軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六十七話

ノドンの置き土産とも言える苦境に陥った女の子たちと、獣人たちによる畜産を組み合わせる離れ業。

理屈としてはうまくいきそうだったが、健吾と話している段階では、実際にどうなりそうかまったく未知数だった。

そこでマークスを通じて裏町の娘たちの話を聞き集めてもらって、ほどなく予想は確信に変わった。

特に、借金のかたに娘を差し出すほかなかった市民たちからの話によって、そう思った。

彼女たちは例外なく家を追い出されていたが、その親も憎くてそうしたわけではない。名誉ある市民として、そうせざるを得なかっただけなのだ。

それゆえに、娘が再び名誉を取り戻せるかもという案に対し、いくらでも金を出そうという者たちが多かったし、なによりも、ノドン追放の後に彼らの借金をほとんど棒引きしたという実績が、彼らが自分たちの計画を信用してくれた理由かもしれない。

おかげで、修道会を立ち上げる初期費用は賄えそうだった。

そして、最も重要な、当事者の女の子たち。

修道会にて敬虔なる修道女として過ごしたのなら、過去の行為は不問にされ、さらには文字の読み書きも学んだ上で、名誉ある市民として再び町の中に戻ることができると思うが、どうか。

ただしその修道会では勤労が旨とされ、獣人の育てた家畜の肉を取り扱うことになるが……。

当の女の子たちの反応は、はっきりしていた。

元の生活に戻れるのなら、豚や鶏を掻っ捌くくらいなんでもないと。

獣人たちと血まみれで仕事をする? そんなの味わってきた辛酸に比べればなんでもないわ、どんとこい! とばかりに。

それに彼女たちのほとんどは、そもそもが獣人たちに好意的だった。

同じように辛い境遇にいる者として、親切な獣人に助けられたことが一度ならずあるらしい。

こうして、計画はとんとん拍子で進んでいった。

町の外で使われていなかった農作業用の小屋兼住居を見つけ、その買い付けや改装の手配を終えた。その一方で、クローデルらと修道会設立のためのややこしい取り決めやらをして、裏町に行かざるを得なかった娘たちが、再び表通りに戻ってこれるような道筋を立てていった。

ドドルにも事情を話し、教会と手を組むような格好となるが、クルルの事例を思い出してくれと言って、了解を取り付けた。教会の軍門に降るのではなく、連中をうまく利用するのだと。

それに当の修道会に入る女の子たち自身、辛い運命に翻弄されても一向に神は助けにきてくれなかったのだから、今更神を敬う者が何人いるかわからないと言えば、ドドルは巨大な肩をすくめていた。

そもそも現実的なところのあるドドルにとっては、畜産でどれだけ仲間の仕事と食料を確保できるか、ということのほうが大事なのだ。

こうしてすべての仕事を終え、娘たちの第一陣を修道院予定の建物に案内した時のこと。

理不尽な運命を受け入れるほかなく、諦めきっていた娘たちから、熱烈に感謝された。

抱きつかれ、口づけをされ、もみくちゃにされる間、誇らしい気持ちがなかったと言えば嘘になる。

しかしその後のクルルの冷たい視線と、イーリアの笑っていない笑顔によって、自分の背中は小さく丸まってしまうのであった。

「ずいぶんな御身分ね?」

雨のように降り注ぐ口づけ、なんて表現があるが、あまり大袈裟でもなかった。

こちらの乱れた髪と、よれた服の襟をちょっと指でつまんだイーリアは、まるで嫁をいびる姑みたいな顔をしていた。

「クルル、どう思う?」

「男がどれだけ阿呆かはよく知っていますから、私は気にしませんよ」

ならば尻尾の毛を逆立て、話すときに歯茎が見えるくらい牙を剥くのはやめて欲しいと思うのだが、当然クルルにそんなことを言えば、喉を噛み切られるだろう。

「というか、ケンゴの奴はどこに行ったんだ?」

健吾の賢さは、こういう時に発揮される。自分は特になにもしていないから、晴れ舞台に立ち会うのは遠慮する、なんて言っていたが、獣人側の調整をしてくれたのは健吾だし、若干立場の怪しいマークスに代わって名誉ある市民の親たちに事情を説明しに行ってくれたのも健吾だ。

けれど賢い健吾は、危機管理能力に優れていた。

なんなら感謝してくる女の子の中にお気に入りがいるなんて知られたら、クルルとイーリアからどんな目を向けられるかわからないと思ったのだろう。

「家畜小屋の建設の、打ち合わせをしにいってます……」

嘘でもないのでそう告げると、勘の鋭そうな少女二人は、目配せと尻尾の動きでなにやら会話をしていたが、特にそれ以上の追及はしなかった。

「まあ、一件落着でよしとしましょうか」

すべての女の子たちを助けるのはまだ難しい。中には島にすらいられず、海を渡って州都に向かってしまった子たちもいるからだ。この後の州都行きでは、彼女たちの捜索と、島に戻ってこれるのだと告げる仕事も請け負った。

けれども大きな一歩は得た。

領地の食肉生産量は間違いなく跳ね上がるし、ノドンの置き土産はいつか全て片付けられるはず。

クルルはイーリアの言葉にやや不満そうではあったが、主人に忠実なのがこの従者のいいところだ。

「なら、飯にするか」

クルルは腕を組み、こちらを見やる。

「……お手伝い……させてもらっても?」

クルルが料理を振る舞うのは、主人とその客人のみ。

だから厨房で手伝えるのは――。

「当たり前だ!」

クルルはそう言って、こちらの頭を叩く。

「お前は「私たちの」仲間だからな!」

きらびやかな娘たちにちやほやされているのを見てのやきもち、と呼ぶにはいささか過激すぎるが、縄張りの内側にいるのだと思われているのであれば、喜ぶべきだろう。

どちらかというと子分を取られそうになって怒っているガキ大将に見えるのだが、それはそれでいいかとも思う。

「ところで、ヨリノブさん?」

大股に歩いて屋敷に戻るクルルの後を追いかけていると、すすっと近寄ってきたイーリアが、わざとらしくヨリノブさんなんて言った。

「それで、ケンゴのお気に入りは誰なのかしら?」

好奇心に尻尾をぱたぱたさせたイーリアの問いに、自分はどうにか黙秘を貫いたのだった。