軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

9―1

「ねぇアディ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど……良いかしら?」

そう、彼女らしくなく控え目に尋ねてくるメアリに、アディが一体何だと首を傾げた。

場所はアルバート家の中庭、時刻は夕食過ぎ。

暗くなりつつある中庭の美しさを眺めながら食後のお茶を優雅に飲み雑談を交わしていたが、なにかを思い出したのかふいにメアリが顔を反らし、先程の一言である。

なにかを気遣うような、言い難そうな、それでも聞かねばならぬと覚悟を決めたかのようなその様子に、アディが「どうしました?」と返した。

「あのね……もしかして、本当にもしかして、万が一なんだけど……」

「どうしたんです?」

「あくまで可能性の話よ? もしかして、かなり低い確率だけどそうなんじゃないかな……って……」

「だから、いったい何の話です?」

不思議そうに促すアディに、メアリが小さく溜息をつき、再度「もしかしてなんだけど」と念を押した。

そうして

「もしかして、私 あの子(アリシア) に好かれてるんじゃないかしら……」

とポツリと漏らしたメアリの言葉に、アディが目を丸くした。

「……お嬢、ようやく現実を直視する気になりましたか」

「いいえ、まだ直視は出来ない。チラ見するぐらいなの、だからオブラート過多の返答をお願い……」

らしくなく弱気な態度を取るメアリに、見兼ねたアディが小さく溜息をついた。

それでも従者なのだから答えないわけにはいかず、「分かりました」と前置きをする。対してメアリは眉間に皺を寄せ、真剣な表情でその返答を待った。

そうして、アディがメアリに告げた答えと言えば

「そうですね。確かに少し仲が良く見えるかもしれませんが、共通の知人が居るわけですし、たまたま行動が一緒になっているだけでしょう」

という、オブラートに包みすぎて逆に飲み込み辛くなっているような返答だった。

「そ、そうよね。それぐらいよね……で、参考までにオブラート抜きの答えも頂戴」

「どう考えても大親友」

「ぐっ……」

先程のオブラート過多どころかオブラートのみの返答から一転した直球ぶりに、メアリがショックを受けたように胸元を押さえた。

どうやら大分ダメージが大きかったようだが、対してアディは言い切った達成感すら感じらせる表情でクッキーを口に放り込んだ。それどころか「唯一無二の大親友です」と追撃をかける始末。

――決してアディがメアリに対して恨みがあるわけでもない、それ程までに傍から見れば彼女達は親友そのものなのだ。もっとも、メアリは相変わらず暴言を吐くのを止めていないが――

だがどうやらメアリにも言い分があるようで、多少ダメージを残しつつも「そもそも……」と顔を上げた。

「そもそも、あの子が異常なのよ……そうよ、私は悪くないわ……私は何も悪くない、ちゃんと悪役やってるわ!」

「悪くないのに悪役ってのも変な話に思えますが」

「だいたいね、私は常日頃あの子を傷付けようとしてるのよ、だから傷付かない方が悪いわ!」

胸を張って斜め上な理論を繰り広げるメアリに、アディが「そうですねぇ」と棒読みながら空になったティーカップに紅茶を注ぎいれてやった。

確かに、メアリの言う通り彼女は常日頃アリシアを傷付けようとしている。といってもゲームのメアリのような姑息な嫌がらせはしないが、暴言の度合いで言えばゲームより勝っていると言えるだろう。

