作品タイトル不明
SS 伝説の保護者と、魔導重機たち
王都、王立魔法学校。
春のうららかな陽気の中、大講堂では厳かな卒業式が執り行われていた。
見渡す限り、将来を約束されたエリートの卵たち。真新しい宮廷魔導師のローブや、大手魔導ギルドの制服に身を包んだ彼らは、皆一様に誇らしげな顔をしている。
そんな中、壇上に立つ恰幅の良い教官が、ふと空席になっている最後列の二席を見て鼻で笑った。
「ふん。やはりあの『落ちこぼれコンビ』は来なかったか。魔力ばかり無駄にデカくて繊細な魔法一つ使えんウドとメリダ……。どうせろくな働き口も見つからず、惨めな思いをするのが嫌で逃げ出したのだろう」
周囲の優秀な生徒たちも、クスクスと嘲笑を漏らす。
王都での就職戦線に全落ちした二人は、学校の恥とまで言われていたのだから無理もない。
――だが、その時だった。
ギィィィィィィ……ッ!
重厚な大講堂の扉が、乱暴に押し開かれた。
逆光を背負って現れた巨大なシルエットに、講堂内の空気がピタリと止まる。
「ちぃーっす。遅れてすんませんね!」
悪びれる様子もなくズカズカと入場してきたのは、紛れもなくその『落ちこぼれコンビ』だった。
だが、その姿は生徒たちの予想とは大きく掛け離れていた。
二人が纏っているのは、仕立ての良さが一目でわかる真新しいローブ。胸元には、『フェルメール男爵家』の紋章が燦然と輝いている。
いつも前髪で目を隠し、猫背だった大男のウドは、髪をビシッと七三分けにして堂々と胸を張っていた。
そして何より、生徒たち――いや、教官たちの度肝を抜いたのは、メリダの姿だった。
「「「な、なんだあの杖は!?」」」
講堂のあちこちから悲鳴のような声が上がる。
あろうことかメリダは、全長二メルは下らない『国宝級の黒檀の杖』を、まるで野球のバットか何かのように無造作に肩に担いでいたのだ。
杖から漏れ出る凄まじい魔力の 圧(プレッシャー) に、最前列のエリート生徒たちが息苦しさに顔を青ざめさせる。
「お、お前たち! その身なりはなんだ! しかもその杖……一体どこで盗んできた!?」
教官が血相を変えて怒鳴りつけるが、メリダは鼻で笑って国宝級の杖をコツンと床に突いた。
「ふふん、アタシたち新しく出来た街道作ってるっすよ。これは師匠からの借り物っす!」
横に立つウドも、自慢げに胸を張りながら(コクコクコクッ)と深く頷く。
しかし、教官はそれを聞いてさらに鼻で嘲笑った。
「師匠? はっ、お前らのような落ちこぼれの面倒を見る師匠ねぇ。どうせ、どこぞの辺境でくすぶっている三流の落ちこぼれ魔導師だろう! 土木作業の泥遊び風情に、そんな特級魔道具を持たせるわけがないだろう。何処かから盗まれたに違いない。学校として盗品を見過ごす訳にはいかん。すぐにそれを寄越せ!」
教官が正義ヅラをして杖を取り上げようと壇上から駆け下りた、その瞬間。
「――おい。誰が『三流の落ちこぼれ魔導師』だって?」
大講堂の入り口から、地を這うような不機嫌極まりない声が響いた。
無精髭にインテリ眼鏡。ヨレヨレの白衣を着た男が、首をボキボキと鳴らしながら入ってくる。
「おせーっすよ、大師匠!」
メリダがパァッと顔を輝かせてそう呼ぶと、男は面倒くさそうに頭を掻きむしった。
「文句言うんじゃねぇ。フェルメールの代表(保護者)として馬車に揺られて来てやったんだぞ。思ったより王都の関所が混んでたんだよ!」
その男の顔を見た瞬間。
「三流の師匠」「盗品」と吐き捨てていた教官は、まるで雷に打たれたように完全に硬直した。
「ば、ばばば、バッカス先生ェェェェェェェッ!?」
教官の絶叫に、講堂中がパニックに陥った。
「え!? バッカスって、あの『魔導史の教科書の三十ページ』に載ってる、生きた伝説の!?」
「ま、待てよ! さっきあいつ、大師匠って呼んだぞ!?」
「あり得ない! バッカス先生は絶対に弟子を取らない主義で、唯一の例外があの若き天才『ゼノス様』だけのはずだろ!?」
エリート生徒たちが悲鳴のような声を上げる中、教官がガクガクと震えながらバッカスを指差した。
「せ、先生……! なぜあなたが、こんな泥遊び風情の保護者を……っ!? ま、まさか……あの天才ゼノス殿の『弟弟子』が、この落ちこぼれの二人だと言うのですか!?」
「あ?」
ゼノスの弟弟子。
そう聞かれた瞬間、バッカスはピタリと動きを止め、バツが悪そうに視線を逸らした。
(……いや、こいつらは現場で刻印の溝彫りとか、力仕事を押し付けてるだけで……別に正式に弟子入りを認めた覚えはねぇぞ?)
バッカスが内心でボヤきながら横をチラリと見ると、メリダとウドが「大師匠、言ってやってくださいっす!」(コクコクコクッ)と言わんばかりに、キラキラと期待に満ちた瞳でこちらを見つめていた。
「…………っ」
現場で文句一つ言わず、泥だらけになって自分の無茶振りに食らいついてきた不器用な二人。その姿を思い出し、バッカスはガリガリと無精髭を掻きむしった。
どう説明していいか分からず、少しだけ困ったような、照れ隠しのような表情を浮かべる。
「あー……。なんだ、アレだ。……こいつらを、ゼノスみたいなヒョロヒョロ魔導師と一緒にすんじゃねぇ」
「そ、そうですよね! いくらなんでも、この落ちこぼれ共が先生の弟子だなんて――」
「最後まで聞け、阿呆が」
教官の言葉を遮り、バッカスはフッと獰猛な笑みを浮かべた。
「確かにこいつらは繊細な魔法は使えん。だが、圧倒的な魔力で大地を平らにし、岩盤を焼き固める根性がある。…… 現場(フェルメール) には絶対欠かせねぇ、最高で最強の『魔導重機』だ。だから、ゼノスとは違った長所を持ってんだよ!」
大講堂に響き渡った、生きた伝説からの最大級の賛辞。
その言葉に、メリダは「へへっ」と照れくさそうに鼻を擦り、ウドは感極まったように(コクコクコクッ!)と力強く頷いた。
「そういうわけだからよ。お前らみたいな、温室育ちのヒョロヒョロ魔導師が束になっても、うちの 重機(こいつら) には勝てねぇよ。……お前ら、早く卒業証書もらってこい。すぐ帰らねえと坊主に怒られるからな」
「ウス! 了解っすっ!」
(ペコリッ)
生きた伝説が「違う長所がある」と断言し、誇らしげに連れ帰っていく二人の落ちこぼれ。
圧倒的な嵐のような三人が去った後、大講堂には、ただポカンと口を開けたままのエリートたちと、完全に心がへし折られた教官の虚無感だけが残された。
こうして、王都の魔法学校の歴史に『最強の魔導重機コンビ』の伝説を深く刻み込んだ二人は、意気揚々と自分たちの居場所――泥だらけで最高の土木現場へと帰っていくのだった。