軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

Sense135

駆けるように日々が過ぎ、イベント前夜。工房に籠り、蘇生薬の作成を続けたが、一区切りは着いていた。

「はぁ、やっと花びら全部を蘇生薬に作り終えた」

俺の蘇生薬の研究は、既に終わっていた。ただ、前日まで掛かったのは、蘇生薬のスキル作成の成功率が低かったのが原因だ。調薬のレベルが43だと言うのに、成功率は、半分。手動作成は、調合さえ間違えなければ、失敗は無いために、手作業を主として作ったために時間が掛かった。

生命の水を使ったハイポーションとMPポーションは、回復量を増加させた。そして、そのハイポとMPポーションを元に作り出した蘇生薬の回復量は、当初作った蘇生薬の倍。300の回復量を誇る出来だ。

――だが、俺は、この結果には満足していない。

ハイポーションやMPポーションを作るのに 上質な薬霊草や上質な魔霊草を使えば、更に回復量は上がる。以前より【錬金】センスで変化させずに残している『上質な』薬草類を使った蘇生薬。それこそが現状の限界であり、一つの通過点だった。

蘇生薬【消耗品】

蘇生【HP+500】

脅威の回復量500。俺の作れる最高品質の蘇生薬。追及するあまり、アイテムボックスに溜め込んだ素材がごっそり無くなった。

次に作る時は、質を落としてコストを抑えないと。

今回、完成した蘇生薬の総数は、14。

半数の七つは、タクに納品。俺への報酬の七つの内、三つは、オークションに出品。残り四つは、俺の手元に残る。

とは言え、俺の貰った蘇生薬は、途中経過や劣化品が主だ。出来の良いのは、タクとオークション用に回している。自分が使う分には、こんなものだろう。

「報告をしないとな。タクとクロードは、居るみたいだし」

タクの方には、NPC店員のキョウコさんに納品する蘇生薬を預けておくとして、クロードの方は、イベントの前準備が終わって軽い集まりをしているそうだ。

「はぁ? クロード。今なんて言った?」

『集まりに来い。マギがギリギリになってお前に渡すものが出来たんだと』

「渡す物?」

何を俺に渡すのだろうか。首を傾げたが、呼ばれたからには、行ってみるしかない。

俺は、店のミニ・ポータルから町中央のポータルへと跳び、そこから集まりの会場であるマギさんの店舗『オープン・セサミ』へと足早に向かった。

店は、開け放たれており、幾人ものプレイヤーが店内を見回っている。俺が来たことで視線が集まる中、無視してNPC店員に案内されるまま、店の奥へと進む。

「やぁ、ユンくん。おひさー」

「久しぶりです。マギさん、それにリクールも」

革張りのソファーにだらっとした格好で休んでいるマギさんとその腹でコロコロと寝ている小さな狼のリクール。その向かいの椅子に座ってお茶を飲んでいるクロード。今は、リーリー不在のようだ。

「ユンくん。そっちはどう?」

「素材全部を蘇生薬に作り変えるのは、骨が折れましたよ。スキルじゃ上手くいかないんですから。けど、納得の物が出来ましたよ」

そう言って、取り出した鮮やかな透明度のある桃色の液体が詰まる小瓶を見て、マギさんが跳ね起きる。

お腹に乗っていたリクールは、素早い身のこなしで床に着地すると、ソファーや手すりをジャンプで跳び、テーブルの上に駆け上がってくる。

「これが蘇生薬か。ゲームもこれからって感じだよね」

「オークションの出品用。作った中で最高の蘇生薬を回したんだぞ」

「ああ、感謝する。これで目玉商品の一つが増えた。これは俺が受け取っておく」

トレードでクロードに蘇生薬を渡すと、さて、と短い前置きを置く。

「私もギリギリになってやっと完成したよ。 蒼鉄鋼(ブルライト) の成形に成功したよ。長かった……普通の方法じゃ加工できないんだもの。黒鉄の方がまだ楽だった」

「あー、ありましたね。そんなの」

大分、前に渡したまま忘れていたが、マギさんは、完成するまで続けていたようだ。俺がアクセサリーとして成形するのを諦めた蒼鉄鋼と黒鉄のインゴットがやっと終わったようだ。

「少しずつ、鉱石を集めては、インゴットに作り変え、それでも先へは中々進まずに……やっと、手応えをを得たと思ったら、この鬼畜変態のクロードがオークション用に、って頼んできて……今日やっと後回しになっていたユンくん用が出来たんだよ」

