軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百三十四話

「ヨ、ヨリノブ殿は……では、こ、交易特権かなにかを、欲していると?」

「まさにそうです。それに、いずれの品も大規模に手に入れたいのです」

「大規模?」

「はい。ですから人員を用意して、開発を行って、産出の規模を拡大したいのです。このようなことは、土地の領主様たちの許可なくできないことかと」

「う、む、それは……うむ……」

「また他にも、北の海で捕れた魚を燻製にするための作業場などを、大々的に建設したいのです。魚の脂の圧搾場や、できれば岩塩などもあればよいのですが、どうでしょう? 場合によっては硫黄などでもいいのです。それから、ええっと、あ、そうそう、水銀や鉄鉱石など――もがっ⁉」

話しているうちに興奮して、あれもこれも説明しないとと前のめりになっていたら、後ろから口をふさがれた。

「とにかく、お前らが儲かるような仕事をやるから、その都度、奴隷になってる獣人たちを解放してくれってわけだ。ついでに、お前らの領土で私らが好き勝手やれる許可が欲しいんだよ。その代わり、分け前は渡す。そういう話をお前の所の王に伝えて欲しい。なんなら――」

と、こちらの口を塞いでいた手を離しながら、クルルは言った。

「王に言うことを聞かせられそうな奴らを教えろ。誰と誰を引き込めばいい?」

アマクはクルルを見て、こちらを見て、もう一度クルルを見てから、顎を引いた。

「だ、第一王子と第二王子が、宮廷の政治を動かしているが……父上が……いや、王が、主に部族間の調整をしていて……我らも、各部族に命令するのは難しく……えっと……」

アマクの声がどんどん小さくなっていくのは、クルルの機嫌が悪くなっていくからだ。

ヨークンを振り向くと、ヨークンは軽く笑って、はっきり話さない男のことが大嫌いなクルルの肩を叩いている。

「王家といえど各部族の領土は自由にできず、土地の品で交易を行うかどうかは、各部族の判断に任せるほかないって感じなんだろ」

ヨークンの言葉に、アマクが救われたようにうなずいていた。

「それでも帝国中央から属州を治めるよう指名されているのがルザード王家だから、属州に広く影響する法律は、王家の宮廷で審理される。特に帝国と関係するようなやつはそうだろう。で、奴隷交易の話はその両方に関わっているからややこしい。そんなところだろ」

アマクが無言で、強くうなずいている。

「だから大宰相殿が各部族と交易して、欲しい品物を手に入れるだけなら、その品物を取り扱う土地の奴らを引き入れればどうにかなる。逆に俺たちの目的である奴隷交易の停止は、帝国の政策に関わることだから少なくともルザード王家を説得する必要があるが、周りが従うかまではわからんのだろう」

ヨークンがそこまで言うと、アマクは今にも泣きそうな顔をしてうなずいていた。

さすが各地の領地を転戦し、様々な領主の下で戦ってきた歴戦の冒険者だ。

ただ、そこに言葉を挟んだのは、フードの奥で緑色の瞳を拗ねたように眇めているクルルだった。

「じゃあ、どうするんだ?」

そう。どうするか。

当初の予定では、ヴォーデン属州の支配者に奴隷交易に代わる交易を提示して、ふたつのものを入れ替えるように、奴隷交易を停止させるつもりだった。

そうすれば、奴隷交易停止による損が緩和されるし、帝国の政策である西へ向けた進軍のための戦費調達も妨げられない。

けれどヴォーデン属州というのは緩やかな部族連合のようなもので、頭を抑えればすべてがついてくる感じではなさそうだった。

アマクの雰囲気からすると、むしろ反抗的な部族だらけという感じさえする。

それらすべてに武威を見せて説得する、という選択肢もなくはないが、征服と見なされる恐れがある。

となると、あくまで内部からの改革の体を取ってもらうため、ルザード王家に戦力を提供し、彼らに属州内を平定してもらうべきか?

