軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第129話 金貨一枚の使い捨て重機

次の日。

岩盤エリアを横目に見る。どうやら極上サウナ(蒸気養生)のシステムは完全に軌道に乗っているようだ。

注目すべきはメリダだった。この村にやって来た初日の『ヤンキー丸出し』の荒んだ態度はどこへやら。今は自分の魔法が現場の役に立っているという充実感からか、パッと顔を輝かせ、ダグラスたち職人と阿吽の呼吸で笑い合いながら作業を進めている。

(ふぉふぉふぉ。不良少女が現場の 連帯感(チームワーク) を知って更生していく……なんとも微笑ましい光景じゃのぅ)

岩盤エリアをダグラスたちに任せ、カイトが向かったのは本命の現場――『 粗朶(そだ) マット敷き』の最前線だった。

だが、現場の空気は重かった。

ここまではマット一枚で済む浅瀬の『岩テラスのボーナス区間』だったが、ついにそれが途切れ、目の前で沼の底がガクンと一段深く落ち込んでいる場所に差し掛かっていたのだ。

カイトは泥の深さをじっと見つめながら、小さな腕を組んで考え込んだ。

(……浅瀬のボーナスステージは終了というわけじゃな。ここから先はまたしばらく泥が深くなる。分厚い粗朶マットを敷いて地盤を安定させるには、上から強烈な力で押し潰す『圧密』が絶対に不可欠じゃが……)

問題は、そのための 重機(リソース) だった。

現在、強力な重力魔法(圧密)を発動できる『ミスリルの大槍』は、この村に一本しかない。

そしてその大槍は今、大男のウドが引く『コートローラー(重力ローラー)』の要(車軸)として、旧道の整備にフル稼働している。そう、この粗朶道で圧密魔法が使えないのだ。

(槍をこっちの粗朶道に回せば、ウドのローラー作業が止まる。旧道の 轍(わだち) が平らに整備されんくなれば、資材を運ぶ馬車が泥濘に足を取られて立ち往生し、村の物流が完全に死ぬ)

かといって、旧道の整備を優先して大槍をウドに預けたままにすれば、肝心の新道(粗朶道)の工事がこの深みで完全にペースダウンしてしまう。粗朶道が完成しなければ、そもそも旧道を整備している意味すらなくなってしまうのだ。

どちらも現場の命線を握る最重要タスク(クリティカルパス)。

優先順位はどちらも一番。見事なまでの『どっちもどっち』な状態である。

「う〜ん……」

カイトは黄色いヘルメットをぽりぽりと掻きながら、小さく唸り声を上げた。

たった一本しかない最強の重機(ミスリルの大槍)を、どう運用するか。あるいは、大槍を使わずにこの一段落ち込んだ深い沼を突破する『別の工法』を編み出すか。

前世で幾多の難現場をくぐり抜けてきた熟練の現場監督の脳髄が、この難題を前にフル回転を始めていた。

その時だった。

カイトの視界の端に、岩盤エリアで職人たちと笑い合いながら作業をするメリダの姿が映った。正確には、彼女が握っている『丸太の杖』に、カイトの目は釘付けになった。

「…………ん?」

カイトの脳内に、バチィッ!と凄まじい稲妻(閃き)が走った。

(ちょっと待て。あのヤンキー娘、魔力をただの『木』に通してブッ放しておるよな? 木の枝が燃えたり爆発したりせずに、ちゃんと魔力を通せる……?)

カイトの目が、獲物を見つけた鷹のように鋭く細められる。

(ふぉふぉふぉ!! ワシとしたことが、常識に囚われておったわ!! 『重機(魔道具)はミスリルなどの金属で作らねばならない』なんてルールはどこにもない!! 魔力を通せる木があるなら……それをワシの圧密魔法の媒体(杭)として大量に仕入れれば、いくらでも圧密がかけられるじゃねぇか!!)

たった一本のミスリルに依存するのではなく、その辺の『木』を重機にしてしまえばいい。圧倒的なコストダウンと調達スピードを両立させる、悪魔的な現場の知恵だった。

「バッカスおじちゃーん!! メリダおねえちゃーん!!」

カイトは短い足をフル回転させ、岩盤エリアに向かってタタタッと猛ダッシュした。

「おお、カイト様。今日は見回りですかい?」

「坊主、どうした? こっちのサウナは完璧に回ってるぞ」

得意げなダグラスとバッカスを他所に、カイトは真っ直ぐメリダの元へ駆け寄り、彼女が持っている『丸太の杖』をビシッと指差した。

「メリダおねえちゃんの持ってる その木、まほう いーっぱい通せるの!?」

「えっ? あ、はいッス! これは『黒檀』の木ッスから、アタシの魔力でも全然ビクともしねーっスよ!」

「それだぁぁぁっ!!」

カイトは黄色いヘルメットを押さえながら、その場でピョンピョンと飛び跳ねた。

「バッカスおじちゃん! これと同じ木、すぐに いーっぱい 仕入れて!! ボク、これをつかって 沼で『あつみつ(圧密)』のまほう するから!」

「……はぁ!? 黒檀の木を圧密魔法の魔道具の代わりにするだと!?」

カイトの突拍子もない提案に、バッカスはインテリ眼鏡をズレ落として呆れ声を上げた。

「坊主、お前、何のために俺たちがミスリル使ってると思ってる。いくら黒檀が頑丈だっていったって、お前のあのデタラメな威力の圧密魔法なら、二発……いや、撃てても三発しかもたねぇよ!」

(ふぉふぉふぉ! 三発ももてば御の字じゃ! 沼の深いところの急所だけ、ピンポイントで黒檀の杭を打ち込んで圧密をかければ十分じゃ!)

「でも、ミスリルよりは やすい んだよね?」

カイトが小首を傾げて尋ねると、バッカスは渋い顔で腕を組んだ。

「そりゃあミスリルに比べりゃタダみたいなもんだが……長さにもよるだろ」

「メリダおねえちゃん、それ いくら?」

カイトが真っ直ぐな瞳で見上げると、メリダは杖を撫でながら答えた。

「これッスか? アタシの背丈くらいの長さで、金貨一枚っスね」

「じゃあ、かいにいく!」

カイトが即答して黄色いヘルメットを揺らすと、バッカスはギョッとして目を剥いた。

「おいおいおい! ちょっと待て坊主! 金貨一枚するものを『使い捨て』にするつもりか!?」

「だいじょうぶ! パパと、クラークのおじちゃんに おねがいしてくる!」

バッカスの制止も聞かず、カイトは短い足をフル回転させ、アルベルトとクラークが執務をとっている屋敷に向かって走り出した。