軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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そんなことがあった休み明け、エレシアナ学園に戻ってきたメアリはパルフェットと共に教室の椅子に座りつつ、深刻なオーラを放ちながら頭を抱えていた。その重苦しく真剣な空気と言ったらなく、パルフェットが不安そうに眺めつつも声をかけられずにいるほどである。

だがメアリ自身、パルフェットが心配しているのが分かっていてもどうすることも出来ずにいた。

改めて考えて、とてつもなく嬉しい。

時間をおいて、距離をとって、環境を変えて、そうして幾分頭も冷めた状態で改めて冷静になって考えてみると、どうしようもなくアディが好きすぎる。

だがそれと同時に、今までこの気持ちに気付かずにいた自分に不甲斐なさと憤りを感じていた。今更になって思い返してみれば、アディはいつも自分の隣にいて、そして分かりやすくアプローチしていたではないか。

「好き」だの「愛している」だのと言った直接的な言葉こそ使っていなかったが、彼の行動も言動も、思い返せば数えきれないほど、必死に自分に訴えていた。

だというのに疎い自分はそれを悉く聞き流し、独自解釈し、我ながら斜め上だと思えるような返答をしてきた。いや、もうこれは疎いという言葉ではすまされない。それほどまでだ。

あぁ、私のバカ。どうして今まで気付かなかったのかしら。

あれもこれも、少し考えれば分かるものなのに。

それを悉く踏みにじって、おまけに「やりたいことのために結婚」ですって!? 何を間抜けな……あれ、これ私からプロポーズしたってこと!?

「あの……メアリ様……」

恐る恐ると言った声色で名前を呼ばれ、メアリがはたと我に返った。

パルフェットが不安気な表情でこちらを見ている。下がりきった眉尻を見るに、どうやら何度か声をかけさせてしまったようだ。

「あの、メアリ様……どうなさいました? 今日は朝から随分とボンヤリとして……」

「えぇ、ちょっと、自分の愚鈍さと数々の行いを思い返して照れていいやら悔やんでいいのやら、ちょっと穴掘って入りたい気分なの」

「そうですか……。あまりよく分かりませんが、何かとても大変なことがあってお辛いんですか?」

「辛い!? まさか! 辛いことなんて何もないわ、むしろ足のつま先から頭の天辺まで幸せ一色のお花畑状態よ!」

「……なら、どうして?」

「だからこそ、ここまで幸せ浸りなことが申し訳ないやら情けないやら! 自分の恋愛に関する能力の低さに泣けてくるのよ! 恋愛に関してひよっこどころじゃないわ、 殻(から) のついたヒヨコ……いえ、私なんて殻よ!」

わぁわぁとメアリが喚けば、パルフェットの頭上に疑問符が飛び交う。が、それでもメアリを落ち着かせると「とても良いご縁だったんですね」と微笑んだ。

今のメアリは自分自身で理解できない状態に陥っているが、訴えているのは全て「幸せ」なのだ。

「メアリ様がどんな方と結婚されたのか、私とても気になります」

「そうね……貴女にだけでも教えてあげたいんだけど、お母様とそのうえうちの王女様までサプライズだって言ってるのよ」

「ふふ、パーティーを楽しみにしていますね。……あ」

クスクスと嬉しそうに笑っていたパルフェットが何かに気付いたように小さく声をあげた。

その視線を追うようにメアリが振り返れば、カリーナをはじめとする数名の女子生徒達が移動しようとしていた。言わずもがな、全員『ドラドラ』のライバルキャラクターであり、リリアンヌに婚約者を奪われた令嬢達である。

その集団がこちらを……というよりパルフェットを見ている。

対してパルフェットはその視線を受けて僅かに臆するような不安気な表情を浮かべたが、次の瞬間には意を決したかのように勢いよく立ち上がった。だがガタンと盛大に椅子を鳴らしてしまい、それに小さく声をあげて慌てふためくあたりがパルフェットである。

「何かあるのかしら?」

「は、はい……ちょっと話し合いが」

「あらそうなの。話し合いにしては穏やかな空気とは思えないけど」

そうカリーナ率いる集団を一瞥すれば、パルフェットが小さく肩を震わせた。

彼女の反応から、これが「ちょっと話し合い」ではないのは明らかである。だがメアリには詳細を話せないのか、彼女は不安気な表情のまま「話し合いです」とだけ呟いた。

「その……少しだけ、席を外します」

「そう。顔色が優れないようだけど、大丈夫?」

暗に「ついて行かなくて平気?」と尋ねれば、これはちゃんと通じたのか「大丈夫です」とパルフェットが頷いて返した。もっとも、言葉でこそ大丈夫と返しているが、頷くその表情の弱々しさと言ったらない。

これから一戦交えようと闘志を燃やしているあの集団に入れたら、それこそ狼の群に仔羊を放つようなものだ。味方と分かっていても心配するなというのが無理な話である。

おまけに、極度に緊張しているのかパルフェットの足取りはフラフラとおぼつかず、何もない場所で躓くという酷い有様。これにはメアリもお花畑から引きずり出されるというもので、仕方ないと溜息をつきつつ腰をあげた。

