軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

Sense166

中盤以降、敵の攻撃は、徐々に激しくなり、双方にそれなりのダメージを与え続ける。

「ぐっ……回復! 早く」

「はい。【ラウンド・ヒール】っ!」

前線を維持している 壁役(タンカー) のダメージは、時間を追う毎に増加している。何とか、DEFのエンチャントとヒーラーの尽力で安全域をキープしているが、レイドボスのHPは、五割を切った。

最初は、深い闇を思わせる巨狼の瞳は、赤さを増し、赤紫に近い色をしている。

「【空間付加】――ディフェンス!」

このままだとジリ貧になる事は分かっているが、ボスは攻撃力だけを高めているために、ダメージを与えるペースは、変わらない筈なのだが、左右の遊撃の攻撃のタイミング、そして、短くなるスケルトンライダーの追加召喚の間隔。

それを打開する策に、ガルム・ファントムにATK弱体化のためのカースドを施したが、能力の差か 抵抗(レシスト) されて不発に終わる。

ミカヅチたちは、一度経験しており、前回より良い展開と言った雰囲気が、周囲に精神的な安定を与えているが、気を抜けば、防御をぶち抜かれて、後衛が危険に晒される。

「次、取り巻きの処理が終わったら、全員でタイミング合わせて攻める! 一気に押し切るぞ!」

ミカズチの一言に左右遊撃の管理を務めるルカート、タクが了承をして行動する。

ミュウたちを含むパーティーは、湧き出し始めるスケルトンライダーに対して、円陣を組む様に防御を固め、ガルムファントムから距離を取り始める。

また、タクたちのパーティーとその他を含むパーティーも同じ様に、ガルムファントムから離れる様に後退し、その足元から生まれるスケルトンライダーを一方向から処理しやすい様に行動する。

「こうも続けて雑魚に襲われると気分が萎えるよね。もっと、ドカッと、ズバーッと活躍したいんだけど」

「まあまあ、僕は、これでも楽しいと思うよ、殴りつければ、ピンボールの様に複数に当たるんだから」

呑気に、スケルトンライダーを殴りつけるように切っていくミュウとハンマーを振り回し、風切り音と共に数体の敵を吹き飛ばしていくヒノ。

円陣の中央では、コハクとリレイが強力な魔法の準備を始め、ルカートとトウトビが二人のフォローに入っている。

「ああっ、もう、こうも数が多いと一掃するしかないよね! ヒノちゃん、ちょっと時間稼ぎお願い」

「何? 何か面白い事でもするの? 良いよ。だけど、回復のフォローは任せたよ」

そう言って、大振りで振るっていたハンマーの柄を短く持ち、小回りの利く小さなスイングで応戦し、捌き切れずにハンマーの射程よりも内側に来た敵の頭蓋骨に柄で殴りつける。

それでも、ミュウの負担が、一気に来たために受けるダメージは、少なくは無いが、ミュウの準備も終わった。

「行くよ! ――【サンライト・シャワー】!」

空いた手を上から下へと振り下ろし、ミュウたちの周囲で光が降り注ぐ。

日光を反射、増幅させたような強い光が夜の暗さを払拭し、周囲を明るく照らす。光の範囲に居たスケルトンライダーたちは、その光に焼かれ、朽ちていく。ダメージを受けたことがある個体は、すぐさま消滅し、無傷な個体は、光の中で大きくダメージを受け、通常の攻撃を受けて、同じ末路を辿る。

この魔法が俺とミュウとタクの三人がレイドクエストを受けた時使えたら、最初のスケルトンライダー襲撃は楽だっただろうと思う。まぁ、人数は少ないからイベントは進行できなかっただろうけど。

