軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

隣国の名家当主は追加ポイントをご所望…です?2

「まぁ、バルテーズ家でそんなことが。それは大変でしたわね」

労いつつ優雅に微笑むのはカリーナ。

普段より冷気をだいぶ控えめにしたその微笑みに、ガイナスが僅かに安堵しつつ頷いて返す。

「ですが委任状なら確かに効力はありそうですね。ガイナス様がエルドランド家として筆頭になってくださるのなら無碍にはされないでしょう。私からも父に頼んで協力させて頂きます」

穏やかに微笑み、カリーナが父である当主への伝言をメイドに命じる。

それを聞き、パルフェットが嬉しそうにカリーナの協力に感謝を告げた。そうして徐にテーブルクロスをめくり、ひょいと中を覗き込む。

「貴方の協力は結構ですのよ!」

「パルフェット、テーブルの下に話しかけるのは止めよう」

まるでそこに誰か居るかのようなパルフェットの行動に、ガイナスが顔を真正面に向けたまま――けして視線を落とさないよう――宥める。

次いでガイナスが視線が向けたのは、カリーナの隣で話を聞いていたマーガレット。

「そういう事でしたら、戻りがけにブラウニー家にも寄ってください。他でもないメアリ様の為ですもの協力します。それにダイス家とは親族も同然、むしろ秒読み段階、あと一手ですから」

さり気なく恋人との仲をアピールするマーガレットに、ガイナスも感謝の言葉を返す。

カリーナもマーガレットも名家の身とはいえあくまで令嬢、家名を担う権限を持っているわけではない。それでも二人から話をすれば父親である当主達も頷いてくれるだろう。

良かった、とガイナスとパルフェットが顔を見合わせた。これで委任状の効果はより強くなる。そう安堵するなか、再びパルフェットがひょいとテーブルクロスを捲った。

「カリーナ様もマーガレット様もなんてご立派なのかしら、誰かさんと違って!」

「パルフェット、俺のクッキーを食べていいから、テーブルの下に嫌味を言うのは止めよう」

「まぁガイナス様、ありがとうございます。……貴方の分のクッキーはありませんのよ!」

「パルフェット、だからテーブルの下に話しかけるのはやめてくれ。俺の中では誰もいないことになってるんだから」

けしてテーブルの下を覗くまいと不自然に顔を上げたまま話しかけるガイナスに、パルフェットが「そうですね」と穏やかに微笑んだ。

カリーナとマーガレットがこの件について一切口を挟まないのが恐ろしいところだが、もちろんガイナスがそれを言及するわけがない。

「と、とにかく、お二人の協力が得られるのは有難い」

ガイナスが改めて礼を告げれば、マーガレットが大仰だと返した。

それどころか、自分達の方こそ礼を言いたいと話す。隣国の噂は当然ながらマーガレット達の耳にも届き、何か出来る事は無いかと二人で考えていたところだったという。

「エルドランド家であれば、お父様達も家名を託すに異論は無いと考えるはずです。考え行動してくださったガイナス様には感謝を……五ポイント差し上げます。ねぇカリーナ様」

「えぇ、個々に動くより一丸となった方が影響力もあるはず。筆頭して頂くことに感謝代わりの一ポイント差し上げます」

「はぁ……。あ、ありがたく頂戴しておきます……?」

マーガレットとカリーナからもポイントを貰い、ガイナスの表情に困惑の色が浮かぶ。

そんな彼を見つめるパルフェットの意地悪気な笑みと言ったら無い。ニンマリとしたその笑みと未だ怪訝そうなガイナスを交互に見て、カリーナとマーガレットがもしやと顔を見合わせた。二人の表情は言葉にこそしていないが「もしかして話してないの?」と言いたげだ。

だがしばらく見つめ合った後二人揃えてうんと頷き合うのは、「まぁこの二人の事だから」「そうね、放っておきましょう」という無言のやりとりがあっての事である。

パルフェットとガイナスはいまだ婚約状態ではあるものの、実質結婚したも同然。新婚夫婦顔負けのいちゃつきを常日頃見せつけてくれる。

そんな二人なのだから、放っておいても問題ないだろう……と。

もちろんこれには『下手に言及して二人の惚気に巻き込まれたらたまったものじゃない』という思いもあっての事だが。というより、そちらの考えの方が大きい。

そうしてしばらく雑談を交わし、委任状にまた一つ家名が加わると、ガイナスとパルフェットはその場を後にした。

その後も縁のある各家を回って協力を仰ぎ、エルドランド家に戻ったのは既に夜更け。

完成した委任状を使いに託そうとし「手渡しするべきです!」と引っ手繰って駆け出すパルフェットを慌ててガイナスが追いかけ、結果二人で馬車に乗り込み出発する事になった。

