軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

Sense17

「お兄ちゃん、いくらゲームに熱中してたからって、お夕飯を忘れるのはどうかと私は思うな」

「その、面目ないです」

夕飯の後、お茶を飲みながら、向かい合う俺と美羽。確かに、ゲームに夢中で夕飯の準備を忘れてたのは悪かった。だが、お前もたまに遅れるだろ。

「お兄ちゃんがいないと、お夕飯がでないんだから」

「いや、そこはたまに兄に気遣って夕飯を作ってくれよ」

「良いの? 食中毒になっても」

「いや、食中毒以前に料理を覚えてくれよ」

「そんな話は聞きたくない! どうしてこうなったの?」

なんか、最近兄としての威厳が無くなっている気がする。いや、ここは冷静に、正直に話そう。

「いや、纏まった金が入ったから、今まで欲しかった道具買って、生産活動に励んでました。はい」

「で、いくら稼げたの?」

「ポーションや素材を売って4500Gだぞ」

ちょっとした自慢だ。俺もこれだけ稼げるようになったんだ。という事で胸を張る。

だが、美羽の反応は違うものだった。

「えっ、たったのそれだけしか稼げないの。トップレベルの生産者はその十倍は一日で稼ぐよ」

「……」

お兄ちゃん、もう心が折れそうです。もともと戦闘力5のゴミですよ。俺、生産者だけどトップレベルじゃないもん。てか、どんだけ高い商品売れば、稼げるんだよ。それ、ぼったくりじゃないのか?

「ちなみに、私の現在の所持金は、30万で、お姉ちゃんが20万だったはず」

ブルジョワめ。俺は、なんだよ。それは戦闘力か? それなら所持金630Gはゴミ扱いだな。β版の人は、金に物を言わせてるのか? 酷い。

「ゲーム内でもお金の貸し借り無しだよ」

「当然だ。兄のプライドが許さん」

「全く、夕飯の件は許してあげる。代わりに、明日一日私に付き合ってほしいの」

「また、荷物持ちなのか? この暑い真夏のコンクリートジャングルをさまよい歩くのか?」

「違う! ゲームでどうしてもやりたいクエストがあるの! その制限が女性二人だからお兄ちゃんと受けようと思ってるの!」

「いや、俺男だぞ」

「ゲームのキャラは女でしょ? それに、悪意あるクエストで他の女性プレイヤーは引き受けてくれないの」

だから、ゲームのキャラが女性でも俺は男だから。でもその悪意あるクエストってなんだ?

「だから、明日付き合って! じゃないと許さないから!」

「分かった。明日な。でも初期装備のままで大丈夫か?」

「ええっ、まだ初期装備なの!?」

だって金欠だもの。一応町で価格調べました。新品の弓は700G。性能ちょっとだけ高い奴。防具にしたって防具センス無いから最低の布服。NPC価格で500G。明日には買えそうだが、そんな雀の涙程度の防御力や攻撃力あってないようなものだし。そもそも直接戦闘しないし。

「もう、NPCは辞めておいた方が良いよ。NPCの弓って性能良いけど耐久度低いから。ただ初心者用の武器や防具は耐久度が元々設定されてないから、絶対に壊れないけど」

「えっ、マジで。じゃあ、ずっと使い続けよう」

「ただし、デザインは敢えてダサイけど」

ですよね。薄々感じていましたよ。なんか、周りにまだ初心者がいるけど、マギさんやタクの防具や服って凝った意匠なんだもん。

「弓は良いけど、服だけは買ってよね。ついでにクエスト終わったら買いに行く? たぶん結構なお金になるはずだから」

「分かった。俺は何か揃えるものあるか?」

「ないよ。だって数合わせなんだもん」

ですよねー。妹がお兄ちゃんの手を離れています。

その日は、ゆっくり休む。

翌朝に、美羽に叩き起こされた。時計は朝五時って、早く起きすぎだろ! と怒ったが、俺はしぶしぶ朝食作って、家事に追われた。けど朝五時に起きて悪い事はないんだ。六時帯って結構涼しいんだよ。洗濯物干す時に、刺すような日差しじゃなくて、さわやかな木漏れ日……みたいな。

