軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第110話 地獄のローラー駅伝【後】

結果から言うと、カイトが決めた魔力を先に流してからスタートする事と五十歩で交代する事でローラーを引く作業は確実に改善された。

ただし、朗報ばかりではない。

「はぁ……はぁ……だめだ、魔力が、スッカラカンだ……っ」

未知の超重機『魔導振動コートローラー』が稼働を開始して、十二回目のローテーションが終わった頃。

ついに伴走して魔力を流し続けていたバッカスが、大槍から手を離して泥の上に大の字にぶっ倒れた。

「バッカスおじちゃん、おつかれさまー!」

「ぜぇ、ぜぇ……坊主、俺はもう一滴も出ねぇぞ……。これ、今どこまで来たんだ……?」

カイトがパタパタと走り、後ろを振り返って距離を測る。

「えっとね、四百メルくらい!」

「よんひゃく……!?」

バッカスだけでなく、泥まみれで倒れ伏している北部と南部の職人たちも絶望の声を上げた。旧道の総延長は、およそ二十五キロ(二万五千メル)。まだ全体の二パーセントにも満たない距離で、 動力源(バッテリー) が完全に沈黙してしまったの

(ふぉふぉふぉ。こいつら二十五キロの内の四百メルで絶望しておるが、すれ違いの『二車線(全幅四メル)』にするには、帰りの二十五キロも引かせなきゃならんからな。……つまり合計五十キロじゃ!)

カイトは黄色いヘルメットの鍔の奥で、ニヤリとゲスい笑いを浮かべた。

(優秀な魔法使いとはいえ、一人で五十キロも重機を動かし続けるのはやっぱり無理があったのぅ。こりゃあ、村中の『魔力持ち』をかき集めてシフトを組まんと、マジでいつまで経っても終わらんぞい)

カイトはすぐさま、工兵隊のサジたちに指示を出し、村中へ伝令を走らせた。

***

「――というわけで、魔力を使える方は至急、旧道の入り口へお願いします!」

村の広場。ちょうど職人達への炊き出しの指示を出していたエレナは、駆け込んできた工兵隊からの報告を聞いて目を丸くした。

「魔力持ちを……ですか?」

一方その頃。

村の仮設トイレの設置場所と、飲料水の確保に奔走していたアルベルトの傍にいたクラークや、警備に当たっていたラインハルト、さらには南部の実働部隊の取りまとめをしていたマルコのもとにも、同じ伝令が飛んでいた。

「魔法……少しならできるが。よかろう、向かおう」

彼らもまた、それぞれの持ち場を他の者に任せ、続々と旧道へと足を向けていた。

そして、フェルメールの屋敷。

留守を任されていたリーザと、ミレーヌと遊んでいたマリーも、息を切らせて駆け込んできた伝令から事情を聞いていた。

「カイト様が、魔法を使える人を連れてきてほしいと?」

「はい! バッカスさんが魔力切れで倒れちまって、ローラーが止まってるんです!」

「……では、カイト様ご自身がやればよろしいのでは?」

リーザが不思議そうに尋ねると、伝令の工兵は顔を引きつらせた。

「それが、バッカスさんの話だと、『監督が魔力を流すと魔石が粉々になっちまうから絶対に禁止だ』って言われてるらしくて……」

「あ、なるほど……」

リーザは深く納得した。私も手伝いに行こうとエプロンを外しかけた、その時だった。

「……あの。マリーも、まほう、できます……」

リーザの服の裾をギュッと握りしめ、マリーが小さな声で、しかし真っ直ぐな瞳で訴えかけてきたのだった。

***

かくして、旧道のローラーの前に、泥靴村に滞在している「魔法が使える者たち」が勢揃いした。

エレナ、リーザ、クラーク、マルコ、ラインハルト。そして、マリーだ。

「みんな、ありがとう! この『おっきなヤリ』をにぎって、まほうを 流してね! そしたら、おじちゃんたちが 引っぱってくれるから!」

カイトが手順を説明すると、大人たちは半信半疑ながらも、交代でミスリルの大槍の端に手を触れ、魔力を流し始めた。

「よし、俺から行くぞ……っ、ハァッ!!」

一番手、マルコが気合と共に魔力を流し込む。

――ズゴゴゴゴゴゴゴッ!!

「うおわっ!? なんだこの振動は! 引け、引けぇぇっ!」

マルコの荒々しい魔力は、力強いがどこか不均一な縦揺れを生み出し、男たちが必死に前枠を引っ張る。

「次は私が行こう!」

二番手、ラインハルトが静かに魔力を流す。

――ズズズズズズズズッ!!