ミュウたちが範囲魔法で対処している一方、タクたちの方も同時攻撃に備えて、手早く処理をしようとしている。

後衛が同時攻勢の時の負担にならない程度に魔法でダメージを蓄積し、前衛が確実に止めを刺す。

ミュウの様に強力な攻撃手段ではないが、数と安定性を持って手早く準備に取り掛かる。そして、正面を守る俺たちは――

「セイ。取り巻き片付いたら、足止め用の魔法の用意を頼む」

「分かったわ。とは言ってもサイズ的に、片足止める程度よ」

「十分。嬢ちゃんの方は、攻撃の直前に魔法職に強化を」

「了解」

緊張した雰囲気の中、スケルトン達は数を減らし、遂に号令が下る。

「今だ!」

「【アイシクル・ロック】」

「【空間付加】――インテリジェンス」

セイ姉ぇの足止めと俺のエンチャントは、ほぼ同じタイミングで発動する。

足元より湧き立つ冷気が厚い氷となり、巨狼の右足を絡め取り、俺のエンチャントが正面の魔法職たちのINTを底上げする。

また、足止めにより狙いが定まった事で、左遊撃は、連射性の高い魔法を放ち、敵の 連鎖(チェーン) の時間を底上げし。右遊撃は、準備を要する大技をダメージで追加していく。

そして、正面。 壁役(タンカー) に守られ、左が連鎖の発生時間を連続魔法で長く発生するように調整し、右の大技で敵のターゲットを変更させる。足止め状態の巨狼へのお膳立ては、十分とセイ姉ぇを含む正面魔法使いたちが溜め込み、底上げした魔法を巨狼に放つ。

多重に響く魔法と効果のエフェクトの眩しさに顔を顰める。炎や氷、暴風に光と言った様々な余波が残る場所に目を向け、全員が次の襲撃に備えて陣形を組み直す。

この場、誰一人としてレイドボスを倒したとは思わず、守りを固め、ダメージを癒し、MPをアイテムで補充する。

でも、こういう場では、誰だってこの台詞を言いたくなるだろう。

「「「――やったか?」」」

直後に魔法の余波を吹き飛ばす衝撃波が生まれ、俺は、咄嗟に前衛に防御エンチャントを追加で掛け、壁にする。そんな見え見えなフラグを言いたくなるのは分かるが、言った誰かに言いたい。態々、フラグを踏み抜く必要は無いだろう。しかも、言った奴は複数いるようだし。

「チッ。全体、防御陣形! さっきより攻撃が上がってるぞ!」

無意識に舌打ちするミカヅチが警告を発する。目に見えるHPは、残り三割を切り、瞳が赤紫から更に赤を増し、煌々と輝く瞳が凶悪に映る。

全体の移動は早かった。そして、ターゲットは、正面に変更されており、耐えるためにエンチャントで防御を固めている。

更に、【盾】のアーツで全員が、防御に注力している中で、太い前足が紫色のエフェクトを散らしながら振われ――守りの一部が崩された。

正面から理想的な形で受けた攻撃を力で強引に突破して、崩す。

必殺の一撃。前回。ミカヅチたちが突破された原因の一撃。

その一撃で耐えられた者は、五割。耐えきれずに体勢を崩した者は、三割までHPを削られ、追撃を受けたら危ない状態だ。

後衛が前衛を即座に回復させるが、空いた防御の穴に巨狼が突破しようと体当たりをしようとする。

「フォロー。間に合ってよかった」

三十人という人員を左右正面と分けていたために、何処にも穴を埋めるための余剰人員は、存在しなかった。だが、その外部からの壁の役割だけを与えられたMOBをエミリさんが召喚した。

