを突き立てて、鉱石を掘り返すと採掘出来るアイテムは、大体が同じだった。

中層と変わり映えの無い鉱石に溜息が漏れる。いや、寧ろ採掘される鉱石の内訳が下層とほぼ同じだ。

詳しい検証はしていないが、きっと上層と下層の内容が同じで、コカトリスの襲撃がある中層が一番採掘の内容が良い。という事になる。

中層の目玉が採掘される素材アイテムなら、上層は――

「――コカトリスのボスMOBのドロップかぁ。まぁ、アイテムの回収ポイントを一か所に集めない措置かな。まぁ、ダマスカス鋼の原料は大量に手に入ったから充分か」

「ユン、何か言ったか?」

「いや、独り言」

俯いていたタクが顔を上げてこちらを見るが、別に何でもない。と言う。

鉄鉱石と積炭石。それに各種宝石に属性を含む鉱石。ここまで来る間に六人で分けても十分な量のアイテムが確保できている。この後の採掘は最低限に留めて、上を目指した方が良いかもな。

「タク、必要なアイテムも充分揃ったことだし、コカトリスの襲撃も減るだろ。この辺から登るペースを速めた方が良いんじゃないか?」

「うーん、そうだな。元々、徹夜覚悟で挑んでいるけど、早く終わればそれに越したことはないし」

と、言うよりも早く終えて、俺は解放されたいよ。そして、ぐっすりと眠りたい。

「よし、じゃあ、ペース早めるけど、みんな大丈夫か?」

「おう、それじゃあ、俺とタクが先行するぞ」

ガンツが狭いスペースで屈伸などで身体を軽く伸ばして、再び、岩肌に飛びつく。

延々とルート選択を続けたために、俺たちの【登山】センスのレベルも短時間でそれなりに上がっているのだろう。再び進み始めた。

「――らぁぁくっ!」

「「全員、岩肌と体を密着させろ!」」

俺とタクが同時に声を上げると同時に、全員が体と岩肌に体を寄せる。そして、直後――

「――ぁぁぁぁぁああああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ――」

上から猛スピードで落下するプレイヤーが俺たちの脇を通り過ぎる。

飛ぶ能力も重力落下を止める術も持たないプレイヤーは、遠くから近く、そしてまた遠くへと。声を響かせて、落下していく。

俺は、そんな名前も知らない彼と一瞬目があった。恐怖に引き攣った表情と助けてくれと訴える目に俺は、何もできずに、見送るだけだった。

そして、その後を追うように落ちていく白い塊。

【空の目】で下を見るが、暗視の限界を超えた距離まで落ちたのか、見通せない。

「今の声って、イワンたちの合図だよな」

「物が落ちた時に、下で被害を減らすための……。って事は、登山プレイヤーが居るのに、落ちた。上は相当にヤバい状況なのか」

「上に何かが居るのは確かだろ。HPを減らして、武器を握ったまま落ちていたしな。何かと、いやボスMOBと遭遇した可能性があるな」

俺は、落下していったプレイヤーの引き攣った顔しか見てい無かったのに、タクは、他の細かい所を見ていた様だ。

そして――

『クキュァァァァァーー』

下から響く甲高い声。猛烈な速さで下から風を巻き上げながら、先程落ちて行った白い塊が俺たちの目の前で滞空している。

巨大な体だが、スマートに絞られた鶏の身体。特徴的な黄色い大きな 鶏冠(トサカ) と蛇の尻尾。口からは、気焔を小さく吐き出すMOB――コカトリス・キング。

コカトリスのボスMOBが目の前に居た。

そして、先程、自由落下に任せて落ちて行ったプレイヤーがその足に胴体を握られ、ぐったりとしていた。

そして、その握った足に力を込めて、ギリギリと胴体を万力に掛ける様に握り潰し、俺たちの目の前でプレイヤーは、粒子を散らした。

衝撃的な光景が目の前で行われ、すぐに反応を出来なかった。

コカトリス・キングの上昇のための羽ばたきは、カマイタチを生み出し、目の前の俺たちに襲い掛かって来る。

広範囲の攻撃は、狙いを定めずに俺たちやその後ろの岩肌に突き刺さり、傷つける。そして、俺のロープも。

「あっ……」

握り締める出っ張りや足場にしていた凹凸、命綱。全てを粉砕して、俺の手が一瞬、宙を掻く。

「ユン!」

上に見えるタクが、咄嗟に自分のロープを切り捨てて、俺に合わせる様に落ちてくる。

馬鹿だな。別に俺なんて見捨てればいいのに、と思う間にも、空中でタクに片手で引き寄せられ、もう片方の手で岩肌に剣を差し込む。

がりがりと嫌な音を立てて俺とタクは、減速するが、剣が耐え切れずに半ばから折れる。

だが、十分な時間は稼いでくれた。

「――【クレイシールド】【マッドプール】!」

取り出した防御用のマジックジェムを下に投げ、マジックジェムにもっとも近い岩肌より垂直に岩壁が生える。そして地属性の【マッドプール】を【クレイシールド】の壁面をターゲットに設定し、本来は、足止め用の泥沼を衝撃緩和材として張り、俺たちはその中に落ちた。

身体を貫く衝撃。手放しそうになる意識を僅かに繋ぎとめる。

「……タク。生きてるか?」

「返事が無い、ただの屍の様だ」

「冗談言えるなら大丈夫だ」

応急用に作ったクレイシールドの足場とマット代わりのマッドプール。それでも落下ダメージで二人ともHPの半分以上は削られた。特に落下する時、下敷きにしたタクは、酷い。HP九割減少の瀕死の重傷だ。

今は、喜ぼう。幾つかの幸運が重なって生き延びたことを。