軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

Sense195

工房部の一角で静かにお湯が沸くのを待ちながら、もう一方では、煩いくらいの破砕音を響かせる粉砕機が稼働している。

俺は、沸騰したお湯をポットに注ぎ、入れた茶葉が開き、香りが立ち込めるのを待っていた。

ガラス玉の色付けと形成の仕方を考えながら、使うアイテムを選んだ。

鉱石の粉末とモンスターの甲殻。

これらを使ったアクセサリー作りだが、時間と材料が大量に必要になった。モンスターの素材は、ビーズアクセサリーの素材として削り出していたために、現在は鉱石系アイテムの粉砕をして、準備を整えている。

そして、足りない素材は、後日NPCのキョウコさんにでも頼んで、購入して置いて貰おう。そのために、購入するアイテムのリストを作っておかないと、とお茶の注がれたカップを口に着けながら、メモしていく。

「まぁ、今ある素材だけでも十分に作れるんだけどな」

複数の小さな容器を取出し、細い先の丸まった針とそれに繋がる糸。粉砕機の煩い音をバックに練習用の作品を作り上げる。とはいってもそれなりに良い出来のアイテムを作るつもりだ。

今回は、簡単なイヤリング型とネックレス型だ。

先程作ったガラス玉も良いパーツであるためにそれを中心に据えた青っぽい色のイヤリングとネックレス、そしてブレスレットのつもりだ。

編み方は、複数のビーズを纏め上げるように糸を通し、最後に引き絞ると小さなビーズが一つの立体的な形とそれなりの大きさになり、球状のパーツとなる。最小単位のビーズから作るパーツとガラス玉や宝石などを加工した大きなパーツ。その連続で作られるアクセサリーは、最初は、ノートにメモした編み方を参考に作る。

慣れてくれば、作る速度も上がり、小物程度なら余り時間は掛からない。ただ、事前に留め金の部分やパーツを用意しておく必要がある点では、問題はあるが。

そうして出来上がったイヤリングとネックレスは、まぁ、自分でも言うくらい普通だ。ネックレスがMINDを3上昇させ、イヤリングは、2の上昇。ブレスレットは、DEFに3の上昇値がある。まぁ、重量が1の最も軽いアクセサリーだ。簡単に手に入る素材で最も効果の弱い種類のアクセサリーを作ったのだからこんな物か。と言う感じである。

ただ、作ったアクセサリーには、ボーナスを一種類だけ付けられそうなのは分かった。またセンス【付加術】の【物質付加】や余りレベルの高くないスキルだったなら【技能付加】も一種類だけ可能だった。

追加効果を付けられる数は、一つ。

エンチャントストーンやマジックジェムのような素材に付与する以外で【技能付加】は、基本使い捨てだから勿体ないと感じている俺は、装備へのスキルのエンチャントはしていなかった。

最後に装備へのエンチャントが可能な欄を見たのは、もう夏休みの時だった。気なしに見ていた欄には、その時と状況が変わっているために現れた変化があった。

「――EXスキルもエンチャントできるのか」

とは言っても、センス固有の生産スキルじゃない。特定の行動や依頼、条件を達成する事で手に入る汎用スキルであるEXスキルである。この場合、俺の所持しているスキルは、鉱石をピッケルで掘り出す【採掘】のEXスキルだ。

【技能付加】でエンチャントしたスキルを発動させると自壊するので使えなかったが、常時発動型のスキルは、どうだろう。

試しに、三種類に別々の追加効果を付けた。

イヤリングには【SPEEDボーナス】を、ネックレスには【INT付加】。そして、ブレスレットにはEXスキルの【採掘】をエンチャントした。

結果は定着したが、ただ通常の表記ではなかった。

採掘のブレスレット【装飾品】(重量3)

DEF+1、SPEED-2 追加効果【採掘】

定着はしたが、他の表記にも変化があった。

アクセサリーの装備限界数である重量が2増加。そして、DEFとSPEEDの数値が2減少している。これは、【技能付加】でEXスキルを定着させる代償なのか。他のアクセサリーでも同じか確かめるために、濃緑色のガラスをコーティングしたリングにも同様にエンチャントした結果、変動数値は同じだった。

つまり、EXスキルを付けると相応のアクセサリーの能力低下がある。という事。だが【採掘】のEXスキルを定着できたとしてもこれがちゃんと使えるかはまだ確認が取れていない。