ゲームのメアリはストーリーの合間合間に登場し、「田舎くさい」だの「貧相」だのと決まった言葉を吐くのみなのだ。

あくまで『ドラ学』は乙女ゲームなのだから、悪役の暴言よりヒーローの甘い言葉に尺を割くのは言うまでもなく、おまけに一般年齢向けゆえメアリの暴言にも制限がかかる。

対してメアリはゲームのメアリ同様「田舎くさい」だの「貧相」と言った暴言も吐くし、それどころか一緒にいる時間が長いからそれ以上に酷い言葉も口にしている。

普通であれば傷付くか、もしくはメアリに嫌悪して距離を置きそうなものなのだが……

「この間、あの子が私のこと見つけて走ってきたのよ、だから

『そんな躾のなってない駄犬のようにみっともなく走ってこないでくださる? まだ我が家の番犬の方が理知的だわ』

って言ってやったの、そしたら あの子(アリシア) が何て言ったと思う?」

当時を思い出しているのか、悔しさと虚脱感を綯い交ぜにした表情のメアリに、アディが眉間に皺を寄せて返した。

アリシアに告げたと言うメアリの言葉は暴言も良い所、普通であれば喧嘩になってもおかしくない程だ。アディだって、アルバート家以外の人間に言われたら腹を立てるだろう。

だからこそ、そんな暴言を吐いたメアリが逆にここまで弱っているのが理解できず、いったいアリシアがどう返したのかと思わず真剣な表情で先を求めてしまう。

そんなアディの催促の視線にメアリが一度溜息をつき、ふっと顔を他所に向けた。遠くを見る視線は、十代とは思えない哀愁を感じさせる。

「あの子……

『わぁ!メアリ様の御家はワンちゃんを飼ってるんですね!』

って返してきたのよ……」

「そ、それは流石に……!」

「何が『わぁ!』よ、こっちが逆に「わぁ」よ!」

悔しそうにテーブルを叩くメアリに、アディが掛ける言葉もないと同情の視線を彼女に向けた。

何と言うか、常日頃よく空回る御方だと思っていたがまさかここまでとは……という、労りの気持ちさえ浮かんでくる。それと同時に、アリシアのメンタルの強さにも感心してしまうのだが。

だからといってそれを正直そのまま伝えればいよいよをもってメアリのダメージが限界を超えかねないと思い、アディが「でもまだ挽回できますよ」とメアリを励ました。

心の中では「本当は手遅れでしょうが」と付け足しつつ……。

「そ、そうよね……挽回できるわよね……うん、まだ頑張れる。メアリ・アルバートたるもの、一度ぐらいはあの子を傷つけなくちゃ!」

「そうですよ、お嬢なら出来ます! アリシアちゃんを傷付けられます!」

「うん、出来るって思えてきた! 最終的に無理だったらもう物理でいくわ!」

「物理は駄目です!」

開き直り過ぎたのか「ドリルで突き刺す!」と明後日な方向で決意を新たにするメアリに、アディが慌てて待ったをかけた。

そうしてなんとかメアリを宥め

「そうね、ドリルは流石に駄目ね……というかドリルじゃないし」

というレベルにまで落ち着かせ、改めて二人が向き直った。

メアリがコホンとわざとらしい咳払いをするのは、改まって何か言いたいことがあるからである。あと、先程のドリル発言が恥ずかしいのか僅かに頬が赤いが、流石にアディもそこまでは指摘してやらずに彼女の次の言葉を待つ。

「良いこと、明日お昼から あの子(アリシア) はパトリックと市街地でデートするのよ」

「へぇ、デートですか。よくご存じで」

「ゲームのストーリーと現状を照らし合わせた結果、明日と判明したの。あと本人からの情報提供もある」

「あぁ、相変わらず誘われたんですね」

「……聞かないで頂戴」

そっと視線を外すメアリに、アディが気遣って「失礼しました、お話の続きを」と従者らしく恭しく先を促した。

彼女の態度から、きっと誘われたのだろう。そしてメアリの事だから暴言混じりで断ったのだろうが、今の彼女の哀愁漂う瞳を見るに玉砕したのは言うまでもない。

「それで、デートの邪魔をするんですか?」

「勿論! そういうわけだから、明日は8時に出発するわよ!」

ちゃんと準備しておきなさい!と命じるメアリに、アディが従者らしく「かしこまりました」と頭を下げ……

「8時?」

なんだってそんなに早く?と首を傾げた。