軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

15

「お兄様達、アンナのお母様を捜しだしてくれたのね」

メアリが労いがてら兄達に声を掛ければ、二人がほぼ同時に肩を竦めた。

「あぁ、だけど甘く見ていたな。病院に行けばすぐに見つかるかと思ったんだが、聞けばアンナが居ないことを知って病院を抜け出したって言うじゃないか。その病院も酷いもんで、金がない患者を探してまで看てられないって断言されたよ」

「そんな……!」

「それで三人で探し回って、道の端にうずくまってるアンナの母親を……エレーヌを見つけたんだ。青ざめるどころか土気色の顔してるし、声を掛けても反応は鈍いし、こっちの心臓が止まるかと思ったよ。なぁルシアン」

ラングが同意を求めれば、ルシアンも真剣な表情で頷く。

彼らがエレーヌを見つけたときは相当せっぱ詰まった状況だったらしい。

もとより倒れて病院にいるべき身で無理に抜け出したのだ。体は不調、心は不安が入り乱れ、心身共に歩ける状態ではなかっただろう。娘への思いだけで、這うようにしてアンナを探していたという。

兄達が先に行動していてくれて良かった。そうメアリが感謝を告げれば、ラングとルシアンが誇らしげに胸を張った。

「俺達がついてきて良かっただろ?」

「……俺達だって役に立てるんだ」

「あら、お兄様達は【アルバート家跡継ぎ争奪戦 第一回戦】の最中だったんじゃないの?」

兄達の発言に矛盾を見つけて指摘してやれば、二人が見て分かるほどに表情をひきつらせた。アンナ達の事で頭がいっぱいで、「アルバート家跡継ぎ争いの最中に偶然メアリ達と出くわした」という建前をすっかり忘れてしまったようだ。

陰陽真逆の顔つきだというのに、二人の顔にはそれぞれ「まずい」と書いてある。ちなみに主の危機にロベルトは見て見ぬ振りだ。

まったく、とメアリが小さく笑みをこぼした。なんて頼りがいがあり、それでいて迂闊な兄達なのだろうか。

「お兄様達は偶然シルビノのこの地に来て、偶然エレーヌに出会ったのよね?」

「あ、あぁ、そうだ! 全ては偶然だ! きっと神がメアリを助けるべく、俺達を使ったんだ」

「それで、偶然エレーヌがアンナの母親だと知って、連れてきてくれたのね」

「……そうだ。すべてはきっとメアリの日頃の行いが良いからだ……メアリが奇跡を起こしたんだ……。さてはメアリは奇跡の使い手……」

「それはそれで私が怖くなるわ」

ぴしゃりとメアリが言い切り、それでこの話題は終わりである。

それがまったくの嘘だと分かっていても、兄達は偶然エレーヌを助けてくれたのだ。彼等の功績に免じて、そういう事にしておこう。――美の女神に続いて奇跡の使い手にされるのはあまり気分は良くないが――

メアリの譲歩案にラングとルシアンがほっと安堵の表情を浮かべ、これ以上の言及はまずいと考えたのか、そそくさとアンナ達のもとへと逃げていく。

まるでそれと入れ替わるように、穏やかに微笑みながらロベルトが歩み寄ってきた。本来ならば主人の危機においていの一番にフォローに回らなければならないはずが、この堂々とした態度と言ったらない。

「ロベルトもありがとう。運良く貴方達がエレーヌを見つけてくれて助かったわ」

「えぇ、本当に偶然で驚いております。ですが第一回戦も滞りなく終わりましたので、このあとはメアリ様達のお力になれるかと」

「もう、変な嘘はつかずに最初から素直に協力するって言ってくれればいいのに。……待って、終わったの? 一回戦は終わったの?」

ちゃんと争奪戦はしていたの? とメアリが問えば、ロベルトが品の良い笑顔で頷いて返してきた。にっこりと、なんと見目麗しく、それでいて胡散臭い笑顔だろうか。

次いで彼は上着の内ポケットから一通の手紙を取り出し、メアリへと渡してきた。真っ白な質の良い封筒、しっかりと封蝋もされている。

だが封蝋の家紋は見覚えのないもので、メアリがこれは何かと首を傾げた。

「ロベルト、これは?」

「一回戦の戦利品、といったところでしょうか。メアリ様に差し上げます」

「戦利品と言われても……。というかなんでロベルトが持ってるの? もしかして、いつまでも勝敗を着けないお兄様達にしびれを切らして、ついに謀反を……!」

メアリが疑いの視線を向ければ、ロベルトが小さな笑みをこぼす。

なんとも優雅な笑みではないか。といってもさすがに謀反は起こさなかったようで、「ご冗談を」と軽くメアリの言葉を躱してしまった。――日頃の彼の態度が謀反同然と言える気もするが――