ただ、戦略シミュレーションゲーム上ならともかく、ここには生きている人たちがいて、たくさんの生活がある。内戦を煽るようなことは、どうしても正しいと思えない。

獣人たちを奴隷から解放するのは善だろうが、そのために市井の人々の生活をどん底に落としていいわけではないのだから。

それに、内戦の混乱を尻目にヴォーデン属州の資源をせっせとジレーヌ領に運び込んでいる自分たち、というのを想像してみればいい。

完全に悪しき帝国主義者だ。

自分はヴォーデン属州に傀儡国家をつくりたいのではないし、イーリアもそんなことは望んでいないはず。

イーリアが奴隷の件を自分に託したのは、苦しんでいる獣人たちを見て、素直な反応として、彼らを助けたいと望んだから。

では、どうすべきか。

虻蜂取らずになるのを避け、目的を絞るべきか?

ヨークンの口ぶりとアマクの反応からは、資源の交易だけならばどうにかなりそうだ。

そして儲けがあがるのなら、個別に各部族を説得することで、奴隷交易を徐々に無くしていくことはできるかもしれない。

ただ、とクルルを見る。

このクルルとイーリアを前に、奴隷制度を廃止できると大口を叩いてきた。

なによりも、クルルの手には、それをさっさと実現できるだけの力がある。

自分が慎重論ばかり唱えていれば、きっといつか爆発する。

なにかもう少し、うまくやれないだろうか。

そう考えているところだった。

「ヨ、ヨリノブ殿」

アマクが話しかけてきた。

「そ、そなたらは奴隷交易を止めるのと同時に、その……なにか交易をしたいと、そう言っていたな?」

返事が一拍遅れたのは、アマクの顔に、決死の色があったから。

「はい。ただ、先ほどの話だと――」

自分が懸念を口にしかけると、アマクは懸命に、首を横に振った。

「そ、それならば、ヨリノブ、殿。我が母上に、会ってはくれないだろうか?」

「え?」

アマクの母?

帝国中央の没落貴族で、どんな経緯なのか属州にやってきたという。

アマクの父はルザード王だろうから、母を通じて王を説得するということだろうか?

自分のそんな予想は、意外な言葉で裏切られた。

「我が母上は……貴族らしからぬと評判なのだ」

「と……おっしゃいますと?」

「母上は領地運営に非常に熱心で、その……商人のように、商いの話ばかりしているのだ。属州のあちこちにある特産品で儲けられないかだとか、それから……」

アマクが、卑屈な上目遣いなのに、やけにまっすぐこちらを見た。

「獣人を奴隷として働かせるのも、あまり乗り気ではないのだ」

「……」

驚き、つい、クルルを見てしまう。

クルルも興味深そうな顔をして、もっと話を聞けとばかりに顎をしゃくる。

アマクに視線を戻す際、ちらりと見たのは、ヨークンだ。

捕らえた捕虜たちを検分したヨークンは、アマクの領地からきていた獣人たちは、健康状態が比較的まともだと言っていた。

それが領地の肥沃さではなく、権力者の政策のおかげだとしたら?

「もう少しお話を聞かせてください」

その一言で、アマクはついに水面から顔を出すことができたといった感じに、大きく息を吸った。

「わ、我が母上ならば、ヨリノブ殿の必要とするものを、用意できるかもしれない。宮廷の事情にも通じ、て、帝国の動向も把握している。奴隷交易の件についても、母上ならば、なにか案があるかもしれない」

アマクは吐き出すように言ってから、口をつぐむ。

脂汗が額に浮いていて、勇気を振り絞っているのがよくわかる。

「ど、どうだろうか。うまくいくかは、約束できない。だが、今の私に差し出せるのはこれくらいしかない。他の者の安全は、これで保証してもらえないだろうか?」

胸に手を当て、必死に訴えかけるアマクに、自分は良心がひどく痛む。

もとより危害を加えるつもりなどないのだから。

脅かし過ぎです、とクルルを見たが、目が合うとそっぽを向く。

ヨークンを見やると、無精ひげを撫でながら、ゲラリオにはない冷たさを含む目でアマクを見つめていた。

そのヨークンが、ゆっくり瞼を閉じて肩をすくめた。

「ま、いずれにせよ土地の案内人は必要だった。話を聞くだけならいいんじゃないか?」

いわば敵地の奥深くに入るのだから、ヨークンの判断は重要だ。

そしてヨークンが大丈夫そうだと判断したのであれば、きっと大丈夫。

自分はうなずいて、アマクに向き直る。

「では、紹介いただけますか?」

アマクは背筋を正し、うなずいたのだった。