軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

Sense161

場が、騒然とする。観客席に居る殆どの人間がそのプレイヤーに注目する中で、そいつは、悠然と佇み、子どものような笑顔を周囲に振り撒いている。

「――【獄炎隊】のフレインだ」

誰かがそれを口にした瞬間、静かな水面に小石を落としたようにさわめきの波紋が広がる。

本人は、それを知っていて、悪戯が成功した様に笑みを浮かべて手を振っている。午後のPVPは、無差別級の自由参加だ。だからと言って、こいつが昨日の今日でこんな大勢の前に姿を現すとは思わなかった。

伝聞でしか耳にしない極悪PKの首領というイメージが先行して、恐怖心だけが場に伝播する。何より、始まってからフィールドの一角で圧倒的な猛威を振るう姿に多くのプレイヤーが興奮とは逆の物を感じている。

しばらく、それを眺めていたフレインが諦めた様な溜息を吐き、視線を他のプレイヤーに向ける。

「何なんだ? 何考えてるんだ。あいつは」

昨日も思ったが、フレインの行動の意味が分からない。極悪ギルドのギルドマスターだからと言って、本人の資質は極悪とは呼べない。まるで、場違いな場所に遊びに来たただの人のようだ。

今も、困ったように頭を掻きつつ、黒の細剣を振るっている。

そして、その横でタクは、面白そうな物を見るような目で眺め、ミュウは今すぐ飛び出していきたそうにうずうずしているのをセイ姉ぇが押し留める。昨日渦中の中心に居たエミリさんやレティーアとベル、そして弟子二人は、頭が痛い、と言った感じで額に手を当てたり、顔を顰めている。その気持ちは良く分かる。

「なぁ、あれ。どうするんだ?」

あいつだけ弾くこともシステム的に出来たんだろうけど、あいつのギルドが生産職にそっぽ向かれているのに、その生産職が準備したイベントに参加する根性も凄いが、それを通す方もどうかと思う。

マギさんやクロード何かは、多分知っているのかもしれない。だって、実況解説が……

『おおっと、何という事でしょう!? 参加者の中にPKが紛れ込んでいた! しかも、相手はPKギルド【獄炎隊】のフレインだ!』

『情報によると対人戦闘特化のセンスを所持しているという話だ。まさか、こんな所で出会うなんて……』

何だろう。普段の二人を知っているなら、大根役者っぷりにジト目でスクリーンを見てしまう。

知っていたんだろうな。何で、合わせちゃうかな? 事が冷めやらぬ内にこんな人の集まる場所に呼んじゃうかな。

昨日PKに参加していて所持金を奪われたプレイヤーも少なかれず悪感情はあるようだけど、一瞬で終わったりしているために対して感情に残っていない様だ。

逆に、PKなんて許せないと言うプレイヤーが声を上げて罵声を送る始末。本人はそれを聞くと心地良さそうに剣を振っているが、どう見てもヒール役である。

「それにしても馬鹿よね。態々、嫌われているんだもの」

「だよな。でも、ここまで言われるような奴じゃないだろ」

個人として少し相手と話したが、ここまで言われるような奴じゃない。それが自分の事の様に腹が立つ。

「ああっ、タク。ガンツがやられちゃったわよ」

「おお、ガンツさんよ。やられるなんて情けない」

ミニッツとミュウが楽しそうにそんな茶番をしている。実際、俺が勝ってヒーローになるぜ。と言った感じで雄叫びを上げて、フレインへと特攻をかける。場が、一時盛り上がるほどに白熱した打ち合いを繰り広げるが、格闘家タイプであるガンツと剣士であるフレインのリーチの差、センスの特性などがフレインの優勢のまま終始続く。

最終的には、大見栄切って飛び出した挙句に負ける、良い意味での噛ませ犬のような役割を全うしたガンツは、ちゃんとフレインにダメージを与えている。

また、そのダメージが呼び水となって即席の連携で倒そうと一部が動き始める。

「ひぃっ!? 師匠たち、良く昨日無事だったよね。鬼だよ、鬼が居るよ」

「悪鬼羅刹って言葉は、あれの事を指すのかな。楽しそうに人が飛んでいるよ」

今相手にしているプレイヤーたちが実力不足だとは思わない。だが、千切っては投げ、と言う言葉通り人が飛んでいる姿を見ると、やっぱり昨日は手加減されたんだな。と改めて思う。

リスクのあるPKで手加減して、リスクの無いルールと安全に縛られたPVPで全力で戦う。何とも妙だ。まるで、相手のリスクを気にしているかのように……。

自分のリスクは、無視で相手のリスクに合わせて手加減するなんて、やっぱり馬鹿だ。

その間に、プレイヤーの数は、どんどんと減らし一方的に蹂躙される。だが、決して対抗出来てない訳じゃない。単純な対人特化特性のフレインに対して、小さな連携集団が集まり、より大きな集団として結束している。