既に周囲は暗く、宿が見つかれば良いが最悪馬車の中で一泊になりかねない。だがそれを話してもパルフェットは頑として「手渡しします!」と譲らず、ガイナスが根負けし肩を竦めた。

「そうだな、手渡しが一番だ。宿があれば泊まって、明朝出れば早いうちにダイス家に着くだろう。パトリック様にお渡しすれば上手く役立ててくださるはずだ」

「メアリ様にお渡しするのではないんですか?」

「俺も最初はメアリ様にと考えたんだが、どうやら明日アリシア様についての審議会が開かれるらしい。アルバート家の代表として出席されるのはもちろんご当主だろう」

メアリはあくまでアルバート家の令嬢であり、最終的な決定権はアルバート家当主にある。委任状の全権限を託す先に彼女の名前ではなく家名を書いたのもそれを考慮しての事だ。

メアリに委任状を渡したところで、それを持って審議会に向かうのは彼女の父親。ならばパトリックに託しても同じ事だろう。むしろ互いの事情を知っている彼の方が話が早い。

「もちろんパトリック様にお渡しすることは各家にも話している。了承のうえだ。それに、今のパトリック様のお気持ちを考えると……」

言いかけ、ガイナスが眉間に皺を寄せた。

アリシアが偽の王女ではと素性を疑われ、それを担ぎ上げたのではとダイス家まで疑われている。伴侶と自身にかけられた疑惑、そんな中で各家当主や重鎮達が揃う審議会……。

今のパトリックの心理的負担は相当なものだろう。同じ立場に立たされたら……とガイナスが考え、眉間の皺をより深くさせた。考えただけで足がすくみ逃げたくなる。

この委任状がどれほどの効果をもたらすかは分からないが、それでも無いよりはマシ、少しでも彼の支えになってくれるはずだ。審議会に挑むその背を押すぐらいは出来るだろう。

そうガイナスが話せば、パルフェットがジッと彼を見つめ……穏やかに微笑んで頷いた。

エルドランド家当主として動いた彼を立派だと思っていたが、その根底にあったのは当主ではなく一個人としての友情だったのだ。なんて素敵な話ではないか。

「ガイナス様、五ポイントです」

「基準がよく分からないが、受け取ろう。ところでパルフェット、そのポイント制について俺だけ何も知らないんだが、いい加減教えてくれないか?」

「残念ですが、説明は百ポイント到達記念だと決まっております」

「そ、そうか、決まってるのか……。よし、なら貯めよう。ひとまず百ポイントだな」

今一つピンとこないが、目標を得たとガイナスが意気込む。

そんな彼を見上げパルフェットは楽しそうに笑い、ガタと揺れた馬車の振動に便乗して彼に寄り添った。逞しい手がそっと肩に触れ、支える……と見せかけて抱き寄せてくる。

「パ、パルフェット……、その、今回の事が落ち着いたら、そろそろ結婚を……」

「まぁ、ガイナス様ってば……!」

「駄目か? まだ早いと言うなら、いつまでだって待つが」

「もう……そんな大事なことを今言うなんて、それに気が早すぎます!」

「そ、そうだな。きちんとした場で言うべきだな」

「プロポーズは五千ポイント、返事は一万ポイント、結婚は二万ポイントに到達してからです!」

「分かった頑張って貯めよう!!」

意気込むガイナスに、パルフェットがポッと頬を染めて彼に擦り寄る。「頑張る姿に五ポイントです」という言葉は甘く愛らしく、ガイナスが抱き締めキスをしようとし……「減点するか?」と念のため確認した。

うっとりと頬を染め、瞳を閉じるパルフェットの返事など聞くまでもないのだが。

後に二人の話を、もとい惚気話を聞いた……もとい惚気話を聞かされたメアリはこう呟いた。

「そもそも、二万ポイントで結婚って予定立ててるんだから、プロポーズを受けたようなもんじゃない」

これに対してパルフェットは「それは言わないでください!」と顔を真っ赤にしながら震えて訴え、既に気付いていたガイナスに至っては取り繕えないほどににやけていた。