軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第118話 常識粉砕!最強の基礎工事

王都から二人の新入社員が馬車で移動している頃、カイトはダイニングで昼食を食べていた。そこへ、ロバートが入ってくる。

「若様、食事中でしたか。岩のテラスの全貌が見えてきましたよ。確認しますか?」

王都の街道に最も近くなる場所を起点と定めた後、道作りは再開した。

また、平地部分に宿場町を作る計画のため、粗朶マットを一枚敷くだけで陸地化できる『テラス』の境界線を探る作業も並行して進めていた。こちらは三人一組の編成だ。二人が命綱をしっかりと保持し、残る一人が検尺棒で泥沼を探りながら、テラスの境目に目印を打っていく。

以前は二人一組だったが、万が一の事態に備え、安全管理のために人員を一人増やしたのだ。

いわゆるヒヤリハットである。

カイトは、持っていた小さな木のスプーンを置き、口の周りについた麦がゆを舐めとってから笑顔を向けた。

「ロブおじちゃん! うん、ボクもみる! ごはんたべたら、すぐいくね!」

(……岩盤の形状が分からねば、ダグラス親方たちに渡した図面の微調整ができんからな)

カイトが残りの食事を平らげ、黄色いヘルメットを被って屋敷を出ると、ロバートがカイトをひょいと抱き上げ、荷馬車の後ろに乗せた。そして工兵隊たちが待つ現場へと向かった。

到着した岩盤の 平地(テラス) の境界線では、泥靴工兵隊の面々が目印の杭を打ち込み、そのすぐ隣ではダグラス親方率いるハルバードの職人たちが地ならしの準備を進めていた。

「おう、カイト様! ロバートの旦那! テラスの境目の確認、ご苦労様ですぜ!」

ダグラス親方が額の汗を拭いながら声をかけてくる。

ロバートが荷馬車からカイトを降ろすと、カイトはトテトテと前に出て、見えてきた岩のテラスの全貌を見渡した。

水面下のテラスは、街道ルートから外れて東側の崖へ緩やかに曲がっている。その先へ道を通すには、深い沼へマットを沈めていくしかなさそうだった。

「このまま、まっすぐ おうと(王都)までの お道を 作るよ!」

「「「了解!!」」」

泥靴工兵隊の力強い返事が現場に響き渡る。

その完璧な連携にカイトが満足げに頷いていると、ロバートが声をかけた。

「若様、ひとついいニュースがあります」

「え、なあに?」

「テラスの真ん中にポツンと杭が二つ立ってますよね。あそこから湧き水が湧いてます」

「わきみず……!」

カイトはパッと顔を輝かせた。

(……なんたる幸運! この硬い岩盤で水脈にぶつかるまで垂直に何メルも井戸を掘り進めるのはとてつもない労力じゃ。それを泥沼のど真ん中で、岩盤から湧き出る地下水を見つけるとは。あそこから管を繋いでこの平地まで水を引っ張ってくれば、宿屋の飲み水にも馬の給水所にも困らん『上水道』が完成するわい!)

「温泉じゃ無いのは残念ですがね」

カイトはブンブンと首を横に振った。

「ロブおじちゃん、お水を村から はこばなくて すむようになるよ」

「そうですね」

「じゃあ、あそこからこの場所まで、マットを しいて、木か竹で『お水のトンネル』をつくって、お水をもらってこようよ!」

カイトが提案すると、ロバートは頷いた。

「ええ。了解です。湧き水の近くまでマットを敷いておきます。それと、水道の工事は、ゴドーとバルカス、ダンに話を付けておきましたよ。彼らに一任して構いませんね?」

「うん! ゴドーおじちゃんたちにおまかせ!」

二人が事も無げに会話を終えると、横で聞いていたダグラス親方が身を乗り出してきた。

「お、おい、ちょっと待ってくれ。あんな泥沼のど真ん中の湧き水だろ?泥水と混ざらねえように綺麗な水だけを引っ張ってくるんだぞ? ポンプや密閉管を使う大工事だ。それを、この村の職人だけで勝手にやれるってのか!?」

「ええ。なにせ彼らは、すでに村の広場まで丸太の水道を通して稼働させていますから」

ロバートがサラリと答えると、ハルバードの職人たちもざわめき始めた。

「広場にあったあれか…?」

「大手に頼んだのかと思った…」

驚くダグラスの服の裾をクイッと引っ張り、カイトはえへへと笑う。

「うん! だからね、ダグラスおじちゃんたちは、こっちのおうちのきそ(基礎)づくり、はじめよう!」

「お、おう……! 分かった。野郎ども、村の連中に負けてられねえぞ! 気合を入れろ! カイト様の図面通り、まずは岩盤のデコボコを均すんだ!」

ダグラスの号令とともに、職人たちが一斉に動き出す。

さすがはハルバードの熟練職人団だ。無駄のない動きで岩盤の凹凸を削り、平らにしていく。

「親方! 削り終わりました。水準器で確認しましたが、図面通りの『百分の二』の水勾配、バッチリです!」

「よし! 次は砕石と生石灰だ! 均等に敷き詰めろ!」

男たちが、平らになった岩盤の上に砕いた石と生石灰の粉を混ぜ合わせながら分厚く敷き詰めていく。

「おじちゃんたち、そこからはなれててね。まほうをかけるよ!」

カイトの指示で、工兵隊が敷き詰められた生石灰の上からバシャバシャと水をかける。

生石灰が水と反応し、シュウゥゥッという音と共に熱を持った蒸気が立ち上がった。

職人たちが魔法範囲を警戒して後退する中、頃合いを見ていたカイトは腕にはめた『二連魔石のミスリルブレスレット』を、真っ白な基礎に向かって突き出した。

(泥沼の底に突き刺す大槍ほどの出力はいらん……。余分な水分だけを、イメージで加減しながら吸い上げるんじゃ)

「お水、ぬけちゃえ……えいっ!」

その幼児の微笑ましい声の直後――

ズゥゥゥン……ッ!!

空気が押し出されるような鈍い音が響き、敷き詰められた生石灰と砕石の層が見えない巨人に踏まれたかのように沈み込んだ。

魔法が収まった後、そこに残っていたのは、水分を抜き去られ、化学反応の熱で岩盤と一体化したゴツゴツしたコンクリートの土台だった。

カイトはコンクリートの上に乗ると、持っていた木槌で足元をコンコンと叩いた。まだ熱を持った石の表面が、カァン、カァンと硬い音を立てた。

「うん! カッチカチになったよ、おじちゃん!」

ダグラス親方は、その白い基礎の上に乗り、自分のブーツの踵で強く踏みつけた。……ビクともしない。

「……ありえねぇ。土台作りなんて可愛いモンじゃねえ……大地をまるごと、見えない足で踏み潰しやがった……」

ダグラスをはじめとする職人たちは、幼児の可愛らしい笑顔と、引き起こされた魔法のエグすぎる暴力性のギャップに、すっかり言葉を失っている。

(……これでもワシは手加減したんじゃがのう。何であんなに引きつった顔しとるんじゃ…)

すっかり戦意を喪失(?)し、青ざめた顔で頷く職人たち。

かくして、彼らの常識を物理的に粉砕しながら、宿場町となるこの場所に『強固な基礎』と『上水道』の建設が幕を開けたのであった。