軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

Sense174

木材を削る作業は、インゴットを叩いて成形する作業とはまた違うのだ。インゴットの場合は、作業手順が頭に中に浮かび上がりそれをなぞる様に進めていくが、木材の場合は、頭に作りたい設計図だけが存在し手順は無い。

ただ、何処をどれだけ削る必要があるか。イメージと手元の実物との差が感覚的に分かるだけだ。

「……っ。また削り過ぎた」

手元の木材は、四方が五センチほどの大きさで最初は、適当でも荒削りしないと何時までも時間が掛かる。しかし、素材の柔らかさや流れなど、感触を頼りに得られる情報を考慮して削らないと、削り過ぎてしまう。

今も外側のラインを小さな平らな彫刻刀で整えていたが削り過ぎた。

続いて、指を通す穴を開ける作業では、U字型の彫刻刀で縦に削り掘っていくのだが、途中で木材の流れから縦に割れて、生産失敗となる。

「……難しい。けど、楽しい」

十分以上も格闘したのだが、呆気なく割れた木材。

「そう言えるなら相性が良いんだろうな。こういう作業が延々と続くから苦手って奴が多い」

今まで熱中し過ぎて、周囲に人が居ることを忘れていた。ラングレイは、俺のために幾つもの素材を並べ始めている。その少し後ろでは、オトナシが自身の作ったであろう小太刀を怪しい笑みを浮かべて、うっとりと眺めている。正直、そっちの方に目が行ってしまう程に怖い。

「やってて分かったと思うが、木材って金属の塊と違って独特の癖があるだろ?」

「ああ、刃で削っていくと途中でつっかえたり、無理して押し通して最後は割れちまった」

「そう。木材は、柔らか過ぎず、硬すぎず。それでいて刃が通り易い。だから、そう言った素材ごとの癖を掴ませるために初心者の入門としてやらせたんだ。ほら、ゴブリンの角や骨。モンスターの牙なんかは、どれも癖があるんだ」

取り出したアイテムは、持った質感は、木とは全く違うが、素材によって流れがあった。

そしてそれに沿う様に削れば、簡単に削れるが、垂直に彫刻刀で削れば、きっと上手くいかない。

「素材ごとの癖は、違う。インゴットを加工する場合は、加熱から成形までのスピードとパワー勝負だが、これは違う。手順も漠然としすぎて、自由度があり過ぎる。幾ら時間を掛けても良い。どんなデザインにしても良い。ただ、丁寧に、自分の手先の器用さと素材に逆らわない様に作れれば、出来上がる。ほら、感覚を忘れないうちに、もう一回やってみろ。次は、自分なりの工夫だ。自分の生産キット以外にも使える物は何でも使って良いぞ」

そう言って、ラングレイは、俺を見守るのではなく、奥のテーブルに座りその前に中断された細工を再開している。俺の事をずっと見ていたわけでは無く同じように作業をするようだ。高身長で大きな手では想像もできない器用さで形の出来上がっている指輪にカッターナイフの尖端で傷をつけるように模様やデザインを掘っている。まるで点描画のような点のみで作られたデザイン。

こうして他人の作業を見ているだけで、飽きないかもしれないが、俺も自分の作品を作りたくなった。

今度は、ゴブリンの角と糸を手に取ってみる。

確かに、筋や流れと垂直に刃を入れるのは難しいが、切断用の道具で角を輪切りにしていく。三本ほどの角を同じサイズで輪切りにしたら、後は、それぞれをサイズで分けて、一つ一つヤスリで整えていく。

断面が丸みを帯びた菱形に近い角だったので、そこから更に丁寧に形を整え、丸い艶やかな部品を量産していく。

全部で二十個近いパーツを中心に錐で穴を開けて、糸を通す。大きな真円のパーツと小さな真玉のパーツを交互に配置して、両端を固く結び、余分な紐を切除する。

デザインとしてはありきたりで、ネックレスとしては大きいが、二重に巻けば手首にちょうどいい。

大胆に一つを削るのではなく、大まかに削ったパーツを整えて、後から繋ぐ方法は、簡単で組み合わせ次第では面白く感じた。

出来上がったアイテムのステータスは――

小鬼のブレスレット【装飾品】(重量:2)

DEF+2 追加効果:【鬼系ボーナス(極小)】

と言った出来で、性能としては高くは無い。そして――

「【 物質付加(アイテム・エンチャント) 】――アタック」

折角出来上がったアクセサリーだが、【付加術】の物質付加は、素材の容量が足りずに自壊した。

今のが、初めて作ったボーンアクセサリーだが、俺の検証の前に、壊れてしまった。

現時点で、相対的に見ると、金属製のアクセサリーの方が軍配は上がるが……

「素材の種類が多いから出来る幅が広そう。何より味がある」

ラングレイの作っているアクセサリーを横目に見ると、綺麗にヤスリで整えられた表面の模様が美しい。まるで宝石みたいに思い、これも宝石の代わりに出来ないか。と思ってしまう。

