軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

Sense192

「お兄ちゃん、今日の夕飯は何~?」

「カボチャとキノコのクリームシチュー。寒い時期にカボチャ食べると風邪引かないって言うし」

美羽に夕飯を聞かれたので、このように答える。

冬至に冬の保存が利き、栄養価の高いカボチャを食べる事で冬場に健康を維持するという事だろうが、現代の高校生は、まぁ寒い日に、ちょうどカボチャが美味しそうだったために、シチューにした。まぁ、本音は、翌朝も食べられる楽なレシピだという事だ。

「うーん。リクエスト!」

「何だよ。唐突に!」

「明日の夕飯は、何か甘辛いご飯に合う物を食べたい!」

「甘辛いって言ってもな……」

鍋の前で鍋の中を掻きまわしながら、レシピを頭の中で選んでいく。鶏肉の甘辛丼、カレイの煮物、あんかけ風かに玉などを選び、冷蔵庫の中に鶏肉があるので、そこからレシピを絞り込み。

「鶏肉の甘辛丼で良い?」

「甘辛丼! 最高! 気分的にサクサクの揚げ物に甘辛醤油ダレを浸して食べたい!」

鶏肉の甘辛丼は、丼にご飯。その上に千切りキャベツを敷き、更に上には塩コショウで味付けした鶏肉を片栗粉で揚げた物を乗せ、そこに醤油、酒、砂糖、みりんの調味料で作る甘辛ダレを掛ける簡単な料理だ。

味噌汁と御浸しで栄養バランスを整えれば、尚良いだろう。

「じゃあ、明日な。それと夕飯出来たぞ」

「はーい」

緩い返事をする美羽が席に着く。

「頂きます! ほぅだ。ほにぃひゃん……」

「口の中に食べ物入れたまま喋るなよ。行儀が悪い」

「んぐっ……。そうそう、この前、倒しに行った赤鬼と青鬼の素材から作ったユニーク武器がオークションに出展されてたよ」

「へぇ……どんなもんだった?」

特に興味は無いが、一応は相槌を打っておく。

「今回出たのは、赤鬼の角を五つ使って作った【赤鬼の太刀】って片刃剣だったよ」

「作ったのは、誰だった?」

「マギさんだよ。お兄ちゃんも良く知ってる」

成程、多くのプレイヤーと繋がりのあるマギさんなら、二体の鬼のドロップ素材を個別に買い取って必要数を集められそうだ。

「やっぱり 太刀(たち) も剣の分類だけど、私が使っているのは、ロングソードだからパラディンのイメージと合わないんだよね。でも、効果が魅力的で……」

「お前のパラディン云々は、割とどうでも良いけど、効果って?」

「追加効果に【火属性ボーナス(大)】と【武技の心得】って効果だよ」

「属性ボーナスの大って結構強いな。それに【武技の心得】ってセンスにも同じ名前の奴がなかったか?」

「うん。それと殆ど同じ」

【武技の心得】は、生産活動の成功率にボーナスを与える【生産の心得】や先制攻撃にダメージボーナスを与える【急所の心得】と同じ様に、行動にボーナスを与えてくれるセンスだったはずだ。

「確か【武技の心得】ってアーツのダメージ量を増やすんだったか?」

「うんうん。お兄ちゃん、良く覚えてたね。正確には、アーツ限定で威力を上げるセンスだね。だけど、武器の追加効果の場合は、一律で1.2倍。センスとの効果の重複も可能だから良いよね」

「そうなると、アーツの本来の威力にセンスと装備の威力補正が掛かるのか……何か普通に攻撃するのに計算式が必要になりそうだな。」

基礎ダメージが幾つでそこに効果で1.2倍。更にセンスで上昇。後は、弱点属性でとか……。国民的なモンスター育成ゲームのようなダメージ計算が必要になるのか。俺としては、何も考えずに、好きなキャラを育成したい人間だが、小さい頃に巧と戦って徹底的に負けたのは、苦い思い出だ。

可愛いお気に入りのモンスターを進化させずにそのまま戦闘させたのだから、基礎的な能力差で負けたのもある。その後は、進化させずにゲーム内では勝てる戦法を巧と静姉ぇに伝授されて楽しかったが、そこまで入れ込んだゲームではなかった。