一列目は、形も大きさもバラバラな盾を一列に構えて、攻撃を受け止め。

二列目は、倒れた壁の補充と中衛の槍持ちが詰め、隙間から微妙なダメージを与える。

三列目は、魔法使いが一斉に、共通の敵――フレインへと魔法を打ち出す。

整列する集団は、良く言えば騎士団。悪く言えば、傭兵団の様に見え、また拙い陣形ながら、観客を熱狂させる。

とは言え、打算が打算を呼ぶ。団結すれば、生き残る率が高まると同時に、脅威とも思われる。団結せずに、虎視眈々と狙っているソロもしくは、少数プレイヤーは、フレイン一人に集中している隙を狙い、背後から魔法使いをピンポイントで倒していく。魔法を不発にさせ、フレインは、構わずに盾職を斬っていく。

挟み撃ちの状態で一部混乱が生じている。即席、指揮官不在では、こんな物か、という感想だ。

フレインには、存分に暴れて貰って、最後に残った奴らが討ち取れば良い。と言ったところか。

しかし、そんな二分する共通認識を敢えて打ち砕きに掛かる知人が一人。

「――いざ、勝負!」

「こっちも、こっちで。何やってんだよ」

対の短剣を右に順手、左に逆手で構えるリーリー。明らかに、役者不足というか、実力不足だろ。容易に負けるのが想像できる。

それなのに、フレインは、面白そうにリーリーを眺めて、二人で何やら話している。

「ちんちくりんが。向かってくるんじゃなくて、最後まで逃げてれば良いだろ。そしたら、一番最後に目立つ倒し方してやるから」

「うーん。じゃあ、手加減してくれる?」

「面の皮が厚いな。良いぜ、じゃあ、勝負するか。回復手段がないから攻撃は、避けろよ」

「じゃあ、勝負! 鬼ごっこ! 逃げるのは、僕」

そう言って、くるりと背中を向けて走り出す。

余りにPVPとはかけ離れた勝負の方法と少年的な外見らしい方法に一瞬、呆気に取られていたフレインも強い笑みを浮かべてリーリーを追い掛け始める。

そこからの場の混乱は、また説明が難しい。

本能のままに追い掛けるフレインと軽い挑発を繰り返すリーリー。

リーリーが誘導する様に突き進む場所に喰らい付く獰猛なるPKフレイン。完全にスペックの上で負け、何度もその凶刃に捉えられそうになる中で、リーリーは速度を上げ、対の短剣で受け流して、時にリーリーの作る生産品とは別種のアイテムを多用して何とか生き残る。

フレインが移動すれば、当然団結した即席集団もその後を追うが、集団の足の遅さに半ば崩壊して、本来の近場の人間同士が戦い合う状態に戻った。

リーリーとフレインの追いかけっこと言う名の混乱の拡散は、有名な鼠と猫のアニメのような気安さとシュールさを持っている。だからと言って混乱の只中で剣を振っている者たちにとっては、堪ったものではないだろう。

一種の喜劇。本人たちが必死過ぎて、場の緊張とは別の笑いを誘う。

更に、それに拍車をかける実況二人のトーク。PKが混じっている事など忘れて、場は異様な熱狂に包まれる。

それでも、終わりはやって来る。

リーリーの集中が途切れ、そこに吸い込まれるように突き立てられる細剣によって、リーリーの脱落が確定した。

また、その後の混乱も終始フレインの独壇場となり、最後には対人特化のPKが全てを攫うという異様な事態で決着した。

それで満足する者もいる。満足しない者もいる。

フレインに対する野次、罵倒は、聞いてる方にはあまり心地の良い物じゃないが、本人は、雨にでも打たれるように自然と受け止めている。

それで終わるフレインでもなかった。

『おめぇら! よく聞け! 俺は【獄炎隊】のフレインだ! てめぇら負け犬がその不満を晴らす場所を用意した!』

静かになる空間。

『俺たちは、【桃藤花の樹】周辺を占拠した。俺たちPKに負けた奴らがいくら喚こうが、負けは事実だ! 俺に勝ちたければ、そこを取り返して見ろ! 単体で来るも良い! 集団で来るも良い! PKを一人キルすれば、PKのレベルは下がる! 反対に、PKに返り討ちにされれば、より俺たちは強くなる! さぁ、文句があるなら白黒つけようぜ! まぁ、そこまでたどり着ければ……の話だがな』

一度、言葉を区切るフレイン。きっちり挑発的な笑みと言葉を残して場を去っていく。

何なんだ。という気分になる。

これでメインのイベントは全て消化された。

しかし、これから始まるのは、予定にない出来事。一部の人が起こす小さな、そして濃密なイベントだったりする。