軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11―3

厳かに、それでいてカレリア学園始まって以来のサプライズを含んだ卒業式が終わり、生徒達が会場から出てくる。

本来ならば涙する者や卒業を感慨深げに思う者で溢れているはずなのだが、大半は先程の王女登場からアルバート家とダイス家の結託――アルバート家の令嬢は応えるどころか頷くことすらしていないのだが、興奮した彼等にそこまで気付く余裕はない――に興奮冷めやらぬと言った様子で、中には王女と結婚すると知っていてなおパトリックに黄色い声をあげている者さえいる始末。

そんな中、話題の人物でもあるメアリはと言えば、この場の空気に同化できるわけもなく木陰に隠れて呆然と立ち尽くしていた。

「……ギャ、ギャフン!」

「お嬢! ギャフンって言えたじゃないですか、やりましたね!」

目標達成ですよ!と喜ぶアディに、メアリが怨めしそうに彼を睨みつけた。

その瞳が涙目になっていていくら睨み付けても鋭さなど無いに等しいのだが。もっとも、鋭さがあったとしてもこの従者に効果はないのもまた事実。

「なにが目標達成よ! 予想と真逆の結末じゃない! 私の渡り鳥丼屋はどうするのよ、北の大地で渡り鳥が私を待ってるのに!」

「いいや、渡り鳥はお嬢を待ってませんよ、食われますからね。というか何が嫌なんですか、これこそまさに大団円じゃないですか」

「大団円?」

どういう意味、と不満げながらもメアリが首を傾げる。

「アリシアちゃんとパトリック様は結ばれて、晴れてこの国の継承者問題は解決。アルバート家は王家との交友関係を築き、王族の怒りを買う恐れもなくなった。ほら、大団円じゃないですか」

「……まぁ、そうかもしれないけど。でも、私はあんなに頑張ったのに!」

どうしてこうなるのよ!と喚くメアリに、アディがクツクツと笑って返した。

結果的にアルバート家は没落……どころか、王家を支える『忠義の一族』とまで言われ始めていた。

なにせ、夫人キャレルは大罪になることも恐れず同じ母親として王妃を想い、王女に印璽を託した。娘のメアリは己の身分に気付かずにいるアリシアとパトリックの仲を認め、婚約を辞退したのだ。

王家も周囲もこの功績を認めないわけがない。そんな二人がいるアルバート家をいったい誰が没落させるというのか。

むしろ話は徐々に周囲好みに脚色され、今では涙なしには語れない美談にまでなりつつあった。

それこそ、同年代の令嬢達は話を聞くや「メアリ様、自らの気持ちをひた隠しにしてパトリック様との婚約から身を引いたのね…」と胸を熱くしている。当人が聞いたら卒倒しそうなものだ。

元々王家に次ぐ権威を持つアルバート家はこれを以て正式に『王家と並ぶ』家柄に昇格した。それも、王家公認の。

「な、なにそれ……」

アディの説明を聞いて、メアリが呆然と呟いた。

まったくもって自分の進んでいた方向とは真逆なのだ。薄々気付いてはいたが、アディから聞かされたこのうすら寒い美談は予想を超えている。

ドラ学のトゥルーエンド、通称『お花畑エンド』よりもご都合主義でお花畑過ぎではないか。

そんな受け入れ難い現実に、思わずメアリの目尻に涙が溜まり始める。

この一年間の努力――あれでも本人は真面目に頑張っていたのだ――を思い返せば、この長閑な空に反して気分はどん底、「そんなぁ」と呟かれた情けない声が揺らぐ。

「そんな……私の北の大地での生活は……」

「諦めましょう!」

「私の没落のためのあの努力は……」

「没落に関して言うなら全て無駄に終わりましたね!」

「そんな……そんな……っていうかちょっとは慰めなさいよ!なにさっきから止めを刺しにきてるのよ!」

一刀両断してくるアディに、メアリが涙ながらに怒鳴りつける。 が、彼はこの大団円エンドこそ満足だと言いたげで、メアリに怒鳴られようが足を踏まれようが「まぁまぁ」と笑顔で宥めてくる。