「だけど、鬼のユニーク装備の本質は、そこじゃないんだよ。武器と防具を揃えると、更に防具に表示されない装備ボーナスもあるから性能だけを考えると侮れないんだよ。だから、悩ましいんだよね」

「でも、アーツ特化の追加効果って事は対人戦には少し向かないのか?」

「まぁ、そうとも捉えられるけど、プレイヤーとしては、何時如何なる状況に対応できるようにシミュレーションは、必要なんだよ。メタ張らずに負けるのは、慢心だよ」

そうですか。と内心思いながら、今度は俺の方の話を振る。

「美羽って北の洞窟を抜けた先に行ったんだよな」

「うん。でも、あそこは、パーティーの行動によっても大分制限される場所だよね。大槌振り回すヒノちゃんは、結構苦戦してるね。私も静お姉ちゃんと組んで登り切る事は出来るけど、正攻法だと時間が……」

やっぱり、美羽が壁蹴り登山なんて人間離れした行動は早々できないよな……。

「その話をする。って事は、お兄ちゃんも行ったの?」

「ああ、コカトリスってMOBを見に、巧と遠藤さんと一緒に」

「また、巧さんに連れ出して貰ったんだ。それで何かあったの?」

「暴走に巻き込まれて、巧たちと分断された。何とか逃げ切れたけど、怖すぎ……」

狂暴化した猛牛と鶏と山羊に追われた時の事を思い出して、今更ながらにぶるりと震えがくる。

「 暴走(スタンピード) に……それは運が無いね。ボスMOBには会ったの?」

「いや、俺は運よく合わずにグランド・ロックまで逃げ込んだけど、巧と遠藤さんの方はボスに遭遇したけど逃げ延びたようだぞ」

「はぁ、どっちも苦労したねぇ」

「全くだ」

俺たちの話はしばらく続き、食後のお茶を飲む時になって、美羽が思い出したかのように声を上げた。

「そう言えば、ビーズ・アクセサリー作りってどうなってるの?」

「一応、暇を見て少しずつ進めているけど、まだ出来てないな。今は、別の優先したい作業もあるし」

「色々大変だね。複数のセンスを持ってると」

「半分は趣味みたいなものだからな。特に苦では無いけど」

さて、とお茶を飲み終えて、そこが話の区切りとして俺たちは、夜の時間を別々に過ごす。

美羽は、早々に風呂に入ってから、夜に再度ログインするつもりの様だ。

俺も巧との待ち合わせに間に合う様に片付けを終えて、ログインする。

待ち合わせ場所に居たタクと共に、マギさんのお店【オープン・セサミ】へと訪れた俺たちは、NPCの店員に声を掛けて、マギさんを呼んで貰った。

「やぁ、二人揃って来店って珍しいね。ペアリングでも作りに来たの?」

「確かに珍しいですけど、こいつとペアはあり得ませんよ。今日は別件です」

簡単に素材の用途の相談に来たのだ。

ピッケルを壊すほどの採掘ポイントで得た鉱石に評価をして貰うためだ。俺が名前だけ鑑定しても、使い道が分からなければ、未鑑定と同じだ。

出現したのは、三種類。宝石の原石と用途不明の鉱石、そして、謎の素材だ。今回は、宝石の原石は、保留で残りの鉱石10個と謎の素材一つだ。

「ちょっと採掘で俺では扱えない鉱石が出たので……それと、別にもう一つ素材を得たので」

手に入れたアイテムの名前は、積炭石と陸皇亀の甲羅片。これらを見たマギさんは、嬉しそうな声を上げる。

「おお、ちょうど欲しかった素材が転がり込んできた!」

「何だ? そんなに良い素材なのか?」

「どっちかって言うと中間素材だね。色々な高レベル帯で産出する素材だね。鉄鉱石と積炭石を粉砕して、上手く製錬すると斑鉄鋼のインゴットになるの。そのままだと普通の鉄鋼製の武器と同じだけど、更に一手間加えるとウーツ鋼に変わるんだよ。耐久と物理面に優れた素材だね」