塞ぐ様に立ち塞がる土石で作られたゴーレムと複数の獣を合わせたキメラ。巨狼の左前足に抱き付き、時間を稼ぐ。

「――【アイシクル・ロック】」

「――【マッド・プール】」

俺とセイ姉ぇがアイコンタクトで足止め用の魔法を同時に使う。

セイ姉ぇの【アイシクル・ロック】が左の後ろ足、マッドプールは、ゴーレムとキメラを巻き込んだまま左前足を泥沼に沈め、体が右遊撃側へと傾く。

自由な足で踏ん張り、抜け出そうと力を込めるが、左遊撃側がそれを阻止する。

「喰らえ」「突き突き突きぃぃっ!」「はぁっ!」

丸太のような太い足を両手の剣で斬り付けるタクや正拳突きを繰り返すガンツ。盾から大剣へと変えて振り抜くケイが立ち上がりを阻止する。

だが、巨狼もただやられているだけじゃない。足止めされた自身を守るために取り巻きを呼び出し、防御に当てている。

現れたスケルトン・ライダーの妨害を受ける左遊撃とエミリさんのゴーレムとキメラ。

左遊撃は、波の様に引き、慣れた動作で機動力のあるスケルトン・ライダーを処理していく。

俺は、矢を引き絞り、取り巻きを減らすために尽力するが、それでも巨狼の復帰に間に合わない。

「【空間付加】――ディフェンス」

既に戦列を復帰した者たちは、全員が巨狼を睨みつけている。先ほどと同じ攻撃を少しでも見逃さない様に構え、もし同じ攻撃が来たら、再び受け止められるように。

しかし、足に絡みつくゴーレムとキメラを振り払い、消滅させると同時に、振り向く方向を左遊撃側へと反転させていく。

「正面、全力攻撃! ターゲットを奪え! 距離を取れ!」

すぐさま下される指示と共に、前へと飛び出すミカヅチ。その後ろを追い越すように放ち、矢が突き刺さる。続く斬撃、刺突、魔法など多数の攻撃を受けても対象を奪えなかった。

正面が一時的に崩れた時の焦りが、ヘイトの管理にミスを生じてしまった。

タクたちの受け持つ左遊撃は、距離を取るが、足並み揃わずに、一角が遅れる。

そこに狙いを着けた巨狼は、剛腕を振り上げ、再び紫色のエフェクトが散り始める。

その範囲には、三名。ヒーラーを含む魔法職。ここで左遊撃が崩れた場合、正面に組み込んで、何とか拮抗状態にするしかない。

既に、次の展開を考えていた俺は、その予想を裏切られることになる。

「させるかっ! ――【ショック・インパクト】!」

鋭い爪の伸びた前足に合わせるように、飛び上がり、二本の長剣にぶつけるタク。

空中でぶつかり合う爪と長剣。一瞬の拮抗は消え、タクの身体が衝撃で後ろに飛ぶ。

本来、範囲内で攻撃を受けるはずだった三人は、全員無事であり、呆ける事無く後退し、ターゲットを正面に戻すことが出来た。しかし、三人の代わりに攻撃を受けたタクのHPバーは、どんどんと減っていく。

車に撥ねられた人形の様に力なく転がる姿に、まさかタクが。と言う思いが沸き起こる。そして、HPを全て失ったタクがその場に残されていた。

「タ、ク? まさか、な」

乾いた笑みが漏れる。普段の余裕のある態度や入念に情報を集めているタクがどうして倒れているのか。

最後まで立っていて、余裕だった。って言うような奴が何、寝込んでんだよ。

距離が離れているのに、下げていた手が自然と上がり、喉奥から声が溢れる。

「――タク!」

「痛っ、あー、結構飛ばされたな。一回死んだし」

むくりと起き上がる、首を鳴らしながら立ち上がるタク。

タクの殴り飛ばされる瞬間を見ていた全員は、何時までも倒れていたタクへ心配を封じ込めていた様だ。起き上がった瞬間、良い笑みを作り上げて迎え入れる。

「やっぱり、一人で迎撃するのは無理だったな」

「馬鹿! 何を馬鹿な事やってるんだよ」

最初の一人がそう言うと、左遊撃では、タクの無謀を責める声が上がるが、皆、自身の役割を放り出さず、タクを守る様に陣形を作る。

その陣の中でヒーラーに回復させられるタクは、回復し切ると俺のいや、正面側を指揮するミカヅチへと向かってくる。

「幾ら、蘇生薬があるからって庇う様な真似するなよ。まぁ、それで脱落するはずの後衛が生き残ったんだから結果は良いが……」

「ああ、お蔭様で。死んでも死なない男の出来上がりだ」

にやりと横目で俺を見てくるが、心配した俺は何だったんだよ。と言う思いから視線をタクから逸らす。

「さて、タクがこっちに来る。って事は、何か思いついたのか?」

「ああ、またガルム・ファントムの攻撃で防御が崩れる中で推し進めるか、それともそれを打開するために賭けに出るか」

真剣な声色で告げるタク。ガルム・ファントムの強烈な一撃への反撃策は速やかに実行される。

スケルトン・ライダーたちの何度目かの召喚と同時に、排除と部隊の再編制が行われる。

正面と右遊撃は、盾職の割合を増やし、その後ろで魔法職が詠唱の時間が掛かる大技を準備する。

そして、タクの担当する左遊撃は、タクやミュウの含む迎撃系のアーツを使えるプレイヤー十人と俺が配置される。

「作戦は、シンプル。迎撃して止まったところで止めを刺す。少しでも成功率を上げるために、全員に攻撃の強化だ。――行くぞ」

タクの言葉と共に俺のゾーンエンチャントの限界人数十人がガルムファントムに向かっていく。安全にターゲットを奪うために、ヒット・アンド・アウェイを繰り返し、少しづつダメージを与える。俺も弓を放ち、微力ながらヘイト値を稼ぐ手伝いをする。