そう考えたら、デザインだけでは無く、他の有用な方法も無いか。使い道は。と考え、前髪を軽く掻き上げる。

「こういう下を向いての作業だと前髪が邪魔になるな」

「このアクセサリーでも装備してみたら?」

先程、謎の儀式を行った青年リーダーは、白い伸縮性の素材で出来た物を渡してきた。

広げてみれば、ヘアバンドのようだ。それを前髪を上げて、通し、首の後ろに通すように着けてみる。頭を前後左右にゆっくりと動かすが、髪の毛が垂れることは無い。

「これ良いな。売っているのか?」

「いやいや、売ってないよ。でも、それはあげる。好きで作った物だから、気に入ったようだし」

「そうか? ありがとう」

小さく笑みを浮かべて、お礼をして再び、素材と向き合う。

その時、おでこ系も良いな、次のテーマは髪の毛を魅せる物作らないか? よし、じゃあ、さっそく作るか。と、彼らもテーマが決まったようだ。

そこからは、時間を忘れて、素材と向き合った。

複数種類の素材を使った場合、デザインをどうするのか、素材の柔軟性は、宝石の代用に出来るか、周囲が興味深く見ている事を気づかずに、一心不乱に削り、磨き、作り上げる。

多くは、検証と実験で折角出来上がったアクセサリーを無駄にするが、集まったデータと考察をノートに書き留めているので完全な無駄では無い。

今は法則、と呼べるほどのシステムを見出していないが、素材の配分、組み合わせ、相性、追加効果の限界値など。調べることは、多い。

そして、今――

「……ここさえ、通して、白が三つ」

俺は、一つの素材を相手に格闘している。

太い針と紐、そしてビーズの様に切断して作った細かな素材を使って、模様を縫い込んでいく。

また、ビーズ状の素材をカラーリングで色を分けて、紐を通していく。

徐々に出来上がるビーズで作ったブレスレットは、白と青を基調とし、現実のビーズよりも大きく、不揃いである。それによって通され作られたビーズのブレスレットは粗が目立ち、模様やデザインがどこか安っぽく見えるが、これはこれで味がある。

気の長いような作業。平日の夜に【ヤオヨロズ】に押し掛けたために、そろそろ切り上げて、寝ないと明日に響く。

そうして、今日はこれで終わりだ。と思い、最後に出来がったブレスレットの両端を結び、余分な紐に鋏で切ろうとして――

「野郎ども! 上で飲もうぜ! お前らの装備も披露して!」

ぷちんっ、あっ……。最後の最後。いきなり開け放たれる扉と陽気な女性の声に手元が狂う。完成間近のブレスレットの余分な紐と一緒に、本体の紐まで切ってしまい、切り口からビーズがぽろぽろと零れ落ちて、生産失敗の消滅で跡形も無く消えてしまう。

「ミカヅチ。もう少し静かに降りなさいよ。皆集中してるんだから、ごめんなさい。誰か迷惑掛けちゃった」

「セイさん……。いや、その」

少し困惑気味なセイ姉ぇと言い淀んでいるラングレイの会話。

俺は、ゆっくりと振り返り、手元が狂う原因を見詰める。俺に気がついたミカヅチとセイ姉ぇが不思議そうな表情を作ってこちらを見返す。

俺が集中してなかったのも、原因だし、失敗しても作り直せば良い。素材は、アトリエールにもあるから明日からはアトリエールで一人でやっていても問題ない。そう、幾ら出来が良く感じても失敗した物は戻らない。

「ラングレイ。今日はありがとう。俺は、もう帰るな」

「あ、ああ……気を付けろよ」

「それからヘアバンドありがとう。何か出来ることがあったら言ってくれ。ヘアバンドのお礼はする」

生産職の青年リーダーに声をかけて、出入り口へと向かう。

にっこりと笑みを浮かべて、ミカヅチとセイ姉ぇに微笑みかける。

「それじゃあ、セイ姉ぇ、お休み。明日も平日だから体調気を付けて」

「えっ、うん。分かった。おやすみなさい」

そう言って、二人の横を通り過ぎるように、出口へと向かう。

ヤオヨロズのホームを抜けて、外に出た。夜遅い街の空気を肺一杯に吸ってからログアウトする。

ただ、ちょっとしたモヤモヤが残って気持ち悪いが。