そうしてそっとメアリへと顔を寄せると、「一回戦の内容は……」とこっそりと耳打ちして教えてくれた。

その内容に、メアリが目を瞬かせた。

だが次第にロベルトの言わんとしていることを、そして兄達の考えを理解し、にんまりと笑みを浮かべる。

受け取った手紙を自らの上着にしまい「充実した一回戦だったのね」と告げれば、ロベルトが「えぇ、良いものを見させて頂きました」と満足そうに頷いた。彼の笑みは悪巧みの気配を隠し切れていないが、今のメアリも同じようなものだろう。

「それじゃ、私達は話し合いに挑ませてもらうわ。ロベルトは疲れてるでしょうし、お兄様達と一緒に別室で休んでいてちょうだい」

「お心遣い感謝いたします」

「それで、出来ればアンナの面倒を見ていて欲しいの。どんな話し合いになるか分からないけど、あまり子供に聞かせられるものじゃないでしょ?」

「そうですね。先程からアンナが『こてんぱんでうばいとる』と言っているあたり、物騒な話し合いになりかねませんね」

「……パトリックってば、子供の前で物騒な言葉は使わないでほしいわね」

しれっとパトリックに全責任を押しつけ、メアリがアンナへと視線を向ける。

泣きやみこそしたがいまだ母親にしがみついているあたり、エレーヌも別室で待っていてもらった方がいいだろう。ようやく再会を果たせた親子を再び引き離すのは酷と言うもの。

兄達もエレーヌを気遣っており、彼女達の事は任せても問題なさそうだ。

「それじゃ、お待たせするのもなんだし行こうかしら。ねぇアディ。……アディ?」

先程から何も言わないアディを案じてメアリが彼を見上げる。

見れば錆色の瞳を細めてアンナ達の再会を見つめている。安心したようで、どことなく歯がゆそうな表情だ。

どうしたのかとメアリが腕をさすれば、ようやく気付いたのかパッとこちらを向いた。錆色の髪が揺れ、誤魔化すような作り笑いはどことなくぎこちない。

「アディ、大丈夫? 貴方もロベルトと一緒に席を外していたほうがいいんじゃない?」

「いえ、俺はお嬢と一緒にいます。……ですが、アンナを見ていると、どうして父親は妻と娘を残して去れたのかと不思議でならないんです」

「……アディ」

「領主もですが、俺はアンナの父親の方がこてんぱんにしたいですね」

口調こそ穏やかさを保ってはいるものの、アディの瞳が鋭くなる。色濃い錆色の瞳は、まるで燃える炎のようだ。

「気持ちは分かるわ。……でもまずは領主をこてんぱんよ!」

やるわよ! とメアリが意気込む。冗談めかして「この別荘も奪い取りましょう」と煽れば、険しい表情をしていたアディが苦笑を浮かべた。

どうやら多少は気が晴れたらしい。もしくは、ひとまず怒りの矛先は領主に向けるべきだと考えたか。

「さぁ、行きましょう!」

そうメアリが一行に声をかけ、ふとアリシアへと視線を向けた。

アンナとエレーヌを見つめる瞳は真剣そのもので、紫色の瞳の奥には様々な感情が渦巻いているのが分かる。自身も親と引き離された過去があるからこそ、この再会を喜び、そして憤っているのだ。

だがメアリに気付くと穏やかに微笑み、落ち着きのある声で「行きましょうか」と促してきた。

普段のやかましいアリシアではなく、今の彼女はアリシア王女だ。

ならばとメアリも彼女に対して頭を下げた。己の銀の髪が視界の隅ではらりと落ちるのが見える。

「参りましょう、アリシア王女」

そうメアリが告げれば、アリシアが澄んだ声で「えぇ」と返してきた。