「おっ、さっきより安定してるぞ! そのまま進め!」

騎士特有の統制された魔力は、一定のリズムで重低音を響かせ、泥を確実に潰していく。

「では、私も……ふんっ!」

三番手、クラーク。

――ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!

人によって魔力の『質』が違うためか、ローラーが発する駆動音も振動の波もそれぞれ全く異なっていた。だが、彼らが魔力を繋いでくれたおかげで、停滞していた作業は、再び確かな速度で前へと伸び始めていた。

「すごいわ、カイト!どんどん道ができていくわ!」

見学していたエレナも、その光景に感嘆の声を漏らしている。

そんな中、大人たちの背中を見つめていたマリーが、トテトテと前に進み出た。

「あの……マリーも、やりたいです」

「えっ!?」

「いやいやお嬢ちゃん、これは大人の仕事だ!」

マルコやクラークが慌てて止めるが、マリーは引き下がらない。

「でも、マリーも、おてつだい、したいの……」

困り果てる大人たち。そこへ、リーザがスッとマリーの背後に回った。

「私が後ろから一緒に付いて歩きます。もし少しでも危なそうだったり、マリーちゃんが辛そうにしたら、すぐに私が手を離させますから。……ね?」

リーザの提案に、カイトも「うん! マリーちゃん、おねがい!」と言いつつ、黄色いヘルメットを外してマリーに被らせた。

「……わかった。じゃあ、引くぞ! お前ら、いつでも止まれるように構えとけ!」

マルコが引き手の男たちに合図を出し、マリーが恐る恐る、小さな両手でミスリルの大槍の端を包み込んだ。

「いくよ……えいっ」

その瞬間だった。

――ヴィィィィィィン……!!

旧道に響き渡ったのは、今まで大人たちが鳴らしていた「ズゴゴ」や「ゴゴゴ」といった荒々しい重低音ではなかった。

耳の奥をくすぐるような、恐ろしく滑らかで、寸分の狂いもない澄んだ高周波の駆動音だった。

「なっ……!?」

寝そべって休んでいたバッカスが、弾かれたように飛び起きた。

「嘘だろ……あのクズ魔石百個が、一切のノイズもなく完全に 同調(シンクロ) してやがる……!」

――スゥゥゥゥゥンッ……

引き手の男たちも驚愕していた。

今までのように「暴れる怪物を無理やり引っ張る」ような抵抗感が全くない。二トンの円柱が、まるで氷の上を滑るように、あまりにもスムーズに泥の上を転がっていくのだ。

「……おい、見ろよ」

マリーの魔力でローラーが通過した後の『道』を見て、サジが信じられないものを見るような声を上げた。

「さっきより……道が、日の光の反射で光ってないか……!?」

誰もが息を呑んだ。

マルコたちが転圧した道も十分に平らだったが、マリーが転圧した部分は次元が違った。土の粒子が極限まで均一に締め固められ、表面に微かに浮き出た水分が太陽の光を鏡のように反射し、キラキラと輝いているのだ。

(……これは超高周波による『 極細(きわめ) 仕上げ』じゃ! 大人の雑な魔力圧と違って、マリーの素直な魔力がクズ魔石の限界性能を百%引き出しとる。最高のオペレーターじゃわい!)

カイトは震えるほど感動し、その美しい路面を見つめた。

「はぁ、はぁ……」

だが、百歩ほど進んだところで、マリーの息が上がり始めた。

約束通り、リーザが優しくマリーの手を大槍から引き離す。

――ピタッ。

ローラーが静かに停止する。

今のマリーの 魔力容量(タンク) では『百歩』が限界だったが、彼女が作り出した百歩分の道は、誰がやったよりも滑らかで、美しい黄金の輝きを放っていた。

「マリーちゃん、すごい! 一番きれいなおみちだよ!」

カイトが満面の笑みで褒め称えると、息を切らしていたマリーの顔に、パァッと嬉しそうな笑顔が咲いた。

「えへへ……マリー、おてつだい、できた……!」

「ああ、とんでもねぇお手伝いだったぜ……」

バッカスが眼鏡を押し上げながら、ため息交じりに呟いた。

かくして、カイトが設計し、運用ルールを決めた『魔導振動コートローラー』による地獄の駅伝は、マリーという最強のフィニッシャーを加え、ついに本格的な軌道に乗り始めたのだった。