何時まで続くんだ。と思う様な神経を削る一撃離脱が続く。

俺たちの他、正面と右遊撃は、盾と魔法職は極力戦闘に参加せずに、ターゲットを変えない様に消極的に攻撃し、万が一、必殺の一撃では無く、取り巻き召喚をした場合は、今待機させている魔法で殲滅して、また忍耐の作業だ。

最悪、延々と一撃離脱作戦が続くが、それは無さそうだ。いや、どっちを選んでも賭けにしかならないだろう。

「来たぞ! 全員整列。迎撃準備!」

予備動作だけで紫の一撃を判断したタクの声に合わせて、俺は、回復用のMPポーションを取出し、支援する。

「【空間付加】――アタック」

十人にATKのエンチャントが掛かるのを確認する間もなく、俺は、MPポーションでMPを回復する。一本では完全には回復せずに、二本目を使う。その時点で、巨狼の前足と爪に紫の光が宿り、振り上げられる。

『グルゥォォォォッ――』

「「「――【ショック・インパクト】っ!」」」

十人の迎撃と巨狼の一撃が重なり合い、衝撃波に俺は、腕で顔を庇う。

腕の下から見る後ろ姿は、長い様に感じる一瞬だった。

十人の迎撃は、拮抗し、その内の一人の武器が砕ける。武器の耐久値を極端に減らす【アーツ】で許容量を超えるダメージが蓄積され、失敗の予感に背中に冷たい汗が流れる。

だが、武器破壊された一人は、タクの様に後ろに吹き飛ばされず、自由落下で真下の地面へと降り立つ。

そこから動く展開。拮抗から今度は、タクを吹き飛ばしたように巨狼を弾き、姿勢を崩すことに成功した。

弾かれて動きの止まる巨狼へ正面、右遊撃で準備されていた魔法が放たれる。このボス相手に何度も繰り返した攻撃。そして、最後の最後まで油断しないからこそ全員が対応出来た。

『ギャルォォォォォッ――』

断末魔のような叫びで魔法の爆心地から飛び出し、こちらへと突撃をして来る。最後に一人でも多くを道連れにするために。だが、それは、油断しているから起こる事だ。

「【マジックソード】――ソル・レイ」

「【属性付加】――ウェポン。【付加】――インテリジェンス」

多くのプレイヤーは、回避に専念し、唯一ミュウが同じ様に飛び出し、その狼の額に向けて剣を振り上げる。

銀色に輝く剣が、光に包まれ、刀身が数センチ伸びる。そして、待機時間の抜けた俺が、エンチャントで属性石を消費して武器に光属性が宿り、INTを底上げする。

ミュウの剣は、更に白い残光を残し、更に剣の輝きが増す。

「いっけぇぇっ!」

地面を蹴り、擦れ違い様に、巨狼の横顔から首筋までその長剣で斬る。互いに、動きを止め、剣は突き刺さったまま。巨狼が腕を振れば、ミュウに直撃する範囲。それでも武器を手放さず、更に首筋に刺さった剣を押し込む様に両手に持ち替え――

「――【リリース】」

剣の切っ先が刺さっている箇所から光が溢れ出し、反対側の首筋から収縮した光線が突き抜け、巨狼の動きが完全に止まる。

剣を引き抜き、のろのろと戻って来るミュウ。緊張から疲れたような顔をしていたが、どこかやり切った表情をしていた。

「最後の止め、いただき」

「全く、危ないことするなよ。冒険しなくても勝てるだろ」

溜息を吐きながら、戻ってきたミュウを迎え、巨狼を共に見上げる。

HPの尽きたガルム・ファントムの瞳は、赤では無く、澄んだ青に変わり、腰を下ろしてこちらを見下ろしている。

その姿は、敵性MOBとしての知性の無い顔では無く、仮想人格の存在する知性ある存在に見えた。