その笑顔に、メアリは普段通り毒を抜かれ……は、せず、今回に限っては更に怒りと戸惑いを爆発させた。まぁ、無理もない。

「嫌よ!やだ! どうするのよ、私最後だからってパトリックのお株を奪ってやろうとクラス分けテストで最高点出しちゃったじゃない! 今まで『二位から十位以内を彷徨い、かつ平均するとぶれない五位』を保ってたのに!」

「そんな地味なことばっかしてるから、こういう事になるんですよ」

「こんなの認めないわ!!」

あまりの事態に処理が追いつかないのか、わぁわぁと喚きだすメアリに、アディが宥めつつも苦笑を零した。 ――まるで駄々をこねる子供のような口調ではあるが、今まで築いていたものがまったく別の予想外の成果を成したのだから仕方あるまい――

「良いじゃないですか、大学生活でリベンジしましょうよ」

「……私の渡り鳥」

「それはまた今度。とりあえず、 俺と一緒に(・・・・・) 大学に行きましょう」

ね、とアディが同意を求めると、「一緒に」と強調されたその言葉にメアリが僅かに目を丸くし、次第にゆっくりと表情を緩めていった。

そうして「そうねぇ」と呟く頃には、事態を飲み込めてきたのか随分と落ち着きを取り戻している。

それどころか、小さく笑う余裕すら出来始めていた。

嬉しそうなその柔らかく純粋な笑みは、変わり者の令嬢らしくもアルバート家の令嬢らしくもないが、それでいてアディにとってはなによりメアリらしい笑顔である。

「どこだって着いていくって、俺はそう言ったでしょ。もちろん大学だって着いていきますよ」

「そうね、貴方と一緒なら大学も悪くはないわ」

「それに、俺だけじゃないですよ。ほら」

そう言ってアディが指さす先を見れば、卒業生も在校生も問わずそれどころか教師達にまで囲まれたアリシアとパトリックが、それでも人混みの隙間を縫うようにしてこちらに向かってくる。

アリシアに至っては、「メアリ様!」と嬉しそうに声をあげ、手を振りながら走ってくるではないか。

王家の刺繍を施したドレスがフワと風を受け、金糸の髪に乗せたティアラが揺れる。

それを見たメアリは呆れたように溜息をつき、スゥ…と一度深く息を吸い込むと

「だからみっともなく走るんじゃないって何べん言わせるのよ、この田舎娘が!」

と、なんとも悪役令嬢らしくアリシアを罵倒した。

…END……?

「あれ、お嬢、髪がほどけてますよ」

アディがふとメアリの髪を見て小さく首を傾げたのは、徐々に生徒たちが帰宅し始めた頃。

詳しく言うのであれば、アリシアとパトリックに声をかけられこれからの友情を誓われ、それどころか生徒会役員達にまで挨拶をされ、果てには教師達にまで「大学での活躍を期待しています」等といわれ、メアリが――そしてメアリが被っている猫達が――うんざりして生返事を返す機械と化していた頃である。そんな中で徐々に引いていく人の波に隙を見つけて逃げ出し、さて帰ろうかと自転車置き場――勿論、式典だろうが自転車通学である――に向かっていた。

その矢先にかけられた言葉に、メアリが眉間にシワを寄せた。

「カミガホドケル? 分かる言語で喋ってちょうだい」

「あぁ、有り得ないことに理解が追いついてない……そうじゃなくて、ほら」

そう告げて、アディがメアリの髪先に振れる。

見れば確かに、今日も今日とて美容師泣かせな強固なドリルに対し、まるでその渦から逃れたように一束の髪が垂れている。お世辞にもドリルとは言えず弱々しく、それでいて名残を残すようなその緩やかなウェーブに、メアリが驚いたように目を丸くした。

自分の髪ながら、こんなに緩く垂れる髪を見たことが無かったのだ。いつだって、それこそ寝起きだって、銀糸の髪はグリグリと見事なロールを見せていた。髪を濡らしてもなお、徐々に躙り上がり巻かれる様子に絶望しかけたほどなのだ。

「お労しい……ドリルが緩むほど今日のことがショックだったんですね」

「ドリルにメンタル測る機能なんてついてないわよ。……でも、どうしたのかしら」

変なの、と指先に垂れた髪を巻きつけながら、メアリが不思議そうに首を傾げた。