軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24

いよいよその時となり、メアリが会場の中央へと進む。

周囲の視線が自分へと注がれているのが分かる。とりわけ熱く視線を向けてくるのはケーキを片手にしたアリシアとパルフェットだ。

二人は身を寄せ合いメアリの『発表』を今か今かと待ち望んでおり、その背後にはパトリックとガイナスの姿もある。

メアリからの発表があることは、それとなく周囲に伝えて貰うように友人達に頼んでおいた。彼等に加え兄達やロベルトも動いてくれたおかげで、会場内はシンと静まりメアリの次の言葉を待っている。

そんな視線を一身に受け、メアリは深く息を吸い込んだ。

不安に駆られるが、そんな不安は片っ端から腰に添えられたアディの手が消し去ってくれる。

そうして通る声で「皆様にお知らせしたいことがあります」と告げた。

「私には、皆様に無い前世の記憶があります!」

メアリの発言を最後に、会場内がシンと静まり返った。

メアリが思い出したのは前世の記憶、それも前世でプレイした乙女ゲームのものだ。アリシアという主人公をプレイヤーが操作し、攻略対象者である男性キャラクターと恋に落ちるゲーム。

それをすべて打ち明けた。

といってもゲームについて詳しくは話さず、『前世の創作物』と説明しておく。ゲームだのルートだのをこの場で話しても理解出来る者はそういないだろう。余計な混乱を招くだけだ。――よく分からないけどメアリが言うならそうなのだろう、などというふわふわした理解で終わらすのはアディぐらいである――

その『前世の創作物』には、カレリア学園での出来事、アリシアの出生について、エレシアナ学園の騒動、ベルティナとの一件……それらが記載されており、メアリは知識として起こり得る事を知っていた。

未来予知とでも言うのだろうか。メアリ自身、話していても不思議なことだと思う。だが事実、メアリの前世の記憶通りに物事は進んでいたのだ。

それらを話し終えれば、会場内は再びシンとした静けさに包まれていた。時折あがったざわつきも今は無く、呆然とする者、困惑を隠しきれず顔を見合わせあうもの……と反応は様々だ。

息苦しいほどの沈黙に、メアリが生唾をのんだ。その音さえも響きかねないほどに静まり返っている。

だがそんな沈黙を破ったのは、「どうして」という声だ。

一瞬にして会場内の視線が声の出先へと向けられる。

そこに居たのはマウロ。彼は驚愕の表情を露わに、数歩近付くとメアリを睨みつけた。

「どうして、こんな……。公表なんて馬鹿な真似を……!」

「どうしても何も、隠すことでもないでしょう? 私は私、前世の記憶があろうがメアリ・アルバートである事に変わりはないのよ」

「だからって、こんな場で……」

「この場だからこそよ。公表するなら一人でも多く知って貰わなきゃ、弱味と勘違いされて脅されるなんてたまったものじゃないわ」

マウロを睨みつけてメアリが断言する。

それを聞いてようやく周囲にざわつきが戻ってきた。

いまだ困惑しどういうことかと尋ねあう声や、メアリの啖呵をさすがだと誉める声。メアリの言葉からマウロが脅していた事を察し、愚かな事をと呆れる声すら聞こえてくる。

そんな声を聞きつつ、メアリは落胆するマウロを一瞥した。

「落ち込んでるところ悪いけれど、そもそも私を脅すこと自体が間違えているのよ」

「間違い?」

「そうよ。貴方、私が前世の記憶の事を誰にも言わずに隠していると思っていたのよね。だから脅したんでしょう?」

「あ、あぁそうだ。周囲に言われたら困るだろう、こんなこと……」

「残念だったわね、私はそんなこと知られてもどうってことないの。それに……」

言いかけ、メアリが隣に立つアディに寄り添った。

仲を見せつけるために擦り寄れば、メアリの意図を察したのかアディも抱き寄せてくれる。彼の肩にぽんと頭を預けてマウロを冷ややかに見つめた。

「それに私、アディにだけはずっと前から、それこそ前世の記憶を思い出した次の瞬間にはすべて話していたのよ。残念だけど、恋も愛も秘密の共有も、アディとだけ」

そう断言すれば、マウロが唖然とし……そして肩を落とした。

どうやら自分の勘違いを理解し、そして自分の策が失敗に終わったと理解したのだろう。

慌てて彼を呼びよせるのはノゼ家の者だ。随分と必死な様子で割って入り、メアリとアディには愛想笑いをしてマウロを連れ去ろうとする。

誰だって自分の息子がアルバート家次期当主候補に異論を唱えていれば止めるだろう。それもメアリの言い方ではマウロがメアリを脅していたというのだから、彼等の親族はさぞや青ざめたに違いない。「これ以上馬鹿な事をする前に連れ戻さねば」と考えて当然だ。

