軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第146話 因縁の玄関口と小さな救世主

「とにかく、現場を見てみねぇと始まらねぇ! 馬を出せ!」

バッカス、アルベルト、ロバート、そしてカイトたちは、すぐさま馬に飛び乗り、旧道の最前線へと駆けつけた。

ローラーが村の門を出てから約半月。毎日毎日、魔力持ちたちが交代で地獄の駅伝をこなしながら押し進めてきた旧道の補修工事は、ウドの有り余る魔力のおかげで、驚異的なペースで進んでいた。

ウドは、コミュ障さえ無ければ、文句なしの優良株だった。

そして、彼らが到着した最前線。

そこは、王国を縦断する大動脈『北街道』(正式名称:王都北直轄街道・北線)との合流地点まで、残りわずか数百メルという正真正銘のゴール手前だった。

目の前には、すでに北街道を行き交う他領の馬車の姿がハッキリと見えている。

「 ローラーは無事か!?」

ロバートが馬から飛び降りると、停止した巨大な二トンの円柱の傍らで待機していた、リーザ、ウド、ラインハルトの三人が振り返った。彼らは本日のローラーの交代要員として、この最前線にずっと詰めていた。

「まぁ! ロバート様、カイト様……! 一体どうされたのですか、そのお姿は!?」

駆け寄ってきたリーザが、二人の姿を見て目を丸くした。

無理もない。カイトは丸太の後ろで魔力を流していたため支えてもらっていたとはいえ胸まで泥だらけ。ロバートに至っては、水圧で吸い込まれかけた若手を助けるために泥沼へ飛び込み、泥で完璧にコーティングされていた。

そんな姿で馬を飛ばしてきたため、泥はカピカピに乾き始めている。

「こっちも水没の危機で命懸けだったんだ。泥は気にしないでくれ」

「で、ローラーはどう!?」

泥人形のような二人が尋ねると、リーザは「ふふっ」と苦笑いしながら、優雅にブレスレットを揺らした。

「まずはその泥を落とさなければ、お話もできませんね」

――『クリーン(洗浄)』!

ロバートの作業服の頑固な泥も、カイトのヘルメットに付いた泥跳ねも、まるで最初から存在しなかったかのように一瞬で消え去り、二人は新品のようにピカピカに輝いた。

「おおッ! さすがはリーザだ、完璧だ!」

「ありがとう、リーザ姉ちゃん!」

極上のアフターケアで身だしなみ(ヨシ!)を整えたロバートたちが、改めて停止したローラーへと向き直る。

(……ほう。もうここまで来とったのか)

前方に広がる景色を見つめながら、カイトはある記憶を思い出していた。

カイトがまだ四歳の頃。初めてハルバードへ向かう馬車に乗った時のことだ。

最悪の 泥濘(ぬかるみ) と強烈な振動で、妹のミレーヌが火がついたように泣き出し、カイト自身も盛大に車酔いをして吐き気を堪えた。

そして、あの時。

『ガタン!!』

馬車が最後に大きく跳ね上がり、それまでの地獄の揺れが嘘のように消え去った場所。それが、まさに今カイトの目の前にある『北街道との合流地点』だった。

ここは、ハルバードや王都方面から来る馬車が泥靴村の道に入った瞬間、あまりの段差と 轍(わだち) の酷さに激しく揺さぶられ、何度も荷物を落としてしまうという、最悪の『玄関口』である。

(あの時、ワシは『この入り口をどうにかしないと、領地の未来は無い』と思ったんじゃ。……よし、このローラーで、あの憎き段差を真っ平らにしてやるわい!)

カイトが内心で闘志を燃やしていると、停止しているローラーの車軸(大槍)の前にバッカスがしゃがみ込んでいた。

「バッカスさん、どうですか……?」

ジョージが固唾を飲んで見守る中、バッカスが慎重に大槍の端に触れ、ほんのわずかに魔力を流し込んだ。

――ブゥン……ガリッ……ピタッ……ブルルルッ……!

「……チッ。こりゃ酷ぇな」

いびつで不規則な振動音が鳴り、すぐに沈黙する。

バッカスは舌打ちをして手を離し、頭を掻きむしった。

「ダメだ。ローラーの中に埋め殺した百個の魔石のうち、半分は完全に砕けて死んでやがる。なんとか残りの半分が生き残って駆動してる状態だ」

「そ、そんな……! あと数百メルで北街道に繋がるんですよ!? ここで数日作業が止まったら、馬車の往来が一番激しい合流地点の工事が遅れちまいます!」

ジョージが頭を抱える。

「じゃあ、バッカスのおじちゃんが また まほうを 流せば、すこしは うごく?」

カイトが首を傾げると、バッカスは首を横に振った。

「無理だ。俺たちの魔力はどうしても 波(ノイズ) が荒い。ただでさえ連日の酷使でヒビだらけの生き残りの魔石に、荒い魔力を流し込めば、一瞬で負荷に耐えきれずに残りの半分も木っ端微塵に弾け飛ぶぞ。つまり、完全に『廃車』だ」

その言葉に、付き従ってきた北部のハルバード衆や、ロバートたちも重いため息をついた。

もう終わりだ。バッカスが不眠不休で新しい魔石を百個彫り、生石灰でローラーを一日かけて作り直すしかない。

誰もがそう諦めかけた、その時だった。

「……いや。待てよ」

バッカスが、インテリ眼鏡の奥の瞳をキラリと光らせた。

「ノイズのない、純粋で素直な魔力……。極限まで弱り切った魔石に負荷をかけず、限界ギリギリで完全に 同調(シンクロ) できる奴なら……あるいは、完全に砕け散る前に、残りの数百メルを完走できるかもしれねぇ」

「えっ……? ノイズのない魔力って、誰のことだ?」

ロバートが不思議そうに尋ねる。

「決まってんだろうが」

バッカスがニヤリと笑い、自分の後ろにある村の方角を親指で指差した。

「ウチの現場が誇る、最高の『 極細(きわめ) 仕上げ』のオペレーター。お前のトコの嬢ちゃん(マリー)しかいねぇよ」

「――なッ!?」

マリーの名前が出た瞬間。

ロバートが驚愕するよりも早く、現場でうなだれていた北部のハルバード衆たちの目の色が、一瞬にして変わった。

「「「お、お嬢様ァァァッ!!」」」

「て、天使の出番だァァァッ!! すぐに村へお迎えの馬車を走らせろォォッ!!」

「あの黄金の道が、ついに街道までの玄関口を飾るんだな! うおおおおっ、俺たちに引かせろォォッ!! 引かせてくだせぇ!!」

ついさっきまで、あと少しで街道と直結する所でお預けを食らい、絶望してうなだれていたはずのガチムチの男たちが、血走った目で狂喜乱舞し始めたのだ。

彼らは以前のローラー駅伝で、マリーの魔法と可愛らしさに完全に心を撃ち抜かれた『熱狂的なファン(親衛隊)』と化していた。

「おいお前ら! 落ち着け! マリーは俺の娘だぞ!」

ロバートが慌てて制止しようとするが、興奮した男たちの耳には届かない。

「ロブおじちゃん。マリーちゃんに、さいごの『しあげ』、おねがいしよう!」

カイトがニッシッシと笑うと、ロバートは以前「パパ、じゃま」と言い捨てられたトラウマを思い出し、ガクリと肩を落として崩れ落ちた。

「……分かった。マリーを呼んでこよう……」

かくして、残り数百メルで息絶えかけた二トンの超重機は、小さな天使の

到来を待ちわびる熱狂の男たちと共に、最後の北街道へのゴール(仮)へ向けて息を吹き返そうとしていたのだった。