「ご苦労様です。そして、心中お察しします」

クロードめ、か弱き女性であるマギさんになんてハードスケジュールを課すのだ。女の敵め、俺は男だけど。

「ふっ、そう俺を見詰めるな」

「睨んでるんだよ。全く……」

「ごめんね。話が逸れちゃって。で、これがユンくんのために作った包丁たちだよ」

マギさんが取り出すのは、黒鉄で出来た黒光りする二振りの肉厚な長方形の包丁と美しい青い真っ直ぐな波紋を持った細身の片刃刀だ。

どちらも、抜き身のままで、非常に危ない。

「……中華包丁って俺。普段使いませんし、こっちは、日本刀ですよね。俺は【剣】系統のセンス持ってませんよ」

「大丈夫。全部、包丁の部類だから」

「……ほう、ちょう?」

どこからどう見ても、包丁ではないだろう。荒々しい二振りの肉厚な包丁は、辛うじて中華包丁としても、反りの少ない真っ直ぐな蒼い刀身の得物は、どう見ても鍔のない日本刀。

日本刀の方は、深い海を思わせるような蒼色の入った金属で、持ち手は、両手で持つには短く、片手で持つには長い。

「これって、まさか、解体用の?」

「正解。黒鉄で作った方は、単純に耐久力と攻撃力が高い作り。反面、重いから扱いは難しいかな? あとは、蒼鉄鋼って既存の鉱石とは違う系列に属してるみたい。多分、別の系列があって、それの上位の鉱石があると思うんだよね。あとは、それ自体に追加効果を持っているから」

対の肉断ち包丁・ 重黒(じゅうこく) 【武器・包丁】

マギさんが苦心の末に作った二本一対の肉断ち包丁・重黒。黒鉄で作られたために、かなり丈夫だが、重く切れ味が悪い。

ATK+75 SPEED-10 追加効果:DEXボーナス

解体包丁・ 蒼舞(そうぶ) 【武器・包丁】

マギさんが苦心の末に作った解体包丁・蒼舞。美しく、また鋭い切れ味を持つ。刃に付く血糊は、水の力により洗い流される。

ATK+65 追加効果:DEXボーナス、水属性ボーナス(中)

説明文が、何ともその武器をよく表していると思う。って、ゲームで血糊は出ませんから。

しかし、追加効果の水属性ボーナスには、通常の攻撃とは別で水属性のダメージボーナスが発生するようだ。表記も中レベルという事は中々高いのではないだろうか。

だが、武器自体の性能は、非常に高い物だろう。

――速度重視でリーチの短い包丁。

――威力重視で重量系の肉断ち包丁。

――片手と両手、マルチに扱えて、リーチもある解体包丁。

状況に応じて使えるのは良い物だろう。

ずっしりと重い肉断ち包丁をゆっくりと、なぞる様に振っていく。右、左、そして右へと振り。縦に、横と十字に切る様に包丁を振るう。しかし重いためか、どうしても振り抜くと体が流れてしまう。押し込む様な力任せな振り方になってしまう。木で作られた柄は、握り易い形状になっているが、重さで手から抜けそうだ。

解体包丁の方は、光の当たり方で水に濡れた様な艶を持ち、手の延長のように扱える。片手と両手に対応し、非常に扱いやすい。柄の部分も肉断ち包丁同様に、木で作られており、長さも良い感じだ。

ただ――

「滑り止めが欲しいな。重さで手から抜けそうだし、何より危ない」

柄の部分に滑り止めの素材を撒いたりするのだがそれが無い。今まで使っていた一般的な包丁は、それ程気にしなかったが、重さや長さが増せば、早く動かした時、手から抜けそうだ。今は、緩やかな動きで試したが、危ない。

「やっぱり、そうか。マギは見た目に拘り過ぎたな」

「だって、包丁の柄に滑り止めの鮫肌とか鍔とか合わないでしょ。性能も大切だけど、見た目も重要よ」

「ユン。これを装備してから振ってみろ」

「えっ? 分かった」

トレード画面に乗せられたのは、最後のオーカー・クリエイターの腕部。

CS№6オーカー・クリエイター【腕部】

DEF+20、MIND+20 追加効果:DEXボーナス

革で作られた指ぬきのグローブは、手の平に滑り止めのような黒い素材が使われている。握りを確かめるが、特に問題は無さそうだ。

「何時までも中途半端のままなのも、問題だろ。それを持って振ってみろ」

「ああ……」

「それじゃあ、振ってみろ」

言われるままに、再び包丁を素振りする。グローブの滑り止めが上手い具合に働いて、安定感が増す。

「これなら、安心して使える」

「そうだろう。危険物を扱う生産職の手を保護すると同時に、弓使いとしての手も保護する。まさに機能美を兼ね備えた装備」

「私だって、包丁としての機能と武器としての性能を求めて作ったんだから。この装備は、ユンくんのユンくんによるユンくんのための装備なのよ。大型モンスターを敵として想定した包丁なんだから」