そうして一行を追いかけ、本校舎の裏へと向かう。

いくら校舎裏といってもそこは貴族の通うエレシアナ学園、隅々まで手入れが行き届いており、広々とした作りと開けた空間は中庭と言っても差し支えない。もっとも、正式な中庭はここより更に広く、いったい学園生活に何の必要があるのか不思議になる芸術的オブジェや小サロンが備わっている。

そんな中庭より、今はこの校舎裏の方が賑わっているのだろう。今回の『話し合い』をどこかから聞きつけた野次馬達がさも偶然居合わせたかのような顔であちこちに陣取っているのだ。

見上げた野次馬根性だこと……と、メアリが呆れながら彼らの視線が向かう先へと進んでいく。

直視する勇気が無く、それでいて物事の行方が気になるのか、チラチラと一角へと向けられる野次馬達の視線は分かりやすくて追いやすい。

おまけに、メアリが現れるやざわつきが増すのだから、これには呆れれば良いのか怒ればいいのか。そんなことを考えつつ進めば、リリアンヌ率いる逆ハーレムと、カリーナ率いる令嬢達が「これぞまさに!」という空気を纏って対立しあっていた。

張りつめたその空気といかにもな構図と言ったら無く、その一部だけ草木が枯れかねないほどである。到底「ちょっと話し合い」とは言えないその光景に、「うわぁ、入りにくい……」とメアリが内心で呟く。

この中に割って入ろうなどと頼まれたって、むしろ金を積まれたって、それどころかコロッケを積み上げられたってお断りだ。

だからこそひとまず様子見をしようと、会話が聞こえてくる程度に距離をとって集団に視線を向けた。

野次馬達と同化しつつあるのはかなり不服ではあるが、それでも話が穏便に……は無理でも、少なくともメアリが割って入る必要のない程度に済んでくれるのならばそれに越したことはない。

なにせメアリは無関係。リリアンヌに婚約者を取られたわけでもなければ、彼女が没落を引き起こすわけでもない。リリアンヌの言葉を借りるならば『もう』用はないのだから、カリーナとリリアンヌのどちらかに付いて対立に首を突っ込むような野暮な真似をする気はない。

それでもここまで足を運んだのは、対立する集団の中、一人盛大に震えているパルフェットが心配だからである。彼女だけを見れば、勝敗など見届ける必要もないほどだ。だからこそ、彼女に何かあるまでは傍観に徹しようと考え、聞こえてくる会話に耳を傾けた。

覚えのある会話内容は、やはりゲームの通り。

逆ハーレムルートの最終ステージだ。

全てにおいてメアリ・アルバートが敵として君臨し、どのルートでも彼女の糾弾が行われていた前作と違い『ドラドラ』は各ストーリーによってライバルキャラや彼女たちの辿る結末が違う。

パルフェットとカリーナが良い例で、片や主人公と親友になり、片や悪役令嬢没落コースを辿る。

そんな様々なストーリーの中、逆ハーレムルートはと言えば、これまたご都合主義の最たるもので

『全ての男達と友人に囲まれたリリアンヌが、最後まで和解出来なかった一部のライバルキャラクターを糾弾する』

という、子供でも首を傾げそうな 勧善懲悪(ご都合主義) な代物であった。結局の所、制作側のお遊びに近いこのルートにおいてストーリーなど二の次なのだ。プレイヤーも、選択肢や行動を間違えやしないかと攻略サイトと睨めっこでストーリーを進め、最後の 一枚絵(スチル) で達成感を味わう。その程度である。

そのイベントがまさに目の前で行われている。なんとも複雑な気分でその光景を眺めつつメアリがリリアンヌに視線を向けた。弱々しく男達に囲まれ不安そうな表情こそ浮かべているが、果たして腹の中はどうだか。

イベントを引き起こしたことで勝ち誇っているのか……いや、もしかしたらこの集団の中で誰より不安を抱いているのかもしれない。

イベントが起こるにはまだ少し時期が早すぎるし、なによりパルフェットをはじめとする一部のキャラクターとの和解を見事にすっぽかしている。本来であれば糾弾されるのはライバルキャラクターの中の数人のはずが、今は全員がリリアンヌと対立しているのだ。

逆ハーレムルートの内容と、その先にある『とあるおまけ要素』を知るメアリからしてみれば、リリアンヌの手際の良さは成立しているからこそ良いものの、危険な道をあえて歩んでいるようにも見える。

それほどまでに、彼女は急いでいる。

ただでさえ難易度桁違いの逆ハーレムルートを、そのうえ一部の要素を省いて、それほどまでに急がなければならない理由がある。

それはきっとこのルートの先にある何かに、いや、 誰か(・・) に早く出会うために、その出会いが手遅れになる前に……。

茶番だわ。

と、そうメアリが小さく呟き、同情を含んだ視線をリリアンヌに向けた。