軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

Sense162

はぁ、なんと言えばいいのだろうか。

フレインの安っぽい挑発に半分はノリで、もう半分は興味本位。そして、ほんの少しの人が本気で挑む相談をしている事に溜息を吐く。

「何やってんだよ。こいつら……」

本来、予定していない事をイベントに仕立て上げ、その準備のために、多くの人が消耗品の買い出しやPKたちの待ち構える桃藤花の樹の周辺ルートを突破するためにパーティーを組んで出発している。

そもそも――

「そもそも、リーリー。なんでフレインと一緒にあの場を引っ掻き回すような事をしたんだ。あいつが最後まで残ってなきゃ、あんな宣誓はしなかっただろ」

「うん?」

知り合いたちから少し離れた場所で俺はリーリーと話をしている。

俺の隣で一休みしているリーリーがストローを使い、カップに入ったジュースを吸い上げながら、首を傾げていた。

「うーん? クロっちに事前に相談されてね。僕は、元々勝ち残る気は全然ないから楽しそうだし、その話に乗ったの。ねー、シアっち」

肩に乗る美しい不死鳥の幼獣・ネシアスを指先で優しく弄りながら、リーリーは答える。

何をクロードは相談しているんだ。と溜息が漏れそうだが、リーリーはその後に言葉を繋げる。

「僕もユンっちも前に襲われた事あるでしょ。あの時、悪意って言うのかな? そう言う物を感じたから思うんだけど、気持ち悪いよね」

「まぁ、良い気分じゃないよな」

それに同意し、何か考えながら短く言葉を選んでいく。

「だからかな? ちょっと会場に入った時、あのPKに向かってそう言う気持ち悪さが少し向けられてたのを感じたんだ。だから、何か嫌だなーって思って。だから、場の雰囲気を変えるためにあんなことした。のかな?」

「ふーん。まるでコントだったぞ」

「楽しんでくれた?」

「お馬鹿。呆れるわ」

自慢げに見上げてくるリーリーにそう言って軽く小突く。だが、幾らPVPだからって、あんな一発アウトの理不尽の塊のようなフレインを相手にしようと良く思ったな。それに……

「リーリー。お前、俺のエンチャントストーン使ってただろ。他にも、お前の生産分野と明らかに違う物を使って凌いでた」

「あっ、バレた。だってー。僕が正面から堂々と向かって行って勝てる訳じゃないし……いくら、クロっちが相手のセンスの概要を教えてくれてもそれで勝てないしね」

さらりと言ったが【暗殺】センスを調べておく。と言っていたが、一日も経っていないのに、良く調べられたな。と感心する。

まぁ、その手段も何となく想像できてしまう。

「誰と取引したんだ? クロードは」

「勿論、PKギルドのメンバー。相手は【フォッシュ・ハウンド】のサポート要員だ」

「クロっち、お疲れ」

そう言って、背後から音も無く現れるクロードに驚きも無く、顔を合わせる。

「お前は、どんなあくどい方法で情報を引き出したんだ?」

「俺は、そんな事はしていないぞ。取引は互いに、Win-Winの関係じゃないとな。両者納得してこそだ」

「クロっち、PKになりたいのに、ギルド内のパーティーバランスの関係でどうしても回復役や生産職を押し付けられた人に防具や武器の提供。それとギルド脱退後の身の振り方を条件に引き出したんだっけ?」

それは、何と言うか。随分と具体的な内容と打算的な取引を聞いた気がする。まぁ、ゲームは打算。何かをして貰ったら、それと同じだけの物を返す心で。何か不満があるなら簡単に途切れる。今回は、打算的な脆さの一面を見た気がした。

「まぁ、その点は置いておいて。【暗殺】センスについてだが、プレイヤーや人型MOBに対して高い補正を得る点が一つ。もう一つは、スキルを発動させる条件は、存外緩い。と言うよりもスキル発動後の方に縛りが大きいがな」

「どういうことだ?」

「スキルを三段階に分けるとしたら、発動前、発動中、発動後の三つに分けられる。それで【暗殺】スキルは、発動前の条件は、自身の平均センスレベルが相手より低い場合にのみ発動可能。まぁ、強者を倒すためだからな。続いて、発動中にスキル使用者の視界には、赤いマーカーが現れて、発動中にそれを寸分の狂いなく攻撃することで、成功。失敗しても通常よりも高い確率でクリティカルが出る。また、マーカーの出現時間も短く一瞬って話だ」

「まるで【料理】センスの【食材の心得】みたいだな」

まぁ、あっちは、効果の継続時間が長いし、汎用性は高い。

「メリットは、確殺攻撃だが、効果の継続時間、マーカーの判定のシビアさ。他にも防具との相性もあるようだ。極論、プレイヤー全員のマーカーの出現箇所は大体同じだからそこをガードするような装備を纏えば、防げる」

「まぁ、その場合、動けない程の重装備になるかもね」

クロードの説明に対して、リーリーが補足するが、その補足は、実質、不可能と言っているような物だ。

「判定のシビアさは、マーカーからズレて駄目。はみ出して駄目。一瞬で終える。短剣やレイピアのような繊細で速さのある軽い武器には有利だが、大剣や槌のような武器はもちろん相性が悪いって事だ。まぁ、スキルに拘らないのなら、基本的な対人特性での武器を編成するって手もある。実際【暗殺】スキルを成功させられる奴は、片手で数える程らしい。そいつらに出会ったら、逃げるか遠距離が最適だろう。

