作品タイトル不明
なんか見た目は大丈夫なんですけど
「見た目は異常が無いな?」
「そうですね、壁が壊れてたり、施設が壊れてたりする様子は見られません。」
「中に誰もいないのか?」
「いえ、逃げていなければ常駐の探索者と職員がいるはずですが。」
11階層より下に潜るには、10階層の中継地点である管理施設を経由しなければならない。だが、既に11階層より下の『アオガニ』が10階層まで上がって来ている。つまりは、管理施設が破壊されている可能性が大なる事が予想されていたし、その覚悟もされていた。
で、あるが、実際に佐藤達が見たものは、破壊された痕跡などがまったくない、綺麗なままの管理施設の姿であった。外から目視している限り、特に問題は見当たらない。そもそもがこの管理施設、セーフゾーンに建てられているため、本来、モンスターが通り抜ける事ができない。…そのはずであった。
「…セーフゾーン化が解除されてる。」
「本当だ。セーフゾーンが機能していない。」
「壊れたのか、壊されたのか。現時点では不明だな。」
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本来、ダンジョンには若干の自己修復能力がある。場合に依っては凄まじい速度で修復される場合もあるが、フィールド上では、基本的に緩やかな修復が行われる。だが、必ずしも全て修復されるかというと、そうとは限らない。
例えば、モンスターが狩りをしたり、モンスター同士で戦闘したりすることがある。そして、巣が作られたり、地面が掘られたり、木が切り倒されたりする。それらが、すぐさまダンジョンによって無かったことにされるかというと、そんなことはない。ある程度人やモンスターが定期的に活動している場所ではダンジョンの修復作用が、あまり働かなくなるのだ。無論、長期に放置しておけば、巣は自然に消滅し、穴はふさがり、木はまた生えてくる。
それから、ダンジョン内自体の自然的な地形の変動もある。川の流れに沿って、土地が削れたり、ジャングルの木々が繁殖することによって森林が増えたりなどだ。これらも、すぐさまなかったことにはならない。ダンジョンもある程度変化していくのだ。
では、人工物はどうか?ダンジョン内に拠点を整備しても、使わなければ、やがて消滅する。定期的に使っていればそれなりに消滅せずに済むが、どうしても人がいない間にどんどんと消えてしまう。で、あるが、それを防ぐ方法はある。
一番簡単なのは、定期的に魔力を流すことだ。これだけで、ダンジョンに吸収されるのを防ぐことができる。ただし、流しっ放しというわけにもいかないし、施設が増えれば増えるだけ都度魔力を流す為に巡回しなければならない。そして、いろいろと試行錯誤が行われた結果、ダンジョン産の材料と建築魔法、そして固定化の付与魔法を使うことで、長期に渡って使える施設がダンジョン内にも建造出来ることが判明した。
定期的に付与の掛け直しが必要になるが、ただ魔力を流すのと違い、月単位でのメンテナンスで問題がない事が判明している。また『セーフゾーン化』を併用すれば、更に長期でも平気だ。
そうして作られたのが、ダンジョン内の無線設備であったり、このような管理施設であったりの類である。特に、『海の貴婦人ダンジョン』では、食用モンスターの養殖施設が稼働している。それらの管理をしているのが、この建物なのである。
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「妙だな、なんでこんなに無事なんだ?」
「…そうですね、静かすぎます。今もココから『アオガニ』が上がってきても、おかしくないハズです。それなのに、モンスターすら見えない。セーフゾーンでもないのに。」
「中川、探知は?」
「…それが、何も見えません。」
「罠臭ぇ。」「罠臭いかもー。」
金田さんと霧島さんの意見が一致する。
「それは勘か?金田、霧島。」
「勘だな。」「勘ー。」
「やばいな。できれば寄りたくない。」
「…所詮勘じゃないですか?そこまで警戒が必要ですか?」
「藤井、この二人の勘は馬鹿にできない。金田と霧島の意見が揃った場合、ほぼ100%だと思え。」
「そうっすね。」
「…そうですか。」
「黒川さんはどう思う?」
おっと、私に聞かれるとは思っていなかったから油断してた。
「うーん。よく分からないです。私は佐藤さんや金田さんとは違い、経験が浅いので。ただ。」
「ただ?」
「あこに寄らないと、次に進めませんよね?」
「その通りだ。」
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施設自体はそれほど大きくない、そもそも大きな施設だと管理が大変だからだ。駐在の探索者と職員が寝起きするスペースと、通信設備、それから、『ナンバンアカエビ』という小さな海老のモンスター養殖施設しか無い。とりあえずは、ダメ元で通信設備を復旧させておきたい所だが…。
皆で、施設前まで近づくが、やはり、中から人の気配は感じられない。…壁に体を隠しながら、金田さんが入口の扉をひと思いに開ける。
「…そりゃ何も見えん訳だ。」
「なるほど、無事では無ぇな。これは。」
「気持ち悪い。」
私達が見たのは、建物の中僅かの隙間なく埋め尽くす、ネトネトとした魚という魚であった。