いや、そんなことどうでも良いよな。美羽とは、午後にクエストを受ける予定で、午前はそれぞれ別行動。

今日もマギさんの所にポーションを売りに行く。昨日は、草食獣を狩りしてないから丸薬はないが、今朝取れた上質な薬草や採取で得た薬草で作ったポーションが合計40個。で1400Gの稼ぎ。

そこで良い話と悪い話が上がった。

昨日持っていった皮素材や皮膜素材。もっと高い価値があるらしいから次の買い取りはもっと高くしてくれるそうだ。

それは嬉しかった。ただ悪い話に俺は顔を顰める。

「あー、逆にポーションの供給過多になりそうなんだ。だからそこかしこで値割れが始まってる」

「それって、俺のポーションも」

「ああ、それは心配ないよ。元々適正価格以下にはならないし、ユンくんのポーションは、効果が高いから知る人ぞ知る隠れたポーションになってるから」

「良かった」

「あとね。私もそろそろ店持つことになったんだ。やっと纏まったお金が溜まったから」

「それはおめでとうございます」

素直に謝辞を述べる。

「いやー、最低価格10万が店舗価格だけど、何気に最低じゃなくてどうせ買いなおすならこの町で一番大きい店買おうと思ってね。それに初期設備も必要で75万まで我慢してたよ。材料費も必要だし。今の手持ちは、1Mくらいかな?」

「そう、ですか。お金持ちなんですね」

1M。つまり、ミリオン。百万という単位だ。もうね。ミュウやセイ姉ぇよりも高いし。さすが、生産職。何気にトッププレイヤーじゃないかな?

「だからね。今度からは私のお店に直接ポーション持ってきて。ちゃんと買い取るから」

「ありがとうございます」

俺は頭を下げる。最初は打算的にポーション売れるかな? とかの出会いだったけど、今では結構良い関係だと思う。

マギさんは、俺と雑談しながら時折、客に受け答えして、新しくお店を持つことを宣伝している。ふと、マギさんの売る武器の値段を見てみたが、ふらりとするような値段と性能だった。

一番安いので2万G。

「マ、マギさん? この武器って」

「あー、片手剣? 片手間で作ったんだよね。うーん、ちょっとギャグセンスなかったね」

「違いますよ。性能、性能!」

ワイルドブレード【片手剣】

ATK+15 追加効果:クリティカル率3%

俺の弓なんて、ATK+2だし、鉄の弓矢なんてATK+3。合計5。大体、初期武器の片手剣も同じだし、NPC武器は、最高で6。現状ではゲームがスタートしたばかりで、割と高いレベルの武器だ。だが、問題はそこじゃない。この追加効果なんて見たことない。

「あー、追加効果? これね。鍛冶の上位センスになれば誰だって付けられるよ」

「へっ?」

「鍛冶をLv30まで上げると上位センスの【鍛鉄】のセンスに成長するんだ。そうなると、武器に追加効果が持つんだよ。凄いでしょ? ちなみに、細工もLv30で【彫金】ってセンスに成長出来るから頑張ってね」

「あの、教えても良いんですか?」

「良いの良いの。これはどーせ、攻略サイトにもう載っている事だから、もっと重要なのは、各センスの特性や組み合わせ。型に嵌らないやり方。onlyな才能が求められるゲームなんだから。

テンプレ通りの組み合わせでは出来ない。思いもよらない方法は、自分の中で留めるもんだよ」

なんか、俺も思い当たる節がある。鷹の目と付加。これも他人は考えないだろう。

付加は前衛向けの様な魔法だし、鷹の目は遠視センス。前と後ろ。どう考えても相反するのに、合わさると、範囲が莫大に広がる。

「そうですね。でも、細工が30で派生することが聞けて助かりました。そこまで頑張ってみようと思います」

「うんうん。お姉さん、そうやって頑張る若者見るのは好きだぞ」

マギさんだって若いじゃないか。と思う。大体、大学生くらいだろうか。

「そろそろお昼だから私は、一度ログアウトして、お昼食べてくるよ」

「あっ、俺も出て昼飯作らないと。妹にどやされる」

「おお、若い娘の手料理か。お姉さんも食べてみたいね」

なんか、気になるニュアンスが含んでいた気もするが、俺も邪魔にならない場所でログアウトする。

今日のお昼は、野菜炒めと味噌汁、白飯だ。うん、ちょっぴり健康的に野菜多めだ。朝叩き起こされた腹いせに、美羽の苦手なエリンギも混ぜて。