マギさんは、俺に大型モンスターを調理させるつもりですか。

「けど、これだけ装備を整えて貰ったら、生産職同士の戦いは負けるわけにはいかないな」

俺は、抜き身の解体包丁を持ったまま、イベントのPVPに意識を向けていた。

「そうだね。その意気込みで、明日から始まるイベントを盛り上げてね。ユンくん」

「その意気込みついでに、コスチュームコンテストもあるから、そちらも、な」

「いや、出ないから。それは出ないからな」

イベントの日程は、町全体で露店を広げると同時に生産ギルドを中心にいくつものイベントが予定されている。

オークション、戦闘クラス、生産クラス、そして複合クラスによる集団PVP。他にも、中小規模のイベントやパフォーマンス用の区画があったり、その中でもコアな生産職向けの一つがコスチュームコンテスト。

俺の苦手な騒がしい雰囲気が予想されるために、俺の顔は顰められている。

「ユンくん、ホントにでないの? お姉さんがユンくんのために専用の鎧を作ったのに……」

「いや、出ませんよ。マギさんに言われても出ませんからね」

「マギが頼んでも駄目か。だが、俺が奥の手を使ったら、頷かざるを得なくなるだろう」

腕を組み、大仰に溜息を吐くクロード。俺は、その様子に警戒から一歩下がるが、何を言うのか聞きもらさないようにクロードを注視する。

「ユン。今、貴様が持って居るのは何だ?」

「何って、抜き身の解体包丁か?」

「それと、俺の作り上げたオーカー・クリエイターだ。さぁ、代金を払って貰おうか」

「いや、待て。今は、纏まった代金が無いぞ! この前、ミニ・ポータル買ったから、殆ど自由に使える額は……」

今あるのは、店を運営するための運営資金や非常時の運営資金、数か月先のNPC・キョウコさんを雇うための費用、店舗拡充のための積立資金。

ミニ・ポータルも俺個人の自由につかえる部分の資金から捻出したために、防具と武器二つを纏めて払うだけの支払い能力は無い。精々どれか一つだ。

「そうだ。オークション。蘇生薬を売った金額から払えば、少しは足しに……」

「残念だが、俺はそこまで待つほど優しくは無いぞ。くくくっ、さぁ、足りない分は、体で払って貰おうか」

不気味な笑みを浮かべながら、右手をわきわきと動かし、一歩近づいてくる。俺は、反射的にその気持ち悪い人物から後ずさりするが、それに対して、余裕の表情を浮かべるままのクロードに寒気を感じる。

「く、来るな! この変態外道め!」

「もう、それらを受け取ってしまったんだ。クーリングオフは、受け付けないぞ。観念するんだな。何、悪いようにはしないさ。対価は、時間とその体さ、くくくっ――「いい加減にしなさい」――ぐぉぉっ、レバーがっ」

不意打ちのように、横からマギさんの 十八番(おはこ) ――ツッコミボディーブローがクロードに炸裂し、クロードが奇妙な態勢で痛みにのた打ち回っている。

「えっと、クロードは、こう言うけど、大体参加は自由意志だから。別に女の子だけが出るんじゃなくて、男性の人も自分に合った装備やリアルじゃ予算の都合でできないコスプレなんかもするためのイベントだから。いわゆる生産活動の促進イベントだね」

「まぁ、そういう事なら、気分が向いたらな」

まだ、決定はしてないが、どうせ参加してもろくでもない事になるのは、目に見えている。主に、俺の精神への負担的な意味で。

「後は、お前の知り合いも数人出るようだな。ルカートやコハク。それとお前の妹も。あとは、ヤオヨロズが面白がって何人か送り込んでくるようだな。もしかしたら、サブマスの姉が来るかもな」

「ミュウに、セイ姉ぇが?」

「ああ、さぁ、コンテストで美少女が集まれば、衆人は相当盛り上がるだろうな。一種のアイドルグループ的な扱いで神格化すら起こるだろうな。数の原理や個人の嗜好も集まれば、大きな注目が集まるだろうな」

ミュウとセイ姉ぇが出る、だと。

それは、ミュウやセイ姉ぇに注目が集まる。身内の贔屓目でも美人、美少女の二人が他人の目に触れてしまっては、どんな事になるか……想像するのも恐ろしい。

集まる視線からミュウとセイ姉ぇを守らなければ。では、どうするか、そんなの決まっている。

「……出る。ってか、絶対に出せ。二人を守るためには、同じ舞台に立たなきゃ戦えない。この身を犠牲にしてでも、二人を守る。クロード、俺は出るぞ!」

「そうか、お前ならそう言うと思っていた」

「えっ!? ユンくん、どういう心変わりを」

絶対に、守る。その妄執を持った俺は、絶対に冷静ではなかっただろう。

後悔はする。自ら泥沼へと突き進んだ瞬間だった。