俺は、既に手に入れてしまっているために、何方の効果が発揮するか分からない。

そこでふと、テスターとして適切な相手が居た。

「フレンド通信は、っと――リーリーはログインしているな」

ログインの状況を確認した後、リーリーへと通信を繋げる。

『はい。ユンっち、どうしたの? まさか、例の登山プレイヤーのこと』

「それとは、別件。リーリーって【採掘】のEXスキルはまだ持ってないよな」

『うん。明日マギっちと取りに行くつもり』

「ちょっと【付加術】のセンスを使って【採掘】をアクセサリーにエンチャント出来た。だから、アクセサリーのテスターになって貰いたい」

『ああ、そう言う事ね。そうなるとEXスキルを入手する必要がなくなるかもね。って……ちょっと待って』

リーリーが、少し慌てた様な声を出して、しばらくの沈黙が続く。

『うん。ユンっち。良ければ、お店に来てくれない? 丁度、クロっちも要件があるみたい』

「クロードが? 何だろう。分かった、そうだ。ついでに弓のメンテナンスも頼む」

『分かった。じゃあ、待ってるね』

また碌でもない事なんだろうな。と自然と眉間に皺が寄るのを感じるが、了承してリーリーとのフレンド通信を切断する。

軽く身を整えると同時に、アクセサリーとメインウェポンの長弓を持ってリーリーの店へと向かう。

通い慣れた道を進み、東通りに面したリーリーの木工店へと顔を出した。

「こんにちは。リーリーは居るか?」

「待ってたよ。って言っても通信切ったばかりだけどね」

店の中には、カウンター席に座るリーリーと店内の展示武器を適当に眺めているクロードが目に入る。

「ユンか。呼び出しに応じてくれて感謝する」

「何で上から目線だよ。まぁ、リーリーに試作品のアクセサリーと弓のメンテナンスのついでだから良いけど」

ジト目で睨むが、どこ吹く風と言った感じで軽く流すクロード。まぁ、こいつの用事は後で良いとして、先に弓とアクセサリー、修理費を渡す。

「【採掘】スキルの試作品と弓のメンテナンス。後は、修理費は、受け取ったね。弓はすぐに修繕するからクロっちと話しながらでも待っててよ」

そう言って長弓を抱えるようにして持って、奥へと消えるリーリー。残された俺とクロードは、互いに顔を見合わせて、すっと目を逸らす。ちょっと気まずいかも。普段は、誰かと一緒だったりするために、二人っきりだと何を話せばいいのか分からない。

「ユン」

「は、はひぃ!」

何だよ、変な声出たぞ、俺。と一歩引いた位置に居る自分がツッコミを入れる。

「別に取って喰う訳じゃない。少しレシピの相談だ」

「レシピ?」

「前にレイドクエストの報酬にあった本があるだろ。【経験則的民間薬事典】の中に気になるレシピがあってな。ユンに作って貰おうと思って」

「ああ、成程。今、本がインベントリの中にあるけど、どのページの奴なんだ」

「丁度、中間あたりだな。レシピ名は――『精力剤』と『興奮剤』だ」

俺は、取り出した本を捲っている動作を止めて、顔を上げる。

真顔で答えるクロードに対して、俺はきっと険しい目付きで居るのだろう。

「……クロード。少し考えて喋れよ」

「やはり、この呼び方では駄目か。素材は、薬石、カルココの実、生命の水、活力樹の実、薬霊草、魔霊草。このうちの半分以上はユンが持っているから頼めば作ってくれると思ったが」

「問題はそこじゃねぇよ。何で『精力剤』とか『興奮剤』って普通の人が聞いたら誤解するだろ」

「誤解も何も俺は、それを使って夜の活動の準備を――「はい、アウト!」」

クロードの声に被せるように俺が声を上げた。それ以上は、いけない。と思ったために無理に止め、分かっては居るだろうが正しい訂正を加える。

「お前が欲しいのは、アブソプション・タブレットとマナ・タブレットの事だろ」

「そう言えば、そんな呼び方もあったような?」

「アホか! 俺だって図書館で調べてるんだ。『精力剤』がアブソプション・タブレット。『興奮剤』がマナ・タブレットって事は知ってるわ」

「知ってるなら、早い。作ってくれないか」

「早いって、お前がわざと遠まわしにしたんだろ。あと、さっきの言葉は、人によっては不快に思うんだろうからやめろよ」

「ユンは、何を考えたんだ? 俺は、ただログインが夜でレベリングのために必要なんだが……」

こいつ……まさか素で言っているのか。何の他意もなく言っているのだとしたら、とても危うい。

「そう言えば、さっきリーリーから聞いたが、面白い強化素材を手に入れたそうだな」

「あ、ああ……」

「リーリーから神様扱いされたとか。地母神ならぬ、保母神って所か」

「お前までそのネタ掘り出すか! 終いには、泣くぞ」

「ユンっち、終わったよ。何か、面白い話でもしてた?」

戻って来たリーリーに状況を説明しつつ、クロードへの愚痴を言えば、クロードは何時もの調子で俺がどのように保母神へと姿を開けるべきかの演説を始める始末だ。

最終的に、セーターとミニスカ、エプロンにニーソックスの正統派スタイルか、ミニスカ風和服にエプロンの巫女風スタイルかで語り出したクロードを俺が一蹴する。

結構、下らない話で時間を取ってしまったが、しばらく話尽くした俺たちは、やっと本題に入るのだった。