その他大勢は、対人専門のプレイヤーと言った所だ。それで発動後のデメリットは、 待機時間(ディレイ・タイム) が長い点だ。一度使用したら六時間は使えず、レベルが上がっても待機時間は短くならない。それとPKされたデメリットだが、レベルダウンって所だ。後は、知っての通りだろう。ここまでで何か質問はあるか?」

俺は、顎に手を当てて、僅かに考えを巡らすが、特に疑問に思う事も無かった。

「無いな。そもそも直接戦う事なんてするつもりもないし」

「先はどうあれ。聞いておいて損は無いだろ。それともう一つ。防具は修理しておいた」

クロードに頼んでいた防具。急遽、頼んだために時間が無いはずなのだが、どこで情報収集とイベントと生産活動をしたのか。クロード個人の時間だけ一日三十時間とかあるのかもしれない。いや、無いか。

俺は、その場で防具に切り替え、外装やグローブの具合を確かめる。問題ない。

「俺とリーリーは行くが、最後までイベントを楽しんで行ってくれ」

「それじゃあ、ユンっち、またね」

そう言って、二人と別れる。俺たちが話している間に、ミュウやセイ姉ぇもPVPが終わり何処かへ向かったし、残っているのは、エミリさんとレティーア、ベル、弟子二人。

さて、どうするか。と背を伸ばしながら悩んでいる時に、フレンド通信が入る。

相手は、ミカヅチからで珍しいと思いながらも回線を開く。

「ユンだが。どうした?」

『そりゃ、知ってるって。これで別人が出たらびっくりするだろ』

そりゃそうか。つい、携帯の時の癖が出てしまった。

「それで何の用だ?」

『装備やアイテム補充してレイドクエストを攻略しに行く。その呼びかけ。って言うか、嬢ちゃんが来ないと始まらないんだけどね』

「なんだよ。既に俺の意志を無視して計画されている節は……って言うか、予定だともう少し後の方じゃないのか?」

確か、週末のイベントを終えた後に、それぞれの調整をしてベストな状態で行くはずだったのだが、随分急な話だ。

それに今、あの周辺にはPKが半ば占拠している状態だ。すんなり通してくれるとは思えないのだが。

『嬢ちゃん、【言語学】のセンスを持っているでしょ? クエストを始める条件の言語学を満たせるプレイヤーが少ないんだ。うちのギルドで習得している人は来れないし、クロの字は、イベントの事後処理で忙しい。残っているのは、嬢ちゃんだけなんだ』

「理由は、分かった。それと嬢ちゃんって言うな。俺は、男だぞ」

久々にこの言葉を言った気がするが、全く相手にされていない。他にも、ミュウやセイ姉ぇ、タクとそのパーティーの面々も声掛けをしているそうで、俺も同様にして良い。

『だから、夕食食べた後だから七時か八時頃に行く予定だ。まだ枠に余裕はあるから誘うなら早めに連絡をくれよな』

「了解……って言っても話す相手は」

ミカヅチと通信が途切れて一人ぼやく。

まぁ、居るには居るけど、こんな面倒なタイミングでのクエストに参加してくれるか。と首を傾げる。

「みんな、ちょっと良いか?」

俺を待っている間、おしゃべりに興じている五人に向かって声を掛ける。ライナとアルの二人は、ビギナーなので連れてはいけない。

「夜にレイドクエスト受けに行くけど、一緒に行く人居る?」

「また、随分なタイミングですね。私は、遠慮します。この子たちにギルドのメンバーを紹介して、簡単な初心者支援をするので」

「私も同じかな? あとは面白そうな物を探したいからパス」

まぁ、ある意味で予想できる二人。興味が無さそうだった。二人は、ライナとアルを連れて別れた。反対に、エミリさんに視線を向けると少し悩む様な素振りを見せて頷く。

「私も一緒で良いの? 興味はあるけど、邪魔にならない?」

少し不安そうに言っているが、ミュウやセイ姉ぇ、タクも一緒だと聞いて少し安心したようだ。

「知り合いだと心情的に安心できるわ。まぁ、戦力的にはあまり期待されないと思うけど」

「そんな事無いって。俺よりも強い。それじゃあ、色々とアイテムの準備をしたいんだけど、俺から頼みがあるんだ」

「ユンくんから頼み? 何かしら」

「これを作ったのは【素材屋】って話だろ。それを売ってくれないか。出来れば、四等級以上を」

取り出したアイテムは、属性石。露店で【素材屋】が委託販売していた物だ。

それを見て、何か得心したような表情をするエミリさん。

「ああ、あのアイテム便利だもんね。金属に属性を合成するのに」

「えっ? 属性を付与するんじゃ」

「合成じゃないの? インゴットと属性石を組み合わせて属性の持ったインゴットにするんじゃ……」

「石自体を消費して、一時的に武器や防具に属性をエンチャントするために使うんじゃ……」

互いに、用途が全く違う事に少し困惑顔を浮かべる。

だが、そうだ。エミリさんは、錬金術と合成術のセンスは持っているが、付加のセンスは持っていないはずだ。別の使い道があってもおかしくない。

「ちょっとユンくん。そこの所を詳しく話してくれる? 勿論、ちゃんと石は用意するから」

俺は、エミリさんの構える工房【素材屋】へと案内されることになる。