「ウーツ製の武器か。どんなもんなんだ?」

「長く使える良い武器だね。表面に模様が生まれるから私は好きかな」

俺を間に挟み、そのような会話を続ける二人。元々、金属製の武器や防具を持たない俺には入り込めない。何とか出た言葉は、素朴な疑問だった。

「ウーツ鋼って何?」

「ウーツ鋼は……ファンタジーでいうダマスカスって言えば分かるか?」

「う、うん。まぁ、何となくなら聞いたことがある。表面が綺麗な金属って言われている」

それと同じ。もしくは別の呼び方がウーツ鋼と言われて納得した。

「それで、ユンくん。これを私に売ってくれないかな? 作るのに手間は掛かるけど、経験値的に美味しいのよ」

「まぁ、俺は構いませんけど。最近、赤鬼のユニーク武器をオークションで売った。って聞きましたけど、そっちは経験値的にどうなんですか?」

「そっちも偶に作るなら割に良い装備だよ。だけど、作るのに時間的拘束が長いのとやっぱり決まった形にしかならない装備だからあんまり多く作ってもしょうがないかな? 誰が作っても性能が同じでオリジナリティーに欠ける装備はちょっとね。でも、素材の買い取りは、一つからでもやってるよ」

じゃあ、手持ちの赤鬼の硬皮も取り出す。

「じゃあ、これも買い取りお願いします」

「勿体ない。赤鬼と青鬼シリーズの装備は、俺も欲しいのに」

「今は、オークションに期待してよ。それか素材を揃えての持ち込みだよ」

マギさんがタクにウィンクを送るとタクは、悔しそうに周回ボス攻略キツイ、と呟いていた。

俺としては、周回でもう一度あのボスとは戦いたくないのだが……。

「じゃあ、ウーツ鋼製の剣は、売ってくれるか!」

「残念。最初は、レベリング用で鍛える武器だから性能が中途半端だと私のプライドが許さないの。だから、もうちょっと待って。それか、沢山の積炭石を持ち込んだら、その分早くお店に並ぶかもしれないよ」

「よし! ユン。俺のために今すぐ採って来るんだ!」

「いきなり無理言うな。そもそも、マギさんの所には、耐久と強度の高いピッケルを求めに来たんだから」

なんだ、そんなことか。と納得したマギさんは、しばらく虚空を操作するとその手に一本のピッケルを取り出した。

「これなんてどう? ユンくんの肉断ち包丁と同じ黒鉄製のピッケルだよ」

木製の柄に黒い金属のピッケルは、ずっしりとした重さがあるが、持ち上げるには問題ない。

「良いですね。これ欲しいです。あとは、片手で扱える小型のピッケルもあればもっと良いです」

「片手用かぁ、それがあればもっと積炭石を集められるの?」

「まぁ、効率は上がりますね」

「よし、じゃあ、通常と小型の特注ピッケルをワンセット五十万Gで良いよ」

「うーん。じゃあ、買います」

少し悩む素振りをした。別に、特注装備などは、平気で五十万を超える事があるんだ。むしろ、ピッケル二本で五十万は安いと思う。それにゲームを進めて行けば、今までと同ランクのピッケルでは、採掘できない場所も当たる可能性がある。ならば、必要経費で出すべきだろう。

「じゃあ、前金の半分ね。それと残りの半分は、商品受け渡しの時に。そうだね……。出来上がったらで連絡するね」

「分かりました。じゃあ、二十五万ですね。はい」

「まいどー。っと、後は、最後の陸皇亀の甲羅片は、強化素材だね。どこで手に入れたかは分からないから効果も分からない。複数あれば、試せるんだけどねぇ」

どうした物か。と悩むマギさん。

入手場所を知る俺とタクは、顔を合わせて相談する。

「どうするべき?」

「いや……ここは、先駆者の一人として使うべきじゃないのか? そして、情報を広めれば」

「でも、装備に使い辛い追加効果が付くのは、何か嫌だな」

「じゃあ、魔改造素材に使えば良いんじゃない? あれなら、自分での管理が出来るし、要らない奴は消去できるよね」

俺たちが顔を突き合わせている時に、その言葉を投げかけた人を見た。

真っ直ぐにマギさんの方に歩いてくる生産職仲間のリーリーが、こんばんわ、と挨拶をくれた。