だが父親に腕を取られて連れ去られる最中、俯いていたマウロが勢いよく顔を上げた。

「お前だけその知識を利用して、卑怯じゃないか! 俺にはなんの役にも立たなかったのに……!」

「そんなの、貴方がマウロ・ノゼに産まれてきたからでしょう? 前世の記憶はあくまで記憶、現状は貴方が導いたものよ」

「本当ならアルバート家は没落していたはずなのに! 皆様! 彼女は前もってアリシア王女の出自を知っていて、恩恵を得るために近付いたんです! エレシアナ大学の騒動だって事前に止められたのに、全て知っていて傍観していたんだ!」

それを卑怯だとマウロが訴える。必死な形相で、時折は声が裏返り、制止する家族の声も聞かずに。

そんなマウロを、彼の家族が連れ去ろうとする。家族からしてみれば、マウロの訴えの内容などどうでもよく、アルバート家に害をなす息子をいち早く連れ出す方が重要である。

とりわけパーティーのど真ん中なのだから、息子の負け姿を晒し、はてには負け犬の遠吠えを披露するのはノゼ家の名に傷を付けるだけだ。

マウロが訴えつつ親族に強引に連れていかれる。その姿は情けなく、周囲は声を掛けることもなく冷ややかな視線だけで彼等を見送る。

そうしてマウロの姿が見えなくなると、メアリは小さく安堵の息を吐いた。

彼に同情する気もなければ、ノゼ家のためにフォローを入れてやる気もならず、去っていったその先を見つめるだけだ。

今のメアリにはマウロよりも気に掛けるべきものがある。

それが……。

「メアリ様、今のお話……」

と、上擦った声で尋ねてくるアリシアだ。

彼女の隣にはパトリックも居り、もちろんパルフェット達もいる。

誰もがみな困惑を露わにし、歩み寄ってくるアリシアの足元は些か覚束ない。

メアリと同じく前世の記憶をもつカリーナとベルティナが不安そうに見つめてくるのは、メアリのこの判断を案じているからだろう。もしも事前に彼女達に相談していたら、きっと「やめた方が良い」と声を揃えて言ってきたに違いない。

だが一度口にしてしまったことは撤回できないし、決意のもと話したことを撤回するなどメアリの主義に反する。

なにより、アリシア達を信じているのだ。前世の記憶があると知っても彼女達は変わらずにいてくれると、『今に至るメアリ・アルバート』を好きでいてくれると、そう信じている。

「アリシアさん、今の話……聞いてくれたのよね?」

「え、えぇ……もちろんです……。メアリ様は前世の記憶があって、そこですでに私の事も、私が王女だということも知っていて……」

それで、えっと……とアリシアがなんとか言葉を紡ごうとする。

だが理解が追いついていないようで、何か言おうとしているが言葉にはならず随分ともどかしそうだ。

そんなアリシアを見かねたのか、パトリックが優しくその肩を叩いた。自分が代わると言いたいのだろう。

「メアリ、正直に言えば君の話は何一つ信じられない」

「そうでしょうね。私だって別の人がこんな話をすれば、何を馬鹿なと笑い飛ばしていたわ」

メアリが自虐的に笑って言い切る。

『前世ではこの世界での出来事が創作物とされていて、未来に起こる事が分かっていた』などと、誰が信じられるというのか。冗談にしても笑えない。

現にパトリックは怪訝そうな表情を浮かべている。その顔は随分と険しく、声に出さずとも「いったいこいつは何を言ってるんだ」と彼の声が聞こえかねない。

幼馴染みであり幼少時から共に過ごしたパトリックのこんな怪訝な顔、メアリは初めて見る。

……わけではない。

割と頻繁に見ている。

それこそ前世を思い出す前から。というか昨日も一昨日もこれに近い顔をされた気がする。

「不思議ね。私を疑い『いったいこいつは何を言ってるんだ』と言いたげな貴方のその表情、なぜか昔から記憶にあるわ」

「確認するが、前世の記憶とやらで予知出来たのは高等部の頃からなんだな」

「えぇそうよ。具体的に言うなら、アリシアさんが転入してきてから、ベルティナさんとの一件までね」

「そうか、それなら安心してくれ。俺はそれより前から常々きみに対して『いったいこいつは何を言ってるんだ』と思っていたからな」

あっさりと言い切るパトリックの言葉に、メアリが「これも友情ね」と断言した。友情ということにしておこう。幼馴染みだからこその理解の深さだ。

現にパトリックはキラキラの目映い笑顔を浮かべ、

「俺の君に対しての印象は変わらないよ」

と言ってきてくれた。

なんて眩しく爽やかで、それでいて妙に胡散臭い笑顔だろうか。いったいどういう印象なのか、聞く気になれない。

だがこれも友情だ。

そうメアリが結論付けると、ようやく理解したのかアリシアが「メアリ様は……」と声を掛けてきた。